行楽日和・平穏無事・良縁あり
【第59回フリーワンライ】
お題:
水たまりだけが知っている
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
「いってきます!」
ここ数日降り続いた雨が上がったのを知って、マリは大喜びで外に飛び出した。
そして道路の前で急ブレーキ。
自動車への注意、というのはもちろんある。それともう一つ、マリにとって大事なことがあった。
それはある種の儀式だ。
右、左、右。車の交通がないことを確認したマリは、めざとく目当てのものを発見した。
それはどこにでもある水たまり。雨上がりには必ず見られるありふれたものだ。しかし、その日、その時、その場所で見られる水たまりは、どれ一つとして同じものはない。
マリは今年で七歳になるが、この年齢にしてすでに占いが大好きだった。その好きが高じて、自分だけのオリジナルな占いを編み出した。それが水たまり占いだ。
大昔、古代の人々は動物の骨や亀の甲羅を焼き、その亀裂で吉凶を占ったという。
マリの水たまり占いも基本的には同じだ。水の量、深さ、広がりを見て、外出に適するかどうか、身の危険はないか、人と出会えるかどうか、を占う。
「ふむ……」
幼い額に皺を寄せる。占い結果が芳しくなかった。
“外出悪し・危難の兆し・悪人遠からず”
考え得る限り最悪の占いだ。
長く続いた雨の晴れ間だが、こうまで執拗に「外に行くな。家に戻れ」という啓示が出ては、マリが意気消沈するのも無理はなかった。
どういったわけか、マリの水たまり占いはよく当たった。雨が上がった直後にしか出来ない、という制限があるものの、驚くほどの的中率だった。
久しぶりに外で遊ぶチャンスだが、諦めざるを得なかった。
そうしてマリが諦めて引き返そうとすると、
バシャン
水たまりを跳ね散らかす者があった。
半袖短パンの男の子が、日焼けした顔でマリに笑いかけてきた。
「よう、マリじゃん。どっかいくのか? じゃあ、いっしょに公園いこうぜ」
一つ年上のヨウだった。
思わぬ相手に思わぬところで出会ってどぎまぎするマリ。照れ隠しに俯く。しかし、あの占いを見た後では気乗りしない申し出だった。
行きたい。一緒に行って遊びたい。でも。
占い結果は絶対だ。
気落ちしながら断ろうと顔を上げた時、例の水たまりが目に入ってきた。
その水たまりは、ヨウが跳ね散らしたことで形を変えていた。その内容は――
マリは即答した。
「うん、いく!」
『行楽日和・平穏無事・良縁あり』了
なんだか、特に起伏のないコンパクトな話になってしまった。
もうちょっと、エキセントリックかつアナーキーな話を書きたいものよ。