不器用な芽吹き
夜月が映える二十二時過ぎ、ホウレン宅に人影がひとつあった。
『コンコンコン』
ホウレン「はい、おぉアサツキか。こんな時間にどうした。」
扉を開けたホウレンの前にいたのは、現君主・アサツキであった。
アサツキ「少しお話したいことがあって…良いお酒持ってきましたんで…」
ホウレン「そうか、上がれ。」
ホウレンはアサツキを家に入れた。良いお酒が気になったのか、話を聞こうと思ったのか。
アサツキがホウレンの前に腰を下ろすと、持参した瓶の栓を抜き、二つの杯にお酒を注いだ。
ホウレン「美味いな、これ。で、話ってなんだ?」
ホウレンはアサツキの真剣な眼差しを見て、只事でないことを瞬時に理解した。
アサツキ「…あの子供は危険です。杖に選ばれただけでなく、ヘムロック捕縛に一週間の期限を与えたが、たった一日で終わらせてしまった。それ程の実力者を野放しにしておくと何が起こるか分かりません。」
ホウレン「……分かっていながらそれを言うか。あの依頼が一日で終わることを踏んでいたからこそ、あんなにスムーズに動けたのだろう。」
アサツキ「やはり見透かされましたか…。まだ師匠には敵いませんね。」
ホウレン「お前を何年見てきたと思っているんだ。未来予知に近い程の先見の明があることを嫌という程知っている。」
アサツキ「……買い被りですよ。私はただ、あの子供ならこう動くだろうと信じていただけですよ。」
ホウレン「信じていただけか、まったく。てっきり盤面を読み切った上での『確信』かとな。」
アサツキ「そんな…私をなんだと思っているんですか。流石にそこまで頭回りませんよ。」
ホウレン「まぁ、だろうな。ただカマをかけただけだ。」
アサツキ「…変わってないですね、師匠。」
ホウレン「お前もな。」
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翌日。そんな他愛もない噂話をされていたことも露知らず、にんにく達は『ドクダミ』という老人の家で草むしりをしていた。
にんにく「あー!腰いてぇ!」
ニラ「回復魔法かければいいじゃん」
にんにく「効くならやってるっての」
ドクダミ「ほっほっほ、ふたりともありがとう。雑草がみるみる抜けていってますよ。」
二人は次々と雑草を抜いていった。草を抜けるだけ抜いた。
ニラ「…ふぅ」
にんにく「あ゛ぁ゛〜疲れた あ゛ぁ゛〜腰痛い」
ドクダミ「おつかれさまです。ドクダミ特製ドクダミ茶、飲みますか?」
にんにく「お茶か?喉渇いてんだ」
ニラ「うん…」
ドクダミはドクダミ茶を注いだコップを二つ持ってきた。二人は差し出されたドクダミ茶を飲んだ。
ドクダミ「どうでしょう?お口にあうでしょうか?」
にんにく「………まぁ」
ニラ「………う、うん」
ドクダミ「そうでしょうそうでしょう。しかもすごく身体にいいんですよ。」
にんにく「………そうなのか」
二人は頑張って飲み干した。舌の絶望と引き換えに健康を手に入れるべく。
にんにく「………さて、俺は雑草を持って行きたいんだけど、いいか?」
ドクダミ「かまいませんよ。好きなだけどうぞ。」
許可を得るなり、にんにくは杖を取り出し、軽く振った。
にんにく「よし、じゃあ根っこ!出てこい!」
うねうねと根っこが地面から生えてきた。それは以前に比べると少し大くなっている。根っこで抜いた雑草を束ね、地面から切り離し、横腹に抱える。
にんにく「こうすると楽なんだよ」
ニラ「根っこ、便利そうだね。」
にんにく「束ねるとか結ぶとかならだいたいできるしな じゃ、いざ薬屋へ」
二人はドクダミ宅を出ると、薬屋へ向かって走り出した。
道中、何度もほどけた。
薬屋に着くなり、にんにくは苦労して運び込んだ雑草の山を店主へ突き出した。
にんにく「使えそうな草ある?あるなら売りたいんだけど」
店主「またこんなに…あのね、仕分けも楽じゃないんだよホントに…。」
店主は一本一本丁寧に草を調べていった。調べ終わるのに三十分ほど掛かった。
店主「使えそうな草はドクダミ七十五本。これなら三千七百五十円ほどだね。」
にんにく「了解 売るわ」
にんにくは店主が差し出したお金を受け取った。
にんにく「ありがとう 多分また来るよ」
二人が薬屋を出ると、にんにくが計算をしている。
にんにく「五十円玉一枚、百円玉二枚、五百円玉一枚に、千円札が三枚……どう分ければ良いだろうか」
ニラ「分ける?あぁ、僕いらないよ。」
にんにく「俺が分けたいから分けるんだよ」
ニラ「そう…。じゃあ二千円と千七百五十円で分けたらいいんじゃない?」
にんにく「じゃあそうするか」
そう言ってにんにくはニラに二千円手渡した。
ニラ「僕が多い方なんだ。」
ニラは少し驚いたように尋ねた。
にんにく「そりゃ、お前のが草抜いてたしな」
ニラ「…なるほど。」
にんにく(…やけに素直だ)
にんにく「よし…あ、そろそろ稽古の時間だ 急ぐぞ!」
にんにくが走り出した。続くようにニラも走った。
蹴り上げた砂が風に乗って飛んでゆく。




