第4話 ヤングケアラー(前編)
スクールカウンセラーには、相談室で生徒たちの相談を聞く他にもう1つ大事な仕事がある。
それは、各クラスの担任から生徒の状況を確認し、相談の必要がある生徒を共有することだ。
ある日、1年C組の担任である若村千紗先生から生徒の相談が来た。
先生によると、その生徒の名前は佐野芽依。
明るく責任感があり、クラスの中心的人物だそうだ。
しかし、入学して3週間が過ぎた頃から学校に来なくなり始めたのだという。
「恐らく、佐野さんはヤングケアラーなんだと思います。」
こう話す若村先生
「実は先日、佐野さんのご家族から電話があったんです。佐野さんのお父様がガンと診断されて、しばらく娘が学校に来れないかもと」
『ヤングケアラー』
今まで、専門学校の講義でしか聞いたことはなかったが、まさかこんなにも身近なものだったなんて…
私は若村先生から預かった連絡先を基に、すぐに佐野さんの自宅に電話をかけた。
プルルルルル
発信音が数回鳴ったあと、弱々しい声で
「はい…佐野です」
と返事をする女性の声が聞こえた。
「もしもし。私、双宮高校スクールカウンセラーの月ヶ瀬と申す者なのですが、佐野芽依さんはいらっしゃいますか?」
「すみません、娘は今バイトに行っていて…」
どうやら電話の女性は、佐野さんのお母さんのようだ。
「すみません。いつも娘のことで心配かけてしまって」
そう話す声は、娘を心配する母の姿そのものだった。
「あの子、昔っから責任感が強くて、いつも弟の竜斗のお世話をしてくれていたんです。だから、主人がガンで倒れたと聞いて、居ても立っても居られなかったんでしょうね。学校を休み、昼間はバイトをして、私が夜勤に行っている間は付きっきりで竜斗のお世話をしているんです。私は何回か心配で声をかけたのですが、いつも『大丈夫だって』と返されてしまって。あの子…」
そう話すと涙を流す佐野さんのお母さん。
きっと、佐野さんもお母さんも、お互いがお互いのことを想いあっているのだろう。
だからこそ、お互いの想いがすれ違い、苦しみあっているのかもしれない。
「あの、突然で申し訳ないのですが、今からそちらに家庭訪問をさせて頂けないでしょうか?」
「え?」と驚く佐野さんのお母さん。
まぁ無理もないだろう。
しかし
「分かりました。ちょうど芽依はバイトが終わった頃です。どうか…娘を、芽依を助けてください!」
祈るような声で私に依頼する。
「分かりました。」
私はそう言うと、すぐに若村先生の元へ向かった。
「若村先生、佐野さんのお宅にお伺いしましょう。私、電話を聞いて分かったんです。佐野さんも彼女のお母さんも、どちらもすごく優しい方なんだって。だからこそ苦しんでいる。私、あの2人とちゃんと話がしたいです。」
「ええ、行きましょう。」
若村先生が答える。
私たちは佐野さんの自宅へと向かった。
ご覧頂きありがとうございます。
第4話ではヤングケアラーの物語を書いてみました。
現在、日本の高校生の約17%がヤングケアラーと言われています。
自分では気付かなかったり、助けを求めにくい人も多くいるはずです。
この物語が、どうかそういった人たちに届きますように。
※今回は書きたい内容が溢れてしまい、前後編という形になりました。
後編も是非読んで頂けると嬉しいです。
また、引き続き今作の応援をよろしくお願い致します。