噛ませ登場
「まさかこんなに時間がかかるとは……」
「いいじゃん、冒険者ギルドの近くなんだし」
ラプンツェルの装備を調えて、再び冒険者ギルド内に戻ってきた。
目的としては、初依頼を探すためだ。
「そういえば、ここで依頼はどうやって受けるのだろうか」
エイドがポツリと呟くと、近くのテーブルに座っていた赤髪の猫背痩せ男から大笑いされてしまった。
「ギャハハハハ!! そんなことも知らねーのかよ、新人通り越して赤ちゃんだろぉ?」
普通は嫌味を言われたらマイナスな気持ちになるが、逆にエイドは内心ガッツポーズをしていた。
(き、キタァー!! 新人いびりだぁー!! こういう風に見られた方が動きやすい!! なんせ見た目はリビを着ているからゴツくても、本当に異世界生活一年目のド新人だからな!!)
ヘルメットの中はニヨニヨした表情で、なんて返そうか悩んでしまう。
より弱い、新人っぽい、下っ端感を出したい。
そうしていると、隣にいたラプンツェルが怒りだした。
「はぁー!? エイドさんはともかく、私は赤ちゃんじゃないんだけどぉー!!」
「お嬢ちゃん、赤ちゃんじゃないって? まだママのお腹の中にいるとか勘違いしてるんでちゅかね~?」
赤髪の男は親指をチュパチュパしゃぶって愉快な赤ちゃんプレイをしている。
「もう許さない! 決闘よ! 冒険者だったら戦って勝った方の言い分が正しいでしょ、たぶん!」
(よーし、いいぞ。ここでラプンツェルが赤髪の冒険者先輩に負ければ鼻っぱしが折れて大人しくなるし、俺たちは弱いと思われて行動しやすくなる!)
「はっはー! だったらかかってこいよぉ、お嬢ちゃ――ブゲェッ!?」
エイドの期待は外れ、ラプンツェルの素早いスライディングからの、ブレイクダンスのような芸術的な金的蹴りが決まってしまった。
赤髪の男は股間を押さえ、オレンジ色の瞳から涙を流しながら、泡を吹いて倒れてしまう。
非常に痛そうだ。
絶対痛い。
それに対して、ラプンツェルは長い黒髪をバッとかき上げて勝ち誇る。
「どうだ、見たか! まだ何か言うことがあるなら追加でお見舞いしてあげようか?」
「ず、ずびばぜんでじだ……」
大人が涙を流しながら謝っているというのは、心に来るものがある。
さすがに止めに入った。
「ラプンツェル、もう止めてやれ……」
「え~、だってさ~」
「ここで引き下がらないと本当に子供だぞ」
「うっ、わかったよ。やりすぎた、ごめん、おじちゃん」
「おっ、おじ……」
赤髪の男はおじちゃんと言われるのにショックを受けていたが、エイドが手を貸すと股間を押さえながらだが立ち上がった。
「な、なかなかやるようだな。オレ様の名前はカ・マーセ。実力を認めてやるよ、よろしくな」
「カ・マーセ……なんかすごい名前だな……」
名は体を表すと言うが、噛ませ臭が半端ない。
「お、わかってくれるか! カ・マーセとはオレ様の故郷の言葉で『栄光ある道』って意味なんだぜ!」
「そ、そうなのか……良い名前だな……」
ツッコミを入れなくてよかった。
赤髪の男――カ・マーセの姿を観察すると、革鎧の軽装にナイフ、左耳に涙型のピアスをしている。
たぶんラプンツェルと同じ、素早さを得意とする前衛アタッカーのようだ。
「なに? お前ら依頼を探してるのか?」
「ああ、本当に新人だからな」
「またまた~、こんなに強くてぇ?」
「さっき冒険者登録した」
カ・マーセは真顔になり、エイドが冗談を言ったのではないと察した。
「マジか~……。期待の大型新人って奴か~……。乗るしか無い、このビッグウェーブに。あ、この言い回しは大昔に異世界人が持ち込んだらしいぜ」
「そ、そうか」
「そういうことなら、オレ様がレクチャーしてやって媚びを売っておくってのも手だな! えーっと、お前たちの名前は?」
「俺はエイド・ファースト」
「……こんな奴に言いたくない~」
ラプンツェルがまだ、ふてくされている。
ほっぺたをプクーッと膨らませていて、こういうところはまだまだ子供っぽい。
「さっきエイドが名前呼んでたから知ってるぜ、ラプンツェルだろ?」
「勝手に呼ぶな~!」
ラプンツェルが抗議しているのだが、エイドとしては意外ときちんと状況を見ている男だなと思った。名前はふざけているのに。
「依頼はそこの掲示板に貼っているものを受けるのがメジャーだぜ。名が知れれば冒険者ギルドを通さない直接のオファーも来るだろうが、新人の頃はトラブルを避けるために掲示板の依頼だけの方がいい」
「なるほど」
たしかに前世の記憶的にも、仕事は大手を通した方がトラブルが少ない。
ましてや個人から新人への仕事なんていうと、闇バイトか何かに思えてしまう。
「さて、初仕事はどれにするかな」
いくつか候補を見繕う。
安全地帯だが、探す時間がかかる薬草摘み。
貴族のペット探し。
魚釣りの荷物持ちと護衛。
ここらへんだろうか。
「エイド! これなんてどう?」
ラプンツェルが指差したのは、ゴブリンの巣穴を一掃してくるというものだ。
「いや、初依頼がゴブリンの巣穴とか死亡フラグだろ」
「え~、ゴブリンなんて弱そうじゃん」
「大体そう言って新人冒険者が死んでいくパターンだ」
カ・マーセもウンウンと頷いている。
こちらの世界でも――いや、むしろヒーラーが存在しない世界だからこそ、敵の根城に入っていくという、絶対に不意打ちでケガをしそうな依頼は難易度が高いのだろう。
ダンジョンに入る騎士団がガッチガチに全身鎧で固めていたのも納得だ。
もっとも、全身鎧なんて高いしメンテ大変だし、暑いし体力必要だし……普通の冒険者からしたら避けたいところだろう。
「お嬢ちゃん、ゴブリンに捕まったら怖いぜ~」
「え? 他のモンスターと一緒じゃない?」
「ハハハ、お嬢ちゃんにはまだ早いか~!」
「な、なんかムカつく……!」
ラプンツェルとカ・マーセがワイワイやっているが、その間に依頼を決めてしまおうとした。
魚釣りの荷物持ちと護衛の依頼、これがいいだろうか。
理由としては、薬草採りというのも山の風景に飽きているし、町の中のペット探しもリビを装備しながらというのがきつい。
掲示板から依頼用紙を剥がそうとしたところで、冒険者ギルドの扉がバンッと勢いよく開かれた。
視線が自然とそちらに向く。
そこには泥だらけに汚れている、必死の形相の母と娘がいた。
「村が……村がゾンビだらけに……誰か助けてください!!」




