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実は世界でただ一人のヒーラーでした

(さて、ファスト動画も驚きの怒濤の展開だったが、ヤバい情報を得てしまったぞ……)


 それは闇のダークがペラペラとお約束の冥土の土産喋りをしていた中にあった。

 まず、ヒーラーというのは大昔に魔王によって職ごと葬られたということ。

 湧也は下級魔術しか使えないが、ヒーラーの下級魔術であるのなら超レア枠ということだ。


 そして、ここからが問題だ。

 回復魔術は魔王軍に多い不死に対して特攻があって、非常に嫌がられている。

 そのため、スパイを送り込んででも暗殺してくるという、ゲームでも考えられないようなゲスくて成功率の高い方法を取ってくると宣言されたのだ。

 それらを考慮すると、湧也は考えなくても一つの結論をすぐに叩き出した。


「あの、フォルティさん。俺が国の旗頭として〝救世主のヒーラー〟になって目立ったら、魔王軍にバレて確実に殺されますよね?」

「そ、それは……」

「現にスパイとしてアイツが入り込んでいたし、防ぐ手立てはないですよね」


 湧也は、片腕を切断されて膝を突いているフォルティにゆっくりと近付いた。


「だから、俺はここで死んだ事にして、ヒーラーということを明かさずに自由に生きたいと思うんですよ。……あとは……わかりますね?」


 それを聞いたフォルティはオレンジの眼を極限まで見開き、怯えきった表情になり、尻餅を付きながらも無様に後ろへ逃げようとした。


「ひっ、止めろ、止めてください。殺さないで!? 何でもするから!!」


 湧也は無言で、芋虫のようにズリズリと這いずって逃げようとするフォルティを掴んだ。

 そして――。


「ヒール」


 回復魔術を使って、フォルティの切断された腕を一瞬にして治療したのであった。


「え?」

「いや、こっちが『え?』ですよ。なんでそんなに怯えて逃げようとするんですか」

「だ、だって口封じのために私を殺そうとしたのでは……?」

「えっ、こわ……」

「しかも野獣のような眼光……きっと私の身体を蹂躙して楽しんだあとに殺すかなと……」

「頭ピンク色なんですか……?」

「こ、こちらの世界ではそういうのが普通なんだ!! 私の頭がピンク色というわけではない!! ほら、髪は赤いぞ!! 兄からも同じ赤で綺麗だと褒められたりもしたんだぞ!!」

「お、落ち着いてください……。そういう意味じゃなくて。えーっと、俺もその赤い髪は綺麗だと思いますから、ええ……」

「それなら良いのだが――」


 フォルティは自慢らしい赤髪を指でクルクルとイジっている。

 それをジッと見詰めていると、冷静になったのか少し恥ずかしげな表情でオレンジ色の眼を向けてきた。


「と、とにかく、こちらはそういう世界なんだ。……改めて救世主殿には礼を言う。ありがとう、感謝の念に堪えない」

「いえいえ、どういたしまして」


(さてと、どうやらエグいことも普通にある世界っぽいな……)


 日本人の感性的になかなか理解できなかった。

 二次元ならともかく、リアルでそういうのは遠慮したいのが湧也だ。

 さらに三十歳童貞というのもある。


 ある意味〝魔法使い〟として誇れるレベルなのだ。

 細かいことを言うと本当に使えるのは魔法ではなく、魔術だが。

 そんなことを考えていたのだが、治療中あることに気が付いた。


「あれ、フォルティさんの鎧も一緒に直ってませんか?」

「ああ、これは我が家に伝わる家宝の鎧でな。これ自体が生きているのだ。それでヒールの影響を受けたのだろう」

「すげぇ、ファンタジーだ!!」


 この世界、ヒーラーとしてバレたら暗殺者に狙われる以外はワクワクすることが多そうだ。

 思わず目をキラキラさせてしまった。


「ふっ、救世主殿は純粋な御方のようだ。良いだろう、私も騎士として命の恩人に義で応えよう。救世主殿はここで死んだことにして、ヒーラーだったということも黙っておく」

「ありがとうございます!」

「まったく、私を回復せず見殺しにした方が確実だっただろうに」

「あー、たしかにヒーラーだとバレる確率が上がりますからね。今後の参考にします」


 フォルティは屈託無く笑うと、生きている鎧を脱ぎだした。

 下にチェインメイルが見えるのだが、全身鎧特有の蒸れた感じと、意外と良い身体のスタイルがピッタリと張り付いていて色々と想像させてしまう。


「ちょっ!?」

「正体を隠した方が都合よかろう。この鎧を渡す」

「あっ、そういう……。でも、いいんですか? 家宝とか言ってたような……」

「命を助けられたのだ、渡さなければ偉大なるご先祖様に叱られる。それに回復魔術と相性も良さそうだしな」

「たしかに壊れても回復で直せるのなら……」


 何か色々と使えそうだなと直感が働いた。

 ここは素直にもらっておくことにしよう、ということになった。


「付け外しは素早く簡単にできる」

「おぉ……細かく粒子状になってすり抜けるような……ナノマシン的なものなのか?」

「なのましん?」

「いや、こちらの話です」


 日本語が異世界語に勝手に通訳されているようだが、さすがにナノマシンは概念的なものがないのか無理らしい。

 生きている鎧は全身を包み込むような一体型で、重量のかかり方も調整されているのでそこまで重くは感じない。


 顔を覆うヘルメットも出したり消したりできるので、場合によって使い分けられそうだ。

 内心、こういうギミックに男の子テンションが超上がってしまっている。

 少し前まで着ていたフォルティの温もりも感じるが、もうそちらはどうでもいいレベルだ。


「それとこれもやる。路銀の足しにしてくれ」

「うわ、高そうな宝石やら何やら……良いんですか?」

「貴族はもしものために貴金属を身につけているからな。命を救ってくれた善人に渡すのなら良い使い方だろう」


 ジャラジャラとした高そうな金のネックレスや宝石を革袋に入れて渡してくれた。


「さて、いつまでもここにいては面倒なことになる。洞窟から出たら太陽の沈む方向へ進んで街を目指せ。そこから馬車に乗ってさらに王都から離れるんだ。そうすれば、顔を知られている救世主召喚の儀にいた王侯貴族や神官たちとははち合わせにならないはずだ」

「何から何までありがとうございます!」

「立場上、役職に縛られるという辛さは知っているからな。私の分まで自由な人生を謳歌してくれ」

「はい!」

「さようなら、善良な人。純粋であり、血なまぐさいこんな戦いに巻き込みたくはない」


 フォルティは複雑そうな笑顔を見せてくれた。

 湧也としては、何か色々と大変そうだな~と思いつつ、気になっていたことがあった。

 それは闇のダークを倒したあと、大きな角だけが残っていたのだ。

 フォルティとの話は終わったっぽいので、その角を手に取って生きている鎧の頭に付けてみた。


「えっ、救世主殿。何を……やって……?」

「いや、何か戦利品というか、トロフィーというか。デカい二本の角がある鎧って格好良くないですか?」

「そうかな……そうかもしれないな……」


 なぜかフォルティが引き気味になっていた。

 ちなみに角はジャストフィットしてくっついてくれた。

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