可愛い受付嬢と個室で二人きり
冒険者ギルドの中で血の気の多そうな奴らと一触即発の状態だ。
エイドとしては少し不安があった。
巨大なオークやゾンビを倒すことはできても、それが冒険者にも通じるかはわからない。
また、油断せずに全力で戦った場合は相手にケガをさせてしまうだろうし、それを哀れんでヒールで回復してやるというのも素性バレが怖いのでできない。
こうなったら前世で培った技術を使うしかない。
「……土下座」
いつもの土下座で切り抜ける戦略だ。
エイドは恐怖で声が出ないために、ボソッと呟く形となった。
それを聞いた冒険者たちは不気味な言い方だと感じて勘違いした。
「なっ!? オレたちに土下座をしろと!? な、舐めやがって……」
ち、ちがっ――と言おうとしたところで、後ろの壊れたドアからラプンツェルが入ってきた。
「あっ、エイドさん。(言い忘れてたけど)ちゃんと町では私を(元ゾンビじゃなくて)人間扱いしてよ~」
怪しい角付き全身鎧男に付き従う、可憐な少女――と冒険者たちの目には映った。
きっと、無理やり奴隷か何かにさせられているのだろうと。
「あんな可愛い女の子を人権無く強引に付き従わせて、人の心すらもないのか……!?」
「今、助けてやるからな!!」
ラプンツェルは状況がわからず、可愛い女の子と言われたところだけ頭に入ってきてニヨニヨと喜んでいた。
一方、エイドは死ぬほど誤解されてもう後には引けない状況になっていると察した。
ついに戦いが――。
「おぉ、アンタは!!」
というところで、ギルドの奥から妙齢の女性が声をかけてきた。
外見は美しいが、少女ではなく年齢を重ねた魅力を感じる。
一言で表現するならマダムだろうか。
エイドはその女性と知り合いだったので軽く会釈をした。
「いつもお世話になっております」
「やだねぇ、お世話になってるのはこっちだよ。いつも高品質のブツをありがとねぇ」
ヒールをたっぷりかけた農作物は美容に良いらしく、お得意様なのだ。
「ぎ、ギルドマスターのお知り合いで……?」
「ほらほら、エイドさんを困らせるんじゃないよ。散った散った」
ギルドマスターには逆らえないようで、冒険者たちは渋々テーブルに戻っていった。
チラチラと視線を感じ、『あのギルドマスターが敬意を払っている……』『高品質のブツって……』『何者なんだ……アイツ……』『あんま探り入れたら、やぶ蛇で死ぬぅ……』とひそひそ話まで聞こえてくる。
「今日は何の用だい?」
「冒険者になりにきた」
「へぇ~、アンタがねぇ。別のところで冒険者の経験とかある? 使える特技とか、魔術は?」
「冒険者は初めてだ。特技は……木を切ること。魔術は下級……いや、最近中級も少し使えるようになった」
それを聞いていた冒険者たちはゲラゲラと笑った。
「なんでぇ、素人さんかよ!」
「中級魔術覚えたてなら、素人よりはちょっとマシかもな!」
「見た目だけは威圧感あるから勘違いしちまったぜ!」
「ここは危険な依頼も舞い込んでくるからな、簡単なものから選べよ」
馬鹿にするような言葉から、割とマジメなアドバイスまで十人十色である。
百戦錬磨の猛者っぽい誤解が解けたのは良しとしよう。
戦闘経験も浅いヒーラーなので、そんな見られ方をしても困ってしまう。
「それなら完全に新規登録で良さそうだね。えーっと……」
ギルドマスターはカウンターにいる受付嬢をチラリと見た。
「リリィ、この方の冒険者登録をしてやんな! 私のお得意様だからね、丁寧に、そしてなるべくご要望を聞いてやるんだよ!」
「ひゃっ、ひゃい!」
リリィと呼ばれた桃色ポニーテールの受付嬢は、ビクッとしながらも返事をした。
見たところまだ若く、前世的には新人研修でやってくるような女の子の雰囲気だ。
しかし、ラプンツェルよりは年上で、胸も大きく身体的には大人びている。
ギルドの受付嬢の衣装は胸元が開いた可愛い制服となっているのだが、エイドはなるべく胸元を見ないようにして話しかけた。
「こんにちは、頼めるかな」
「は、はい! 新人なので手違いがないように頑張ります!」
「もしかして初めて?」
「そ、そうですが……嫌ですか?」
「いや、俺もこういうの初めてだから、むしろ気軽で助かるよ」
リリィは緊張がほぐれたのか、ホッとした表情になった。
胸をなで下ろし――いや、本当に胸に手をやっていたので、エイドは失礼となってしまうのでそちらを見ないようにした。
ギルドマスターの趣味制服なのか、視線誘導力が高い。
(いや、そもそも全身鎧で視線もヘルメットで見えないか……)
「エイドさん、おっぱい見て鼻の下伸ばしてなかった……?」
ラプンツェルのツッコミにギクッとしてしまった。
それを見たリリィはお淑やかに笑った。
「ふふ、あのギルドマスターが認めた御方が、そんなことしませんよ」
「え~……、そうかなぁ? でも、たしかに私を見てもそんな雰囲気ないし、あんまり女の人に興味がないのかもしれない」
おっぱいの大きいお姉さんと、子供のお前は別だろうとツッコミを入れたくなってしまった。
いや、年齢的にはリリィはお姉さんではないかもしれないが、雰囲気的にそんな感じがするのだ。
主人公が高校二年生のゲームで、高校三年生の女子にお姉さん雰囲気を感じるように。
ヤバい、たとえが気持ち悪かったかもしれない……って、違う、話を本筋に戻そう――と我に返った。
「コホンッ、冒険者登録をしてもらえるかな」
「あっ、はい! では、この水晶球に手をかざしてください。それが神々の加護を借りて、情報として冒険者カードに転写されます」
「了解」
水晶球に手をかざすと、鎧越しにだが温かな雰囲気が伝わって来た。
ヒールを使うときの感触に似ているので、魔力的な何かが作用しているのだろう。
「はい、ご苦労様です。本人の魔力が織り込まれているので証明書としても使うことができます。では、この冒険者カードをお渡し……あれ? 何か職業適性欄がおかしいような?」
ギクッとしてしまった。
まさかここでヒーラーだとバレてしまったのではと焦ってしまう。
「読めませんね……。うーん、初めての操作で何かミスってしまいましたかね……」
「あ、ああ。読めないだけなら気にしない。別に職業適性は気にしてないからな」
「了解です。後日、何か不都合だと思うようなことがあったらご連絡ください」
エイドはホッとした。
百年前から救世主召喚とやらが行われていなかったので、そこらへんによる不具合かもしれない。
さすがにそれくらい昔なら、救世主の前例があっても正確に伝わっているかは怪しいし平気だろう。
これで終わったと思ったのだが――。
「あっ、そうだ。念のためにヘルメットを脱いで顔を見せてもらえますか? 平気だとは思いますが、手配書が出回っているような場合もありますので」
(まずい、さすがに大勢の前で顔を晒せば、巡り巡って死んだはずの救世主だとバレてしまう危険がある。何とかしなければ……)
エイドは数秒考え、以前から用意していた言い訳を使うことにした。
「硫酸を浴びた醜い顔だからあまり見せたくないんだがなぁ。ああ、もちろん守秘義務を守ってくれればリリィさんにだけ見せるのは構わないが」
「はい、では個室で!」
(よし! 一人だけに見せるのならばリスクは最小限になる! さすがにこの新人受付嬢のリリィさんから、王侯貴族たちへ繋がるルートはないだろうし)
そう考えていると、リリィに個室へ案内された――いや、これは個室というより。
「……トイレ?」
「ほ、他に冒険者さんを案内できる個室がなくてですね……。あ、男女共用なのでご心配なく!」
「そ、そういう問題か……?」
受付業務に慣れてないにも程がある。
年下の女性とトイレの個室で二人きり。
とてもとてもとてもとてもとてもコンプラ的にヤバい。
しかも、こちらの鎧が大きいせいでギュウギュウ詰めだ。
鎧なので感触はないが、リリィの大きな胸が押し潰されるようにムニュッと変形している。
(リビ、そこ代われ……!!)
内心叫ぶも、鎧からは呆れたような意思が返ってくるだけだ。
エイドは表情を真顔に戻してからヘルメットを取った。
「あれ? 硫酸の傷痕もないし、思っていたよりもずっと……。あ、失礼しました! 手配書にはないですね!」
「あー、ウソを吐いていてすまない。人種的に目立ちそうな顔だからヘルメットで隠しているんだ」
「そうですよね、ここらへんではあまり見ない顔立ちです。肌もとてもきめ細かくて綺麗です」
「遠い東の国の出身でな。黙っていてくれると助かる」
「はい、ギルドの受付嬢として守秘義務がありますから! ……でも、私は好きですよ、その顔」
「えっ」
こんな密着した状態で可愛い巨乳お姉さんに好きと言われたら勘違いしてしまう。
エイドは頬が緩んでしまった。
「あっ、そ、そういう意味じゃなくてですね……」
リリィも気が付いたのか否定するも、照れくさくなったのか頬を赤らめてしまう。
お互いに目が合ってしまい、顔を逸らす。
その瞬間、ギィッと個室の扉が開いてシラケたような表情のラプンツェルが見えた。
「何か変な雰囲気~……。私のときと全然違う~……」




