魔物と少年
ケンケンパ
ケンケンパ
君と出会ったのは、紅い小花が咲く道を通る暗闇の森。
「坊や、あまりはしゃぐと怪我をするわよ。」
素っ気ない口調で僕に声を掛けたのは…
【魔物と少年】
「草希、お前またあの暗闇の森に行くのか?」
「うん。あそこの景色は、絶景だからね。」
「景色は綺麗だけど、あまり良い噂は聞かないな…用心しろよ。」
佐藤は僕の友達。少し…いや、とても心配性でお母さんみたいな存在。一方通行かもしれないけれど、親友だと思ってる大切な人。
「有難う。本当に大丈夫だよ。この通りピンピンしてるしさ!そういえば今日は、夏祭りじゃないか。夜になったらまた会おう。」
そう言って僕は、小走りで森の方向へ向かった。
僕はあの日、君と初めての感覚に出会った。胸が締め付けられるそんな気持ち。今もその気持ちが続いている。
「…また来たのかね。坊やは、物好きだね。いつも何もない場所に来るなんて。」
「君に会いに来たんだ。僕は、君と話すのが楽しいんだよ。」
「変わってる坊やだこと。私は、あまり話すのは苦手だよ…」
そう…僕は、君と出会ったその時から、いつもこの森に通っている。
「坊やは、私の姿が怖くないのかい?」
「全然怖くないよ。君の心は、誰よりも透き通っているから。」
「嬉しい事を言ってくれるねえ。でも何も出ないよ。」
僕は何処か寂しそうなその瞳に夢中になった。もっと知りたいと思った。
「そうそう!今日ね、夏祭りがあるんだよ。ねえ、一緒に行こうよ!」
「私は、この場所から離れない。離れたくないんだ。」
「そっか…残念だな…」
「楽しんできなさい。そしたら夏祭りの話を聞かせておくれ。」
「うん!」
「おーい草希!夏祭りに行くぞー!」
佐藤が遠くから僕を呼んでいる。
「草希という名前なのか…?坊や、草希卓男を知っているかい?」
「僕のお父さんだけど…」
「そうか…坊やは、あの人の赤子なんだね…」
「でも今はいないよ。遠い空の向こうに行ってしまったんだ…」
「そうか…」
君は、懐かしそうな目をしていた。
佐藤を待たせてはいけないので、詳しくは聞かずにその場を去った。
「お前…誰と話していたんだ?」
「佐藤…胸が締め付けられるこの感情は何だろう…」
「いきなりどうした…まあそれって、恋じゃない?」
「恋か…恋をした人は、どんな事をするの?」
「そっそんな事知らねえよ…その時になれば分かるんじゃないか?」
「ふーん…」
林檎飴を食べながら屋台を巡った。
「昨日は楽しかったな!金魚すくいで取った金魚達、すっごい元気が良いんだ。それで今度さ…秘密基地を作らないか?」
「楽しかったね。僕のすくった金魚は元気がないんだ…秘密基地を作ったら、そこで一緒に金魚を育ててくれない?」
「おう、良いぞ!俺達が一緒にお世話をしたら絶対元気になると思う!」
嬉しかった。嬉しかったけど僕は、恋のことがとても気になっていた。
(僕は…多分、ずっと恋をしていたんだ…)
佐藤と別れた後、僕はこの気持ちを伝える為、森の方向へと歩いた。
「夏祭りは、どうだった?」
微笑みかけてくれる君。苦しい、胸が苦しい。
「楽しかったよ!色々な屋台があって、金魚すくいもしたんだ。あと…」
「あと?」
「僕は、君に恋をしていた事が分かった。とても好きなんだ。」
すると君は、一呼吸した後、そっと話し始めた。
「…私は昔、恋をした事がある。決して結ばれる事のない恋を…」
(やめて…)
「坊やの瞳によく似た…」
(これ以上言わないで…)
「そう私は…坊やのお父さんに恋をした。私は、一生この人以外愛さない。叶わぬ恋だとしても…」
「そんな…僕の初恋は…君なんだよ!こんなにも愛しているのに…」
「…ごめんね。」
「なのに君は…君は、僕のお父さんに恋をした!」
「…そうだ。」
「そんな…僕は…僕は…こんなに…」
「…」
僕は胸が苦しくなり、君に抱き着いた。
「僕を愛して。ねえ、僕だけを愛してよ。」
「坊や…そんなに私を愛してくれていたのか…」
コクン
僕は涙で言葉を生み出すのが難しくなっていた。
「可愛い坊や…泣かないでおくれ…」
頭を撫でてくれる君。余計に苦しくなった。
「私は、此処に留まる必要が無くなった。恋をしたあの人は、もうこの世界には居ないのだから。私も上に行くよ。」
「僕も一緒に…行きたい。」
「坊や…」
「それで、お父さんよりも僕に恋をさせてみせるんだ!」
「…分かった。おいで…」
僕が君と、闇に包まれそうになったその時、金魚と共に僕だけを引っ張る、小さな温かい手が現れた…
END 魔物と少年
最後まで読んでくださり有難うございました!