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いつの間にかメチャクチャ強くなっていました

 少女はまだ未成熟な身体を丁寧に洗い、その本来の白魚のような瑞々しい肌を見せた。

 華奢で胸も慎ましやかだが、まだ大人とはいえない年齢なので秘めた神秘性を感じさせる。

 この世界の個人宅レベルでは珍しい湯船に浸かると、心地よさに思わず身体を震わせ声を漏らしてしまう。

 透明な湯が少女の肢体を揺らめかせ――。


「とか普段なら考えていたかもしれないが、元ゾンビ女相手では無理だ」


 エイドは、少女が風呂から出てくるのを待っている間、リビングでリビと一緒に椅子に座っていた。

 先ほどまでの風呂シーンは実際のことでは無く、ただの暇つぶし妄想だ。

 リビはやれやれという仕草をしてきた。


「なんだよ、リビ。それだったら俺があの子をエロい目で見て襲った方がいいとでもいうのか? 逆にゾンビとして襲われたんだぞ、エロい意味じゃなくて殺されそうな感じで」


 ビシッとリビが指差してきた。

 どうやら『どうでもいいから早く恋人でも作れよ!』ということらしい。

 さすがにそう言われると魔法使いになれそうなレベルの童貞だったエイドは、逆張りで言い返してしまう。


「はっ!? あんな元ゾンビを女として見られるはずねーだろ! 俺にだって選ぶ権利はある!」


 というところで背後から物音が聞こえた。

 振り返ると、湯上がりで見違えるように美しくなった少女がいた。

 やたらと可愛い服を着ている。

 たぶんリビが用意していたものだろう。


「あっ」

「……ごめん。お風呂ありがとう」


 エイドは口をパクパクさせていると、少女は濡れた髪のまま涙目で家から出て行ってしまった。

 しばらく沈黙のあとエイドは、リビに頭を軽くチョップされた。


「……さすがに俺がノンデリすぎたな」


 あまりに人と接していなかった時間が長かったためか、もう少し気を付ければよかったと後悔してしまう。

 そんなメンタルブレイクを起こしているエイドに対して、リビは強制的に装着してきた。

 ようするにエイドはフルアーマー状態になった。

 そして、脚が勝手に動く。


「わかった、わかったって。あの子を追いかけるよ。夜道は危ないもんな」




 ***




 自らの名前すらわからない長い黒髪の少女は、暗い山道を歩く。

 月の光さえ木々に遮られ、葉が擦れるような微かな音でさえ恐ろしい魔女の声にでも聞こえてきそうだ。

 小さな身体をさらに縮こまらせながら、少女は酷く後悔していた。


「なんで出てきちゃったんだろう……」


 記憶が無くても、夜の山道が危険だということくらいは理解している。

 それに元ゾンビだった少女が避けられるのは当然だ。

 気持ち悪いというのも普通である。

 その場で殺さずに、風呂と着替えも用意してくれたという優しさも忘れて、つい飛び出してきてしまったのだ。


「わがままだ、自分勝手だ。バカ……私のバカ……」


 少女は自分の年齢すらよくわからないが、きっとバカをやったあとにしか自分のことを冷静に見られない年頃なんだなと思った。

 まだ大人に憧れる子供だ。


 今からでも引き返して、朝になるまで休ませてもらうという判断が最適だろう。

 謝ればきっと許してくれる、子供のしたことだろうと言ってくれるだろう。

 でも、それでいいのだろうか?


 迷惑をかけてしまう、怖い。

 葛藤をしながらも、一度した行動を止めるという決断ができなくて脚は森の奥へと進んでしまう。


「もうどうなってもいいや……」


 思考を放棄して、流れに身を任せることにした。

 次の瞬間、後ろからガサッと物音がした。

 あのエイドという男の人か、優しいリビングアーマーさんが追いかけてきてくれたんだと思って、笑顔で振り向くと――。


「ひっ」


 そこには男のゾンビがいた。

 さらにズシンズシンと足音を響かせてやってきたのは巨大なオークだ。

 記憶が無くても、さすがに常識範囲内にあるモンスターの恐ろしさくらいは覚えている。


 少女はガタガタと震え、蒼い眼を恐怖で見開き、顔を青ざめさせてしまう。

 危険な場所に立ち入ったのだからこうなる可能性があるというのはわかっていたが、実際にそれを目にしてしまうと後悔しか出てこない。


「は、はは……後悔の連続だよ……」


 迫るモンスター、迫る死。

 腰が抜けてしまって、ペタンと尻餅を付いて逃げ出すこともできない。

 本当なら走馬灯が流れるのだろうが、あいにくと少女には記憶が無い。

 後悔するようなことといえば――。


「あ……服を借りてきたままだった……。ちゃんと返したかったな……」

「それはお客様用として買っておいた服だ。だから気にするな――ヒール!」


 目の前で大口を開けて迫っていた男のゾンビが光に包まれ、灰となって崩れ落ちた。

 その先に見えたのは背の高い全身甲冑だった。


「リビさん!? ……でも、エイドさんの声が?」

「中に入っているのは俺だからな!」

「えっ、それにゾンビを一撃で……ヒールって……!?」

「いや、だから最初に言っただろう。ゾンビのお前をヒールしたら元に戻ったって。……でも、このゾンビは元に戻らないな。腐りたてだったのか、お前?」

「なっ!? 女の子に向かってその言い方――!」


 全身甲冑の手が動き、エイドの頭部を殴った。


「あたっ、リビやめろ。わかった、俺が悪かった。家での発言も謝る。だから戻ってこい」


 少女は、エイドは悪気は無かったということは最初からわかっていた。


「もうゾンビ扱いしない?」

「ああ、しないしない」

「もう子供扱いしない?」

「いや、それは、うーん……」


 まだ巨大なオークもいるというのに、エイドはそちらに気が付いていないのか緊張感のないポーズで顎に手を当て悩んでいた。

 巨大なオークは持っていた丸太のような棍棒で、エイドを上から叩きつぶそうとしていた。


「エイドさん、危ない!!」


 少女はとっさにエイドに向かって跳びかかり、タックルのような形でぶち当たって強制移動させて棍棒の一撃を回避させた。


「うおっ!?」

「えっ、何これ。私って実はすごい?」

「お、お前の方がオークより危ない気もするぞ……」


 倒れながら密着する二人。

 エイドはある意味、再び押し倒された形となって呆れながらも立ち上がった。


「エイドさん、早く逃げようよ。たぶん私でもあんな巨大なオークには勝てないよ!」

「そうだなー。俺のヒールもアンデッドじゃないから効かないだろうしなぁ」

「ほら、のんびりしてないで早く!!」

「でも、俺の家の近くにいられても迷惑だからな。普通の動物ならまだしも、モンスターは殺意増し増しすぎるんだよ」


 巨大なオークはエイドに対して吠え、丸太のように太い棍棒を振り上げてきた。


「危ない!?」

「しょうがない、丸太は斬り飽きたんだけどな」


 エイドはリビの腕部分を剣に変化させた。

 一閃。

 洗練された最小最速の動作は美しい。

 丸太のように太い棍棒は綺麗に切断され、ヒュンヒュンと宙を舞って地面に激突した。


「す、すごい……」


 巨大なオークは、自分よりも遙かに小さい人間に対して驚き、後ずさり始めた。

 エイドは剣をしまい、拳を握って構えた。

 一年間も無茶な方法で鍛え上げられた筋肉が圧縮、解放されて唸りを上げる。


「すまんが、向こうの山に行ってくれ」


 ヒーラーとは真逆の〝死〟という概念。

 それはただの〝正拳突き〟だった。

 ヒュボッという音速の壁を突破した空気の衝撃が響き、大型車が事故でも起こしたかのような激突音が轟いた。

 巨大なオークは腹部分を冗談のような凹まされ方をして、一つ向こうの山まで飛んで行き、激突してクレーターを作っていた。

 少し遅れてクレーターの破砕音が響いてきたのは、空気が音を伝わる速度的なものだろう。


「ふっ、俺のヒールでも地獄行きは治せないぜ」

「……あ、あの……すごいけど、そのセリフはなに?」

「これか? これはな、いつか冒険者になったら言おうと思ってずっと考えていたセリフだ」

「だっっっっっさ。……あっ」


 少女はつい当たり前の感想を口走ってしまい、気まずくて手で口を押さえていた。

 再び夜の山に静寂が戻り、しばらく無言の間があった。


「……このゾンビ女!! 一生懸命考えたんだぞ!!」

「あー!! またゾンビ扱いした!! この人でなし!! ……うっ、何か気分が悪く」


 少女の顔色が悪くなり、白目を剥いてエイドに襲いかかってきた。


「またゾンビになりやがった!! ヒール!!」

「はっ!? 何かお花畑が見えていたよ……」

「やっぱりゾンビ女じゃねーか!!」

「女の子にそういうことを言うのってサイテー!! 絶対にモテない、エイドモテない!!」

「きっとモテますぅー! 俺だって冒険者とかやればセクシーなお姉さんにモテモテ間違いなしですぅー!!」


 その同レベルでしか発生しないようなやり取りを見て、リビは分離して呆れた感じで『やれやれ』という仕草をするのであった。

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