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エイドVS村に溢れかえるゾンビ

「エイドさん、またそういうセリフを事前に考えていたの? しかも、ガラスも割っちゃってるし……」


 普通に扉の方から入ってきたラプンツェルがツッコミを入れていた。


「ふっ、死神だからな。埒外の存在なのだ」

「きゅ……救世主様だ!!」


 九死に一生を得た村人たちは安堵し、助けに湧き上がった。


「だから、救世主ではない。死神だ」

「でも、町からの移動距離的に間に合うはずが……救世主様はどうやって……」

「死神だからな、そこらへんはヒー……じゃなくて……えーっと……空を飛んできた?」

「すごい!! 救世主様は空を飛べるんだ!!」


 実際は町で馬を借りて、全速力で飛ばしてきたのだ。

 馬が疲れそうになったらヒールをかけて強引に回復させ、栄養のある果物なども与えまくって強行軍をしてきた。


(まぁ強行〝軍〟と言っても、俺とラプンツェルだけなんだけど)


 そこは村人たちも気になっていたのか、偶然にも不安そうな村人が問い掛けてきた。


「あ、あの……他の冒険者の方はどこでしょうか? 救世主様と、妹? 娘さん? しかいませんが」

「ふっ、問題ない。ここに隠れていろ」


 騒ぎを聞きつけてやって来たゾンビが、エイドの身体に噛み付こうとした。

 だが、全身鎧のリビはビクともしない。

 エイドは片手でゾンビを軽々と引き剥がし、抵抗するゾンビを抑え込む。

 圧倒的なパワー差だ。


「村人たちよ、さっきは聞ける余裕がなかったのだが、今から元はお前たちの仲間だったゾンビを(たお)していく。いいな?」

「は、はい……」

「どうか……どうか楽にしてやってくだせぇ……」

「もう二度と戻らない……これ以上罪を重ねさせるのは忍びねぇです……」


 エイドはそのままグシャッとゾンビの頭部を握り潰した。

 もしかしたらラプンツェルのように元の人間に戻るタイプなのではないか? とも思ったが、事前に外のゾンビにヒールをかけても反応がなかったので無理らしい。

 さすがにここまでアンデッドのサンプルで色々と試してきたので、確率で戻るなどではなく、ただラプンツェルが特殊だったというのは明白だ。


(ということで存分に鍛えた力を試せる――ではなく、早く元村人たちを解放してやろう)


 入り口周辺のゾンビの集団に、頭の潰れたゾンビを投げつけた。

 ゾンビボディ爆散、外のゾンビたちも吹き飛び、倒れた。

 まるでボーリングのようだ。


「私も戦う! せっかくの新しい装備買ってもらったし!」


 ラプンツェルが長く黒い髪をなびかせながら弾丸のように飛び出し、ナイフの二刀流で次々とゾンビを斬りつけていく。

 一撃で致命傷を与えられないが、手数で勝負をしている。

 初めてモンスターを倒すという状態にアドレナリンが出すぎているのか、背後から迫っているゾンビに気が付いていないようだ。

 ラプンツェルの背中にのし掛かろうとするゾンビ。


「お前は回避タイプなんだから、後ろには気を付けろよ」


 エイドは鎧を変形させた刃で、ゾンビを力任せに真っ二つにした。

 ラプンツェルは後ろを見ずに言う。


「背中に目は付けられないし、そっちはエイドさんに任せてるもん」

「やれやれ。……っと、思わずやれやれ系になってしまった。今の俺はクールな死神だ」

「村人さんたちは救世主と言ってたけどね」

「死神、な! もう救世主は懲り懲りだ!」


 エイドは救世主として呼び出されて散々な目に遭ったのを思い出し、それらの感情をゾンビにぶつけることにした。

 木こりで鍛えた攻撃――こういうと格好悪いので技名を付けた。


「ハァッ! 〝暗黒斬〟……!」

「エイドさんってヒーラーなので光属性だよね? もしかして、秘密にしてるからって逆の属性を? 敢えて?」

「いや、何となく格好良いからだ」

「……」


 エイドの暗黒斬――ただの斬撃だが、それを見てラプンツェルは黙ってしまった。

 きっと感心しすぎて言葉がなくなったのだろう、センスが良すぎるのも罪かもしれないと、エイドは内心ニヤけていた。


「なんかエイドさん、ありとあらゆる意味で自由に生きてるね……」

「ふっ、この死神を褒めても何も出んぞ。クールだからな……」

「もうオメー、村人さんたちの前で口を開くなよ?」


 急にラプンツェルが辛辣なことを言った気がするが、たぶんゾンビに向かって言っているのだろう。

 そんなやり取りをしている最中にもゾンビの首が次々と()ねられ、臓物をぶちまけ、一刀両断されていくのであった。

 数十ものゾンビを数分で処理してしまった。


「ふぅ、ヒールを攻撃に使うまでもなかったな。被ダメも考えてリビにリヒールしていたけど、鎧を傷付ける敵もいなかったし」

「私は村の中にまだゾンビが潜んでないか見てくるね」

「ホラー物の死亡フラグ乙!」

「エイドさんって言葉遣いが独特だよねぇ~……。でも、リビ着て動きが遅いエイドさんより、私の方が適任でしょ」

「お~い、一人は危ないぞ~……って、行ってしまったか」


 まだ安全が完全に確保されたわけではないので、エイドは一人で村人たちがいる教会へと戻った。

 それにケガ人がいたようだったので、そちらもどうにかした方がいい。


「あらかたゾンビは倒したぞ……って、そっちのケガ人は平気か?」


 最初から視界の端には見えていたが、倒れている中年男性は重傷のようだ。

 頭からだけではなく、鼻や耳から血を流していて、呼吸も乱れ、痙攣の症状も出ている。

 素人目に見ても放っておくとヤバそうだ。


「頭を椅子の角で強打していて……」

「村に一人だけいた医者もゾンビとなってしまいました……」

「ああ、可哀想な村長さん……。せっかく奥さんと娘さんが逃げ延びて、救世主様を連れて来てくれたのに……」

「死神、な。……って、あの母娘の夫って、この村長なのか」


 そのとき、一瞬だが猛烈な勢いで思考が駆け巡った。

 人前でヒールを使うのは非常にリスクが高い。

 それに人妻が何でもしてくれると言っていて、その夫が亡き者となれば好き放題できるポジションとなる。

 未亡人、それは非常に魅力的な言葉だ。

 総合的に考えて、一番賢いやり方は見捨てることだろう。


(っていうのをするわけにはいかないよなぁ)


 頭によぎったのは、泣いていた小さな娘の方だ。

 父親を失うというのは、あまりにも憐れである。

 エイドは悩むまでも無く、村長にヒールを使うことにした。

 ただし、用意していた隠蔽手段を使う。

 取りだしたのは、高級そうな瓶に入った〝ただの水〟だ。

 これをバシャッと村長に振りかけると同時に、小声でヒールを唱える。


「な、なにを?」

「これは秘薬エリクサーだ。超貴重で一個しかないが、ここで使わせてもらおう」


 行動はブラフだが、ヒール自体の効果はある。

 村長の傷が塞がり、呼吸が安定して、ゆっくりと目を覚ました。


「そんな貴重なものを……。ああ、やはり救世主様だ!!」

「死神、な」

「ありがとうございます!!」

「村長さん、こちらの救世主様が村を救い、しかもあなたのために貴重な秘薬エリクサーを使ってくださいました!!」

「おぉ、なんという……感謝してもしきれません……救世主様……。この身を一生捧げても構いません……何でも致します……」

「死神、な。……というか夫婦揃って『何でもする』とか軽々しく言いすぎだろ」


 すると村長はフラつきながらも、涙を流し感激しながら足元に(すが)ってきた。


「いいえ、救世主様はそれほどのことをなさったのです。普通の人間では成し得ない行動を、危険を顧みずにしてくれたのです。並大抵の人間にはできない、清く正しく気高いお心……これを救世主と呼ばずして、何と言いましょう!!」

「……本当にそんなんじゃないけどな。もうケガ人はいないな。俺は扉の外で警戒してくる」


 エイドは村長を優しく引き剥がしてから、スタスタと扉の外へと移動した。

 すると、見回りが終わったらしきラプンツェルがニヨニヨとしていた。


「照れてる?」

「照れてない」

「本当に救世主してたよ、エイドさん」

「死神、な。……それはそうと、見回りはどうだった?」

「ゾンビはいなかった。たぶん、戦闘の音を聞きつけて全部集まってきてたんじゃないかな。黒猫ちゃんがいたくらい、どこかの家の子かな」

「妙だな、貴族でもないのにペットなんているのか? しかも小さい村だぞ?」




 ***




 村から立ち去った黒猫は、執事の格好をしたゾンビに抱き抱えられ、毛繕いをしていた。

 そして、少女の声で喋る。


「おザコ種族の人間♂のクセにやりますねぇ。町の武具屋で見たときもちょっと良いなって思ってたし、あのおザコ♂をアタシの眷属にして手元に置きたいですねぇ……クスクスッ」


 黒猫は一糸まとわぬ人間に――いや、吸血鬼の美しい銀髪少女の姿になり、執事ゾンビの首元に腕を回して妖艶に嗤う。

 魂を射貫く異形の紅玉眼、その猛禽類独特の縦長瞳孔を怪しく輝かせる。

 夜の帳を織り込んだかのような漆黒のドレスを魔力で編み、軽やかに(ひるがえ)らせ、その場から消え去った。

面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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<(_ _)>ぺこり

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