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デートのお誘い?

「特別な食材を採りに行きたいから、付いてきてほしいって?」


 それは村の復興がだいぶ進んできた頃の話だった。

 燃えてしまった家屋の大半も直ってきて、エイドがそれを眺めていたときにアイラから話しかけられたのだ。


「はい、少し余裕も出てきたので、先延ばしにしていた救世主様のための宴を催したいと思いまして。その食材調達を――」

「救世主様呼びはやっぱり慣れないな……。エイドちゃんとでも呼んでくれ」

「では………………エ・イ・ドちゃん」


 耳元で人妻に良い声で囁かれ、思わずゾクッとしてしまう。

 そして本能で、これは人をダメにすると察する。


「や、やっぱり救世主様呼びでいいや……」

「あら、そうですか?」

「ところで宴のための特別な食材ってなんだ? 町で調達できない物なのか?」

「はい、この辺りにある精霊様の住む洞窟に()っている橙色(だいだいいろ)の果物、それがないと村の宴は始まらないので」


 橙色――オレンジ色なので、果物のオレンジなのだろうか?

 前世的にはミカンや、ポンカンなど柑橘系が思い浮かぶ。


「それに気難しい精霊様なので、村の人間がいなければ洞窟に入ることができないんですよ」

「そういうものなのか」


 エイドはこちらの世界に来て一年なので〝精霊〟というのも多少耳にしていたが、実際に目にしたことはない。

 何でも普段は目に見えない存在で、魔術の一部は精霊の力を借りて発動させているものもあるとか。


「そこでまだ外を一人で歩くのは恐ろしいので、もし救世主様がよかったら珍しい物見遊山(ものみゆさん)のついでにご一緒して頂ければと……」

「もしかして二人っきりで……!? こほんっ、そうだな。村の男衆はまだ復旧作業で手が離せないだろうし、ここは俺がアイラさんと二人っきりで行くしかないな」


 役得である。


「あ、ラプンツェルちゃんも一緒に行かない~? 綺麗な物が見られますよー」

「行く行くー! って、何かエイドさんがすごい表情でこっちを見てるんだけど」

「グギギ……気にするな……」


 たまたま通りかかったラプンツェルが付いてきてしまうことになった。

 よく考えたら離れた場所でゾンビ化したら大変なので、一緒に行くのは決定事項だったのだ。

 儚い夢だった。

 だが、ラプンツェル一人くらいなら、うまく躱してアイラさんと実質二人っきりということになるだろう。


(これはやましいことなどない、ただ美人さんと一緒だと嬉しいというささやかな楽しみだ……! そう、決して邪な気持ちはない……! ラプンツェルなんて子供だからな、うまくあしらってやればいい!)


 エイドは、アイラとラプンツェルを見比べてフッと笑った。


「あ、何か知らないけどムカムカきた」

「俺は何も言ってないぞ」

「む~……」


 ここからそう離れていない場所らしいので、素早く準備を済ませ、三人は村から出発しようとした。

 そこで見知った顔と出会う。


「よぉ、エイド! 冒険者ギルドぶりじゃねぇか!」

「あら、エイドさん。まだこちらにいらっしゃったんですか」

「リリィさんじゃないか! ……と、ついでにカ・マーセ先輩もいるのか」


 軽装の赤髪冒険者カ・マーセと、桃色ポニーテールの新人受付嬢リリィが村の入り口にいたのだ。


「おいおい、オレ様はついでかよ! お前が依頼を受けて飛び出して行ったあと、心配したんだぜぇ! すぐ解決したって知らせが入ったけどさぁ」

「悪い悪い。ところで、なんで二人はこのナシェミエント村に?」

「そりゃもちろん! このカ・マーセ様が! 可愛い後輩であるお前の様子を見に来たんだぜ!」

「……ではなく、冒険者ギルドが今回の事件の周辺調査を行うので、私リリィが派遣されてきたというわけです。カ・マーセさんは護衛です」


 本当にカ・マーセが様子を見に来ることが目的だったら気色悪かった。


「ま、オレ様としては受付嬢のリリィちゃんには普段から世話になってるからな。頼られちゃ仕方がないってもんだぜ」

「カ・マーセさん、あんまり冒険者ギルドに顔を見せないじゃないですか。それに手の空いている冒険者さんが他にいなかっただけです」

「つ、つめてぇ~!」

「エイドさんは、これからどこかへお出かけですか?」

「ああ、アイラさんの護衛で、精霊の洞窟へ宴の食材を採りに――」

「せ、精霊の洞窟!? 私も行っていいですか!?」


 リリィがグイッと顔を近づけてきて、かなり食い気味に言ってきた。

 その大きな胸が当たっているが、リリィは気が付いていないらしい。

 ちなみにいつものようにリビによって感触は伝わってこない。


「え、たぶんいいけど……アイラさんが大丈夫なら……」

「ええ、平気ですよ」

「やった!」


 子供のようにはしゃぐリリィ、受付嬢として仕事をしていたときには見せなかった顔だ。


「な、なんかリリィちゃん……オレ様のときとは大違いなんだけど……。もしかして、エイドのことを……?」

「ちっ、違いますよ! 受付嬢になる前からフィールドワークが趣味でして、精霊の洞窟なんて珍しい場所にいけるのなら嬉しいなって……」


 リリィは照れくさそうに否定していて、エイドは内心ガックリと肩を落とした。


「ふふん、エイドさん。私がいますよ」


 ラプンツェルが親指をビシッと自身に向けながら、調子に乗って自信満々の表情で言ってきたが、エイドは大きく溜め息を吐いたのであった。

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