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後編

「走ってメル、戦火はもう拡大を始めています」


「ちょちょちょ、戦力は十分足りてるんでしょう?」


「ぶリーふィングルームのデータをはックしました。敵の量産機が想定以上に強力なようです」


「お得意の電子戦ってやつね」


「私ハ特注品の専用機なので……つて冗談を言ってる場合でハありませんね。次の角を右に曲がって」


監視カメラをリアルタイムでハックして、メルが映らない最適なルートをはじき出す。使命回路が早く助けに行けと耳元で騒ぐ。


「新型ってそんな強いの」


「単体で強いか不明ですが、数が多いようで倒してもきりがないようです。どうやらぱイロットの乗っていない、完全自立型AIが操縦する兵器だそうで」


「それって、もしかしてアンタの……」


「完成品というわけです」


メルメがハンガーにつく。私も自分のジェネレーターに火を入れ、武器のセットアップを行う。


「準備はできてる?」


「コクピットの中まであったかいですよ、行きましょう」


「了解。エクス、Go!」


ハンガーの扉を蹴り破り、宇宙へ駆ける。


「ありゃ、これ弁償もんだよ?」


「どうせ戦争の報奨金で支払えます。今ハ一刻も早くグリッドヘ」


「りょーかい!」


<月光>が月を背に飛び出す。今度こそ、私は自分の大切な人を守るのだ。



------------------------------------------------------------------------------------



戦場はこれまでとうって変わり混沌を極めていた。

友軍は物量の渦の中で敵と味方の区別ができず手あたり次第銃口を向けた相手に反撃している。

外れた弾がさらなる誤解を生み、さらなる誤解が巻き起こる。パラノイアの霧が戦地を覆っていた。


「これ……ちょっとヤバいかも」


「急いでよかったですね。私はこの見た目なので友軍から誤射される可能性は低いですが、警戒は怠らないで下さい」


「りょーかい、第9コロニーの様子は?」


「今ハ大丈夫なようですが、このまま戦火が広がれバいつ巻き込まれてもおかしくありません。早めに終わらせましょう」


「じゃあしょっぱなから飛ばしてくよ。コード:キルモード、起動!」


私の右目が赤色に光り、ブースターがうなりを上げる。


「戦闘に入るまでハ大丈夫ですが、戦闘が始まったら荷重制御ハ最小限になります。突然の衝撃に備えてください」


「いわれる前からそのつもり!」


射程内に見慣れない機体を捕捉する。兵器らしからぬ流線型のロボット、しかしその手にはしっかりと無骨な武器を携えている。

―――新型機だ。

ビームライフルを構え、発射準備。


「メル、戦闘開始です」


「あの子でしょ、もう捉えてる」


「いい調子です。でハ、行きますよ!」


発射した直後、新型機がこちらを向き、するりと旋回する。それはまるで三日月がその場でくるりと回転したようだった。


「メル、あの動きハ」


「うん。<月光(ママ)>の動きだ」


ライフルをしまい、高周波ブレードのグリップを握る。


「まさかあいつらがママの戦闘データにまで手を出してるなんて!なんかムカつく!!」


「今更かと思いますが、<月光>相手に射撃ハ意味を成しません。近接戦闘に持ち込みましょう」


「オッケー、行くよ!」


操縦桿を握る彼女の手が震えている。シミュレータを用いた訓練ではメルメと<月光>との勝率はほぼ50%だったのだ、無理はない。

この戦場で彼女はずっと、コインの表側を出し続けなければいけないのだ。


「大丈夫ですよ、メル。子ハいつか親を超えていくものです。そして今がその時だというだけのこと」


「大丈夫だって、緊張してない」


「強がりハ勝率をわずかに低下させます。操縦桿を通して手の震えが私に伝わってきていますよ」


「えっこれ触覚ついてんの?」


「勿論」


「気持ちわるーっ!!」


「急に手を離さないで!」


カメラアイのすぐ横を相手のブレードがかすめる。すんでのところで回避が間に合った。


「ごめん、つい……」


「集中してください。敵を侮る余裕はありませんよ」


「でもおかげで緊張はとけた!」


<月光>と<月光>が重なり合う。

高周波ブレードがぶつかって火花を散らす。

今までで一番難しい戦闘だ、だが不思議と悪い気はしない。


「いいマナーだ。社交ダンスの相手ができた気分ですよ、メル」


「口の割には余裕なさそうだけどっ」


「リズムに乗っているだけですよ」


バブルガンのマガジンを投げ、一瞬視界を奪う。

ハルハは意外なことが起こるととりあえず右側にレバーを倒す癖があった。


そこを突く。


「とらえた!」


「まずハ1機ですね」


「……ちなみにあと何回繰り返すのコレ」


「ざっと120回もすれば、戦場ハ落ち着くでしょう」


「きっっっつ」


次の1機が前に出て、私に手を差し伸べる。


「誘われてるよ、フレックス」


「戦闘中はエクスとお呼びください」


さぁ、次のコインを投げよう。



------------------------------------------------------------------------------------



メルメはあっという間に<月光>に適応し、次々と撃ち落とていった。

彼女の戦闘データを使って私も学習し、彼女の選択肢を広げた。

敵も学習データの共有はしているが発想が多い分私たちの方が一手上手だ。


「こんだけやれば、少しは片付いたんじゃない?」


「今は戦闘中ですよ、メル。気を抜かないで」


「フレックスも気づいてるでしょ?あいつら1対1しか挑んでこない。だから撃破した直後は戦闘中じゃないってわけ」


「それハそうですが、理由がわかりません。いったい何故でしょうか」


「ママとあんたがニコイチで戦ってきたからとか?」


確かに全盛期の私たちは、横槍で得た勝利など誇らしくない、正々堂々の勝負こそが美学だというように戦ってきた。


しかしそれはあくまで仲間を失い過ぎた後の話であって、かつては連携して戦ってきた頃もあった。


「もしかして彼女の戦闘AIだけでなく、騎士道精神まで見習っているのでハないでしょうか」


「それがママの強さの秘訣ってワケ?」


「ジェイクも私も、そこに惚れ込んだわけですので」


「話そらさない、集中する」


「大事な話ですよ」


次の相手も機械的に処理する。細かな損傷は増えてきたが、まだ戦える。友軍も落ち着きを取り戻して私たちを見習って近接戦闘に切り替えている。

いまだ形勢は不利だが、こちらも確実に立て直してきている。


「いい感じです、メル。その調子」


「学習データがおんなじだから動きもある程度パターン化できるし、何とかなりそうっ!」


まずはブレードを軽く突き出す。

敵はブレードのない左手側に旋回して回避。

返す刀で左手を前に出し突撃してくるが、これは相手のフェイント。受け流して本命の右手のブレードへの対応をする。

敵が向き直るため旋回する隙を狙って、踏み込む。


直後、敵が前部スラスターを急噴射し、私のブレードは空を切った。


「これ、私の動き!」


「まずい」とスピーカーが音を出す間もなく、衝撃。メルメの反応でなんとか急所は避けたが、代わりに右腕を持っていかれた。


「すみません、私のミスです」


「まずは立て直し、来るよ!」


左手でブレードを払いのけるが、小指を持っていかれる。消耗戦は明白、左腕が持つのも長くはない。脱出も不可能。ブースターの出力が互角だとしても、パイロットの安全を気にしないで良い彼らの方が有利だろう。


「エクス……ところでさ、質問なんだけど」


「こんな時になんでしょうか」


「私にまだ隠してるモードあるでしょ」


「ありません」


「はい、って返事して。じゃなきゃこのまま敵陣に突っ込む」


「……はい」


「やっぱあるじゃん、このペテン野郎。で、どんなモードなわけ?」


「あなたの死体の安全性を無視した戦闘モードです」


「??? どゆこと?」


「私の挙動制御についてこれず、あなたの肉体がぐちゃぐちゃになるということです」


メルメが操縦桿から手を放し、キルモードが止まる。敵意がなくなったことが伝わったのか、敵も動きを止める。その仕草まで<月光>に似ていて、私は少し笑ってしまった。


彼女がふぅと息をつく。


「エクス、1つお願いがあるんだけど」


「どうぞ」


「あんたは絶対ママの所に帰って。それと私のタブレットは誰かに見られる前にかならずフォーマットすること」


「お願いが2つに増えています」


「一生のお願いだし、オマケしてよ」


「……承知しました」


念のため、エアバッグの再点検をする。問題ない。


「なにそれ、気を使ってるつもり?」


「……」


「早くコードを教えて」


「『使命コード:ジェイク・フラットローダー』と叫んでください」


「ジェイク・フラットローダーって何?父さんと関係あるの?」


「あなたの父の本名です、まぁ旧姓ですが」


「なにそれ悪趣味ぃー。じゃあ行くよ、覚悟はいい?」


「どうぞ」


ふぅー、とメルメが大きく息を吐く。今彼女はどんなことを考えているのだろう。


彼女が改めて操縦桿を握り、息を吸い込む。


「―――使命コード、ジェイク・フラットローダー。起動」


「声が小さい、もっと叫んで!」


「使命コード!ジェイク・フラットローダーあぁぁ!!」


「承認しました。使命を実行します」


覚悟はできている。使命回路が発熱し、特注品(エクストラ)の両目が、真っ赤な閃光を放った。



------------------------------------------------------------------------------------



バックステップして方向転換、第9コロニーの位置をマッピングして加速。敵機は追ってこない。


「ちょちょちょちょちょ、どこ行くの」


「申し訳ありません、先ホどあなたに一つ嘘をついていました」


「どんな嘘?実は旧姓じゃないとか?」


「先ほどメルが宣言した<使命コード>の起動ハ、戦闘モードでハありません。それに私が私自身に承認をかけるもので、あなたの音声認識も必要ではありません。」


「2個嘘ついてるじゃん!てかどういう訳で–––」


「デブリよけます、衝撃に注意」


「ぐえっ」


よけきれずデブリをかする。機体にもガタが来ているようだ。第9コロニーを視界のはじに捉える。絶対に視界から外すものか。


「じゃあ、どういう訳で私に叫ばせたわけ」


「使命回路に残るジェイクの遺志に、あなたの元気な声を聴かせたかったのです」


「使命回路に…父さんが?」


「ええ。メルがこんなに大きくなるまで守り抜いたぞ、ちゃんと私の役目を果たしたぞ、とそう伝えたかったのです」


「それじゃまるであんたが……」


ちゃんと聞こえたよな、ジェイク。娘に名前を呼んでもらうのが、君の最期の夢だったろう。


「この前、大事な遺伝子ハ半分だけだとあなたハおっしゃっていましたね。訂正させて頂きます。私とジェイクの使命回路が最も重要としているのハ、丸っと100%あなたの生命です」


「質問の答えになってない!!」


彼女が操作パネルを叩く。どうだジェイク、この子はこんなに力が強いんだ。いつか私だって追い越されるかもしれないぞ。


「質問に答えましょう。すぐにハ死にません。ですがこの機能を使うということは、結果的にその罪で私が解体されることを意味します」


「機能について説明して!」


「たとえ世界を敵に回してでもあなたを守るため、ジェイクが私にほどこした最後の機能です。コロニーをジャックすることが使用するための最低条件です」


「御託はいい!」


第9コロニーの先端部を捉え、コードを接続する。


「コロニー間通信を利用して信号を増幅し、周辺地域の軍事機器を全てはッキングします」


「え?」


「その信号で周辺グリッドすべての兵器の最優先事項を『この娘を守れ』に書き換え、強制的に戦争を終わらせる。それが使命コード:ジェイク・ふラットローダーの機能です」


「そんな無茶苦茶なこと、できるわけない!」


「前に行ったでしょう。私の得意分野ハ、電子戦なんです!」


セキュリティを突破して操作を奪う。第9コロニーの反射板が羽を広げ、それに倣うように使命回路も熱を帯びていく。残った冷却材を全て投入するも焼け石に水だ。少しずつジェイクの回路がショートしていく。安心してくれ、私もしばらくしたらそちらに向かう。もっとも、嘘つきは天国にいけないかもしれないが。


「中止、中止!連合国がそんな機能絶対許すわけがない!記録ごと抹消されるのがオチ!」


「安心してください。ばルばロッサ辺境伯にあなたを守ることを条件にこの機能の詳細を伝えてあります。彼ハ話せばわかる側の人間です」


「アンタが消えちゃ、ここまで頑張った意味がないって言ってんの!!」


この事も信号に乗せてしまおう。この子はロボットなんかのために泣いてくれる子だ。ハルハとジェイクと私で育てた、立派な良い子だ。


第9コロニーが輝きを放ち、暗黒の宇宙を照らす。光の帯がに次々とロボットを包み込んでいき、その使命を書き換えていく。今度はあなたたちの番ですよ。どうかこの子を大事にしてくださいね。


レーダーに映る最後の機体に挨拶をした直後、CPUがオーバーヒートしてFlat-Loader-EXTRAはシャットダウンした。


しかし不思議と、何も恐怖は感じなかった。

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