第6話 友達
ある日の放課後、相談室に1人の男の子がやってきた。
彼の名前は品田湊。
1年E組の生徒だそうだ。
彼は見るからに顔色が悪く、手も震えている。
「どうしたの?具合が悪いなら、保健室に行く?」
「そういう訳ではないんです…」
そう話す彼
「僕、いつもスマホが手離せなくて、ろくに寝れてないんです。」
-なるほど-
だから彼は、さっきからずっと手が震えていたのか。
「どうして、いつもスマホを手離すことができなくなってしまうの?」
私の問いに
「僕、誰かと話すことが苦手で、今まで1人も友達ができたことないんです。それで、寂しさを紛らわすためにネットゲームを始めたんですけど、だんだんネットで友達ができてきて、その人たちといると楽しくて…それでつい、のめり込んでしまったんです」
そう答える彼の表情は、孤独という目に見えない恐怖に怯えた様子だった。
「そういう事があったんだ…」
そのとき私は感じた。
デジタル技術が急速に発達し、人々が豊かな生活を手に入れた現代の、もう一つの側面を…
デジタル技術の普及で若者のコミュニケーションが希薄になっているという事実を…
「ねぇ品田くん、私とゲームしない?」
「え?ゲーム?」
彼は不思議そうに首を傾げる。
「そう、ゲーム!実は私も、最近ゲームにハマってるんだ。」
「良いですけど…」
そうして彼とスマホゲームを始める。
すると
「あれ?これってどうしたら良いんだろう?」
「ここですか?ここは画面のこの部分をタップして…」
表情は少し寝不足気味なものの、彼は少しずつ私と会話するようになった。
そうして30分ほどゲームをすると、彼はいつの間にか私と打ち解けていた。
「ふぁー疲れたー。ねぇ品田くん、ゲームどうだった?」
私は何気なく彼に聞いてみる。
すると…
「すごく楽しかったです。いつもは、こんなに楽しいなんて思わないのに…」
「そうでしょ。それは多分、私と沢山話をしたからだよ。品田くん。確かに、あなたにとって誰かと話すことは難しいことかもしれない。でもさっきは、私にゲームの話をいっぱいしてくれた。だから、そんなに無理に考えなくても良いと思う。今みたいに、まずは自分の好きなことから…」
「好きなことから?」
「そう、好きなことから!誰だって、いきなり初対面の人と話をするのは難しいことだよ。だから、そんなに気負わないで。」
「月ヶ瀬先生、ありがとうございます。僕、頑張ってみます!」
彼はそう言うと、深々とお礼をした。
数日後
「月ヶ瀬先生」
品田くんが相談室にやって来た。
見ると、数日前とは違い目の下にあったクマがすっかりなくなっていた。
「先生、ありがとうございました。先生のおかげで、クラスにも馴染めて友達もできました。」
「本当?それは良かった。」
「おーい湊、サッカーしようぜ」
「うん、良いよー」
そう言って彼は、グラウンドへと走っていった。
ご覧頂きありがとうございました。
今回はスマホ依存についての物語を書いてみました。
引き続き双宮高校の物語を書いていきますので、よろしくお願いします。