僕の代わりに
少し私の理想的なものが入っています。
私には大切な人がいた。
彼も私を大切にしてくれた。
でも今は私一人。
なぜなら彼は、私を置いて死んでしまった。
彼のいなくなったこの世界は、まるでモノクロだ。
私は泣いた。
いっぱい泣いた。
それでも涙が枯れる事はなかった。
一月後、彼のご両親が会いに来た。
心にぽっかり穴の開いた私に会いに来た。
そして小さな箱を渡された。
中には彼の時計と、手紙が入っていた。
手紙にはこう書かれていた。
~大切な君へ~
君を置いて先に行くことを許してほしい。
本当はもっともっと君の隣を歩いていたかった。
一緒に時を刻みたかった。
おじいちゃんとおばあちゃんになっても手を繋いで歩いていたかった。
でも、残念ながらこの願いは叶えられそうにないです。
だからこの時計を送ります。
僕はもう隣にいることはできないけど、空からあなたを見守っています。
本当は隣に立っていたいんだけどね。
僕の時は止まってしまって、何年経っても僕の容姿はこのまま、老いることはないと思います。
だからこそ、僕の代わりにこの時計が、あなたと僕の時を繋ぐ役割をしてくれます。
君の一秒が、その時計を介して、僕の一秒になります。
だからこれ以上僕の死を悲しまないで下さい。
温もりは無いかもしれないけれど、これからも同じ時を共有できるはずだから。
全身全霊を懸けてあなたを愛していました。
死んでもその心は変わりません。
ありがとう、そして愛しているよ。
私はまた泣いた。
でもこの涙は悲しくなかった。
とってもとっても温かかった。
彼のご両親が私に言った。
息子を愛してくれてありがとう、って。
この時は三人で泣いた。
優しい涙を流した。
それから一年後。
今はもう彼のことで涙を流すことは無くなった。
涙が枯れたんじゃなくて、流さなくても平気になった。
だって私は今も一人じゃないって分かったから。
きっと、この時計を介して彼と繋がっているはずだから。
だからもう泣かないよ。
あなたは温もりが無いって言っていたけど、十分時計から伝わってくるよ。
あなたの温もりが。
見ててね。
あなたの大事にしていたこの時計と一緒に、そしてあなたと共に、悔いの無い人生を送るから。
私がそっちに行くまで、もう少し時間がかかるだろうけど待っててね。
浮気なんかしちゃだめだよ?
あの手紙であなたが誓ってくれたこと、生きてる私も同じ気持ちです。
この先何年、何十年経ってもその心は変わらない。
だから私もこの言葉を返します。
ありがとう、愛しているよ。
『もし大切な人がいなくなったら』って思ったとき、簡単にバットエンドにしたくないのでこういう短編を書きました。
いかがでしょうか?
気に入って頂ければ嬉しいです。