番外編 月ヶ瀬明莉の過去
「光、光ーーーーーッ!!」
ピピピピピピッ
-まただ-
ここの所、毎日のように悪夢にうなされている。
思い返してみると、あれはちょうど1週間前の事だっただろうか。
家庭訪問で佐野さんの自宅へ行った時、私はつい、自分の過去を話してしまった。
-そう。忘れたがっていた、過去の記憶を-
あれは6年前の、ある日の出来事だ。
その当時、私には都名瀬光という親友がいた。
光は幼稚園からの幼馴染で、優しくて、勉強もスポーツも何でもできる子だった。
そんな光と私は、小学校や中学校でもずっと仲良しで、高校も同じ学校に入学した。
その頃には、私にも光にも多くの友達が出来ていた。
ただ、光との付き合いは、他の友達にはない特別なものだった。
私は光のそばにいると、不思議と心が落ち着いて、嫌なことも何もかも忘れてしまう程だった。
ずっとこのまま、2人は親友として仲良くいられると思っていた。
しかし、私は気付かなかった。
私の知らないところで、光がずっと苦しんでいたことを…
高校2年生のあの日
光から掛かってきた1本の電話から、悲劇が始まった。
電話から聞こえた光の声は、いつもの明るい声ではなかった。
まるで、この世界の終焉を見届けるかのような、暗く重苦しい声だった。
電話を聞いて、すぐに私は光の自宅があるマンションへ向かった。
しかし、がむしゃらに走る私を突如、酷い悪寒が襲った。
嫌な予感がした。
そして、それは的中してしまった。
光は5階建てマンションの屋上から飛び降りたのだ。
私は警察官の静止を振り切り、救急車へ運ばれていく光に必死に声をかけた。
光は搾り出すような声で「明莉、ごめんね。でも、楽しかったよ。」
そう言ったところで、光の目が閉じる。
「光、光ーーーーーッ!!」
私は何度も叫び続けたが、光に届くことはなかった。
私達の友情は、音を立てて崩れてしまったのだ。
後日、光の家族から衝撃的な話を聞かされた。
実は、光はマンションから飛び降りる少し前から、風邪が理由で学校を休んでいた。
しかし、実際にはうつ病を患っていたらしい。
詳しい原因は本人でさえも分からなかったそうだが、数ヶ月ぐらい前から急に気分の浮き沈みが激しく、情緒不安定だったそうだ。
それでも、私や学校のみんなには心配をかけまいと、ずっと我慢していたのだという。
私は後悔した。
ずっとそばにいながら、親友の悩みに気付くことができなかった、光の心に寄り添うことができなかったと…
その夜、私は部屋で泣き続けた。
そしていつしか、私も死んで、光の元へ行きたいとさえ考えるようになってしまった。
-結局、全て思い出してしまった-
あの後、私は必死に、あの時の事を忘れようと努力した。
しかし、カウンセラーを続ける以上は避けて通れないのかもしれない。
「って、ヤバい!もうこんな時間?!」
ふと時計を見ると、遅刻ギリギリの時間になっていた。
私は慌てて支度を済ませ、玄関を飛び出していった。
ご覧頂きありがとうございました。
今回は番外編として明莉の過去を書いてみました。
日本では毎年、約2万人の人が自ら命を絶っているそうです。
どうかこの作品を通じて、そういった実状や残された人たちの思いに触れて頂き、悲しい出来事が1件でも減ることを願うばかりです。
次回からは、また双宮高校のエピソードを書いていきますので今後もよろしくお願いします。