表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僧侶さんの異世界珍道中記  作者: うっかり
11/11

お金稼ぎも楽ではありません

中央に大きな木があり、その木には紙が複数枚張られている広場に多くの人々──それも商人や街人ではなく、旅人や冒険者などが多く行き()う場所に僧侶さんはいた。


「こちら、お届け物です」

「なるほど、そうなのですか」

「一緒にお母さんを探そうね」

「敵さんを倒してきました~」


その中でも僧侶さんは一際(ひときわ)目立つというか何と言うのか、複数の依頼書を片手に、もう(すで)に終わっている依頼を広場の脇にある建物──依頼が完了したことを報告する施設でありこの街の役所の窓口から終わった“それ”を渡し、それに併せて届け物やモンスターや魔物の討伐などをした証である“体の一部”を隣の納品箱に入れる。

納品箱とは不思議なもので、多くの国で共同で作ったものらしく使用者の意のままに大きさを変えることができ、特筆すべきは、その箱の体積以上のものでも一度入ってしまえば別次元の空間に入れたものが転送され、それはある種万能な倉庫箱のような役割となっているらしいのだ。

……あくまでも噂に過ぎないことではあるのだが。


──巧遅(こうち)拙速(せっそく)()かず──。


まさに、そんな言葉が似合う光景である。


「ふう、こうして依頼をこなすというのも楽ではないものです」


依頼の内容は実に様々だ。


迷子の子供の捜索。

魔物やモンスターの討伐。

迷宮に潜ってマップを作成する。

目的地に着くまでに警護してほしい。

悩みを聞いてほしい。

一緒に模擬試合をしてほしい。

代わりに物品を届けてほしい。

駄賃をやるから指定の品を買ってきてほしい。

水属性の魔法で雨を降らせてほしい。

施術の力で(やまい)を治してほしい。


……等々。


中には、同行や条件の(らん)戦士(ウォリアー)限定、剣士(フェンサー)限定、魔職限定など職業を限定されるものや、物理職であれば単純な“攻撃力”──広く、“火力(DPS)”と呼ばれるものや、“素早さ”──“俊敏性(AGL)”など1つの能力に秀でている者が求められたり、魔職関係であれば1つの属性の扱いに特化している者や、中には複数の属性を均等に扱える者が条件であったりと細かく指定してくる依頼主(クライアント)も多い。


最も、そうした条件付きの依頼のほとんどは対人関係やダンジョン攻略、護衛関係など共同で戦うような内容のものがほとんどなのだが。


「うーん、それにしても今回はたまたま運が良かっただけなのかは分かりませんが僕が選んだ依頼内容は一人でもどうにかこうにかできそうなものが(ほとん)どでしたのでお金のことは何とかなりそうですね」


かれこれ、いくつか依頼をこなした僧侶さんの銭袋には金貨が大量に入っている。


「……ざっと見てみただけでももう4、5000Gほどはあるのではないでしょうか……」


この世界ではお金を稼ぐ方法はいくつかあるのだが、最も堅実なやり方はやはり、地道に依頼をこなして稼ぐか、魔物やモンスターなどから取れる素材や迷宮から採れる貴重な鉱石や宝物(ほうもつ)など、基本的には自力で集めて自力で努力して自力で稼ぐこと以外により安全にお金を稼ぐ方法はほぼないだろう。

余談として、“機械”というものの文化が進んでいる地方では、“露店(オークション)”と呼ばれるものや、広く“遊技場”と呼ばれている施設で使われているという“SP(スフィアポイント)”と呼ばれる独自の換金通貨にて遊んで稼ぐ、さながら博打(ばくち)のような荒稼ぎ方もあるのだが、どちらも“リスク”の意味を込めて、大変危険な稼ぎ方であることに変わりはないであろう。


「──とりあえず、今稼いだお金で忘れないうちにあの防具屋で買えなかったメイルを新調しておきましょうか」


僧侶さんは、メイスを新調した防具屋──ミラスティアに再び向かうことにした。






ガチャッ。


………………。


相変わらずの静寂である。


「目的のものを選んで、早いところ武器屋にも行きましょう……」


メイル、と一言で語ってもそれが物理耐性であるか魔法耐性であるかによっても用途が変わってくる。

最も標準的であり、且つ殆どの場合に対処できる物理耐性のメイルは肉弾戦に強いため対人・モンスター・魔物など相手を選ばずに気軽に装備できるというのが最大のウリだ。

逆に、魔法耐性のメイルだと対魔法相手に強くなるため物理耐性のメイルより、より慎重に間合いを空けつつ戦う魔法系の攻撃を主軸に戦う聖職者や弓術士(アーチャー)などに好まれる。


「自慢ではありませんが、僕は魔法と申し訳程度で物理でも戦えるのでできれば物理耐性寄りのメイルが欲しいですね……」


防具は単純に、身体に身に付けるもののほうが高い。

ローブやメイルなどはその中でも安いほうだ。


「……うーん……ふむ……これにしましょうか……?」


いくつか棚に置かれているメイルの中から、僧侶さんは1つだけ気になるメイルを選んだ。

そのメイルはうっすらと魔力を帯びているのだろうか。

(かす)かではあるのだが、氷属性の特徴でもある(しも)が表面に付いている。

一見すればどこにでもあるような魔法耐性寄りのメイルに見えるのだが、僧侶さんは何故かこのメイルに興味を持った。


「何となく、なのですが……このメイルには秘められた力がありそうな気がしますね……」


僧侶さんは躊躇(ちゅうちょ)することなくそのメイルをカウンターまで持って行った。


ゴトッ。


「す、すみません……このメイルを頂けないでしょうか……?」


──相変わらずの頼りない声である。

と、すっと奥の部屋から店主が出てきた。


「…………“秘められし武具(ハイデンアーマー)”を選んだか……」

「……!!」


秘められし武具。

それは、この世界で最も稀少(レア)な装備品のことである。

その多くはダンジョンの奥底に眠っていたり、鍛冶の行程で極稀(ごくまれ)に出来上がるという、偶然の産物だ。

一見するとそれらはそこら辺の武具と何ら変わりはないのだが、鋼鉄(こうてつ)でも切れるほどの業物(わざもの)であったり、使用者の魔力を極限まで引き出すことができるものであったり、先程僧侶さんが感じ取ったように氷属性の力を宿しているメイルなど、その種類と能力は計り知れない。

ただ、有益なものばかりではなく、使用することで副作用が生じたり中には生命力を削って発動するものなど、一概(いちがい)に秘められし武具は優れた装備品である、とは言い切れないのだ。


「これは……氷属性か」

「やはり……そうでしたか……」


秘められし武具だと断定するには、武具に精通している者──鍛冶屋に見せたり、調査系の魔法である“リサーチ(研究)”などで調べることによって初めて判明する。

勿論、僧侶さんのように申し訳程度でも魔法の知識がある者が触れば、何となく属性の波動や特徴などを感じ取ることもできる(ただし、この方法は属性付きの秘められし武具であることに限られる上、元から属性の力が込められているものも存在するため真偽(しんぎ)までは確かめられない)。


「……気付かぬうちに、俺が秘められし武具を作っていたとはな……」


鍛冶で出来上がった秘められし武具は、すぐにその効果と波動は表れない。

何故ならば、鍛冶で偶然出来上がった秘められし武具は、いわば“赤ちゃん”のようなものだからだ。

簡単に説明すると、秘められし武具は元々その能力を1から育て、周囲の魔力や魂・生命などを吸収し、そして使用者と共に戦闘を経験し、それらを積み重ねていくことで徐々に効果を表すようになる。

勿論、何の変哲(へんてつ)もないただの剣や弓、メイス、盾、ローブなどあらゆる装備品にも長い年月を掛けて使えば使うほどに秘められし武具としての力を宿す“きっかけ”が生まれるということは忘れてはならないだろう。

……ただしそれは100年や200年というあまりにも長い年月を掛けないといけないため、普通は自分から秘められし武具を作ろうなどという考えを持つことはまずないのだが。


「……す、すごいことだと思いますよ」


僧侶さんはどうにかこうにか店主を()(たた)えた。


「…………ありがとう」


少し間を置いて、店主は僧侶さんに感謝の言葉を言う。

僧侶さんはとりあえずこのような時はどうしたらいいのか分からず、本題を口にした。


「──あの、お代はいくらぐらいになりますでしょうか?」


秘められし武具をまじまじと見つめる店主に失礼でしょうかと内心思いながらも聞いてみる。


「……お前にやろう」

「……えっ?」


高額なGを要求されると思っていた僧侶さんは気が抜けたような声を出した。


「……元々は旅人の身を守るために作った防具だ。 ……それに、初めてこんな逸品(いっぴん)が出来た。 ……だから、初めての逸品はお前に(たく)す」


何とも職人気質な店主なのだろうか。


「──ありがとう、ございます」


店主の想いを聞き、僧侶さんは少し申し訳なさそうにメイルを受け取る。


「──壊すな、とは言わないが、大事に使ってくれ」

「……はい」


僧侶さんは氷属性の力を宿している秘められし武具である──メイルをアイテムバッグに収納した。


「ありがとうございました」


僧侶さんは防具屋を出る前に、店主にそう言った。


「……こちらこそ」


無愛想そうにではあるが、お返しの言葉を返してもらった僧侶さんは少し満足そうに防具屋を後にした。


ガチャッ。











「──はあ、結局タダで頂いてしまいましたね……」


お金を払わずに物を貰うというのは、貰われた本人からすればとても申し訳ない気持ちでいっぱいである。

ましてや、世界でも稀少な秘められし武具とあれば罪悪感さえ覚える。


「やはりこのメイルは返してきたほうがいいでしょうか……ああでも店主さんにお返ししたら店主さんは困ってしまいそうですね…………ああ、どうしたらいいのでしょう……」


僧侶さんは途方に暮れる。


「…………はあ……もう頂いてしまったものは仕方がありませんし、少々気は引けますがこのメイルはありがたく使わせて頂きましょう……」


結局、僧侶さんはいろいろと考えた後にこのままメイルを使うことにした。


「さて……使うはずだったお金は手元にありますし、早速武器屋にでも行ってみましょうか」


吹っ切れたように、僧侶さんはこの街での最後の目的地になるであろう武器屋へと向かって歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ