半壊した村をヒールする
あれから村の安全を確保して、消火も終えたところで朝になっていた。
人的被害もだが、家屋の損傷なども酷いことになっていた。
「さてと、依頼も終わったし町に帰るか」
エイドは帰路につこうとしたのだが、ラプンツェルが手を引っ張ってきた。
「ねぇねぇ、本当にこのまま帰っちゃうの?」
「ゾンビも倒したし、依頼の内容はすべてやっただろう」
「でも……」
半分程度が燃えてしまった村を見て、落ち込んでいる人々。
その空気に当てられてしまったのだろうか。
ラプンツェルは、長い黒髪が地面に付きそうなくらい頭を下げてきた。
非常に珍しいことで驚いてしまう。
「お願い! エイドならなんとかしてあげられるでしょ!?」
「あのなぁ、別に俺はただのヒーラーで万能なわけでも……」
そう言いかけたところで、意外と何とかなりそうな手段が思い浮かんでしまった。
しかし、それ相応に他人のために手間をかけることになる。
報酬も見込めないだろう。
こちらをジッと見詰めてくる、一途で真っ直ぐな宝石のような蒼い眼。
「なんでラプンツェルは、そこまでして村の人たちを助けたいんだ?」
自分が得するわけでもない。
ましてや、エイドと違って人妻に良い格好をしたいというような、邪な感情も持ち合わせていないだろう。
ラプンツェルは、なぜ――。
「困ってる人を見たら、助けてあげたくなっちゃったから……!」
「それだけか?」
「う、うん……。ダメかなッ!?」
「はぁ~……。子供だ、ガキだ、バカだ、何も考えてない向こう見ず」
「なっ!? ひどいよ!! エイドに頼んだ私が間違ってた!!」
エイドにとってそれは自虐の言葉だった。
前世、誰かのためにと生きて磨り減ってしまった自分。
だからこの先、ラプンツェルがそうなってしまえば学ぶだろう。
むしろ、早くそうなってくれとも思う。
遅くに気付きすぎた自分のようになってほしくないから。
(ったく……だから、敢えてだ。敢えて)
「お前もちゃんと手伝えよ、ラプンツェル」
「えっ?」
「だから、村人を助けるって言ってるんだよ」
ラプンツェルの落ち込んでいた表情がパァッと明るくなった。
「エイドさん、大好き! だ~い好き!」
「ばーか、こういうときだけ都合が良いんだよ。もっと普段から敬え」
「え~、人妻さんに鼻の下を伸ばしているところとかはキラーイ。リビもそうだよね~?」
突然に全身鎧が頷いて、首を持って行かれそうになる。
「うおっ!? 急に動くな、リビ!?」
「ほら、多数決でもわかるでしょ」
「くそっ!」
いつの間にか二人と一体のパワーバランスが変化しており、エイドは焦りを覚えてしまう。
これでは肩身が狭い休日のパパのようだ。
「今から村長に復興計画を伝えてくるから、もっと俺の好感度を上げる準備でもしておけ!」
「は~い、期待してるね」
ラプンツェルは上機嫌に、ニコニコしながら手を振って見送ってくれた。
***
エイドの考えた村の復興計画はこうだ。
まず、何をするにも資材が足りない。
具体的には木造の家なので、木材だ。
そこでピンときた。
木材なら死ぬほど余っていると。
修行も兼ねて死ぬほど木こりをしたが、さすがに全部売ると市場価格で迷惑をかけてしまうのでセーブしながら売っていたのだ。
在庫が膨大に残っている。
今回、突発的な村のモンスター災害に使うのなら問題ないだろう。
しかも初期と違って、時間があったので乾燥や加工も済ませてあるプロ仕様の木材だ。
家の立派な材料となるだろう。
問題はどうやって運ぶかだ。
荷馬車を借りて運ぶのが普通だが、ここはトレーニングにも利用させてもらうことにした。
村と実家を直線で移動しようとすると森や山があったりするのだが、そこを大量の木材を徒歩で背負って運ぶことにした。
かなりの回数往復することになるので、直線上の木々は切り倒しておく。
「お、重い~……新しい装備が汚れる~……疲れる~……ぢぬ~……」
「文句を言うなラプンツェル、手伝うって言っただろ? 節約とトレーニングの一石二鳥だ!」
「あ、頭悪すぎる……もう動けな――」
「ほれ、ヒール」
「疲れは取れたけど急激にお腹が空くー! 喉も渇くー!」
「200時間くらいやり続ければ慣れる! 飲み食いしながら行くぜぇー!」
途中、ラプンツェルが精神的にやられて白目を剥いてしまったので、仕方なく木材と一緒に背負ったりもした。
さて、木材を運び込んでからも問題がある。
家を作る人材の確保だ。
幸いなことに小さい村だったので、ほぼ全員が何らかの作業スキルを持っている。
普段から建物も、家族ができたら自分たちで増築したりするらしい。
問題は人数――マンパワーということになる。
ただでさえ、ゾンビとなって村人が減ってしまっているのだ。
そこでエイドは、以前から考えていた手段を試すことにした。
「リヒール温泉計画だ……!」
「リヒール……温泉計画……?」
この村は温泉施設があるというのはすぐにわかった。
そこで、温泉にリヒールの効果を持たせて、作業員たちの効率を上げようというのだ。
温泉に直接のリヒールは水流などの関係で難しいので、リビを一欠片だけ源泉の地面に埋め込み、それにリヒールをかける。
あとはリビがリヒールの効果を薄めに調整して、その分で効果時間も延ばしてくれる。
軽い疲労を治すくらいなら、エイドは数日に一回かけ直すだけで済むだろう。
これで解決――とはならず、あとは金だ。
木材以外の建材も必要だし、家にマンパワーを注ぎ込んでいるということは普段の仕事もできないということだ。
それを補うために金が必要となる。
「というわけで――」
ゾンビの死体……最初から死んでいるが、倒したあとのゾンビはこう呼ぶしかない。
それが大量に集められた腐臭漂う場所でエイドは、ラプンツェルにニコッと笑った。
「魔石って知ってるか?」
「し、知らないけど何か嫌な予感がする……」
「モンスターの体内にあるお宝だ。元は人間だけど、ゾンビにもある。これだけの数ならそれなりの価値になるはずだ」
「そ、そうなんだ~……」
「魔石取り、任せたぞ?」
「えーっと……それって……?」
ラプンツェルはわかっているようだが、一応聞いているらしい。
「ゾンビを解体して内臓から魔石を取り出すってことだ」
「いーやー!!」
「これが手伝うってことだ。もしかして、そのくらいの覚悟もなかったのか?」
「うっ」
ラプンツェルは明らかに嫌そうな表情だが、不満の言葉は飲み込んだようだ。
「わかった、やる」
「人を助けるってことは、自分の何かを犠牲にするってことだ。覚えておけ」
「うん……」
ラプンツェルはションボリしつつもコクリと頷く。
エイドは少しだけ辛くしすぎてしまったかなとも思った。
まだ彼女は記憶が戻ったばかりで、人生経験というものがないのだから。
(俺が若い頃はもっとバカだったしな……。昔の自分を見ているようで自己嫌悪に陥っていたのかもしれない)
「人妻さんに焼き菓子でも用意してもらっておくから、早めに終わらせろよ」
「えっ、焼き菓子!?」
チョロい奴である。
というか、かなりグロい作業中でも焼き菓子で喜べるというのは冒険者の才能があるのかもしれない。




