最弱召喚
新連載が始まりました!
初日に5話くらいまで投稿して、そのあとはキリの良いところまで毎日投稿予定です。
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転生――というものを信じるかと言われたら、癒沢湧也は半信半疑だった。
日本で生活していたら仏教的な価値観も自然と理解できるので、転生という概念は理解している。
ただ、自分がその対象になるとは思わなかったし、しかも異世界行きになるとは信じられなかった。
しかし、これは考えようによってはチャンスかもしれない。
前世では真面目な性格でブラック企業に入社しまったので、頑張れば頑張った分だけすべての仕事を引き受けることになって過労死してしまったのだ。
もう好きでもない誰かのために生きたくない。
これからは自分だけのために生きる、新たな人生がスタートできるのだ。
***
(げっ、ヒーラーじゃん……)
剣と魔法の世界に召喚――正確には死んだ日本人男性の身体を再構成して異世界転生させた状態なのだが、そこで直感的に自分の能力がわかってしまった。
職業は〝下級回復術士〟だ。
ぱっと見の字面でザコっぽいし、しかもヒーラーというのは最悪だ。
湧也はゲーム好きでもあったので、ネトゲでヒーラー職というのをやったこともある。
ひたすらに誰かのために回復をするという職業と、『自分だけのために生きる、新たな人生をスタートさせる』という目的は相性が悪すぎるのだ。
まだ女なら姫プレイの溺愛コースでよかったのかもしれないが、湧也は転生直後でも三十歳の冴えない童貞野郎だ。
しかもヒーラーの中でも最弱っぽい職業の〝下級回復術士〟だ。
回復奴隷をさせられるのは目に見えている。
それに異世界転生のせいか、直感的に自分の能力的なものがわかってしまう。
「ウソだろ、使えるのは下級魔術だけかよ……」
つい呟いてしまい、周囲にいた王侯貴族や神官らしき者が落胆の表情を向けてきた。
城の中でなかったら逃げ出したくなっただろう。
「百年ぶりに復活させた救世主召喚の儀、失敗でしたか……」
「ええと、下級魔術ってどれくらいの人間が使えるんですか?」
湧也は、社会人の癖でつい目上っぽい異世界人には敬語になってしまった。
その問いに異世界人は申し訳なさそうに答えてくる。
「魔術の才能があれば大体の人間が使えるであろうよ。冒険者でも大勢いるし、王国お抱えの宮廷魔術師なら上級魔術を使える者もいる」
周囲に落ち込まれているが、逆に考えればラッキーかもしれない。
救世主とか担ぎ上げられたら自由もなくなるし、ザコだと理解してもらえて初日で解放された方が良い。
(よし、流れ的にこれは追放されるパターンだろう! はよ追放してくれ!! 追放! 追ほ――)
「だが、救世主召喚の儀で現れたのだ。実力を試さずというのも失礼だろう。こちらが選んだ騎士団のメンバーとダンジョン攻略をしてもらおう」
(なんでもっと雑に追放してくれないんだよ!? そこは丁寧にするなよ!! ゴミのように扱え!!)
――そんなわけで、トントン拍子にダンジョンへ送り込まれることになった。
城からの移動中に街並みが見えたが、いわゆる中世ヨーロッパ風……正確には近世だが、そんなファンタジー世界だ。
歩いている住人は鎧やローブ姿で帯剣していたりと異世界っぽいが、獣人やエルフはあまり見ないので人間メインの国なのだと予想できる。
比較的治安はよさそうだが、城下町なのだから一番良い立地なのかもしれない。
詳しい説明は受けていないが、そもそも救世主を必要とするのだから世界全体的にはあまりよろしくない情勢なのだろう。
(もっと殺伐としたダークファンタジーな世紀末とかだったらきつそうだったけど、このくらいのファンタジー世界なら普通に暮らしていけそうだな)
そして郊外の森にあるダンジョンに到着した。
現代人もイメージするような洞窟から入っていくようなタイプらしい。
「私は騎士団長のフォルティだ。今日は騎士団五人とパーティーを組んでもらうことになる」
「あ、どうも。よろしくお願いします」
騎士団長を名乗ったフォルティという燃えるような赤髪の女性は、ごっつい鎧を着ていて強そうに見える。
意思の強そうなオレンジ色の瞳をしていて、右耳にだけ付いている涙型のピアスが少しオシャレだ。
他の騎士団員たちも鎧を着ているが、簡素な作りで廉価版のように見える。
一目でフォルティが特別な人間――騎士団長だとわかる風格だ。
絶対強いと確信できる。
「すごい鎧ですね。重くないですか?」
「防御こそが重要。一撃でも切り傷などを負えばアウトだからな」
(そんな大げさな……。ダメージを受けても回復すればいいだろ。いや、でも人間痛いのは嫌だからな……たとえ俺みたいなヒーラーがいても、ダメージは受けたくないか)
そう納得してから、ダンジョンの奥へと進むことになった。
ジメジメとした空気が日本を思い出す。
こちらの外の気候はカラッとして快適だったので尚更だ。
「救世主殿は基本的に見ていてくれればいい。まだ慣れてないだろうし、行動できるようになったら自分の力を試してみてくれ」
「は、はい。前の世界では戦ったことがなかったので……」
「なぁに、このダンジョンのモンスターはそんなに強くない。我々、騎士団のメンバー五人で貴方を護衛しつつノーダメージ撃破も余裕だ。大船に乗った気でいたまえ」
(なるほど、安心した。ここで本当に下級魔術しか使えないヒーラーとして無能を晒せば、諦めて追放してくれる流れだな!)
刹那、ガチャン――と後ろから金属音が響いた。
振り返ると、後方を歩いていた騎士の一人が倒れていたのだ。
地面に広がる血溜まり。
(うおっ、なんだこれ!?)
よく見ると首がなくなっていて、ヒーラーの下級魔術ではどうすることもできない。
鉄さびのような独特な生臭さが漂ってきて吐きそうになってしまうが、非日常感でギリギリ耐えられた。
湧也は混乱して思考も動きも止まり、騎士団長のフォルティはすぐに剣を構えていた。
「血迷ったか……!?」
すると血ぬれの剣を持った騎士団の一人が笑った。
たぶん犯人だろう。
「ククク……吾輩は魔王様配下の四天王が一人、闇のダーク! 救世主召喚の儀を聞きつけ、スパイとして潜り込んでいたのだ!」
騎士団の甲冑が消えると、そこには大きな角を生やした悪魔のようなモンスターがいた。
「下級魔術しか使えないひな鳥だとしても、成長されては面倒だからな……今の内に潰させてもらう!」
「ゆ、癒沢殿。逃げ――」
瞬間、三つの首が飛び、残っていたフォルティも防御した剣ごと腕を切断されていた。
(やっべ、闇のダークとかふざけた名前で噛ませ四天王っぽいのに、ガチで強いじゃねーか……)
「う、腕が……腕が……せっかく頑張って騎士団長になったのに……もう……」
「ぐはは、人間共は怪我をすれば終わりだ! それではもう一生戦えまい! 憐れだな、お前だけ見逃して生き恥をさらしてもらうというのも面白そうだ!!」
右腕を切断されたフォルティはオレンジ色の瞳に涙を浮かべ、心の底からの絶望の表情をしていたが、湧也としては意味がわからなかった。
(即死ならともかく、腕が切り落とされたくらいなら下級魔術でも回復できるよな……?)
こちらに転生してから、ヒーラーとしてできることが何となく頭でわかっている。
腕をくっつけるなんて簡単にできる。
しかし、ヒーラーは攻撃魔術を使えずに戦闘能力は皆無なので、闇のダークネスに勝てる気がしない。
そこでブラック企業時代に培った秘技を使うことにした。
慣れた動作で揉み手をニギニギしながら、頭をヘコヘコとひたすらに下げる。
「あの、えーっと、闇のダーク様。俺は下級魔術しか使えない最弱なので見逃してくれませんか……?」
「ふはは! バカモノ! たしかに下級魔術しか使えぬザコなど五万といるが、貴様は救世主なのだ! さっきも言ったが可能性は潰しておかなければなぁ!」
「ダメかぁ~……」
「それにもし、今は存在しないヒーラーとして目覚めて、回復魔術でも使えるようになったら、我ら闇の種族が多い魔王軍にとって死活問題だからな!」
「え?」
「我ら闇の種族の弱点である回復魔術は、食らうと大ダメージをもらってしまう……。魔王様もきっと、それを恐れてヒーラーという職自体を大昔に消滅させたのだからな!」
「えーっと……」
湧也は下級魔術――ヒーラーの回復魔術を唱えることにした。
「ヒール」
「ぎゃああああああああああああ!! 身体が消滅するううううう!! おのれええええええええええ!! 四天王であるこの闇のダークすら油断させていたとは何たる卑怯な人間ぅぁぁぁあああ!!」
闇のダークは光に包まれ、悶え苦しみながら倒れてジタバタしていた。
「だが、これで勝ったと思うなよおおおお!! お前がヒーラーだと知れたら何度でもスパイを送り込まれて暗殺を狙われるだろう!! 魔王様に栄光あれえええええ!!」
捨て台詞を吐きながら、すぐ灰になってしまった。
「え?」
「え?」
呆気なく倒してしまったという湧也と、お前ヒーラーだったのかというフォルティの驚きがハモってしまった。




