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吸血鬼の三女トゥール・ビヨンド

 新人のエイドのためか、リリィが吸血鬼の急ぎ説明を入れてきた。


「吸血鬼と言えば、ゾンビなどの下級アンデッドと違って上位の存在ですよ……!? 高い身体能力や、再生能力、変身能力、配下を増やす力もあって、いわゆるアンデッドの貴族のようなものです……! それがどうしてここに!?」


 突然現れた吸血鬼少女を前にして、一同は対応に困っていた。

 敵対種族ではあるが、先ほどのやり取りからして不思議と敵意を感じないのだ。


「よし、このカ・マーセ様が手柄を立てるチャンスだぜ!」

「止めろ、カ・マーセ!」


 カ・マーセは酒を飲んで酔っているのか、千鳥足で短剣を持ってトゥールを斬りつけようとした。

 しかし、トゥールはその場で消え――否、黒猫に変身して華麗に躱し、カ・マーセの背後を取った。

 少女の姿に戻ったトゥールは、カ・マーセの耳元で囁く。


「おザァコ、アタシが其方たちを殺す気なら最初からやってるんですよぉ?」

「うおぉ!?」


 カ・マーセは驚いたのと、酔いでコケてしまった。

 トゥールの手にはいつの間にかカ・マーセのナイフが握られており、その金属を容易く砕く。


「だから止めろと……カ・マーセ先輩……。トゥールの言うとおり奇襲せずに名乗ってきて、しかも最初から最後まで殺気がない」

「あらぁ、エイド。おザコ人間でも、やっぱり其方はひと味もふた味も違いますねぇ」

「目的はなんだ?」


 トゥールは、ペロリと自らの艶やかな唇を舐めた。


「エイド、其方とキスして、アタシのモノにすることですよぉ」

「俺はそんな価値の無い男だと先に言っておく」

「ふふ、この村を救ったときの姿を見ていましたよぉ? あんなに強い剣士が謙遜をしないでくださいまし」


 トゥールは小さく『それに性格も好きですし』と呟いたが、虫の鳴くような声で他者には聞こえなかった。

 一方、エイドは深刻に物事を考えていた。


(村のゾンビを倒していたときを見られていた……? あのときはヒーラーとしての力を見せていないから平気か……? だが、村長を回復するときの芝居を見られていて、そこで何か感付かれたら不味いな……。ヒールで消滅させて口封じすべきか? いや、もしかしたら古城に情報共有した仲間がいるかもしれん。下手にここで倒してしまって、そいつらに逃げられてしまった方が面倒か……)


 杞憂なのだが、割と必死だった。


「あらぁ、そんなに悩んでいる顔をしちゃってぇ……。おザコ人間にも事情がありますでしょうし、一日だけ時間を差し上げましょう。素直に古城へ来るのなら良いですが、そうでないのなら――わかりますよねぇ? おザコ人間のよわよわ頭でも」

「な、なんてこと……素直に従わないと、きっとまた村を……」

「おおおおおお落ち着けリリィ」

「カ・マーセさんが一番落ち着いてないじゃないですか……!?」


 ラプンツェル、カ・マーセ、リリィは気が動転しているのか、トゥールの交渉条件のことで考えているらしい。

 だが、エイドは『明日、古城に行って全員まとめてヒールで消滅させるか』と脳内で決定を下していた。


「わかった、トゥール。一日考えさせてくれ」

「それじゃあ、待ってますよぉ。アタシのエイド」


 トゥールは投げキッスをして、長い銀髪をフワリとなびかせながら去って行ってしまった。




 ***




 宴が終わった次の日、エイドは一人で古城へ向かうことにした。

 場所は事前にリリィから教えてもらっている。


「さてと、出発するか」


 祭りの後の静けさと言うが、早朝の村も人があまりいない。

 普段なら朝早く働いている者も多いが、踊り疲れたり、飲み過ぎたりしたのだろう。

 密かに一人で出発するのには丁度良い。


「おいおい、救世主様よぉ。一人で格好付けて犠牲になりに行くのは、この先輩が許さねぇぜ!」

「げっ、なんでいるんだよ」


 酒を飲んで寝ているであろうカ・マーセが村から追いかけてきたのだ。


「縛られてた後輩を見つけたら、お前が一人で行ってしまうと大騒ぎしていてな」

「置いてきぼりは許さない、エイドさん……!」


 マジ怒りしているラプンツェルもついてきていた。

 どうやってもついてきそうだし、置いていくと万が一ゾンビ化したとき面倒なので部屋に縛り付けておいたのだ。


「まぁ、おこちゃま後輩は置いてった方がいいかもしれなかったが、先輩のオレ様は頼ってもいいんだぜ!」

「おこちゃま言うな……うぅぅ……ガウゥ!!」

「ギャー!?」


 現に今も怒りで我を忘れたのがトリガーとなったのか、カ・マーセに噛み付いているゾンビ化ラプンツェル。

 密かにヒールをかけて元に戻してやった。

 先が思いやられ、ため息が出てしまう。


「はぁ……。俺は別に犠牲になりに行くわけじゃないぞ。一人で何とかしに行くだけだ」

「私とカ・マーセさん二人がいた方が何かと良いって!!」

「うーん、そうかぁ? そうかも……かなぁ?」


 たしかに正面から戦うと噛ませだが、斥候としてのカ・マーセはそれなりに役に立つ気がする。

 ラプンツェルも回避だけに集中するのなら、あの影の悪魔相手に持ちこたえたくらいだ。

 それにこの状況でカ・マーセを追い返しても、色々と話が広がってややこしくなる可能性もある。

 エイドは仕方ないという感じで、ラプンツェルに耳打ちをした。


「ヒーラーだとバレたら面倒だから、そのときはカ・マーセを引き剥がすか、うまく誤魔化すかしてくれ……」

「オッケー……!」


 そんなわけで、少し変な三人PTが結成されたのであった。

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