シンゲツのタダレタ日常
A.T.G.C 第八回
ジャンル:コメディ。 縛りはなし。
最初は、深月の大学生時代の誰かとの凸凹コンビになっての話、と思ったのですが、具体的なプロットを何一つ思い浮かばず、幾つか書いては消し、書いては消し、した結果、ある程度まで書き進めることができたシンゲツにしました。
それでも、コメディとしては随分と半端で、落ちがゼンゼン決まってない感じです……。
はぁ。
私はシンゲツ。闇の存在を統べる者。
統べるってのは結構面倒。だから、このポジションを誰かが継いでくれるなら私は喜んで引退するんだけどなあ。ここ何年か、もうずっと事務仕事ばっかり。現場に出たいな。
「ねえ。 決済しなきゃいけない書類って、あと幾つよ」
「エートデスネ。 サンズノカワノテイボウコウジノギョウシャセンテイノニンカ、サイノカワラノリゾートシセツケンセツシンセイノニンカ、ソシテソシテ……」
「何それ。 好きにやればいいじゃない」
「ソウハイッテモ、ジョオウサマノニンカヲイタダイタモノダケガ、コウジデキル。ソウキマッテオリマスノデ……」
「もう、面倒くさいなあ」
「マァ、ソウオッシャラズニ……。 ア、コノショルイヲケッサイイタダイタアトハ、エンマダイオウトノカイショクガ……」
「ええ! あのエロオヤジとお? やだよお。 あのオヤジ、駄洒落ばかりで、寒いんだもん」
「デスガ、ワレワレガヒツヨウトスル、クサッタニンゲンノタマシイヲ、タイリョウニキョウキュウシテクレテマスシ、アノカタノ、ジゴクジギョウハ、ジュウヨウナプロジェクトデス」
「それに、あの親父、迫ってくるから気持ち悪いのよ」
「ソコハナントカコラエテイタダカナイト……」
「はあ……。 仕方ないなあ、もう少し頑張るかあ」
「ソレデコソ、シンゲツサマ。 ヨロシクオネガイイタシマス」
私の闇の女王としての一日は、大抵がこんな感じだ。一番の権力者のはずなのに、意外と自由にならない。結構つまんない。
いっそのこと、こんなつまらない権力者の座など放り出してしまいたい。
けど、そんなことはできない。
そんなことをしたら、闇の世界が崩壊してしまう。
闇の秘密を抑えておけるのは私だけ。もし、闇の秘密が明らかになってしまったら……。
それだけは避けなければ。
だから、そうならない様、私はこの闇の女王の地位を放り出せない。
そんな私が、最近、一番気になること。
え? 闇の世界を崩壊しないように維持することかって?
ゼーンゼン違う。それは確かに大事。けど、そんなことより何万倍も気になることがある。
じゃぁ、何かって? 私だって、オンナよ?
うふふ。 もちろん、それは、オ・ト・コ。
ちょっと気になる男がいる。え、好きなのかって? ず、随分ストレートに訊くのね。
え、えぇ、好きよ。好き。大好き。
ずっと彼のとなりに寄り添っていたい。そして、彼に触れたい。彼に触れられたい。
そうよ。私は地獄の閻魔大王がメロメロになるくらいの、チョー美人なのよ。だから、私がその気になれば、その辺のオトコなんてイチコロよ! そのはずなのよ!
でも、そんな風に威勢のいいことを言えるのは、一人の時だけ、いざ、彼の目の前に立つと、何も言えずに俯いてしまう。私がこんなに意気地なしだなんて、思いもしなかった。
彼は、そんな私を見てくれることもなかったわ。 それもショック。
それとも、そんなに妙な波動を漏らしていたかしら?
そんなの仕方が無いじゃない。だって、私は闇の女王なんだもの。
私はチョー美人。なのに、私が闇を統べるほどの妖だってこと、たったそれだけのことで、あの人に見てもらうことができない。それにね、私のようなチョー美人が誰の目にも留まらない様な暗闇の中にいるしかないなんて、これって人類にとって損失だと思うわ。
あれ? 私は妖だから人類の損失はいいことなのかな? じゃぁ、いいのかしら?
なんか腑に落ちないけど……。
でも、やっぱり悔しい。 だって、あの人、辰樹さんに見てもらえないし……。
少なくとも、あのガキ、光姫なんかよりずっとずっと美人のはずなのに。
そう。最近、あの人の周りにまとわり付く、憎たらしいガキ、光姫。
確かに光姫は可愛いし、きっと将来は綺麗になるとは思う。 けど、まだまだガキよ。
私の方が、ずっとずっと美人なんだから。 って、私は人じゃないから、美人っていうと違うのかな、でもとにかく。ぜーったい、私の方がキレイなの!
なのに光姫ったら、あんなに辰樹さんとくっついて! 「お兄ちゃん」なんて甘えてる。
くー。 絶対いじめてやる。 ぎとぎとのぐちゃぐちゃにしてやる。そして、闇に引きずり込んであげる。そうすれば、あんなにくっつくことなんてできなくなるんだから。
けど、どうもうまく行かないのよね。
やっぱり、光姫には闇の存在が、そして私がはっきりと視えてしまうのがいけないのかしら。そうなの。あの光姫ったら、悔しいことに、能力者としてかなり力があるわね。
ガキだけど。
時々あかんべーをしてやると、あかんべーを返してくるし、やっぱり見えてるのね。
あーもう、腹が立つ。
あ。でも、辰樹さんを闇に引きずり込む方がいいかしら。
そうしたら、私と辰樹さんは一日中闇の中! やりたい放題のオトナの世界よ! むふ。
これは名案ね。しかも18禁よね。ジュルリ……。 おっとよだれよだれ。
忘れない様にメモしとかなきゃ。
まぁ、彼もかなりの力を持ってるから、簡単には引きずり込めないかもしれないけど。
でも、その過程で、彼とくんずほぐれつになったりしたら……。
彼と触れ合ってしまう。 きっと触っちゃうかも。 ってどこを?
へへー。そんなことは口にできません。
けど、ソレモイイ。
ふふん。 私はもう、何百年も生きてるから18禁OKね。 オトナよ、オトナ!
だれ? 年増とか言ったの。 いっぺん死んでみる? って、妖だからもう死んでるのか。
けど、光姫はまだ小学生だもの。ふ。はい、18禁はダメー、はい残念。
大人の魅力なんか理解できないわよね。
そう。私と辰樹さんは運命の恋人同士よ。絶対そう。そうに決まってる。だって、あんなにタイプなんですもの。何百年と生きてきて、まだ十回目くらいよ!
え? 初めてじゃないのかって?
ふ……。
大人にはイロイロあるのよ。イロイロとね。
どう? 影のある女っていいでしょ? そそるでしょ?
まぁ、私の場合、影しかないけどね。
それにしても、あの辰樹さんと私が組んだら最強のカップルよね。
二人で手を繋いで歩いて、時折、人の魂をつまむの。
人間どもが絶望して、でも最後の最後に希望を感じた瞬間にその希望を刈り取る快楽。苦しみ、絶望し、垣間見えた希望を熱望し、そして最後に根こそぎ奪われる。苦しみぬいた魂の幾重にも重なる異なる味わいが、私達には甘美な陶酔の味。うーん。たまらないわ。
最強にして最凶で最狂。 災悪にして最悪。 なんてお似合いなカップル!
と思うけどなあ。
でもね。やっぱり光姫には危険な匂いを感じるわ。女の勘かしら?
私達の存在が見えてるし、普通は分からないはずの属性まで見抜かれてしまってる。あの能力は危険だわ。だから、私が辰樹さんに近づけないのよ。光姫さえ居なければ、今頃、私が辰樹さんのとなりで辰樹さんに甘えてたはずなのに!
そうよ。辰樹さんだって、きっと私のことを。あの熱い視線にはとろけそう。
でも、彼が光姫を見る視線もなんか暖かい感じよねえ。すごく優しそう。 いいなあ。
あーもう、もっと私にも優しくして!
あ。でもでも。 いえまさか……。
まさか、辰樹さん、少女趣味なの? ロリコンだったりするの?? だからあんなガキに?
まさかまさか! でも、小学生の光姫相手に、あんなに嬉しそうに微笑みかけて、あー、あんなに優しい笑顔を向けられてみたい! もー、光姫、いつかゼッタイコロス!
む? 光姫のやつ。今、私を見て笑ったわよね? やっぱり私のこと見えてるのね。
憎たらしいったらありゃしない。
それにしても、なんだかかなり馬鹿にしたような笑い方だったわね。
まさか……。 辰樹さん、ホントにロリコン?? えー。うそー!
くやしー。 光姫め。知ってたってこと?
でも、負けるもんか。
それにしても光姫め。いつかコロシテやる。
そして、光姫の魂は辰樹さんには絶対に会えない場所に封印しちゃうの。
そう。コキュートスに。
キュートな案でしょ?
……。
うわあ、オヤジギャグだあ。ごめんなさい! もうしません。忘れてください。二度と駄洒落は言いません。申し訳ありません。 ……。
閻魔のエロオヤジの下らないギャグが感染したのかしら? やっぱあの親父と会うのは避けるべきだったわ……。
それとも、この前つまんだオヤジの魂がイケナカッタのかしら?
うーん。もうオヤジ狩りはしません。すいません。
とにかく光姫よ。 何時か酷い目に遭わせてやる。 もーゼッタイに。
けど、逆もありかもしれないわね。
辰樹さんを闇に引きずり込む。
そしてズボンを下ろす。 ……。
ちょ、ちょっとストレート過ぎたかしら。
と、とにかく、彼を私のものにして、光姫は絶対にコロサナイ。もう、これで光姫は辰樹さんとは永遠のオワカレ! これも名案の一つね。
うんうん。 これもメモしとかなきゃ。
そうだ。けど、私は、姿を変えることができるんだから。
辰樹さんがロリコンだって言うなら、私は小学生になる!
ううん。 もし辰樹さんが望むなら幼稚園児にだってなれるんだから!
ゴスロリだって可能よ! もう、辰樹さんのお好み次第!
今日は小学生。明日は幼稚園児。明後日は? 乳児がお望みかしら?
辰樹さん、私のおしめ換えてくれるかしら? それはちょっと恥ずかしいカモ。けど、それはそれで、すごいプレイよね! 新しい趣向だわ! きっと。
そうそう。逆でもいいわね。辰樹さんに乳児になってもらって、私がそのおしめを……。
むふふふ。 これも詳細にメモしとかなきゃ。
うーん。いけない、いけない。 あんまり想像してると鼻血が出ちゃうわ。
ふふふ。それにしても、今日こそ辰樹さんを落として見せるわ。この黒の……。
ん?
あれ?
あああ! しまった!
今日は勝負下着、黒の紐パンツにしたつもりだったのに……。こ、こんなリラックマのプリント入りだなんて……。
こんな幼児パンツ、辰樹さまにはお見せできないわ。
し、仕方ないわ。今日のところは出直しよ。 また来るわ、辰樹さん、忘れないでね?
あ、光姫め、またあかんべーなんかして。 光姫、覚えてらっしゃい?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は光姫。 見えないものが視える少女。
って、別に幻覚を見るとか、アブナイ薬を常用してるとかじゃないですよ。
妖とか精霊とか、そう言うものが見えちゃう。
見えるだけで、それをどうすることもできないけど、きっといつかやっつけられる様になってみせる。そして今、一番やっつけたい妖は、あの女。
そう。女の妖。確かシンゲツって名乗ってた。
彼女ってばすごく綺麗だと思う。
艶やかな長い黒髪で、透けるような白い肌。鼻筋も通っていて、瞳は少し大きめ。少し小さめの桜色の唇。それに、とてもプロポーションもいい。
そして、その白い肌にはシミなんて一つもない。年増の癖に。一体、何百歳なんだろ?
まぁ、大抵の人には、そんな彼女の姿は見えないから関係ないけど。
そして、どうしてか分からないけど。いえ、まぁ気持ちは分かるけど。どうやら彼女、お兄ちゃんに気があるみたい。
なんでそんなことが分かるのかって?
それはもう、見れば分かる。もう、わざわざ視なくても。だって、とっても分かりやすい。
よく物陰から、こっそりお兄ちゃんを覗いてる。そんな時、彼女の頬はうっすらと染まってて、瞳も潤んだりしてて、くやしいけど、ちょっと魅力的。
それに、そんな彼女からはピンク色のオーラがダダ漏れになってる。
まぁ、シンゲツにとっては残念なことに、そんなシンゲツの仕草はお兄ちゃんには見えてないけどね。お兄ちゃんは私ほど妖を見る能力が高くないから。
そう言えば、今日のシンゲツってば何か落としてったわね。
何これ。『闇の秘密♪ byシンゲツ』、何か重要なことでも書いてあるのかしら?
音符マークなんか書いちゃって、馬鹿じゃないの?
どれどれ? 『辰樹さんとのいつかスルこと? その1、お医者さんごっご?』
やっぱり、あの妖、馬鹿ね……。
こんなの燃やしちゃえww
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
全く、とんだ失敗だったわ……。
紐パンツ、今朝洗ったばかりで乾いてなかったのね。それにしても今日は失敗したわ。
あ。でも、辰樹さんが本当にロリコンだったなら、リラックマのプリントパンツって意外と有効だったのかしら? 知りたいような、知りたくないような……。
次回はどうしようかしら。
そうねぇ、その路線なら、プリキュアもアリかもしれないわねえ。けど、これって諸刃の剣よね。もし間違ってたら、きっともう立ち直れないわよね……。
さすがに怖いわ……。
悩むわあ。
今日のメモでも見ながら考えよっと。
あれ? 私の『闇の秘密♪』は?
あれが知られたら、闇の世界は……。
なんだか、半端な感じです。
うーん。遅刻した上に、これかぁ、と思うと、かなり残念な気分です……。
あんまりかなー、と思って、後半を中心に修正しました。だからって、大して変わってないかもしれませんが……。
コメディ、難しいです……。