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英雄の杖を狼に  作者: 真っ逆
王都ハーヴェス編
8/9

成長


『ピロロロロピロロロロピロロロロピロロロロ…』


にんにく(……遅いな)


朝七時。無機質な電子音がにんにくの部屋に響く。

にんにくは覚醒しきった目でスマホの画面を見つめている。


突如、『ガタン!』と扉が開き、ガーリックが入ってきた。


ガーリック「目覚まし鳴ってるなら起き……起きてるなら止めなさいよ!!」


そんな言葉など耳に入らず、ただ無心に、スマホを見つめている。

その様子を不思議に思ったガーリックは、ひょいとスマホを覗いた。


『ミオが泊まれようが泊まれまいが、結果教えてくれ』


にんにくが半日前に送ったメールが無機質に画面に映っていた。


『ピロロロロピロロ』


電子音が鳴り止んだ。同時に、画面には『バッテリー残量10%』という文字が浮かび上がった。


にんにく「あっ……」


ようやく意識が戻り、ふと目線を上げるとガーリックが目に入った。その耳は少し垂れ下がっている。


ガーリック「連絡が来ないのは心配だけど、便りがないのは良い便り、とも言うでしょ。しっかり休みなさいよ。」


にんにく「……五時に起きたから休んでるわ」


ガーリック「そう……とりあえず、シャワー浴びてきたら?」


にんにく「そうするわ…」


スマホを充電器にさし、にんにくはおもむろに立ち上がった。おぼつかない足取りで風呂場へと向かった。


風呂場からはシャワーが流れる音が聞こえる。


しばらくしてシャワーを終えたにんにくがリビングにやってくる。

長髪が肩に貼りつき、耳がペタリと垂れ、力なくタオルで頭を撫でる。

そんな姿を見たガーリックは、ひとつ小さなため息をした。


ガーリック「とりあえず朝ご飯食べて、そしてその後、迷惑にならない時間にでもニラさんの家に行ってきたら?」


テーブルには湯気が立っている食事が置いてあった。にんにくは椅子に腰を落とすかのように降ろした。

その動きはただ口に運んでは飲み込むと、まるでプログラムされたロボットのような無機質さを孕んでいた。

「美味しい」とも「不味い」とも言わないその姿はガーリックにも心配を植え付けた。


食事が終わって、にんにくは一目散に部屋に戻り、小さなカバンにお菓子と財布を詰め込んで、腰に杖を差し、飛び出すように家を出た。

玄関の扉を開けたまま、ガーリックへと叫んだ。


にんにく「このこと誰にも言うなよな絶対!!」


そのまま振り返りもせず走って行った。


ガーリックの足元にはカバンからこぼれたキャンディが一つ落ちていた。


にんにくはただ無心に走る。

行き交う人々にも目を向けず、急ブレーキをかけた車の音すら耳に入らない。街の景色は溶け合わさった絵の具のように歪んで見える。


ニラの家に着いた。いつもと同じ道をいつもと同じ速さで走ったが、にんにくの肩は大きく上下に揺れている。

震える指先でインターホンを押した。


『ぴんぽーん』


待っていると、シトルイユが出てきた。その面持ちは驚きつつもどこか神妙で、にんにくの意図を読み取ろうとしている顔だ。


シトルイユ「これはにんにく様……ミオ様のことですか?」


にんにく「…?あ、あぁ」


シトルイユは少しの沈黙の後、少し微笑んだ。


シトルイユ「ミオ様がお住みになられること、王よりご許可をいただきましたよ。」


シトルイユは、一糸乱れぬ執事服の袖口を整えながら、少し微笑んだ。

にんにくはさっきまでの疲れが嘘かのように飛び跳ねた。


にんにく「本当か!」


シトルイユ「はい。王子…ニラ様とミオ様をお呼びいたしましょうか?」


にんにく「ミオは分からないからともかく、ニラはまだ起きてないんじゃないのか?」


シトルイユはまた微笑んだ。


シトルイユ「それがですね、最近は早起きが習慣化してきておりまして、既に朝の支度を終わらせていますよ。」


にんにく「おー成長だ ……そういえば稽古間に合ってたな」


にんにくは遠い目をして言った。ニラの成長に喜びつつ、毎日ギリギリまで起こそうとしていた努力ができなくなる寂しさが、どこか胸の内にあった。


にんにく「えっと、ニラとミオを呼んでくる…だっけ?邪魔にならないなら俺が行くよ。」


シトルイユ「承知しました。」


にんにくはシトルイユの後に続き、廊下を歩く。

階段を上って右に折れ、二つ目の左の曲がり道の先の部屋――ニラの部屋に着いた。


シトルイユが『コンコンコン』とノックをする。


シトルイユ「シトルイユでございます。ニラ様、にんにく様がお見えになられましたよ。」


扉がゆっくりと開く。その先には少し眠そうな顔をしたニラが立っていた。


ニラ「…おはよにんにく。どしたの」


シトルイユがそっと席を外す。


にんにく「どうしたもこうしたもあるかよ……返信一つよこさないってどういう状況だよ!!」


呆れと怒りが混ざった声が廊下に響き渡った。


ニラ「返信?」


ニラは不思議そうにポケットからスマホを取りだした。通知欄には『未読一件』。

開くと『ミオが泊まれようが泊まれまいが、結果教えてくれ』と、昨日のまま変わらない様子のメールがあった。


ニラ「あ、ごめん……気付かなかった。」


ニラの耳と目線が少し下がる。だが、すぐに上げ直された。


ニラ「ミオなら隣の部屋にいるよ。」


ニラが指した先を見ると、『みお』と不器用な字で書かれたネームプレートが自慢げに扉に貼ってあった。


にんにくはニラの部屋の扉を勢いよく閉め、隣の扉を『ゴンゴンゴン』と叩いた。「……どうぞ」とか細い声が聞こえた。

開けると、ミオが床に突っ伏してブツブツと何か言っている。


にんにく「……何してんだそんなところで」


ミオ「その声は……九十八、にんにくさん……九十九、ですか……百、今私……百十、腕立て……百十一、伏せを……百十二、しています……百十三」


数字を交ぜながら小さく話す。同時にぽたぽたと水が落ちている音をにんにくの耳が捉えた。


にんにく「そうか、邪魔したな」


ミオ「いえ……百十七、もうすぐ……百十八、終わるので……百十九、待ってて……百二十、ください……百二十一」


変わらず淡々と続けている。そんなミオの姿を見て、にんにくは良からぬことを思い付き、部屋の壁に掛けてある時計を眺めている。


にんにく「分かった …ちなみに今十時だぜ」


ミオ「十、時ですか……十一、もうそんな……十二、時間……十三、ですか……十四」


百以上あったカウントが一瞬で十にまで下がる。ミオは気付いていないのか、淡々と数字を数えている。


にんにく(ちょっとやり過ぎたかなぁこれ……)


嘘をついた後ろめたさからか、にんにくの耳がペタンと伏せられ、左右に落ち着きなく震えた。

このまま放っておけば自身の罪悪感が増すだけだ。にんにくは無理矢理にでもこの場を終わらせたかった。


にんにく「ところで、これ何回で終わるんだ?」


ミオ「普段は……十八、えーと……百五十、回で終わらせています。」


にんにく「そうか、で、今何回目だ?」


ミオ「百五十回、ちょうど終わりました。」


自身で告げた百五十という数字をゴールにしてしまった。にんにくは自身が蒔いた種だと思いつつも、その単純さには思わず口を開けたまま固まった。


ミオ「どうかしました?」


にんにく「あいやなんでもない とりあえず良かったな、住める場所が見つかって」


ミオ「そうですね」


またもや他人事のように済ませた。にんにくは呆れながらも問いかける。


にんにく「で、トレーニングはさっきのだけか?どんなメニューなんだ?」


ミオは指折りしながら答えた。


ミオ「そうですね……、スクワット百五十回と、上体起こし百五十回、腕立て伏せを百五十回…が三セットと、バーピー百五十回とプランクが九十秒…を三セットですね。」


にんにく「『ばーぴー』ってなんだ?」


聞き慣れない言葉に眉をひそめる。


ミオ「こうやって、跳ねて、伏せて、跳ねて、伏せて……って繰り返すやつです。」


床を叩くドスンという振動と、跳ねるたびに空気を切る鋭い音が、にんにくの耳を絶え間なく震わせる。

あまりにも激しく、心臓を消耗しそうなトレーニングだと、にんにくは感じた。


にんにく「それを百五十回の三セットだから…………四百五十回もするのかよ」


その目は感嘆でも恐怖でもない、ただ呆れとしてミオを見つめている。


ミオ「そんなに多いんですね……一」


話しながらトレーニングを再開した。


にんにくが部屋を見渡すと、隅に大きな袋があった。


にんにく「こりゃプロテインか?よくあんな財布で買えたな」


にんにくは財布の中身を思い出した。


ミオ「シトルイユ……五、さんが買って……六、くれました……七」


にんにく「良かったな」


シトルイユが有能な凄い執事なのだと、にんにくは思った。そしてなんとなく自分もこうあらねばと感じた。

袋に向かって不器用ににんにくの手が伸びる。


にんにく「…プロテイン作っとこうか?」


ミオ「いえ……十、お気持ち……十一、だけで……十二、ありがたい……十三、です……十四」


にんにくはせっかくの善意が蔑ろにされた気分になり、居心地が悪くなった。


にんにく「あぁそうか、ごめん 邪魔したわ」


そそくさと部屋から出て、家へ戻ろうとした。

玄関まで来た頃、丁度ニラがやって来た。


ニラ「帰るの?」


にんにく「帰るわ」


ニラ「稽古までいればいいのに。」


にんにく「そうするわ」


にんにくはニラと共に階段を上った。


二人はニラの部屋に入った。

五分ほど経ち、待ち飽きたにんにくは、辺りを見渡す。絵本と小難しい本が入った本棚、天板の一部が黒くなっている勉強机に、小さいゴミ箱、大きなクローゼットに白いベッドとニラ。どれも退屈をしのげそうにない。


にんにくは仕方なくカバンを開けてキャンディを取り出す。口の中に放り投げ、ガリガリと噛み砕く。

キャンディは二個で無くなった。


再び退屈がやってくる。また辺りを見渡しても変わらない。


にんにく「なぁ、何かないのか?」


ニラ「…?」


にんにく「暇なんだよ」


ニラは軽くため息をついた。


ニラ「よく堂々と言えるね、そんなこと。」


にんにく「まぁな」


ニラ「分かってるなら直そうよ」


にんにくは表情どころか態度一つ変えない。ニラは効果が無いと考え、これ以上の追及を諦めた。

勉強机の棚を漁りながら背中を向け問いかける。


ニラ「トランプに、リバーシ…、折り紙があるけど」


にんにく「リバーシやろうぜ」


ニラは盤を広げ、中央に石を四つ置き、あまりをカチャカチャと半分に分けた。


にんにく「俺白な」


勝負が始まった。


にんにくが迷いながらも最大数取れる手を打っているのに対し、ニラは一切の迷いなく淡々と石を置いていった。


盤面が半分ほど埋まった。ほとんどが白で、黒はほんの少ししか見えない。


にんにく(腕落ちたか?)


そう思っていた。四隅それぞれ四マス――計十六マスが残った。


にんにく(俺の番か……あれ、置けねぇ)


ニラが黙々と石を置いて裏返していく。白に染まっていた盤は、だんだん黒へと変わっていった。


マスが全て埋まり、二人は集計した。


ニラ「黒四十対白二十四だね。僕の勝ちだ。」


にんにくは、ちらとでも腕が落ちたと疑った自分を殴ってやろうかと思った。


二人はずっとリバーシをした。にんにくは一度も勝てなかった。


リバーシ中、ニラが少し不安に思い、時計を目に入れた。


ニラ「…やっぱり、急がないと…!!」


ニラの叫びに、にんにくの狼耳が弾かれたようにピンと立った。

負け続けていた盤面など、とうに意識の外だ。


にんにく「んじゃミオ呼んでくるわ」


にんにくは部屋を出て隣の部屋をノックする。


『ゴンゴンゴン』


「どうぞ」


扉の向こうから小さく返事が聞こえた。すかさず扉を開けると、準備万端のミオが佇んでいた。


にんにく「おぉ早いな、もう稽古の時間だ」


ミオ「分かりました。」


二人が玄関まで歩くと、そこにはニラが立っていた。二人の様子を見て、また叫ぶ。


ニラ「なんでそんなのんびりしてるの!?」


ニラの慌てふためく様子を見て、二人は急がないといけないと思った。


三人が競走するかのように家から飛び出し、走って行く。

にんにくはふと、隣を走っているミオに問いかけた。


にんにく「なぁミオ、お前稽古あるって言う前にはもう準備できてたよな」


ミオ「トレーニング終わって暇だったので準備しました。あとニラさんから稽古は毎日あると教わったので。」


にんにく「へぇ…」


にんにくの口角が上がる。


そうこうしているとホウレンの家が見えてきた。やはり門の前にはホウレンが立っている。


ホウレン「あと十秒だったぞ。ギリギリにも程がある。」


にんにく「まぁ間に合ったんだし結果オーライだろ」


ホウレン「ギリギリをやめろと言っているんだがな…」


四人は家に入り、中庭まで歩いた。中庭は、昨日の実験が嘘だったかのように何一つ変わっていない。


ホウレン「今日は反射神経を鍛える。」


にんにく「どうやって鍛えるんだ?」


ホウレンは足元に転がっていた球を持ち上げた。


ホウレン「私が投げたボールを木刀で受け流すか避けてくれ。自身にボールが当たらないようにするんだ。」


ニラ「面白そう」


ホウレン「まずは最初に誰がやるかを決めないとな。」


にんにく「俺やるわ」


間髪入れずに応え、にんにくは木刀を担いだ。


ホウレン「始めるぞ。」


ホウレンは持っている球を瞬時に投げた。速い。その軌道は真っ直ぐにんにくを狙っている。


にんにく「ちょ待…」


空気を切り裂く鋭い風切り音が、にんにくの狼耳を突き刺す。

にんにくは思考より先に、音の鳴る方へ木刀を突き出し、ギリギリで球を防いだ。心臓の鼓動が、まるで猛獣に出くわしたかのように早くなっている。


にんにく(危ねぇ……ってうお!!)


次々飛んでくる球を、にんにくは必死に防いだ。


にんにくの稽古が終わって、ニラが問う。


ニラ「どうだった?」


にんにく「おそろしい」


にんにくは、目を見開いて耳がピンと立ったまま固まっている。


ホウレン「次は誰がやるんだ?」


ニラ「僕が」


ニラは腰に差さってある木刀を手に取り、構えた。


ホウレンは何も言わず球を投げた。ニラは音を頼りに球を木刀で叩き落とした。

「パァン!」という乾いた破裂音が響く。

にんにくが翻弄された剛速球を、ニラは一歩も引かず、力自慢の腕だけで弾き返した。


ニラは飛来する球を全て打ち落とした。


ニラの稽古が終わって、ミオが問う。


ミオ「どうでした?」


ニラ「たいへん」


ニラは、歯に挟まったものを気にするような顔をしている。


ホウレン「最後はミオか。」


ミオ「待ってました」


ミオは木刀をテニスラケットのように構えた。


ホウレンは変わらぬ速さで球を投げる。ミオはそれを確かめてから球を叩き落とそうと振りかざした。直後、体は小さく右の方へズレる。


ミオ(速い…!)


ミオは叩き落とすのを諦め、避けに専念した。その姿は、ドッジボールで最後までコートに残る『逃げ専』のソレだった。


三人の稽古が終わって、ホウレンは三人に言った。


ホウレン「まずはにんにく、しっかりボールを捉えて、確実に行動するんだ。次にニラ、避けるべきボールも受けてしまっている。判断を見極めるんだ。最後にミオ、あの一瞬の判断は見事だ。受け流せるように頑張るんだぞ。」


にんにくはのんびり大あくびをし、ニラは自分の二の腕をさすって納得し、ミオは目を輝かせていた。


稽古はまだまだ続いた。にんにくはギリギリで受け止め、ニラは跳ね返し、ミオは木刀を振りかざそうとしてぶつかった。


剣術の稽古が終わって、三人はホウレンの家を出る。


にんにく「そういえばミオさ、あんな球受けて平気か?」


にんにくは弾丸のような球を思い出して軽く身震いした。


ミオ「ちょっと痛いですけどね、まぁこのくらいなら平気です。」


ミオの口角が上がった。


にんにく「次は魔術の稽古だ」


にんにくは唐突に笑顔になって走り出した。二人はその後を追った。


ミオ「魔術ですか、にんにくさん使えるんですか?」


ミオが首を傾げて問いかける。


にんにく「まぁな これで犯罪者を捕まえたこともあるんだぜ」


にんにくは自慢げに杖に手を当てた。その耳はゆらゆら揺れている。


三人は原っぱに到着した。木が数本と、くるぶしほどの草花を見て、ミオが問いかけた。


ミオ「あれ、稽古って言ってましたよね?せんせい遅刻ですか?……あ、もしかして透明になる魔法とかですか?」


にんにく「先生もそんな魔法も無いわ」


にんにくは木に的を貼り付け、五歩ほど下がり、右掌をそこに向けた。


にんにく「見てろよ〜?」


にんにくは今にも得意技を披露したい気持ちでいっぱいだ。後ろのミオに振り向いてニヤリと笑った。


目線を的へ戻した。


にんにく「水!出てこい!」


コップ一杯程の水が、勢いよくミオにかかる。


ミオ「!?」


魔法が的に当たらないどころか、視界にすら入らずにんにくは戸惑った。


にんにく「ん??不発か??」


ニラ「ミオにかかってるよ。」


にんにく「マジか、ごめん」


にんにくの耳が少し垂れる。対照的にミオの目がまた輝いていた。


ミオ「これが魔術ですか……初めて見ました。」


昨日自身の脇腹に『活性』をかけられたの忘れているのだろうか。


濡れた顔を服で拭い、気を取り直してにんにくに尋ねた。


ミオ「他に魔術使えますか?」


にんにく「これは魔法だな んで結構使える あとは、火に葉っぱに根っこに水玉いっぱい、活性……あと必殺技と機動魔土(オートマタ)くらいか?」


『オートマタ』。聞き慣れない言葉を脳内で反芻し、ミオは首を傾げた。


ミオ「なんですかそのオー…トマトってのは」


ニラ「また作ったんだね魔法。」


ニラは表情を変えず、ただ事実を述べるように淡々と言った。


にんにく「見るか?」


そう言うと杖を取り出して、地面を指した。


にんにく「出てこい!機動魔土(オートマタ)


杖の先から土が出てくる。その土が段々と形を成し、それぞれ四つ足、羽付き、長い腕が特徴の魔獣が三体できあがった。


四つ足は走り回り、羽付きは飛び回り、長い腕のは木に登っている。

あまりの自由さを見て、ミオが呟いた。


ミオ「犬と鳥と…猿みたいですね。かわいいです」


にんにくはそんな小さな声すら聞き漏らさなかった。


にんにく「おぉ正解だ あれが『犬型』、あれが『鳥型』、んであれが『おサル』だ」


にんにくは順々に指していった。


ミオが犬型と走って遊んでいると、ふと思い出したかのようににんにくの元へ駆け寄った。


ミオ「必殺技って言ってましたよね。気になります。」


にんにく「お、見るか?」


ニラは頭を抱えた。


さっきの場所に戻り、にんにくは的に向かってファイティングポーズをした。


右腕を後ろに引き、力を込めている。手首の腱が浮き上がる。


にんにく「あっち向いて……ホイ!!」


右腕を左に振る。ビュンと風を切る音が聞こえた。直後、にんにくの手の動きをなぞるように、目に見えない「何か」の塊が空を走った。


『ボカッ!!』


的に触れてもいないはずなのに、衝撃音原っぱに轟き、的は左の方に飛び落ちた。


にんにく「どうだこれ、凄いだろ」


ミオ「どうなってるんですか?まるで直接殴ったようでした」


ミオはキョトンとしている。それを見てにんにくは笑っている。


にんにく「どうなってるか?教えるわけないだろ」


にんにくは、ミオの驚く顔を見て満足したのか、狼耳をゆらゆらと自慢げに揺らしながら、的を貼り付ける。

杖を取り出し、的に向ける。


にんにく「水!出てこい!」


スプーン一杯程の水が勢い良く飛んで、的に当たる。水は跳ね飛んで地面へ落ちる。


ニラ「お、命中。杖のおかげ?」


にんにく「あぁ」


ミオはさらに目を輝かせる。


ミオ「すごいです。私もやってみたいです。」


にんにく「お前がいた世界って魔法無いんだろ?魔素あるのか?」


ミオ「マソ…無さそうです」


残念そうに肩を落とすミオに、ニラが言った。


ニラ「昨日の夜と今日の朝とで、ご飯たくさん食べてたじゃん。魔素結構溜まってるんじゃない?」


にんにく「ならいけるだろうよ やってみ」


ミオが的の前に立ち、左手を突き出す。


ミオ「水、出てください」


不発だ。初めてなら仕方ないと思いつつ、にんにくがアドバイスを入れる。


にんにく「水想像してみろ 肌触りとか温度とか色とか」


ミオ「想像ですか?水、水、水、みず、みず、ミズ、ミ――」


ミオが固まった。上手く想像しようという複雑な処理を脳ができずフリーズしたようだ。


にんにく「あれ」


にんにくはミオに近寄り、映らなくなったテレビのように叩いた。叩いた感触が案外硬かったのか、にんにくは自分の手を少しだけ痛そうに振り、耳を困惑したように動かした。


ミオ「…!!水です」


ミオの頬に水滴が一つ流れている。


ミオ「この冷たいの、ほら水です」


ミオは自慢するかのように頬を指で拭いて見せた。

にんにくは、鼻先をひくつかせてミオの指先を嗅いだ。


にんにく「……汗だな」


ミオ「魔術って難しいですね」


失敗を悔しがったりせず、事実として受け入れるような姿勢だ。


にんにく「少しずつでもできていけばいいだろうよ」


ミオ「それもそうですね」


二人の会話をただただニラは聞いている。


にんにく「…じゃ、そろそろ帰るか」


ニラ「うん」


にんにくは杖を腰に差し、自宅へ走る。ミオとニラはのんびりと歩いて帰った。夕日の薄明るさが三人を包んでいる。


料理の匂いを纏う住宅街。にんにくは腹を空かせて家に帰った。


玄関にはガーリックが困ったように立っていた。


ガーリック「『確認できたらお肉買ってきて』って送ったじゃん。買ってきてないの?」


にんにくはカバンを漁る。…スマホが無い。


急いで部屋に戻ると、充電中のスマホがあった。『充電完了』と無機質に光る画面を、にんにくは黙って眺めた。



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