チートの傍観者
思い立ったら吉日。反省はしてるが後悔はしていない。そんな作品
和気藹々と青春を謳歌する若者達の中、一際目立つ存在が居た……―――
此処は魔術や精霊など、言葉では表し切れない、いわばファンタスティックなものが存在し、魔術師、剣士、はたまた魔王まで。つまり、ありとあらゆるファンタジーが詰まった世界である。
その世界で、魔術師などを育てる有名な学校があった。
ある大きな国の王都に存在するその学校は、生徒や先生を合わせ、延べ1000人を軽く超える。
無論、その大人数を余裕たっぷりに抱え込めるほどの広大さと資金のある学校だ。
王族や貴族なども多数通っている学校は、『実力主義』と公言しているものの、中身はほとんど『絶対権力』だった。
しかしながら、そんな半分腐ったような大きな学校には、逸材……いや、最早人外と言える入学生が現れたのだ。
入学試験において、魔術を多数操るどころか無詠唱で行い、先生や周囲の人々を驚かせただけでなく、その放った魔術は―――魔王も倒せるんじゃね?という強さを誇っていた。
実際に、入学試験会場は半壊状態であった。まぁ、本人曰く「手加減した」と言っているものの、その無残な試験会場には、学園長が涙した。
そんな入学生―――まぁ男なのだが、彼の見目は整っている分類に入るだろう。背もそこそこ高い。男女の評判も悪くない容姿だ。
学校内には多数の美形が居るのだが、入学早々自重を知らぬ彼は兎に角目立った。試験で既に目立っていたが、目立った理由は他にもあった
その最高……下手すると、最悪な魔術を放った彼は首席入学だったからだ。そして、教師要らず。だって強いんだもの。
魔力測定とか言う一種のイベントでは、測定する為の魔道具を破壊、いや魔力が多大過ぎた為に粉砕された。目を丸くした先生の顔は一生忘れられない。
他にも、「俺様が主席のはずだったのだ!我こそはナンチャラ(忘れた)家の~」みたいな事を言っていた貴族をあっさり無視。かなり位の高い貴族なのにあっさり無視。
貴族の坊ちゃんは激怒。当たり前だな、甘い汁ばかり啜って来た彼にとってはそれはもう屈辱的だったろう。
だが、坊ちゃんの権力は彼に通用しなかった。
何故なら、人外的な彼は王族と関わりがあったのだ!!
その証拠に、王族の王女様の身分に当たる少女と仲睦まじく話しているのを見かける。人目もはばからず、堂々と。そりゃ目立つわ。
王女様という身分だけでなく、その少女はとても可愛らしい。少しおっとりした雰囲気があり、垂れ目で柔らかい笑みを浮かべる。花のように可憐で、見た瞬間男は虜となる。
そんな王女様と普通に話しているのだ、彼は。目立つ。
更には、彼の幼馴染と言う少女。これまた美人である。可愛い、ではない。美人である。そして巨乳である。
少しつり目で凜とした立ち振る舞いと、たまに見える甘えたがりのギャップに、男女共に目が奪われる。そんな少女とも彼は仲睦まじいのだ。めっちゃ目立つ。
挙句、クラスに居る無口無表情の美少女にも何故か懐かれている。誰が話しかけても無視したりするのに、彼にだけは懐いた。たまに見せる笑みと白い華奢な手足。男は護りたくもなり、もうメロメロ状態だった。
そんな三大美少女に囲まれた学園生活を謳歌している彼は、妬みの対象と共に羨望の眼差しがいつも送られている。
無自覚ハーレムか……と、生温かい目を送るのは自分だけ。だって、微笑ましいと言うか、此処まで流れるようなテンプレを見ると、どうも生温かい眼差ししか送れない。
無自覚ハーレム系の彼にも親友という存在も居る。
誠実で頼りがいのある、男女共に親しんでいるナイスガイな親友が。
貴族出身で、魔術・剣術共に優れている少年は、とても人気者だ。だが、一番の親友はやはり無自覚(以下略)な彼らしい。
親友でありながら、良い好敵手だと公言している辺り、本当に仲が良いらしい。良きかな良きかな。
―――お、噂をすれば。
「ほら、早く行きましょう。私、もうお腹が空きましたの。ささ、早く早く」
「ちょ、ちょっとぉ!此奴はあたしと食べる約束が……!」
「してねえよ」
「……私と、食べる……でしょ?」
「いやだから……」
「アッハッハ!相変わらずだな!」
「お前も止めろよ!」
両手の花どころか、花束である。
何とも羨ましい限りだ。実際彼に与えられる視線はほとんど殺気籠ったものばかり。いや、自分は含まれんよ?生温かい視線を送るのみだ。
美少女二人が取り合っていると思いきや、漁夫の利狙いか、無口系美少女が我先にとくっついて行く。それをいがみ合っていた二人が止める。親友は笑う。彼は困り顔をしながらも、満更ではなさそうだ。
……此処まで来ると、いっそ清々しいものを感じる。
「ケッ!何だよ、彼奴!あー俺らも飯食いに行こうぜー」
「え?あ、そうだな……」
おっと、友達に声をかけられてしまった。どうやら、観察するのも此処までか。
いやでも、食堂でまた観察出来るだろう。その時にまた観察しよう。そういえば、彼は白米が好きなようだ。あまりこの世界では白米がないからな。故郷の味が恋しいのかな?
―――彼は、どのようにこの世界に来た人だろうか。
彼は幼少期からぶっ飛んでたと聞いた。
1歳の頃には字が読めて、2歳の頃には字が書け、挙句にペラペラと大人顔負けの敬語でちゃんと会話出来た。その頃にはもう魔法が使えたのだとか。無詠唱で。
3歳には、算術も出来たらしい。あ、ついでにその頃には既に人外的に最強だったとのこと。
剣術も出来、魔術も出来……あーこれは、あれだな。転生系か。
何かイメージとかで魔法出来るからなぁこの世界。剣術も前にやっていれば出来るもんな。
彼の場合は、神の手違いではないな。暇な神らしき者が記憶をそのままにして転生させた系。
死因は……トラック事故。恐らくだがね。
折角なんだから、もっとゆったりのんびり過ごせばいいのに、何で目立つような真似をするのだろうか。
ま、チートな力があったら、ついつい天狗にもなるし余裕もあるしね。
でも、覚えておくといい。
君はいつか王族だの魔族だの、そういった類の厄介事に巻き込まれるだろう。
いつしか君は今より更に有名人になるだろう。
もしかしたら、勇者、英雄、はたまた無名の強者。意外と魔族側かな?
何にせよ、彼の人生が楽しみで仕方がない。
学園生活を謳歌し、先生泣かせなほどのチートな彼が、どんなことに巻き込まれるのか。
「おいっ!何ボーっと立ち止まってんだよ!食堂行くってば!」
「あ、はいはい。今行くー」
ゆったりのんびりな学園生活の方が良いと思うんだがなぁ。彼は違うのだろう。
友に呼ばれ、足取りを速めた。
……え?さっきからお前は誰かって?嫌だなぁ、見れば分かるだろう?
普通の茶髪と茶色い目。其処らに居そうな平々凡々な顔、無論平民。
彼の人生にとっては、記憶にも残らないただのモブさ。
通りすがりのモブ。ただの通行人。RPGで言うと、ぐるぐると同じところを駆け回っているだけの村の子供……みたいな?そんなモブ。
いいじゃないか、チートな主人公的彼を観察してたって。
記憶をそのままにして転生させたらどうなるか、実験してみたかったのもあるけど。
ま、彼の人生に口出しもなにもするつもりはないから。
―――自分は、ただの傍観者だから。
読んで頂き有難う御座いました。
簡単にご説明すると、このモブ=チート主人公?を転生させた神様、です。多分読んでて気づいたでしょうけど。
何となくチート主人公を客観視するとどうなるのだろうと思って書いてみました。