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第一話 奴隷少年の一日

はじめまして、陸戦系です。

私の妄想を吐き出すだけの作品なので、正直読みにくいかと思われますが、読んでくださる方は、楽しんでいただければ幸いです。


一応18歳未満は見ちゃダメな内容にはしないつもりですが、第一話から結構エグい話が多めになる予定です。ご注意ください。

 

 僕の居場所はその狭い部屋の中だけだった。


 冷たい石を積み重ねた壁。四方が圧迫感のあるそんな壁に遮られた小さな部屋。窓は何メートルか上に備え付けられた格子状の窓があるだけで、満足に日の光なんて入ってきやしない。もちろん、部屋に燭台なんかがあるわけでもなく、夜は真っ暗闇になる。

 扉は、窓からちょうど反対方向の壁に備え付けられている。重苦しい鉄の扉で、こちらも格子状の覗き穴がある。この部屋の向こう側からこちらの様子を見るためだけに備え付けられたものだ。

 扉の中程には端っこにドアノブが備え付けられているが、鍵がかけられている。しかも、内側からは開けることができず、外側からしか鍵を開け閉めできない仕組みだ。

 この場所に閉じ込めた存在を外に逃がさない為のものなんだろう。例えそんなものがあろうがなかろうが、僕は逃げられないというのに。


 チャラリと鎖が石壁に当たり、甲高い音を立てた。

 首に付けられたデカイ首輪に付けられた鎖。その先は壁に埋め込まれている。移動できる範囲はこの部屋の中だけ。例えどんなに頑張ったとしても、扉のノブにギリギリ手が届くくらいで、開けても外には出られないだろう。計算された長さだった。


 ボロボロになった服を身に纏い、僕はその部屋に腰を下ろした。

 既に服は原型をとどめておらず、それこそ羽織っていると言うにふさわしい状態だ。腹部の布地は全て破られ、左肩から先も何も無い。右肩はほんの少しだけ袖が残っているが、それでも10センチも残ってはいない。ズボンも似たような物だった。

 この服を与えられたのは何ヶ月前の事だっただろうか……。既に覚えていない。そもそも、自分がいつからこの場所にいるのかすらも曖昧だった。

 相当長い間だった気がする。手入れされていない白い髪はボサボサで、地面に届くほどの長さがある。


 身体も大きくなった。まだまだ子供と呼ぶ程度の大きさしかないが、最初の頃よりもずっと部屋が小さく感じるようになった。

 でも。関係ない。

 どんなに大きくなろうと、どんなに歳を取ろうと、今の僕には関係ない。それよりも、今を生きる事を考えなくちゃいけない。

 こんな死んでるのか、それとも生きてるのかすらも分からない僕だけど、それでも“生きたい”って気持ちだけは人一倍強かった。


 でも、正確には――。


(死にたく……ない……)


 生きたいってよりは、死にたくないって感情の方だったけど。





 どれくらい座り込んでいたのか。既に外は暗くなり始めていた。

 明かりの無いこの部屋は既に闇に包まれている。僕は体質上しっかりと部屋の中が見えているのだが、普通の人では多分目を凝らさないと見えないかもしれない。それぐらい暗い。


(……そういえば……)


 まだ今日は何も口にしていない事を思い出す。

 朝おきてから、今現在に至るまで。ただひたすらボーっと座り込んでいただけで、誰かが現れることも無かった。いつもは食事を届けてくれるご主人様ですら、僕の前に現れなかった。


 でも、そんな僕の思考を、悲鳴が断ち切った。


『いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!』


 悲痛な叫び声。聞いていて耳を塞ぎたくなるような女の子の声が、扉の向こう側から響いてきた。

 なんとなくわかる。彼女は僕の隣の部屋の住人の子だったと思う。一度連れてこられた時にチラリとしか見ていないが、相当に可愛い女の子だったように思う。

 相当前のことだったからだろうか。あまり思い出せない。

 でも、その女の子の声だという事はわかった。それと同時に、男の声も聞こえる。


『おぃ! そっち動かねぇように縛っとけ!! ……ちっ、暴れんじゃねぇーよ。もう一本折っちまうぞ?』

『いやぁ……いやああ!! 助けて、助けてよぉ!! おかぁさん!! 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いやぁあああ!!!』

『うぉっ!? こ、こいつ……おい、たしかナイフあっただろ? 貸せや』

『へい』


 聞こえる。

 男の声も、女の子の悲鳴も。

 だけど、これがこの場所の日常。


 誰かの悲鳴が聞こえる事も、ゲスな男達の聞こえる事も、いつも同じ。

 ここは、僕らにとっては墓場に等しい場所なんだから。


『ぎぃやあああああああああああああああ!!!』


 悲鳴。かすれるような女の子の悲鳴。

 もう言葉が何を言っているのか分からない。グチャグチャと水を含んだような音をさせながら叫んでいるあたり、もしかしたら舌でも切り落とされたのかもしれない。

 この場所では日常茶飯事なんだ。少女の悲鳴も、男達の狂喜の声も。


「おぃ。メシ持ってきたぞ」


 悲鳴轟く中、扉の向こう側から一人の男が僕に声を掛けてきた。

 デプットりとした重そうな体。頭皮は薄くなり、地肌が見えている。良い意味でも悪い意味でも僕とは見た目が正反対の男だった。

 その男の名前を僕は知らない。僕の飼い主であり、ご主人様である事だけしか僕には分からない。


 僕はその男の声に従って扉に近づいた。


「おらよ」


 散蒔(ばらま)かれる僕の(ゴミ)

 野菜の皮だとか、パンの食べくずだとか、そんなものばかり。いつもよりもちょっと豪勢に感じたのは、量が結構多かったからかもしれない。


 僕はその散蒔(ばらま)かれた食べ物を貪った。手を使わず。顔だけを地面に近づけて、舐めるようにしてそれらを食べた。

 この方法しか認められていないからだ。手を使って食べれば、怒られる。だから口だけを使って食べる。当然のことだった。


 男はそんな僕の姿を見て、鼻を鳴らした。


「ふん。浅ましい姿だな……」


 ひどい言い草だ。こんな仕打ちをしているのは、彼だというのに。

 でも、僕は何も言い返さない。言い返せない。


 この場所では彼こそが絶対であり、彼こそが王者なのだから。僕ら奴隷はただただ彼の言うとおりに跪き、彼の言うとおりにペットになるしかない。

 ここは、そういう場所だから。


『ぎゃぁぁあああああああああがががああああああああああ』


「はぁ……うるせぇな……こりゃアイツも今日辺り死にそうだな……ちっ、まぁいいか。アイツ等も少し多めに金払っていったしよぅ……」


 この場所では死すら日常茶飯事だ。

 男の漏らす声から少女の死は目前だという事を知った。それと同時に、向こうで行われている事にもなんとなく想像がついた。


 僕は床の食べ物を残らず食べ尽くすと、また元の位置に座り込んだ。他にする事も無いからだ。


「ちっ。つまんねーな……コイツもさっさと売れちまった方がいいんだがなぁ……」


 そう言って男は僕を睨んで、扉の前から静かに去っていった。


 ――気がつけば、少女の悲鳴は聞こえなくなっていた。





 僕は知ってる。

 この場所に来る男達の性癖(すきなこと)を。

 この場所が歪みきった男達の、その歪みを唯一“緩和”してくれる場所だと。


 いや、それは嘘。


 本当は分かってる。彼らの性癖の“緩和”になんてならない事くらい。僕にだって本当の所、わかっているんだ。

 でも。こんな檻の中じゃ、そう思わなければやってられない。


 殴られて。

 嬲られて。

 折られて。

 挿れられて。

 抜かれて。

 破られて。


 そうして僕らは心を喪失していく。

 そうして彼らはまた、“善良な貴族”として外で振舞う事が出来るんだ。


 僕は窓を見上げた。

 とても珍しい事に、その日の空は満月が見えた。

 丸い。紅くて丸い満月が。

 この世界には“闇”なんて無い。そんな象徴にも見えた。


「……はは……」


 だから僕は嗤う。

 この部屋で。

 この“彼らを善良でいさせるための施設”で。


 僕らは奴隷。


 ここは性奴隷が集められた、風俗店。


 でも、見ての通りただの風俗店なんかじゃない。

 こんな石で囲まれた風俗店なんて、きっと普通の風俗店なんかじゃ無いことは、僕にだって分かる事だ。

 どんなに目を逸らそうと……。いつか分かる事だ。


 扉の前を運び出される少女の遺体。

 腕が無くて、足が無くて、片目がなくて、白かったはずの身体は真っ赤で。

 ひどい臭いがした。


(……糞が……)


 絶対に誰かに聞こえないように心の中だけでつぶやいた。

 それは、僕の主に対するものなのか。それとも、少女や僕自身に対するものなのか。それは僕自身にも分からない。


 それでも、奴隷である僕は何も言わずにまた月を見上げた。



 ここは性奴隷が集められた、風俗店。




 ――世間からは“サディスト”なんて呼ばれる男達が、その欲求を満たす為だけに作られた、狂った施設だ――

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