第3話 食事会の後で
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食事会は無事に終了した。後片付けをするのは後輩たちだ。卒業生は何もすることなく解散することが出来る。一部では二次会をやるとか言っている奴等もいるが。
だが、後輩たちに待っているこの後片付けが大変なのだ。この経験は卒業生も後輩の時に嫌と言うほど、経験させられる。
第1にこの卒業式は成人式も兼ねている。カリシア帝国では18歳で成人なのだ。飲酒喫煙も18歳からとなっている。その為、この食事会では流れるように酒が無くなっていく。その処理は大変だ。飲み過ぎて吐いた汚物や酔いすぎて寝ている卒業生を動かし、処理するのには一苦労だ。
それに残飯処理や会場の片付けなど、やることは様々ある。
因みにトルトはこの仕事をしたことがない。彼は関係もないのに、毎年食事会の食事を頬張ると颯爽と何時もの隠れ場所に逃げ込む。
だからこそ、知らないのだ。後輩の苦労を。地獄のような処理活動を。会場に広がる酒の臭いを。
トルト、リディア、レオナルドは会場を後にして、家に向かう途中だった。
「ねえ、2人とも。」
「「何?」」
「私たちが受ける高官将校養成試験についてなんだけど。今年は対抗馬が出てくるのよ。」
「聞いたよ。忠義御三家の一つ ナディア家三男と軍部の名家 ラスベス家の次男でしょ。」
「ナディア家の三男は帝立シラス軍人養成学校を首席で卒業。ラスベス家の次男は帝立メガス軍人養成学校を首席で卒業か。」
"忠義御三家"の一つであるナディア家は派閥で言えば"革新派"に属する家柄だ。勿論、現体制を保ちたいカルロス家と敵対関係にあるのは無理もない。今まで上に立つのはカルロス家だった。だが、この試験で一族の者がナディア家の者に負けることがあれば問題なのだ。
そして、軍部の名家 ラスベス家は"忠義御三家"や"軍閥御三家"にも属することがないのに、雷帝と契約した家柄だ。彼らが作り出した電磁加速銃は今の戦場で最も有効な攻撃手段と言ってもいい。
「そう。そこで2人にお願いがあるの。」
「何?」
「何だよ?」
「私は帝立シビア軍人養成学校を首席で卒業したわ。これも家からの命令で。そして、今回もまた家からの命令があったわ。高官将校養成試験を首席で通過しろ。合格は絶対条件。それに首席というものを加えろと言われたわ。そこで2人に頼みたいの。私に力を貸して。」
レオナルドが声を掛けようとしたところをトルトが止める。
「それは中立派と自称しているテレスト家への要求かな?それとも、友人としての頼み事かな?」
「それって、友達としてなら受けてくれるというの?」
「そうだね。レオも、僕も結局は高官将校養成試験に受けなければいけないからね。その次いでと思えば、わけないよ。君の望むことが僕たちが望むことだからね。」
「俺もそうだよ。」
「感謝するは、私の盟友。」
カルロス家の長女という立場は世間から重圧が凄い。期待や希望でリディアが押し潰されることはないだろう。だが、それが彼女という一人の女の子の選択権を無くしている。選択することは許されない。家や世間の期待に応えることが絶対なのだ。それ以外を望むことは許されない。
カルロス家は帝室の番人なのだ。帝室に最も忠誠を尽くし、帝室の命令を最も忠実に実行する番犬と言っても良いだろう。
そんな決められた世界にリディアという一人の女の子を、一人の友人を、置き去りにするのは耐えがたい。だから、トルトとレオナルドは決めたのだ。
-自分達がその重荷を背負おう-
-自分達が彼女の代わりになろう-
彼女が望むままに生きて欲しい。柵に繋ぎ止められて生きるのは悲しい。しかも、今は終わりに向かって進んでいる帝国だ。そんな所に居続けては番人としての死しか待っていない。
2人は只、それを止めたいのだ。
自由に生きて欲しいというのが2人の青年の望みであった。
「因みにだけど、手助けとは何をするんだ?」
「一次試験は筆記試験だから手助けなんて出来ないから良いのだけど、二次試験は戦闘試験なのよ。そこで対抗馬たちは真っ先に私を狙うでしょうね。その時の対処に手を貸して欲しいのよ。」
「対抗馬である2人はそれぞれの家が造り上げた専用狙撃銃を使ってくることは簡単に予想できる。僕たちも精霊を武器として使えるのが幸いかな。精霊剣なら、僕たちでも斬れるだろうし。」
2人の対抗馬の家が造り上げた専用狙撃銃とは精霊を武器に変化させることなく、科学という異端の文化が生み出した人の技術で造ることが可能な最先端の武器。
この専用狙撃銃は精霊の力を用いることでその威力は発揮する。そういう風に作られているのだ。
精霊の力を扱うことが出来る精霊術。
これが専用狙撃銃にも使われている。精霊術を扱うことが出来ない者は精霊を契約している限りは居ない。
無論、トルト、レオナルド、リディアも使用可能だ。
精霊術は色々な使い方がある。精霊剣に精霊術を纏わせることや専用狙撃銃のように精霊術を利用するなど。
その利用方法は多種多様だ。
そして、精霊術を纏わせた精霊剣なら、専用狙撃銃の弾丸が飛んでこようと斬ることが出来る。
「そうね。でも、これを一人でやれと言われると簡単なことじゃないのよ。だから、2人に頼んだのよ。」
「良いよ。でも、君が本気になれば簡単な気もするんだけどね。」
「そうだな。リディアの精霊術の利用法は白兵戦もまだまだ終わることはないと謂わしめるような戦い方だからな。」
「あれがカルロス家の編み出した答えなのよ。」
「それは知ってるよ。だからこそ、カルロス家は強いこともね。」
幼い頃から軍人としての英才教育を受けてきたリディアである。勿論、トルトやレオナルドもテレスト家の英才教育を受けてきた。
だが、2つの家柄の教育の方法には違いがある。
カルロス家は白兵戦に最も強い軍人になることを求められ、それに答えるように育てられる。
逆にテレストは白兵戦と戦略、戦術といった参謀タイプの軍人を育て上げる。
その育てる過程や基礎の部分が違うから、価値観や考え方が変わる。
多分だが、2人の対抗馬も英才教育を受けてきた筈だ。だが、それは狙撃に関する事ばかりではないのか。近接戦闘に関しての教育を行う可能性は極めて低い。だって、2人の家は狙撃を得意とする家柄だからだ。
だからこそ、此処で近接戦闘に重きを置いて教育してきたカルロス家とテレスト家は優位に立てる。
勝利の方程式は戦闘が始まる前に、既に出来上がっていた。揺るぎない勝利を手にするために3人は高官将校養成試験の行われる会場に向かうのである。
如何でしたでしょうか?
それではまた