第九話 洗礼名と魔属性が決まりました。ついでに〇〇も決まりました
「姫さんの属性はコレね?」
前世ジャンガリアンハムのマメ助がそう言って空中に一枚のカードを浮かばせた。
形や大きさはタロットカードに似てるが、書かれているのは“こっち”の文字。
私はマメ助が浮かばせたソレを注意深く見つめた。
なになに?属性:治癒系・幻系
使用可:再生・分析・浄化・探索・変化(年齢制限有)
「どちて“へんげ”だけねんれいせいげんありってなってりゅの?(訳:どうして“変化”だけ年齢制限有ってなってるの?)」
再生・分析・浄化って要は治療一般の事だよね?探索……それも治癒に含むのなら悪い部分を探す能力って事かな?それでもって変化は幻系の方だと思うんだけど?
【そこから先は我が説明しようぞ?】
声と同時に平安時代の恰好をした女性が現れた。この声は…もしかして
「……わがみ?」
相変わらず暑っ苦しい平安装束で現れたのは、私がこの世界に転生する元凶?を作った女神。
だが、優雅に仰ぐその扇子には何故か達筆で『彼氏募集中』と書いてある。
……うん。やっぱり謎が多いヒトだ。あ、神様だから当然か……。
【そなたに“ぼらんてぃあ”なるものをして欲しくての?勿論それ相応の見返りはつけるぞ?
我の世界にてそなたの僕だったモノらを“ここ”に集結させたのもその為じゃ】
「は?」
【この“ぺんだんと”に『わがみちゃんぎざかわゆす!たかつかさゆりのになぁ~れ♪』と唱えよ。
さすればそなたは直ちに在りし日の“高司 百合乃”となり、獣医師となるのじゃ】
何だその奇妙奇天烈な呪文は?ぎざかわゆすって何?宇宙語?
“高司 百合乃になぁ~れ”って、何で“私”が“私”にならなきゃいかんのよ?
もしかして3歳児から三十路の獣医に変身しろって?
「…ちょれってへんちんじゃん。いや、ちょれよりも!どちてじゅーいがぼらんてぃあになりゅの?(訳:それって変身じゃん。いや、それよりも!どうして獣医がボランティアになるの?)」
【それは“ここ”が獣人界だからじゃ】
そりゃあね、前世の私は動物のプロ……みたいなモノですよ?
でも、動物と獣人は違うでしょうがっ!
【問題ないぞ?そなたが診るモノらは特殊なモノたちだからの】
「とくちゅなものたち?」
【…今にわかる。年齢制限を設けたのは、そなたが“高司 百合乃の享年”になったら変化能力が無くなるようにじゃ】
「なくなりゅの?ちゅかえなくなりゅの?(訳:無くなるの?使えなくなるの?)」
【そなたが“ぼらんてぃあかつどう”なるものを続ければソレに代わる能力を授けるよう竜神に託ようぞ】
「へんちんのかありののうりょきゅって?(訳:変身の代わりの能力って?)」
【……そう急くでない。我がゆっくり考えるからの】
なぁんだ。結局は只働きじゃん。
ま、良いけどね?だって皆も協力してくれるって言うし、“向こう”でも仕事自体は苦痛じゃなかったし。
………人間関係は苦難の連続だったけど。
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「……めさん」
アレ?マメ助の声がする……さっきまで和神と話していなかったっけ?
「姫さん起きろ!」
「へ?あ……まめしゅけ……」
目が覚めると私はやっぱりイスに座っていて、正面にはちょい渋系のアライグマ男になった旧ジャンガリアンハムスターのマメ助が座っていた。
ツンツン頭な赤茶色の髪にひょっこりお耳。それに何と言っても特徴があるのは尻尾!おっきくて縞々模様~。
ああ。あれを掴んでぶんぶんしたい~っ!
ってか、“向こう”ではケージの中でヒマワリの種をポリポリやってたくせに……同じイスに座っているのに私を見下ろすどころか、顎に手なんかあてちゃって恰好つけてるのが、それがまた様になってるのが……何か悔しい。
「竜神と意思疎通をする為一時的にトランス状態になるのは仕方ねえんだけどさ、ちょい長すぎじゃね?」
「とらんしゅ?」
「そのウチ、イビキでも聞こえてくんじゃねーかって思ったぞ?」
「しょお?わたちねてたの?(訳:そう?私寝てたの?)」
「…そう見えたってだけだ。ま、あんだけ長い時間ああしてたっつー事は『竜神の言葉』が聞けたって訳だから、これで『カチェリーナ様のカテドラルデビュー』も無事完了!
姫さん、お疲れぇ~っ!もう帰っていいぞ?」
「……しめ、じゃないよ(訳:姫、じゃないよ)?」
「んじゃ、何て呼ぶ?やっぱカチェリーナ様?」
「……リーナでいいよ?ようちえんのおともだちにもしょおよんでもらってるち?(訳:リーナでいいよ?幼稚園のお友達にもそう呼んで貰ってるし?)」
「了解!んじゃ、リーナ様、もうお帰り頂いて結構ですよ?レフ!レフ!!」
え?また“むー”もといレフさんに抱っこされるの?
私のドキドキを無視するかのように、かつての“家族”は声を張り上げる。
すると……
「……一度呼べば聞こえますよ?魔術師長殿」
「っ…!?」
「お?やけに早かったな」
……空中の中からいきなりイケメンスマイル狸さんが現れたのだった。
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「さあ、カチェリーナ様、こちらでご家族の方々が首を長~くしてお待ちですよ?」
「あい」
さっきと同じ縦抱っこでちょっと前まで寝ていた部屋の前まで連れて来て貰いました。
……かつて、私がお腹から取り上げたイケメンに……
そう言えば“むー”とはあまりモフモフ出来なかったなぁ…。
やっと抱っこしてスリスリ出来るっ!肉球フニフニ出来るっ!…って時に事故にあったんだもん。
フワフワの赤ちゃん猫。母親に似て真っ白な毛、つぶらな瞳。美猫になる事間違いなし!の雄猫だったのに……
「あ…だからいまいけめんしゃんなのか(訳:あ…だから今イケメンさんなのか)……」
「???はい?」
「い…いえ!なんれもないれしゅ!レフしゃん、ちゅれてきてくれてありあと(訳:い…いえ!何でもないです!レフさん、連れて来てくれてありがとう)」
「くすくす…どういたしまして」
身長差を利用して、最後にしっぽにスリスリしたら特に止められなかった!
ラッキー!
私は気分良く扉を開けて中に入り、パパンの涙の洗礼を受けたのだった。
ご愛読ありがとうございます。