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動く鎧とスローライフ開始

 あれからフォルティの言う方角に進むと大きな街があり、そこから馬車に乗ってさらに遠くへ移動した。

 大きな街に住むのも快適そうだが、ヒーラーとして色々と試してみたいので小さな町の外れにある山に住むことにした。

 ここなら色々と試しても目立たないし、何か必要なら町まで買いに行ける距離だ。


「土地の所有者とかもいないらしいし、こっちの異世界は緩やかで優しい世界なのかもな」


 針葉樹の森で、今のところ気候も問題無さそうだ。


「ここをキャンプ地とする!」


 そうなると必要になるのは家だ。

 食料と日用品などはある程度町で買ってきたのだが、寝るところはそうもいかない。

 日が落ちるまでに簡単な丸太小屋でも作りたいところだ。


「とりあえず、木でも切るか。……と思ったけど斧が無いな」


 現代人の感覚なので斧や剣などの刃物は持ち歩かない。

 また町まで行って買ってくるか……と思ったところ、ガシャンガシャンと足音を立てて生きてる鎧がやってきた。

 中に誰もいなくても、単体で行動するすごい奴だ。


「ん? どうした、リビ?」


 ちなみにリビとは、リビングアーマー――動く鎧から付けた名前だ。

 意思疎通は結構できる。


「これを斧代わりにしろと?」


 リビは頭部を外して、ニュッと刃物のような形に変形させた。

 頭部分は結構デリケートな気もするのだが、人間と鎧の種族感覚の違いかもしれない。


「サンキュー」


 アルミのような軽さの斧モドキを受け取り、木こりの真似事をやってみた。

 あまり力を入れなくても、太い木がスパッと斬れてしまって恐ろしい。

 もし刃こぼれをしてもヒールで直せるし、かなり優秀な気がする。


「リビ、お前すげぇな」


 それを聞いたリビは、頭部の無い状態で『いや~、それほどでも』というような照れる仕草をしてきた。

 それなりにカワイイような気もするが、ゴツい鎧だ。

 これをカワイイと思ってはかなりの特殊性癖になってしまうとも言える。

 いや、でも形を変えられるのならおっぱいアーマーだったり、ビキニアーマーという手もあるか? でも鎧単体か……。と無駄なことを考えながら木こりをしていく。


「おっと、遠くまで切りすぎると行き来が面倒だな」


 そこで木にヒールを使ってみた。

 生きてる鎧を復活させることができるのなら、切った木くらい元に戻ると思ったのだ。

 結果は、本当に木がにょきにょき切り株から生えてきた。


「これは一本を切ってヒールで復活させるというのを繰り返せば楽だな。丁度、ヒールが何回くらい使えるか試したかったし」


 切ってヒールで生やす、切ってヒールで生やす、切ってヒールで生やす――とひたすら繰り返していく。

 こういう単純作業も嫌いでは無い。

 同じ動作で同じものをというのも夢中に――いや、繰り返していくうちに気が付いた。


「あれ? 段々と木が細くなっていってる?」


 丸太が転がっているので比べられるのだが、最初の丸太から徐々に生える部分が細くなっていってるのだ。


「もしかして、木を回復させるって結局地面の栄養を使っているからか?」


 ヒールが自然治癒を利用したものだとすれば、たしかに栄養などが必要となってくる。

 この木の場合、その栄養は根っこを通じて地面から吸い上げているものだろう。


「それなら地面にヒールしてから、木にヒールか」


 試してみたところ、生えてくる木の太さが元通りになった。


「土壌を回復させるって、地味に凄くないか……」


 魔王がヒーラーを大昔に消滅させた気持ちも少し分かってきた。

 ただでさえ普通に回復というのも強力で、不死特攻もあって、さらに土壌を回復させるということは農耕による食糧問題も解決できてしまうのだ。

 食糧が増えれば人間も増えるし、魔王からしたらヒーラーなんて絶対にぶっ殺したい相手だろう。


「ヒーラーとして目立たなくてよかった……。というか、そうなると偽名が必要になるか? うーん、ケ○ル」


 リビが呆れるような仕草をしてきた。


「ホ○ミ」


 親指を下にされてしまった。

 コイツ、もしかしたら異世界知識でもあるんじゃないのか。


「ファーストエイド」


 親指をグッと上にしてきたのでオッケーらしい。


「じゃあ、今から俺の名前はエイド・ファーストということで」


 ちなみにファーストエイドとは応急処置などのことで、それ以外の意味はない。

 本当にない。

 ないったらない。


 そんなやり取りをしながら、ひたすら木こりをしていたが気が付いた。

 木を切ってもどうやって家を作るのかわからない。

 何となく丸太小屋くらいなら、と思ったが、どうやって丸太で家を作るんだ?

 イメージとしてはわかるけど、具体的にどうするのか。

 ザ・現代人というダメさが出てしまった。


「うーん……」


 その瞬間、ポンと肩を叩かれた。

 リビは肩をすくめて、しょうがねぇなぁという雰囲気を醸し出している。


「ま、まさか、お前……丸太小屋を作れるのか?」


 リビはサムズアップをしてきた。

 器用に手を大工道具に変形させながら木を加工していく。

 そして、瞬く間に丸太小屋を完成させたのであった。


「ふ、ふーん……やるじゃん……」


 人間様が鎧に負けたという事実は受け入れがたい。

 しかも、リビは喋りはしないが『やれやれ、これくらい雑なものなら簡単ですよ。本当はもっと木材を時間かけて乾燥させたり、他の素材も使えばまともな家もできるんですけどね?』と意思が伝わってくる感じがするのは、持ち主になったからだろうか。それとも脳内被害妄想だろうか。

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