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黒髪少女に名前を付けよう

 あれから数日が経ち、わかったことが〝二つ〟ある。


 一つ目は記憶喪失少女のことだ。

 最初のヒールでゾンビから人間に戻ったと思ったが、あの夜にまたゾンビ化して、それをヒールで直した。


 その後もちょいちょい喧嘩をしたり、腹が減ったり、服が泥で汚れてご機嫌斜めになったりとタイミングは様々だがゾンビ化が起き、ヒールで何度か直している。

 面倒くさいので常駐型のリヒールでどうにかなれ、と思ったのだが直接ヒールをかけないとダメらしい。常時一緒にいないといけないので面倒くさい。


 それと小柄だが、意外と身体能力が高いということにも気が付いた。

 本人もあの夜に力が覚醒したのか、使い方を思い出したのかはわからないが、どうやら身体の柔軟性が高く素早く行動できるようだ。

 もしかしたら記憶を失う前はシーフとか、斥候(せっこう)か何かだったのかもしれない。


 二つ目は、エイドの戦闘力の高さだ。

 数ヶ月間、ただひたすらほぼ寝ずに木こりや農作業をして、疲労した筋肉をヒールで叩き起こすという筋トレをしていた。

 たくましくなったという自覚はあったが、まさかあそこまで強くなっているとは思わなかったのだ。

 あれでもまだ全力を出していないし、ヒーラーとしての能力と組み合わせればアイディア次第でさらに戦える気がする。

 冒険者をして、どこまでやれるのか試してみたくてワクワクしているところだ。


「ん?」


 そんなとき、エイドは肩をポンポンと叩かれたのに気が付いた。

 リビングで椅子に座って考えごとをしていて、周囲の気配に気付かなかったらしい。

 目の前には蒼い宝石のような眼。

 覗き込むように顔を近づけてきている、長い黒髪の少女がいた。


「お前か。なんだ、どうした?」

「乾いた洗濯物って、どこにしまえば良いの?」

「あー……どこだったっけな……。リビが全部やってくれてるからな……」

「うわ、リビさん大変そう~……」

「えーと、たしかそこのタンスだった気がする」


 エイドが部屋の隅にあるタンスを指差すと、少女は長い黒髪をなびかせ、風のような素早さで外と室内を往復して一瞬で家事を終えてしまった。

 別に家事をやれとは言ってないのだが、自主的に何か手伝いたいということらしい。


「ふぅ」

「おー、見事。きっとリビも喜ぶな」

「リビさんの言葉、エイドさんしかわからないからねぇ……」


 エイドは少女との話も若干上の空で、別の事を考えていた。

 もし冒険者になるとしたら、少女も一緒に連れていかなければならなくなる。

 というのも、エイドから離れてしまったらゾンビに戻ったときに対処できなくなるからだ。


 そうなると、少女が冒険者をするのが嫌だとなったら面倒なことになる。

 強引にエイド一人だけで冒険者をしてしまうと、リビに呆れられて実家に帰られてしまうだろう。


 ということで、スムーズに少女を冒険者に誘って、納得してもらわなければならない。

 ついでに恩着せがましくして、良い感じに立場を分からせておくと今後が楽になりそうだ。

 これは〝少女のためなんだ!〟というのを口八丁、手八丁で何とかしよう。


「えーっと、お前に大事な話がある」

「え、なに? そんなに改まって……告白とかはちょっと……」

「それはお前が巨乳のセクシーお姉さんになってからな。どう考えても無理そうだが」

「年下の女の子に向かって、そんなことを言うエイドさんも色々と無理そうでしょ」

「……ぐはっ」


(ヒール……ッ! ダメだ……メンタルはヒールできない)


 正論を言われて瀕死になりそうだが、何とか本題に入る。


「お前、記憶を失う前の自分のことを知りたくないか?」

「急にマジメな話……」

「いいから答えろ」


 少女は少し考えたあと、純粋すぎる蒼い眼で真っ直ぐ見つめてきた。


「知りたい……!」

「それなら冒険者になるのが一番だ。その身のこなしや、ゾンビになるという特殊な状況は普通じゃないからな。冒険者の方が手がかりを集められるだろう」

「たしかに……。でも、今のままで私が冒険者になってもゾンビに戻って誰かを襲っちゃうかもしれないし……」

「安心しろ、俺が付いて行ってやる」

「えっ、良いの……?」

「ああ、大人の役目だからな」


 少女の表情はパァッと明るくなり、その小さな身体で抱きついてきた。。


「私、エイドさんのこと誤解してた!! 大好き!!」


 エイドは内心ほくそ笑む。

 これでダメ人間と見下されることもないだろう。

 計画通りだ。


「ククク、そうだろ。そうだろ。存分に敬い、崇めろ」

「な、何かまた顔が少し気持ち悪い……邪悪さが……」


 少女はズザザと離れて後ずさってしまった。

 そこで物陰からそっと覗き続けていたであろうリビに気が付いた。

 たぶん『素直に助けると恥ずかしいから回りくどいことをしてる』と言いたげだ。


「うるせー!!」

「うわ、エイドさん……情緒不安定……」

「すぐゾンビになるお前には言われたくない!」

「またノンデリに戻った!! というかお前お前って、すっごく失礼だと思う!! ちゃんと名前で呼ばないと!」

「いや、名前がないだろ」

「あっ、たしかに? 私、名前がないか。……じゃあ、エイドさんが名付け親になってよ」


 軽い感じで、最大級の重い役目を押しつけられた気がする。

 ペットの名前ならともかく、人間の名前を付けろというのだ。

 親になったことのある奴ならともかく、童貞には大変すぎるだろうと思ってしまう。


「うーん……ゾン子」

「ひっど」


 どうやら自動的に日本語が翻訳されて、ちゃんとそれっぽい異世界の言葉に置き換わっているらしい。


「ジェーン・ドゥ」

「安易」


 英語でもダメらしい。

 ちなみにこれは名無し子さん的な意味だ。

 どうやらもう少しちゃんと考えなければならないようだ。


「……身体的特徴から付けるのが妥当か? そうなると長い髪の女性……ラプンツェルとかどうだ?」

「さっきまでと違ってすごくまともそうな響き……気に入ったけど、何か由来があるの?」

「俺が住んでいた世界(ところ)の童話で、長い金髪を器用に使う女性の話があって、その名前がラプンツェル。……って、黒髪と金髪じゃ違うか」

「うん、何かそれでも良い気がしてきた! 今日、いま、この瞬間から私はラプンツェルで!」


 別の名前を考えようと思ったが、黒髪の少女――いや、ラプンツェルが嬉しそうなので、この名前になった。

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