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救世主のための宴と見知らぬ少女

 エイドはゆるキャラ精霊と一緒に、果物の樹木がある部屋まで戻ってきた。

 すでに居残り組が必要な分の収穫を終えていて、待ってくれていたようだ。


「おい、エイド。壁の向こう側で何をやってたんだよ?」

「カ・マーセ、壁の向こう側って何を……」

「透明な壁があって、そっちに行けなかったんだよ。それで先にラプンツェルだけ戻ってきて、話はエイドに聞けってさ」


 どうやら情報の取捨選択が難しいらしく、エイドに丸投げにしたらしい。

 ヒーラーということをバレずにどう説明するか、結構悩むところである。


「あー……。精霊からしたら全身鎧が不審だから、素顔を見せてほしいということだったらしい」

「何でオレ様たちが通れず、嬢ちゃんだけが通れたんだよ?」

「俺の身内っぽかったから一緒に通しただけかもしれないな」

「なるほど」


 とっさに吐いたウソだったが、エイドは自分自身でも少し不思議なことがあった。

 琥珀の大樹をヒールしてほしかっただけならエイドのみで平気だろう。

 影の悪魔を倒すための戦力なら、カ・マーセも結界を通した方がいい。

 なぜ、ラプンツェルだけ通した?


 もしかして、戦いの結果を未来予知でもしていたとでもいうのだろうか。

 精霊に視線を送るも、オレンジ色のゆるキャラめいたそれは相変わらず何も言わない。

 精霊神と違って人と喋れないのか、喋ること自体に興味がなさそうだ。


「ったく、収穫をさぼりやがって!」

「そうだな、すまない。ありがとう、みんな」


 死にかけていたり、精霊神からチート魔法をもらったりとか言えないから素直に感謝をしておく。

 収穫作業をやってもらったのは確かなのだから。


「おう、分かればよろしい! 先輩に頼りたまえ!」


 そのあとは村へ戻ることになったのだが、エイドは洞窟の出口からの帰り際、ふと振り返った。

 そこには穴は無く、ただの石壁があった。

 小石を投げてみても、透過はしない。

 やはり幻影などの子供騙しではなく、精霊神が魔法で世界の〝法〟を改ざんするようなことをして、空間自体を操作しているのかもしれない。

 一つだけとは言え、その魔法を魂に刻みつけられるという恐ろしいことをされたなと、しみじみ思うのであった。


「何やってるんだぜ、後輩!」

「ああ、今行く」




 ***




 そして、村では宴が始まっていた。

 建築で出た端材などを使ってキャンプファイヤーのような大きな焚き火をして、その周りで踊ったり、演奏したり、歌ったり、食事をしたりと村人たちが楽しんでいる。

 その中でエイドはお酌をしていた。


「ささ、カ・マーセ先輩どうぞ!」

「うはははは! このオレ様にどんどん酒を持ってこーい!」


 その横でラプンツェルは呆れた表情で、山盛りの料理皿を抱えていた。

 焼き、煮物、蒸しと料理方法も様々で、素材も肉、野菜、果物と豊富だ。


「エイドさんが救世主で宴の主役だし、先輩さんは何もしてないでしょ~」

「そ、それはだな……収穫をしたぜ!」

「はいはい。まぁ、冒険者としての教えは役に立ったし、いっか。あ、精霊の洞窟で収穫したナブゥって果物、甘くておいしい! エイドさんも食べてみ、ほら、あーん」


 ラプンツェルが差し出してきたので、仕方なくヘルメットをズラして口に入れてみる。

 フォルム的にはボーリング玉サイズのミカンで、中身もそんな感じだ。

 それをシンプルに一口大カットにしてある。

 味はと言うと、柑橘系特有の甘酸っぱさがありつつも、濃厚でジューシーな蜜も楽しめる逸品だ。


「美味い」

「でしょでしょ!」


 あと単純にサイズがデカいので、宴にはもってこいのようだ。


(そういえば帰り際、精霊にナブゥの種をもらったからいつかヒール栽培してみるか)


 村人たちが言うには普通の地面では育たないらしいが、精霊がくれたのだからヒールすればいける可能性が高い。

 珍しい果物として高く売れそうだし、ラプンツェルのご機嫌取りにも良さそうだ。


「こ、こっちの顔を見てなに……?」

「いや、美味そうに食うなぁと思ってな」

「そりゃ果物以外も、村人さんがお礼のために丹精込めて作ってくれたものだもん。美味しいに決まってるし、とっても嬉しいよ」

「そうか、そういう気持ちを忘れるなよ。それは〝人間として大事〟だからな」

「うん」


 前世ではそういう気持ちを忘れている奴が多かったからな、自分も含めて……と思い出してしまう。


「俺も色んな人に感謝しなくちゃな」

「おっ、オレ様に感謝をしたっていいんだぜ!」

「私はエイドさんの方に感謝をしています」


 受付嬢のリリィもやってきて、近くに座ってきた。

 その組み合わせを見て、何か忘れているような……となった。


「あ、そういえば、二人はゾンビ事件の調査で来たのでは?」

「そうです。精霊の洞窟の方が魅力的だったので、そちらを優先してしまいましたが……。ギルドマスターには黙っておいて頂けると……。な、何でもしますから!」

「何でもします、はあんまり言わない方がいいぞ……リリィさん……」

「えっ、なんでですか?」

「俺は女難の相が……いや、何でもない」


 不思議そうな表情をするリリィを誤魔化すために、テキトーに質問をする。


「調査って具体的にどんなことをするんだ? ゾンビを倒して解決じゃダメなのか?」

「ふふん、後輩よ。甘いぜ!」

「カ・マーセ先輩、ご教授オナシャス」

「新人は知らないかもだが、ゾンビってのは上位の存在が作り出していくもんなんだぜ」


 そこは知っているが、先輩の顔を立てておこう。

 最初は現実世界のようにゾンビはゾンビ同士で勝手に感染して増えて行くものだと思っていたし。

 だが、それでアンデッドの数が多い世界だと、ねずみ算式に爆増してしまうので、自然感染はしないというのは納得した。


「それなのに、倒した報告はゾンビだけだ。つまり、ゾンビを作り出した存在がまだ近くにいるかもしれないということだぜ」

「なるほど、言われてみれば確かに。でも、どこを探せば?」

「えーっと……リリィちゃん、パス!」

「モグモグ……あっ、はい」


 どうやらリリィは食べることに集中していたようだ。

 ラプンツェルもハムスターのように頬を膨らませているし、色気より食い気の空間らしい。


「あれから周辺に目立った事件もなく、ゾンビも目撃されていないので、ターゲットは一ヶ所に留まっていると推測されます。付近にはいくつかの候補となるダンジョンと、放棄された廃城があります」

「なるほどねぇ~、そこに強い強~いボスがいるかもしれないってことなのねぇ~」


 いつの間にか知らない少女が話に割り込んできていた。

 年齢は18歳くらいだろうか。

 特徴的な赤い眼をしていて、長い銀髪の両サイドをちょこんとミニツインテールとして子供っぽく結わいている。

 この村では見ないような凝った黒いゴシックドレスを着ているので、どこか別の場所から観光しに来たいいとこのお嬢様かもしれない。


「キミは?」

「アタシの名前はトゥール・ビヨンド。楽しそうな話をしてるから聞いちゃいましたぁ」


 お嬢様が興味本位で首を突っ込んできた感じだろう。

 何となく猫っぽい感じだが、危険な事に対しては〝好奇心は猫をも殺す〟となってしまうだろう。

 だが、無下に追い払うのも可哀想だし、かといって調査の話が進まないのも困る。


「もし、其方(そなた)らは情報が欲しいのかしらぁ?」

「何か言葉遣いが独特な子だな……。まぁ、何か関連するような情報があれば教えてほしいが」

「それじゃあ、其方がキスをしてくれたら教えてあげますよぉ」

「えっ!?」

「なんでラプンツェルが反応するんだよ」


(完全にお嬢様の暇つぶしに付き合わされて、からかわれてるなぁ)


「すまんな、トゥール。こんな美人さんのお誘いなのだが、俺の鎧の下は醜い火傷跡があるから脱げないんだ」

「びっ、美人さん……」


 トゥールは先ほどまでの勢いがなくなり、顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。


「どうした? 具合でも悪いのか? 俺は村長の家のベッドを借りてるから、そこでしばらく休むか?」

「い、意外と紳士的で優しいではないですか……おザコのクセに……」


(やっぱりいいとこのお嬢さんか……一般人をザコ扱いとか。きっと周囲の環境がよくないんだな、可哀想に……。しかし、ラプンツェルより少し年上くらいの年齢だろうか、気難しそうだ。いや、アレを使うか)


 エイドはラプンツェルの皿から、果物をヒョイッと取った。


「あー! 私のー!」

「まだまだいっぱいあるだろ」

「エイド! アタシは火傷跡なんて気にしませんから、キスを――! 首元でもいいわよぉ! むぐっ!?」

「キミみたいな美人さんは俺なんかより、果物を口に付けていた方が絵になる」


 お嬢様に対する言葉遣いがよくわからないので変な喋り方になってしまっているが、面倒なのでナブゥの一切れをトゥールの口に入れてみたのだ。


「んむむ……美味しいわぁ!! なにこれ、外の世界にはこんな甘くて芳醇な食べ物があるんのですぉ!?」

「特別な宴のための期間限定品みたいなものだけどな。まぁ、気が向いたら俺が栽培するかもしれん」


 トゥールは赤い瞳でジーッと見つめてきていた。


(何か異世界でも珍しい目をしているような……まぁ異世界だし何でもありか?)


「やっぱり、エイドがほしい」

「お嬢様のお抱え護衛ってところか? 残念ながら、俺は自由に生きたいんでパスだな。それより、果物とはキスさせたんだから情報を教えてくれないか?」

「んん……そういうところも良いわねぇ!? じゃなくて、仕方がないわねぇ。教えてあげる」


 エイドはやっと情報を聞き出せるとホッとしたが、周囲を見て気が付いた。

 カ・マーセが何か悔しがっており、ラプンツェルとリリィはジト目で見てきているのだ。

 何か知らないけれど空気が最悪になっている。


「古城と複数のダンジョンが潜伏場所の候補って言ってましたよねぇ?」

「ああ、その通りだ」

「古城に出入りしていますよぉ」

「モンスターが出入りしているということか! つまり、そこが潜伏場所! ありがとう、トゥール!」


 トゥールは鮮血のような紅玉の瞳を輝かせ、妖艶な笑みで牙を見せつけてきた。


「ええ、出入りしていますとも。この吸血鬼の名家、ビヨンド家三女のアタシが――」

「なっ!?」

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