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新たな力

「なぁ、威厳がないけどアレが本当に精霊ってやつなのか?」

「可愛いし良いじゃない」


 エイドとラプンツェルは、ゆるキャラのような精霊のあとをついていく。

 足が短いのか歩幅が小さく、気を付けないと追いついてオレンジ色のツルツルした背中に当たってしまいそうになる。

 さすがに追い越してしまうのも不敬かもしれないので、わざとゆっくり歩かなければならない。


「精霊様、おそーい。押してあげるね」

「オイィ!?」


 ラプンツェルは記憶喪失から来る怖い物知らずなのか、精霊の背中を両手で押して加速させている。

 精霊は何も言わないが、あとが怖すぎる。


「いや~……。コイツ、なにぶん記憶喪失なもので、失礼しやした! いや、元からバカなのかもしれませんが!」


 揉み手で三下スタイルをしていると、果物の樹木があった部屋よりさらに広い部屋に到着した。

 いや、部屋というより洞窟の中に巨大な琥珀色の樹木がそびえ立っている。

 サイズ的には塔くらいある。


「この洞窟、やっぱり普通の空間じゃないな……」


 精霊は樹木を指差し、そして頭を地面にこすりつけてきた。


「ん? どういうことだ?」

「あのおっきな木、何かバキバキに割れてない? それになんだか苦しいって言ってる気がする」


 そう言われると、たしかにラプンツェルが指摘したとおり落雷にでもあったかのように割れているし、薄暗いモヤのようなものが纏わり付いている。


「もしかして、この精霊……」

「うん。たぶん、そう」


 この巨大な琥珀の樹木をヒールで治して欲しいのだろう。

 人間相手にはヒーラーだと隠すことができても、精霊はお見通しということかもしれない。


「ここで断って呪われたら怖いしな……」

「可愛いしそんなことしないよ~」


 前世では可愛い妖精が、イタズラという名の悪逆非道をバラ撒くという伝承も多く残されている。

 こういう見た目の奴相手に油断をしてはいけない。

 逆に頼みを聞けばそれなりにリターンをくれるというのもある、悪魔と同じだが。


「それじゃあ、治してやるか」


 エイドは琥珀の樹木に近付き、手を伸ばしてヒールしようとした。

 そのとき――。


「は?」


 瞬間、薄暗いモヤが収束し、巨大なツノのある悪魔のような姿になった。

 エイドは突然のことすぎて油断していた。

 最近はゾンビと戦っても、リビが攻撃を完全に防いでくれていたのもある。

 防御面に関しては絶対に平気だと。

 影の悪魔は腕がムチのようにしなり(・・・)、エイドの右腕をリビごと切断した。

 飛び散る血飛沫。

 直後、槍のような物が心臓を狙ってきていた。


「死――」


 走馬灯を見る暇すらなく、死ぬことを意識してしまっていた。

 だが、その意識よりも速くリビが自動的に動き、心臓では無く脇腹へ狙いを逸らせていた。


(サンキュー……ゴホッ)


 即死はしなかったものの、リビの装甲を貫いて脇腹に穴が空いている。

 おまけに右腕が切断されていて、出血や痛みが酷い。

 影の悪魔は次の一撃を繰り出そうとしていた。

 事前に使っておいたリヒールだけでは傷が塞がらず、ヒールを新たに唱える時間も集中力もない。

 体勢も大きく崩していてリビがどうにかするのも難しい。

 万事休すだ。


(ザコのゾンビで腕試しをしていたら、いきなりラスボスに当たってしまったか……)


 もうダメだと思ったが、視界の隅で動くものがあった。


「こっちだよ!!」


 ラプンツェルは地面の砂を握り、影の悪魔へと投げつけて挑発をしていたのだ。


「止めっ、無茶だ!」

「行ける気がする。来る途中、少しだけ先輩さんにコツを教わったから……!」


 影の悪魔は腕をムチのように振るい、ラプンツェルへ狙いを付けた。

 リビがあっても切断されたのに、軽装の彼女では防ぐ手立てはないだろう。


「一度見た!」


 意外にもラプンツェルは難なく躱してしまった。

 追加で槍のような闇が伸びてきたが、それも当たることはない。


「なら、避けられる! 大切なのは、今、自分が何をすべきか意識すること……らしい! 回避に集中! あとは――」

「俺がアタッカーか」


 エイドはヒールを唱えて、右腕を接着、脇腹の傷も修復した。


「影の悪魔、お前の攻撃方法いいな。使わせてもらうぞ――ダークネス・ウィップ!」


 リビにヒールをかけて、手甲部分をムチ状に伸ばして振るう。

 影の悪魔の胴体を横一閃、真っ二つにした。

 それでもまだ動いて、反撃をしようとしていた。

 エイドは先にそれを見越していて、次のワザを放っている。


「ダークネス・ランス!」


 直線の細い槍を手甲から伸ばす。

 影の悪魔の頭部を穿つ。

 さすがにそれで動きが止まり、ヒールの効果で消滅していった。


「あっぶね……ヒールが効く相手で良かった」

「エイドさん、ナーイス」

「ばっかやろう!! ナイスじゃない!! もう二度とあんな危ないことはするな!!」


 エイドはつい大声でラプンツェルに対して叱ってしまった。

 この異世界にやってきて、初めての激しい怒りかもしれない。

 一方、ラプンツェルはというと、なぜかニコニコと嬉しそうな表情を浮かべていた。


「えへへ」

「な、なんで笑ってるんだよ」

「私が心配だから、珍しく本気で怒ってくれてるんでしょ」

「べ、別にそんなんじゃ……。ああ、もう面倒くさい。この話は無しだ。俺も弱かったから、ああなった」

「仲間を信じて、自分の役割をするって教わったから。私は避けてるだけで、エイドさんが何とかしてくれるって思っただけだよ。だから――」


 ラプンツェルは、エイドの背中に飛び乗ってきた。

 そして、頬に触れるくらいの距離で顔を覗き込んでくる。

 宝石のような蒼いサファイアの瞳をキラキラ輝かせているのが見えた。


「エイドさんは強いー! 私、ラプンツェルは連携で役に立てて嬉しいー!」

「テンションたっか!?」

「にへへ。ほら、精霊さんも拍手してくれてる」


 見てみると、短い腕で本当に拍手をしてくれていた。

 感謝はしてくれているらしい。

 一応、頼まれてたっぽいので最後までした方がいいだろう。

 エイドは巨大な琥珀の樹木に手をかざす


「ヒール」


 大きく裂けていた琥珀の巨木は瞬時に再生され、圧倒されるような泰然自若の姿を取り戻した。

 エイドが見てきた異世界の中でも、さらに突拍子も無いファンタジーさを感じてしまう。

 橙色に輝くそれは、もはや荘厳なる神話の風景そのものだ。


「わぁ、綺麗」

「また何か出たら燃やしてやるところだったな」

「エイド、物騒」

「で、そこの精霊。これでお前の頼みは終わりなんだよな?」


 精霊はコクコクと首を縦に振っていた。

 こちらの言葉は理解しているのだから、もう面倒くさいから喋ってくれと思ってしまう。


「俺は休憩してから戻る。ラプンツェルは戻って果物……なんて言ったっけな……」

「ナブゥ」

「そうそう、それでも収穫していてくれ」

「どうしたの~?」

「いいから行け、行ってくれ」

「う、うん」


 ラプンツェルは来た道を戻っていく。

 エイドはそれを見届けたあと、地面に拳を打ち付けた。


「クソッ!! 完全に油断していた、俺が馬鹿だった! 一歩間違えば俺だけじゃなく、ラプンツェルも死んでいたんだぞ……!?」


 悔しかった。

 自分は強くなったと思っていたが、まだまだだったのだ。

 この世界には強い奴が沢山いる。

 それこそ秒殺される。

 ラプンツェルを守るという〝自由〟すら許されない。

 簡単に踏みにじられる。

 自分の甘さに反吐が出てしまう。


「なぜ過信していた……自由とは何でも選べる代わりに、何でもされるということだ……。自分すら守れない者に、何かを守るなんて出来ない……。俺はもっと強く、狡猾にならなければいけない……!!」


 そのとき、琥珀の大樹が輝き、橙色の樹脂の中に女性のシルエットが見えた。


『おはよう、人間。ようやってくれたのぉ』

「……琥珀の中に閉じ込められるのって虫だけじゃなかったんだな」

『虫……? まぁ、不敬だが許すのじゃ。ワシは橙色の精霊神アンバー』


(げっ、神様かよ。またさっきみたいに得体の知れない強さで殺されそうになるのは嫌だぞ……)


『案ずるでない。お主は恩人という奴じゃからのぉ。そのようなことはせんわ。楽にするとよいぞ』

「こ、コイツ……心の中を……」

『お主の前世の初恋の相手や、初めて色目を使った二次元キャラとやらもわかるぞい』

「えげつない、さすが神。というか、琥珀の大樹をヒールしたあと、俺が悔しがるところも見てたのかよ? 恥ずかしいからもっと早く出てきてくれ」

『ラプンツェルがいるところでは喋りたくないからのぉ』

「ん? 元ゾンビだからか……? まぁ、そんなことはどうでもいい。あんた、精霊神を名乗るのなら〝力〟があるんだろう?」


 女性のシルエット――橙色の精霊心アンバーはやれやれと溜め息を吐いた。


『やれやれ、お主が求めるのはそれか。正直なところ、復活したばかりだし……しかも七柱の内、ワシだけが目覚めても世界をどうこうするような力は持ち合わせておりゃせんわ』

「俺が命がけで戦ったメリットがねぇな……」

『そうじゃなぁ、世話になっておるし多少の力は授けてやることにするか』

「絶対に誰にも負けない、最強無敵になれる力か!?」

『それは期待しすぎじゃ。ぶっちゃけ、お主は歴代のヒーラーとしては最弱と言っても過言ではないのじゃ』

「歴代のヒーラーってどんだけバケモノ揃いだったんだよ……? いや、沢山のヒーラーたちで切磋琢磨できて、このチートみたいな回復魔術があればもっと強いのは当たり前か。そりゃ魔王もヒーラーを優先して根絶やしにするわけだ」


 エイドは自分がヒーラーとして最弱という、当たり前の事実を突き付けられてしまい、気が抜けて大の字に寝転んでしまった。


『じゃが、ヒーラーが世界に一人というメリットもあるのじゃよ』

「メリット? ねぇだろ、そんなもん」

『お主が使っている魔術の原理は覚えておるな?』


 体内や周囲の魔力を利用して、精霊に力を貸してもらって魔術を発動するというのがメジャーだというのは一般知識として知っていた。


『そう、今考えたそれじゃ。お主にわかりやすくたとえるのなら――……普通の世界でお主が女子からモテる確率は少ないじゃろ?』

「いきなり話の程度を下げて、精霊神の品格まで下げるの止めてもろて」

『しかし、世界に男がお主一人しかいなかったらどうじゃ? どうやってもお主がモテる』

「そんな都合の良い世界が――……あったな、ここに」

『ようやく気が付いたようじゃな。この世界にはヒーラーが一人、精霊の数は以前と変わらず。つまり、お主一人に精霊の力を集中することができれば――』

「俺の回復魔術が強くなるってことか!!」

『その通り……と言いたいところじゃが、精霊神の七柱のワシしか目覚めておらんようじゃからのぉ。七分の一の精霊パワーというところじゃな。ほれ、橙色の精霊神アンバーの加護をくれてやるかのぉ』


 橙色の精霊神アンバーが手をかざすと、エイドの身体が橙色に輝いた。


「おぉ、力が漲って……来るような、来ないような? 強くなったのか、これ?」

『攻撃魔術ならわかりやすいがのぉ、回復魔術はあとで試してみるのがいいじゃろうて。身体に馴染む時間が必要かもしれんしのぉ』

「でも、今の回復魔術が強化されても、アンデッド以外の強敵が出てきたら詰みそうなんだよなぁ。さっきの奴にヒールが効かなかったらヤバかったし。何か追加でくれません? 精霊神様?」

『ふ、ふてぶてしい奴じゃ……。そう焦るな、褒美としてこのワシが直接力を貸す魔法を授けようと思っていたところじゃ』


 エイドはアンバーの言葉に少し違和感を覚えた。

 この世界の不思議な現象を起こすのは魔術と呼ばれていて、アンバーが言った〝魔法〟ではないのだ。


『ああ、言わんでもええぞ。何を思っているか読めるからのぉ。ワシが授けるのは魔術ではなく、魔法。術という子供騙しではなく、世界の法を書き換える奇跡』

「魔術のすごい版ってこと?」

『まっ、有り体に言えばそうじゃな。授けるのは〝原始の橙色(アンバー・リバイバル)〟じゃ。受け取れ』

「うっ」


 脳内――いや、魂に直接、何かを刻まれるような感覚。

 あまりの情報量に意識を失いそうになる。


『おぉ、悪い悪い。先に心の準備くらいさせておくべきだったかのぉ。下手すると耐えきれずに魂が消滅していたかもしれんし』

「抗議の一つでもしたくなるが、たしかにこれは……。この力をもらえるのなら、そのくらいのリスクは気にしないな」

『まぁ、それなりに魂が強いから異世界召喚に選ばれたんじゃろうしなぁ』


 橙色の精霊神アンバーはまったく悪びれていない。

 神様と人間は感覚が違うのだろうから、これは仕方のないことかもしれない。

 そんなことより、もらった力の使い方は理解している。

 すぐに試すことにした。


「我が手で屠りし英霊よ、我が駒と成れ――〝原始の橙色(アンバー・リバイバル)〟」


 橙色の輝きが周囲を包み込み、倒して消え去ったはずの影の悪魔が再び現れていた。

 エイドはそれに命令をする。


「俺に跪け」


 影の悪魔は言われた通り、膝を突いて、エイドの足元に跪いた。


「頭ではわかっていたが、本当に斃した相手の概念を〝回復〟して、味方にできるとは驚いたな……」


 影の悪魔はしばらくするとスッと霧散してしまった。


「制限時間に難ありか」

『慣れじゃな。本来の力を発揮できるようになれば、もっと色々できるのじゃ』

「それは楽しみだな」


 橙色の精霊神は大きなあくびをした。


『ふわぁ~……。それじゃあ、ワシはまた少し寝るぞい』

「あれ、何かもっと神様っぽく導きのお言葉とかないのか?」

『別にお主なら自由に生きても面白いことになるじゃろうて』

「お気軽だなぁ……」

『狭量な神よりはええじゃろ。あ、でも……女難の相が出ておるからそっち方面では大変なことになりそうじゃがのぉ。かっかっか! おやすみじゃ! お主の世界風に言うと――おつ精霊神~!』


 そう言うと橙色の精霊神アンバーは消えていった。


「かっる!? てか、女難の相って……最後にとんでもねぇことを言ってきたな……アイツ……」

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