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ゾンビ、教会、パニック

 町から少し離れたところにある、ナシェミエント村。

 普段は牧歌的な村で、人口は少なめだが町への食糧供給の農耕や温泉などで生計を立てている。

 付近に強力なモンスターなども存在せず、平和を享受していた。

 だが、今は――。


「くそっ、オレたちの村が燃えちまっている……」

「ゾンビの奴らが火の付いたままのランプでも倒しちまったのか……」

「バカヤロウ! 家の心配より、命の心配だ!!」


 村で一番大きく頑丈な建物――教会。

 そこに生き残った村人たちが立てこもっていた。

 小さな窓の外には燃える自分たちの家と、徘徊するゾンビ。

 唯一の出入り口である大きな木製扉はバリケードでふさいでいるが、外からゾンビが入ろうとしていて今にも破られそうだ。


「妻が町に助けを呼びに行っている! もう少し持ちこたえてくれ!!」

「しかし、村長!! 移動距離的に間に合うはずがない!!」

「もうお終いだああああああ!?」


 教会の中で村人たちは極限状態でパニックに陥っていた。

 村一番の力持ちである大男も、その空気に呑まれてしまっていた。


「はぁはぁ……もう我慢できねぇ!! ゾンビなんて怖くねぇ!! 元はオレよりもずっと小さい村人だ!! こっちから出向いてぶっ殺してやらぁ!!」

「ま、待て!! 早まるな!!」


 大男は扉を塞ぐバリケードの家具などを引き倒していく。

 それを止めようとした村長だったが、大男の反撃に遭って吹き飛ばされてしまう。


「うぐっ!?」


 教会の椅子の角に頭部をぶつけ、そのまま動かなくなってしまった。


「きゃああああ!! 村長!?」

「この人殺しー!!」

「うるせぇ!! 今からゾンビを倒すオレが救世主だ!!」


 ついに大男は扉を――地獄の釜のフタを開けてしまった。

 入ってきたゾンビを見ると、自分より小さいと笑って力比べをしようとした。

 お互いの両方の手でがっしりと組み合う形になる。


「はーっはっはは! 見ろぉ! ゾンビなんて……ゾンビなんて……あれ?」


 小さいはずのゾンビの方がパワーで押し返していたのだ。

 大男は耐えられなくなり、片膝を突いてしまう。


「なんで……なんで俺の方がデカくて筋肉があるのにぃぃぃ!?」

「ま、魔力強化ってやつだ……。一般人と違って、冒険者やモンスターは自然と魔力で身体を強化して力を上げているって話だ……」

「そんなのしらねぇー!!」


 大男は腕をボキリと折られてしまった。

 肉が割け、中から白い骨が見えてしまっている。


「うぎぃぃぃ!! オレの腕が、腕がぁぁああああああ!?」


 あとからやって来たゾンビたちも合流して、大男へと群がっていく。


「だ、誰か助けろおぉぉおおおお!! あぱっ」


 大男は喉笛に噛み付かれて、声ではなくヒュウヒュウとした音しか出せなくなった。

 悲鳴もなく、ゾンビたちに食い散らかされていく。

 ゾンビたちは次のターゲットを探す。

 目に入ったのは、倒れた村長を引きずって移動させようとしている村人たちだ。


「ああ、神よ……救世主よ……どうかお助けください……」


 もはや祈るしかない村人たち、大口を開けたゾンビたちが迫る。

 そのとき、大きな音が協会内に響き渡った。


「なんだ!?」


 夜の帳を割くようなそれは――神と救世主が描かれたステンドグラスを蹴り破って全身鎧の冒険者が入ってきたのだった。

 光刃煌めき、その場のゾンビたちが一瞬にして消滅した。


「ふっ、残念だが救世主ではなく、ゾンビたちを地獄に送る死神だ」


 全身鎧の冒険者――エイドは刃に付いたゾンビの血を振り払い、手で顔を半分隠すような厨二病めいた決めポーズを取っていた。

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