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元ゾンビの女の子を縛った結果

 エイドは危機が去って少し冷静になった。

 ランプで灯りを付けてみると、倒れている元ゾンビ女はかなり可憐な女の子だ。


「か、かわいい……」


 思わず一言目にそう呟いてしまうくらいに。

 元のゾンビイメージもあって黒髪ロングは、前髪がピョコンとクロスしていて幸薄そうに見えるが、同時に儚さや守ってあげたくなるような感じもある。


 年齢は十代中盤だろうか。

 華奢で小柄な身体ながらも、女性特有の丸みもある。

 目鼻立ちはかなり整っていて、前世なら千年に一人とか、一万年に一人の美少女と持てはやされるだろう。


 そして、一番ヤバいのが服装だ。

 ゾンビ特有の面積少ないボロ布がそのままだ。

 下着もない。

 つまり、とても口に出して言いにくい格好となっている。

 つい本能的にゴクリと生唾を飲んでしまうのだが、同時に疑問があった。


「いや、ゾンビが人に戻ったことなんて今までなかったぞ……。これは消滅せずに死体に戻っただけ……ではないよな。息をしているし。……となると、ヒールで血色が良くなっただけのゾンビかもしれない……」


 その仮定が当たっているのなら大問題だ。

 すぐにロープを使って、美少女を椅子にくくり付けて拘束した。

 口から毒液を吐いてくるゾンビがいるかもしれないので、猿ぐつわも噛ませる。

 ついでに目から凝縮した体液ビームを出してくるかもしれないので、目隠しもした。


「ふぅ、達成感」


 爽やかな汗を拭ったあと、少女の格好を見て少しだけ冷静になった。

 布面積が極端に少ない状態の黒髪ロング美少女が、男の部屋の椅子に手足を縛られて固定され、目隠しと猿ぐつわを噛まされているのだ。


 年齢制限ありの薄い本でもあまり見ないレベルのものとなっている。

 リビに見られたら絶対に不味いと思った瞬間――ドアの隙間からそっと覗くリビの視線を感じた。

 終わった。人間としての威厳終わった。


「思わぬ状況に横転っと……」


 テキトーに流行っていたネット構文を使い、ベッドに入って寝直そうとしたのだった。

 リビが『現実逃避するな、説明しろ』と言ってきていそうな感じだったが、ヒールによって身体は鍛えてもメンタルは鍛えていないのだ。

 現実逃避くらいする。


「ん~!? んぅ~っ!!」


 ゾンビかもしれない美少女が目を覚まして呻きだしたが、もう何もかも放り出して寝ていたい。

 一分間くらいそのまま横になっていたが、リビがずっと見てきていたので仕方なく行動することにした。

 まずはゾンビかどうか確かめたい。

 直接肌に触れるのも何か怖いので、そこらへんにあった金属のペン裏でプニプニのほっぺたを軽く突いてみた。


「んん~~ッ!?」


 ゾンビかもしれない美少女はビクッと反応したので、どうやら肌感覚はあるようだ。

 警戒しつつも猿ぐつわだけ解いてやることにした。


「こ、殺さないで!! 何でもするから!! お願いだから殺さないで!!」


 何かメチャクチャ人聞きの悪いことを言われている。

 少女は口から涎が出てしまうほど叫び、必死さが伝わってくる。

 一年前にもこんな天丼があった気がする。

 リビが何か言いたそうに見ているので、何とか誤解を解かないといけない。


「お前を癒やしてやっただけだぞ」

「男の声!? 私を拘束して、ナイフでつついて、しかも癒やしてって……何かの怪しい宗教なの!?」

「ちょ、ちょっと待て。人聞きが悪すぎる! 誤解している! ナイフじゃなくて、ペンの裏で突っついてみただけだ! 癒やしたっていうのはヒールで……!! あっ」


 ついヒールのことを喋ってしまった。


「……消すしかないか?」

「いやああああああああ!? やっぱり殺す気なんだああああああ!!」

「さすがに殺すのはなぁ……。だから頭を強打して都合良く記憶を……いや、これも前世のコンプラ的に成人男性が少女の頭部をぶん殴るとかヤバい気がする……」

「前世とかやっぱり怪しい宗教なんだあああああ、もう嫌だあああああ!!」


 年端もいかない少女が半裸で身体を揺らし、ギャンギャン泣き叫んでいる。

 リビがこれまでにないくらいドン引きしている。

 このままリビに実家に帰られてしまっては生きていけない。


「お、落ち着け。今、目隠しを取るから!!」


 少女の目隠しを外してやると、すぐに鏡を見せてやった。

 すると宝石のような碧眼を大きく見開いて驚いていた。


「な、なにこの格好……」

「お前はゾンビとして家に迷い込んできて、寝ている俺を襲ってきたんだ」

「えっ、ゾンビ!? ……でも、今は人間に……どうして……」

「ヒールしたら不思議と人間に戻った。普通は消滅するんだけどなぁ……。いや、そもそもスモール・サンクチュアリを周囲に張っていたのにどうして――あっ」


 というところでリビの姿を見て思いだした。

 リビが作っていたシチューの良い匂いに釣られて、スモール・サンクチュアリを張り直すのを忘れていたのだ。

 それを察したのか、情けないと言わんばかりにリビは部屋から出ていってしまった。


「ああ、待て。実家に帰らないでくれリビぃぃぃい!!」

「……リビ? あなたの他に誰かいるの? 奥さん? 椅子に縛り付けられて動けないから、そっちが見えないんだけど……」

「同居人が一人な……。って、こっちも放っておけないか。一応確認するが、俺を見て食べたいとか思わないよな?」

「たっ、食べ!? それ異性にする質問……!?」

「俺の鍛えられた身体はそれなりに可食部がありそうだからな」

「あ……そっち!? う、うん。今はお肉の気分じゃなくて、パンとかチーズが食べたい」

「それじゃあ、縄を解くけど暴れるなよ? ゾンビっぽい行動をしたら反撃をさせてもらう」


 その前に、念のためリヒールを自分にかけておく。

 これはヒールほどの回復力はないが、ダメージがあった場合勝手に回復してくれるという常駐型の魔術だ。

 ノーダメ状態ならかなり効果が続いてくれて、便利な中級魔術だ。


 それから警戒しながらも縄を解いてやった。

 かなり身体に食い込んでいたようで、少し赤くなっている。

 若干の罪悪感を覚えるが、もしゾンビだったらと思うとこれでも優しいくらいだ。


「いたた……」

「本来なら、アンデッド相手に手足を切り落とすくらいしそうだけどな。それでキミ、名前は?」

「あー…………」


 少女はしばらく蒼い眼を細め、考えるような仕草をした。

 ピョコピョコとクロスした長い前髪が揺れている。


「覚えてない」

「ん? 住んでいた場所は? ご両親は?」

「ごめん……何も覚えてないみたい……」

「記憶喪失か。ゾンビになったせいで頭が腐ったか?」

「あ、言い方がひどい!! 傷付く!!」

「仕方がないだろ、ゾンビだったんだし……」

「えーっと、実はあなたがゾンビだったと言い張っているだけってことはない?」

「ゾンビだったという証拠はあるぞ」

「え、なになに?」


 少女が近付いてきたが、エイドは後ずさって距離を取ってしまう。


「あ、女の子がこんな、はしたない格好じゃ近付きにくいよね!」

「臭い」

「……え?」

「ゾンビだったから、お前めっちゃ臭いぞ」


 少女は羞恥心で顔を真っ赤にしたあと、自分の体臭を嗅いでみてから、両手で顔を覆いながら大泣きしてしまった。

 蒼い瞳から、あめ玉くらい大きな涙がボロボロと溢れてきているのが見える。


「うわああああああああああああああん!!」

「事実陳列罪の罪悪感がすごい……」


 そこへリビが再び部屋にやってきた。


「い、家の中に甲冑姿の騎士さん……?」

「いや、リビングアーマーのリビ」

「リビングアーマー!?」

「どうやら、風呂の準備をしていてくれていたらしい。落ち着くから入れってさ。食事も風呂上がりに用意しておくみたいだな」


 リビは手にバスタオルと着替えを持っていた。


「なんて気遣いができる人……いや、鎧なの……素敵……」

「スパダリってこういう奴を言うのかもしれんな……。男なのか女なのか、鎧だしわからんが……」

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