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英雄の杖を狼に  作者: マサ
王都ハーヴェス編
1/9

なんともない日々


「おいニラ!起きろ!行くぞ」


寝ぼけた目には灰白ツートンの長髪と狼の耳が映る。次第に全体が見え始めた。これはにんにくだ。


ニラ「ん…、おはよう…。」


にんにく「ようやく起きた…何度起こそうと試みたことか…」


ニラ「ごめん。」


にんにく「まぁいい、それより剣術の稽古の時間だぞ」


僕はにんにくに手を引かれ、いつも稽古をつけてもらっているホウレンさんの家へと向かった。


家に着くと、門の前には背筋が真っ直ぐで大柄な老人が立っていた。その人がホウレンさんだ。


ホウレン「遅刻はいけないと言っただろう。」


普段は優しいホウレンさんだけど、時間にだけは厳しい。


ホウレン「今日はもう稽古はつけない。」


そう言って家の中に入ろうとした時、


にんにく「何か代わりは無いのか〜?」と。


要求ができる立場でないことは分かってるのだろうか。


しばらくの沈黙の後、ホウレンさんからは意外な言葉が出てきた。


ホウレン「うちに上がれ、面白い話をしてやろう。」


にんにく「そうこなくっちゃ!剣術じゃニラに勝てっこないし」


それでいいのかと思ったが、家に入って椅子に座った。


ホウレン「好きに食べるといい。」


そう言ってクッキーを持ってきた。


にんにく「んで、面白い話ってなんだ??」


クッキーを食べながら目を輝かせ、身を乗り出して聞いた。


ホウレン「昔の話だ。ゼレニアにいたアニスは優しい心を持っていて、よく人助けをしていたそうだ。だがある日、魔族…リザードマンから子供を救おうと魔法を放ったが、魔族の高い魔法抵抗に阻まれ、気が付くと小さな亡骸があったそうだ。」


にんにく「……、」


ホウレン「ああ。それからのアニスは人が変わった。人助けなど忘れ、血反吐を吐いてもあらゆる武を極めた。ついには魔王封印に成功した。」


にんにく「闇堕ちルートか?」


ホウレン「そして英雄として祀られたアニスの杖は、今も王都の中央広場にある。かつてアニスが、誰よりも人を助けようとしていた証としてな。」


話が終わって、


にんにく「なんか生々しい所あったし、面白いわけではないし…もっとこう、どこをどう極めたのか、どのようにして魔王を封印したのか、面白い話ならやっぱりそこが欲しかった」


やはりにんにくには立場を考えて発言してほしいものだ。


ホウレン「長ったらしい話は苦手か?すまないね。」


ニラ「いや、興味深い話だった。」


ホウレン「それは良かった。……もうこんな時間か。次は魔術の稽古に行くんだろう?急がないと間に合わないぞ。」


にんにく「そうか」


ニラ「じゃ、ホウレンさんまた。」


僕らはそう言って家を出た。


魔術の稽古と言っても、誰かに教わっているわけではない。にんにくの鍛錬をただ眺めるだけだ。


にんにく「よし到着」


いつも魔術の稽古をしている原っぱに着いた。


にんにくは大きな一本の木に的を貼り付けて、魔法の命中精度を高める練習をしようとしている。


的から5歩離れて、的に手を向けて、


にんにく「水!水!」


そう叫ぶとスプーン一杯にも満たないほどの水が勢いよく飛び出して、僕の方に向かってきた。後ろの方にいたのに。


にんにく「ん???不発か?」


ニラ「僕に飛んできた。」


にんにく「マジかごめん」


にんにくの魔法の精度は低いどころの話ではない。


にんにく「水は上手くいかねぇな、次は火といこうか」


ニラ「やめて危ない火事になる」


にんにく「そんときは()で消化すればいいだろうよ」


ニラ「君が魔法を当てようとしているうちに火は大きくなってくよ。」


にんにく「あー 火は水辺でやるか」


ニラ「そういうことじゃないんだけどね…。」


毎日のように同じ話を繰り返して飽きないのだろうか。


にんにく「じゃあ次は草だな、草!草!」


同じように手を的に向けて魔法を放つ。弱々しい茶色の葉っぱが1枚、そよ風に乗ってどこかに飛んで行った。


にんにく「お前の風魔法か?」


ニラ「違うただの風。」


にんにく「そうか そういえばお前ってあんまり魔法の練習しないよな」


ニラ「…魔法は得意じゃない。」


にんにく「んなわけないだろ?結構強いのにもったいない」


にんにくは日が暮れるまで魔術の稽古を続けた。


日が暮れて家に帰る頃、にんにくに質問をしてみた。


ニラ「にんにくって、なんで稽古してるの?将来の夢とか?」


にんにく「あ?将来なんて将来考えりゃいいだろ ただ好きだからやってんだ」


ニラ「…。」


にんにく「じゃあ俺も聞こうか、お前はなんで稽古してんだ?」


ニラ「うん…、分からない…。」


にんにく「まぁどうでもいいけども」


ならなんで聞いたのかと、気になったけれど聞けなかった。


家に入ったら僕の親のアサツキが丁度、玄関にいた。


アサツキ「お、今日はどうだった?」


ニラ「いつも通りだよ。」


アサツキ「私はその“いつも”を知らないのだが。」


僕は手を洗ったあと、自分の部屋に行った。


今日はいつもより少し頭を使ったような、そんな気がする。そのせいか眠たい。よし寝よう。


目覚まし時計を夕食の時間に設定してベッドに入った。重い瞼がゆっくり落ち…



『ジリリリリリリリリジリリリリリリリリ』



部屋中に響く目覚まし音で目が覚めた。


目覚まし時計を止めて、夕食を食べに部屋を出た。


食事をする部屋に入ると、今日も変わらず親のすずらんが作った豪勢で彩り豊かなバランスの良い食事。食べるといつも通りに美味しい。美味しいけどなにか物足りない。


食べ終わってお風呂に入る。お風呂も変わらず花のようないい香りが漂っている。ボディソープやシャンプーは自分の体に合った物をただいつものように使うだけ。


お風呂から上がったら歯を磨いて眠る。


なんともない日が毎日のように続く。なんともないけど楽しい日々。だけどちょっと物足りない日々。


なにか刺激的なことがないかな……



『ジリリリリリリリリジリリリリリリリリ』



部屋中に響く目覚まし音で目が覚めた。だけどまだ眠い。


目覚まし時計を止めて寝よう。


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