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エピローグ 最弱のヒーラーは自由に生きる

 それから村に戻り、吸血鬼は倒したので解決したと全員に告げた。

 そして、遺言通りにアイラの秘密は夫のモリスと、娘のアイリスのみに話した。


「そ、そんな……妻が吸血鬼だったなんて……」

「ママ……そんな酷い人だったの……。村のみんなをゾンビにして……」


 村長の家の中で話しているのだが、ここにいると焼き菓子を作ってくれたアイラの姿を思い出してしまう。

 吸血鬼としては最悪だったが、母親としての彼女は良い人間だった。

 彼女を助けようにも油断すれば一瞬で殺されるほど強かったし、動きを止めたあともリビのヒール欠片はトゥールに使ってしまって手持ちになかった。


「ママ……村の人たちに顔向けできないよ……。どうやって生きて行けばいいの……」


 大人である夫のモリスはともかく、子供であるアイリスは耐えられないようだ。

 自死を選ぶか、そこまでしなくてもまともに村で暮らすことはできないかもしれない。




 エイドは、モリスだけ別の部屋に連れて来て、少し二人だけで話すことにした。


「なぁ……。アイリスは大丈夫だと思うか……?」

「救世主様……。アイリスはとても優しい子です……耐えられるかはわかりません……」

「そうか……。それなら俺が――」


 モリスに考えを話すと、彼は戸惑いながらも肯定してくれた。

 たぶん一人の人間としてはいけないと思っても、父親としてはどうにかしたかったのだろう。

 エイドは、一人で泣いているアイリスに近づき、肩を叩いた。

 こちらを向いたアイリスに対して、愉快そうに喋る。


「ククク……。お前の母親、吸血鬼アイラは良い悲鳴をあげながら死んでいってくれたぞ。いやはや、バケモノを殺すのは楽しかった。娘のお前も、あんなバケモノが死んでくれて嬉しいよなぁ?」

「ママをバケモノって言わないで……救世主様……」

「救世主ぅ? 俺は最初から死神だと言っているだろう。お前のママを殺すために、この村にやってきたのかもしれないな! ママを殺す依頼をしてくれてありがとう、アイリス!」

「ひどい……ひどすぎるよ……。ママは悪くない……」

「ハハハ! 何を甘っちょろいことを言っているのだ。力こそが正義、お前の母親は弱かったから悪なんだ! 悔しいか? 悔しいなら、お前が強くなっていつか俺に復讐しに来い。それでママが正しかったことを証明してみせろ」

「……する。絶対に救世主様――エイドに復讐する……ママが悪いはずないんだ……」

「クハハハハ! この死神、楽しみに待っているぞ! 吸血鬼の娘アイリスよ!」


 エイドは悪役笑いをしながら、その場から立ち去った。




 ちょっと演技しすぎたかなと思うも、子供相手にはこれくらいオーバーな方が伝わりやすい。

 これで復讐心を糧に、アイリスは元気に生きてくれるだろう。

 村長の家の外では、ラプンツェルとトゥールが待っていてくれた。


「エイドさん、また面倒事を増やしてない?」

「ラプンツェル、元ゾンビという面倒事の塊のお前が言うな……」

「それはそうだけどさぁ……。いつか後ろから刺されるよ? 色んな意味で」

「色んな意味ってなんだよ」


 精霊神アンバーから言われた『女難の相』がバリバリに出ていると実感してしまう。

 それでも、モンスターとか野郎に刺されるよりは、女の子に刺された方がかなりマシかもしれない。

 

「はーい、刺したい候補一番のトゥールでーすぅ」


 トゥールは銀髪ミニツインテをピョコピョコ揺らしながら、手を大きく上げてアピールしているが、あんまり相手にしたくない。


「あ、冗談だってばー。そんな顔しないでくださいよぉー」

「いや、よく考えたら、俺はお前に刺されそうな雰囲気があるなーと……」

「よく考えなくても状況的には刺されると思いますよぉ。アタシが村を襲ったと勘違いして、可愛いゾンビ兵士たちを壊滅させて、アタシの頭部を吹き飛ばし、四肢を斬り落として、あげくに心臓に変な物を埋め込んで絶対服従させてるじゃないですかぁ」

「事実陳列罪だぞ」

「うわっ、吸血鬼とは言え女の子になんてことをしてるの……エイドさん……」


 ラプンツェルもドン引きである。

 さすがに多少は悪いとは思っている。

 一応、謝罪はしておいた方が良さそうだ。


「いやー、すまん。悪かったかな~」

「かるっ!? まぁ、この世界では力ある者が正義ですからねぇ。そこは仕方がないので恨んではいませんよ。なので――」


 トゥールは自身のそれなりに大きな左胸をツンツンと指で(つつ)いて見せた。


「ここに埋め込まれた貴方の欠片、取り出してくれませんかぁ?」

「あ~むり」

「えっ!? 無理ぃ!? てか、かるっ!?」

「吸血鬼トゥール・ビヨンド様のご提案の件につきまして、私エイド・ファーストなりに出来る限りの可能性を検討しましたが、諸般の事情を総合的に考慮致しますと、現段階で具体的な対応を進めるのは難しいという結論に至りました。誠に申し訳ございませんが、お力になれず恐縮です。引き続き今後のご発展を心よりお祈り申し上げま――」

「重いけど、長いだけで意味は変わってないですよぉ!? もっと具体的にフツーに理由を話してくださいよぉ!」


 エイドは少しだけ申し訳なさそうに頭をポリポリと掻きながら、要求された通りに理由を話す。


「えーっと、つまりだな。埋め込んだ欠片は解除されないように条件を複数つけたと言ったよな?」

「ええ、話してない条件もあると」

「その中の一つに、誰が取り出そうとしてもヒールが発動してトゥールが吹き飛ぶというのがあるんだ」

「えぇ……」

「打つ手無しってことだな。あ、俺が死んでもそうなるから、お前も俺を刺そうとするなよ?」


 トゥールはショックを受けるかと思ったが、意外にも溜め息一つ吐いただけだった。


「もっと怒り狂うかと思ったが、意外だな」

「別に貴方は、アタシをこれでどうこうしようってわけではないんですよねぇ?」

「まぁな」


 そこへラプンツェルが口を挟んでくる。


「トゥールさんを言いなりにして、エッチなこととかするつもりなんでしょ!! 春画みたいに!!」

「しねぇよ! そんなことをしたらリビに愛想を尽かされて実家に帰られるだろ!! というか、なんで春画だけそんな異世界翻訳で聞こえてくるんだよ……」

「うん、それならよし。話を続けていいよ。二人とも」

「お前は俺の何なんだよ……」


 ラプンツェルってこんなに面倒くさくて理解不能な奴だったか? と疑問に思ったが、トゥールとの会話に戻ることにした。


「とまぁ、俺はトゥールに何もする気はないから、どこへなりとも行くといいぞ。さよなら、バイバイだ」

「う~ん、アタシとしてはご主人様についていこうかと」

「はぁぁっ!? てか、ご主人様ってなんだよ!?」


 トゥールはぷっくりとした艶やかな唇をペロリと舐めてから、背伸びをしてエイドに息がかかりそうな距離で囁く。


「だって、アタシの命を握ってるご主人様だもの。あんなことや、こんなことも嫌がらずに命令を聞いちゃうわよぉ……?」


 天然のASMRのようなゾクッとする美声に、エイドは思わず飛びのいてしまった。


「なっ、なに言ってるんだお前!? 自由にどこかへ行って良いって言ってるだろ!?」

「だからぁ、アタシの自由はご主人様と一緒にいること」

「いやいやいや、変だろ。なんでお前を酷い目に遭わせた俺なんかと一緒にいたいんだよ」

「アタシを酷い目に遭わせたからですよぉ。あんな刺激的な経験初めてだし、すごいワイルドだなってぇ……」

「何言ってるんだこの吸血鬼……ダメ男とかDV彼氏とかが好きなタイプだろ……」

「エイドさん、それ自分へのブーメランだよ」


 ラプンツェルのツッコミが切れ味鋭すぎて刃のブーメランになっている。


「あと理由としては、ご主人様と一緒にいるのが面白そうだなって思いましてぇ」

「俺、フツーにお前の仲間のアンデッドも倒していくと思うぞ……?」

「力こそ正義なので、やられた方は仕方がないかと」

「普段の生活で吸血鬼のお前を庇ったりはしないぞ。もう元ゾンビのコイツで苦労してるからな」

「アタシ、それなりに力がありますので大丈夫ですよぉ。黒猫にも化けられますしぃ」

「おっ、お前にひどいことをするかもしれないぞ? いや、しないけど」

「それはとても楽しそうですねぇ。今度はどんな酷いことをしてくれるのか」

「…………またやべー奴に目を付けられた」

「またって何かな?」


 またラプンツェルが絡んで来たが、面倒くさくなるのでスルーしよう。


「というわけで、このビヨンド家三女――トゥール・ビヨンドをよろしくお願いしますねぇ、ご主人様」

「い、嫌だぁー!! 面倒くせぇー!!」

「断ってもついて行きますよ、責任取ってくださいねぇ?」


 トゥールは腕に抱きついてきたが、リビガードによって感触は感じられない。

 むしろそれで理性が保たれるのでよかったのかもしれない。


「エイドさん、この吸血鬼にヒールして消そうよ」

「あらあら、おチビちゃんはご主人様が取られて寂しいのかなぁ?」


 何やら険悪なムードが漂っている。

 その場の空気を変えるために話題をチェンジしよう。


「そ、そういえばカ・マーセこと、本名カマラードの奴はどこへ行った?」

「いつの間にか消えてたよ。私には前衛のトレーニングメニューとかのメモだけ残してくれてたけど」

「正体がバレたあとも意外と律儀な奴なんだな……」

「あの赤髪の人ぉ、アイラお姉様ともやり合えてたしかなりの実力者よねぇ。一体何者なのかしら?」

「今のところ敵ではなさそうだから、今度会ったら一杯奢って礼を言って、事情でも聞くとするかな」


 カマラードが命を狙ってくる敵だったなら、いくらでも意表を突くチャンスはあったはずだ。

 それにアイラを倒すためにヒールを頼ってきたということは、こちらに利用価値があると思っているタイプだろう。

 下手に敵対もしてこないと想像できる。


「まぁ、ここ数日色々とあったけど一件落着ということだな」




 ***




 気が付いたらラプンツェルは戦火の中にいた。

 燃える街、崩れる城、泣き叫ぶ子供たち、おびただしい数の死体。

 とにかく、ある方向からみんな逃げようとしていたらしい。

 そちらから、やってきた。

 影の悪魔が、吸血鬼アイラが、ゾンビ兵士たちが、もっと凶悪な何かも数え切れないほどいるようだ。

 それらを従え、やってきた――醒めた表情のエイドが。


「エイドさん……なんで……」

「飽きた」

「えっ?」

「この世界にも、お前にも飽きたんだよ」

「でも、だからって……!!」

「飽きたオモチャは壊す。子供でも知ってることだろう? 俺は自由だ」


 エイドは、ラプンツェルの首を片手で掴み、高々と持ち上げた。


「く、苦しい……やめ……」

「お前みたいなゾンビが苦しいはずないだろう」

「私は……ゾンビじゃ……」


 エイドは、ラプンツェルを元からあった血溜まりへと投げつけた。

 血溜まりに映った彼女の姿は、醜いゾンビだった。


「あ、あぁあ……そんな……」

「お前もこの世界に飽きたのなら、これを使って俺を終わらせろ」


 エイドは光り輝く短剣を地面にカランと放り投げてきた。

 ラプンツェルは無言でそれを手に取り、叫びながらエイドの心臓に突き刺した。




 ***




「はっ!? はぁはぁ……夢……?」


 ラプンツェルは脱水症状を起こしそうなくらい汗をかいていた。

 シーツやパジャマにも染み込んでしまっているくらいだ。

 気を落ち着けると、ここはいつもの見知った天井――エイドの家だ。

 どうやらベッドでの最悪の目覚めらしい。

 横を見るとルームメイトのトゥールが心配そうに見ていた。


「随分とうなされていたわよぉ? 大丈夫ぅ?」

「う、うん……平気……たぶん平気……」


 まだ心臓が早鐘を打っているようだ。

 夢のはずなのに、痛みすらリアルに感じられたのだ。

 光り輝くナイフでエイドの心臓を突き刺した感触も手に残っている。


「ね、ねぇ……心臓って刺したら死んじゃうよね……」

「うーん、アタシの場合は運が良ければ死なないですねぇ。あはは」

「は、ははは……」


 強い力を持ちすぎた存在がどうなるか。

 アイラとの会話で、エイドだったらどうなるのかという不安があったのかもしれない。


(それに自分は元ゾンビだし、記憶喪失で以前は何者だったかというのもわからない……)


 いつ見捨てられてもおかしくない。

 そんな気持ちが、リアルな夢を見せてしまったのかもしれない。

 そこへドアのノック音がコンコンと聞こえてきた。


「おーい、起きてるか~? リビの朝飯がもうそろそろ出来るぞ~」


 それはエイドの眠そうな声だった。

 トゥールは元気に返事をして、ドアを開けた。


「はいはいはーい! アタシはエイドの血でいいですよ~!」

「トマトジュースで我慢しとけ。別に血なんて飲まなくても死なねぇんだろ」

「ご主人様の血って、何か浪漫じゃないですかぁ」

「吸血鬼のセンスがわからん……。って、ここで普通ならツッコミを入れるラプンツェルが静かだな。どうした?」


 話題を振られたラプンツェルは、無理をして作り笑顔を見せる。


「べ、別に元気だよ。平気、平気」

「それならいいが……」


 エイドは『ん~……』としばらく考えてから口にする。


「追加報酬も結構入ったし、あとで町に買い物でも行くか?」

「えっ!? 買い物、行きます行きますぅ!」

「トゥールは古城から色々と物を持って来たから、もういらねぇだろ」

「女の子は色々と必要なのですよぉ! ラプンツェルちゃんも一緒に行きましょ」

「あ、あ~……うん」


 トゥールは、不安なラプンツェルが本当は過去の手がかりを探したいんだろうなと察していた。

 それをエイドに言おうとしたが、彼は背を向けてドアから出ていこうとするところだった。

 そこでエイドが立ち止まり、ボソッと呟いた。


「ついでにラプンツェルの過去の手がかりも探せるかもな」


 エイドは返事も聞かず、そのまま早足で去って行った。

 トゥールは、残されてポカンとしているラプンツェルにイタズラな笑みを向けた。


「ふふっ、ご主人様ったら恥ずかしがり屋なんだからぁ。素直にラプンツェルちゃんのために行動するのが恥ずかしくて、買い物のついでってことにしたいみたいですよぉ」

「そ、そんなんじゃないよ……たぶん?」

「あらあらぁ。まんざらでもなさそうなラプンツェルちゃん、可愛い」


 つい頬を赤らめてしまうラプンツェルと、それを指でぷにぷにと(つつ)くトゥール。

 部屋の外からは、しびれを切らしたエイドが大声で呼んでくる。


「料理が冷めるってリビがキレそうになってる!! 早く来い、実家に帰られたらこの家は終わるぞ!!」

「はーい!」


 ラプンツェルは今日も元気に返事をして、きっと楽しいであろう一日が始まった。

これにて、いったん終了です!

賞に出しているので、そちらで良い結果が出たら続きを書くかもしれません。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


そして、新作の投降を始めました!

そちらもよろしくお願い致します!

【タイトル】

『モンスターを鎧にする仕事 ~お前は釣り合わないと婚約破棄されたけど、手先が器用なので服とか鎧を作って自由に暮らしてたら、なぜか国中が俺を探すようになった件~』

https://ncode.syosetu.com/n5346lw/


【あらすじ】

模型雑誌ライターのイストは異世界召喚されてしまった。

どうやらレアな存在らしく、いつの間にかお姫様と婚約させられていたが、スキルも魔力も無いことが判明した途端に手の平返しをされてしまう。

婚約破棄を宣告され、追放されてしまったのだ。

しかし、イストは手先の器用さでモンスター素材から防具を作る楽しさに目覚める。

実はその防具は、この世界では異質なほどに強く、その噂を聞いた国中がイストを探し始めるのだった。


そんなことは気にせず、今日もイストは山奥でマイペースで好き勝手にモンスター防具を作っていく。

今日は少しセクシーな軽鎧? 異形のローブ? 格好良いドレス?

いつの間にか周りの冒険者たちが最強になっていくのだが……?

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【新作です! タイトルを押すと飛べます!】
『モンスターを鎧にする仕事 ~お前は釣り合わないと婚約破棄されたけど、手先が器用なので服とか鎧を作って自由に暮らしてたら、なぜか国中が俺を探すようになった件~』

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