ハイリスクな依頼
冒険者ギルドに入ってきた母娘は半狂乱で何かを言っているが、それを見ていたリリィが冒険者への依頼にした方が良いと説得した。
手続きを終え、注目される中で張り出された依頼。
「ゾンビだらけの村をどうにかしてくれ、か……」
「感染源のモンスターがやってきて、村人をゾンビにしちまったのか。ひでぇ話だぜ」
ゾンビというのは、映画などと違ってゾンビ同士で感染して増えていくものではない。
ゾンビ以外の上位感染源がいて、そこから広がっていく感じだ。
今回は依頼者が村人なので、元知り合いだったゾンビを『殺す』とは言いたくなく、『どうにかしてほしい』というような曖昧な言い方をしているのだろう。
気持ちはわかるが、一度ゾンビになってしまったら、もう元の人間には戻らない。
というところで、チラッとラプンツェルを見る。
「んー? こっち見てどしたの?」
「何でもない」
ラプンツェルはゾンビから戻った例外中の例外だ。
さて、この依頼内容を確認した冒険者たちはどうしたかというと――。
「薬草採りの依頼を受けるかな~」
「悪いがオレも別の依頼を受ける」
どうやら乗り気ではないようだ。
隣にいた先輩冒険者であるカ・マーセに聞いてみた。
「なぁ、カ・マーセ先輩。どうして誰も村の依頼を受けないんだ?」
「そりゃ……なぁ……。困っている奴がいたら助けるってのが冒険者の人情だが、依頼料と難易度が釣り合ってねぇよ」
「なるほどな」
ラプンツェルが『どういうこと~?』という感じで見てくるので説明することにした。
「さっきのゴブリンの巣穴退治の話は覚えているな?」
「うん、大変そうだからやらないって」
「それと同じで、村という遮蔽物が多い地形に、ゾンビが大勢いるところへ突っ込まなきゃいけない依頼だ。当然、危険度も上がる」
依頼主の母娘に聞かれているかもしれないので言わなかったが、村を生存者ごと焼き払えれば楽だ。
さすがにそれを口に出さないくらいの人の心はある。
「そんな危険度の高い依頼なのに、さっきのゴブリン退治より安い。冒険者たちも慈善事業でやってるんじゃなくて、命を懸けて金をもらってるからな」
「うーん、世知辛いね~」
複雑そうな表情をするラプンツェル、それを見たカ・マーセは大人の態度で慰める。
「まっ、こういうケースはよくあるもんだ。割に合わない依頼は受けないのが普通だぜ。それに時間が経って上の方に知れたら、数日後か、数週間後くらいには国から騎士団辺りが派遣されるんじゃねーのかな」
「待ってください、冒険者の方! 村の教会には、今も立てこもっているみんなが!!」
いつの間にか依頼者の母娘が近くにやってきていた。
必死の形相でエイドたちを見ている。
「時間勝負ということか……」
「夫も……私たちを逃がして教会に……! お願いです、依頼料が足りないというのなら何でもしますから!!」
母親は、エイドの手を掴んで導くようにして豊満な胸に押し当ててきた。
(ホワァ!?)
エイドは突然すぎる状態に驚愕したが、ヘルメットがあったおかげで体裁が保たれた。
今まで気が付いていなかったが、母親の方は素朴な茶髪茶目の村人っぽい地味服装なのに、その母性溢れる胸の大きさが服の上からでもわかってしまうレベルだ。
ウェーブのかかった長い髪も何か色気を感じてしまう。
(疲れた表情で必死にすがってくる人妻の胸とか犯罪臭がすごいのだが……。いや、鎧のおかげで感触は全く無いのだが……だがだが……だがだがだが……)
脳みそがバグりそうになっていた。
そこでふと、まだ小さな娘の方が不安そうな表情をしているのに気が付いた。
娘は茶髪茶目で村人の服装をしていて、親子で似ている感じだが髪型は二つ分けおさげと幼い感じが出ている。六歳くらいだろうか。
母親の服をギュッと握りしめ、涙を目に溜め、こちらに何かを言おうとしているが声を出せないでいるようだ。
それでも勇気を振り絞って、たった一言だけ擦れる声で呟いた。
「たすけて」
「……」
エイドは無言で依頼の紙を掲示板から剥がし、受付嬢のリリィの元へ持っていった。
驚く冒険者たち、ラプンツェルはトコトコと付いてきて茶化してきた。
「決め手はどっちだったの? おっぱい?」
「まっ、そうだな」
「ふふ」
ラプンツェルは宝石のような蒼眼を嬉しそうに細め、口元をニヤけさせていた。
彼女は自分が助けられた経験から、本当は子供の方を助けるためだと知っているようだ。
エイドとしては何か癪だったので、ラプンツェルだけに聞こえるようにヒソヒソと話す。
「ゾンビ関連の依頼だから、お前の過去にも関係あるかもしれないだろ」
「あっ、たしかに! 意外と考えてるんだ!」
エイド的にはもう一つ理由があって、本当は自分の力試しができるなら良いというのもある。
「ありがとうございます! ありがとうございます! この御恩は一生忘れません!」
「ありがとー! おにいちゃん!」
感謝してくる母娘を見ると、もう他人のためには生きたくないと思っていたが、たまにはこういうのも良いかもしれない。




