第2話 食事会
ご無沙汰しております。
では、どうぞ。
帝国はそれなりに食文化が発達した国である。カシリア帝国を建国するに辺り、幾つもの人種を吸収した。それぞれが独自の文化や考え方などを持っていた。その中に農作物も含まれる。土地や地域が違えば、作る食べ物だって違う。それらはその土地の特産物となり、今でも親しまれている。
軍人養成学校は通称でしかない。本当は帝立シビア軍人養成学校という。帝立という名が付くことから分かるように国が管理している学校だ。
国の重要軍事書物の一部を閲覧することが出来る。国の最先端を学ぶことも出来る。
国が管理している学校の行事が疎かにされるわけがない。況してや、今後の帝国軍を束ねていく者が多く輩出するかもしれない時代が今すぐ来るかもしれないのに彼らが学校生活を最後とする卒業式で予算を使わないのは帝国という国としての評判に支障が出かねない。
それは卒業式の後に行われる食事会でも同じである。帝国が予算を使わないことで、"ケチ"などと言われては困る。そう言った理由も考慮して、この食事会も大変豪勢な料理となっている。平民が死ぬまでに稼ぐ生涯収入をかき集めても、食することの出来ない料理が目の前に広がっている。
貴族にとっては当たり前のことであるが、一般平民にとっては一生味わうことの出来ない料理かもしれないのだ。
我を忘れて、食事に没頭するのも無理はない。平民がこのような食事を食べられる機会があるのは限られてくる。
帝国教育学校は大半が貴族で、頭が良くなければ平民の子供が易々と入れる所ではない。
このような食事を食べられる学校は此処ぐらいだ。
トルトにとってみれば、この食事会も余り意味はない。目当ては食事だけだ。
この食事会に帝国軍の要職に着く高官将校などは来ない。ただ、生徒たちを祝う場所でしかない。
下級貴族や高官将校養成を行っている者たちが少し顔を出す程度だ。
その者たちとの友好な関係を築こうと縁のない平民の子供たちが挨拶をするだけ。
その他の者は軍人家系の子供であるので、ある程度は顔が利く。このような場所で縁を結ぼうとしなくても、ある程度の軍人に知り合いがいるから意味がないのだ。
「遅かったな。」
一人の男が声を掛けてくる。何となくトルトの面影が見えなくもないイケメン。トルトとは比べるのを間違えている程、次元が違う。
容姿端麗のイケメン野郎。
「さっきまで女子と喋っていたんだろ。イケメンは滅んでくれないかな?」
「おいおい、従兄弟に向かってそれはないだろ。」
この少年の言ったことは間違っていない。
トルトとは従兄弟に当たる軍人家系のテレスト家の本家筋。現当主の次男。
名をレオナルド・テレスト。
リディアと対等に剣で渡り合える達人。トルトと同い年。頭の回る男。
リディアと並び称される天才。
「お前はサボろうとしてただろ。爺がキレるぞ。」
「爺さんは怒らないよ。僕には甘いから。」
「羨ましいことで。」
この従兄弟同士は才能が有りすぎる。それはテレスト家の長男が嫉妬する程に。
2人の凄さを間近で見てきたリディアなら、それは確信として頷くことが出来る。其れほどの逸材なのだ。替えが効かない。
そこに一人の男が近付いてきた。
「リディア殿、貴公に決闘を申し込む。」
男の名はトーマス・ヤクメ。軍人養成学校でも有名な熱血男。
剣の扱いが上手い。それだからなのか、非常に好戦的な性格で、戦闘狂。頭を使い考えて動くのではなく、感覚で全ての動作を行う天才肌。
学校で呼ばれる彼の呼び名は"脳筋剣士"。
この男への返答は軽かった。
「ええ、良いわよ。」
「こんな簡単に承諾頂けるとは思いも寄らなかったわ。」
2人の剣を扱う者同士の戦いだ。これ以上、興味を注られることは他に無いだろう。
仲の良い友と話すことに夢中になっていた卒業生の全員が2人の方向見た。それぐらい注目されるものなのだ。
最強の剣の実力が改めて見られるのだ。他事をしている余裕は見ている者たちにはなかった。
2人が戦闘を行えるようにテーブルは移動を余儀なくされる。
そして、静かな静寂。
「では参る。」
トーマスの掛け声が戦闘の始まりを告げる合図となった。
彼の動きは素早かった。一瞬でリディアの傍に詰め寄るとここぞとばかりに一閃を振るう。
それにリディアも慌てない。二刀で確りと受け止める。
トーマスが使うのは精霊剣。精霊剣とは精霊が剣となった物。精霊の加護により身体的、肉体的に様々な運動能力が向上する。
精霊とは一般的に契約しなければ、このような武装をすることは出来ない。
精霊には意思があり、彼らが契約者という存在として値すると判断しなければ、契約は成立しない。一方的な契約は出来ないし、することは許されない。そのようなことをすれば、精霊王からの裁きを受けることになる。
リディアが扱うのは二刀だ。カルロス家が代々受け継いできた戦い方。それが"二刀流"。
彼女が契約した炎王と呼ばれる精霊は炎帝に次ぐ存在。炎属性の精霊では2番目に強い言われる精霊だ。炎帝はカルロス家の当主しか契約することは出来ない。だが、炎王は一族であれば、代々が契約を許されている。そこには炎王の判断と才能なければいけないと2つの問題が生じるが、それで契約できなかった者は居ない。
炎属性の精霊が何故、カルロス家と縁深い関係にあるのかというと、彼らは1体の精霊で二刀を成り代わることが出来る。だからこそ、カルロス家も、使い続けてきたのだ。
「貴公のような最強と言わしめる家柄の者と戦えるのは光栄ですな。」
「そう。それは誉め言葉として受け取っておくわ。」
トーマスの怒濤の攻撃だ。リディアは攻めに転じることなく、守りに徹している。
それが最強としての余裕なのか、トーマスからの攻撃を全て弾き返している。
トーマスは思わず、舌打ちをしてしまう。其れほどまでに、隙がない。攻略の余地はないと彼女の動きがそう言っている。
トーマスが一端攻撃を止め、後ろに下がる。その隙をリディアは見逃さなかった。後ろに下がることによって生まれるちょっとした間。そこを見逃さないのが、カルロス家なのだ。
リディアは一気に詰め寄ると二刀を振り下ろした。首に剣が触れる。
「我の敗けであるな。」
トーマスはただ頷くだけだった。
「貴方も、良い攻撃だったわ。」
最強としての自覚。そんな物は当の昔から備えられていた。それを実行する家柄であることも理解してきた。その結果が今のこれに表れていた。
トルトとレオナルドはただこの戦いを眺めていた。
「これの学校側の戦略か?」
「そうだろうね。学校側にしてみれば、帝国最強の名は変わることはないと知らしめたかったんじゃないかな。」
「くだらないな。」
「だが、これで改めて皆が認めた。最強はリディアであると。」
この会場にいるのは学校の職員や校長、下級貴族や一部の地位の高いわけではない軍人たち。
これらの人物に戦闘を見せることで、カルロス家が最強であると思わせることが出来る。下級貴族たちは安心して帰ることが出来るし、軍人たちは数年後、自分達を指揮する存在が改めてどういった存在なのかを見定めることが出来た。
「また、面倒なことになった」
トルトは誰にも聞こえないような声で口にした。
如何でしたでしょうか?
それではまた。