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第3話 キャッチボール

ある朝、相談室へ向かうと扉の前に1人の男の子が立っていた。


彼は私の存在に気付くと、一目散に走り去ってしまった。


「もしかしたら、悩みを抱えているのかな?」


そう考えながら校内新聞を開くと、『県大会突破! 地方大会出場は確実に!!』という見出しで野球部の特集が載っている。


「あれ?」


私は1枚の写真を見て驚く。


写真には、肩を抱き合って地方大会出場を喜ぶ生徒たちが写っているのだが、その中の1人に先程の彼がいた。


私はすぐに野球部の顧問、北島元輝きたじまもとき先生の元を訪ねる。


すると


「彼は、2週間ぐらい前から急に練習に来なくなったんです…」


と彼について教えてくれた。


先生によると、彼は2年D組に所属する中野勇太なかのゆうた

1年生から野球部に所属しており、真面目で練習熱心で、県大会ではピッチャーとして3試合に登板したそうだ。


しかし、地方大会への出場が決まってから急に練習に来なくなり、理由を聞いても答えてくれなかったそうだ。


「きっと、地方大会出場が彼のプレッシャーになっているんだと思うんです。」


そう話す北島先生


「なんせ、双宮高校の野球部が地方大会に行くのは久しぶりの事なんです。それに彼は、次期部長の候補でもある。きっと彼は、先輩たちに追いつこうとしてイップスに陥っているのではないかと…」


「なるほど。」

事態は思っていたより深刻かもしれない。


「分かりました。私が彼と話をしてみます。」


そう言うと相談室に戻り、ある人に電話をかける。


プルルルルル


「もしもしお母さん、アレってまだあったっけ?」


次の日


彼は今日も相談室の前にいた。


私は、走り去ろうとする彼に


「ねえ、中野勇太くんだよね?」


と声をかける。


「どうして、僕のことを?」


「北島先生から聞いたよ。いつも練習頑張ってるって。この間の県大会でも凄かったって…」


「僕は、凄くなんかないんです。」


彼が口を開く


「僕なんて、先輩たちより強くないし、みんなをまとめることだって出来ない。僕には、僕には…」


「ねぇ中野くん、私と一緒にキャッチボールしない?」


「え?」と驚く彼


「実は私、中学の時ソフトボール部に入っていたんだ。まぁ、1回も試合には出たことなかったけどね笑」


と彼にグローブを渡す。


「良い…ですけど」


彼が答えると、私たちはグラウンドに出た。


「いっくよ〜 それ!」


と私はボールを投げる。


しかし、中学以来、1度もボールを触っていなかっただろう。

ボールは見当違いの方向に飛んでいく。


「あれ?」と私が答えると


「足は投げたい方向に真っ直ぐ、体は横にひねると飛びやすくなりますよ。」と優しく教えてくれる彼。


そうして10分が経った頃には、もう暗い顔をした彼の姿はなかった。


「先生」


不意に、彼が私に話しかける。


「僕、最近ずっと焦っていました。先輩たちに追いつこうとか、良い部長になろうとか。でも、先生とキャッチボールをしていて気がつきました。僕は、楽しいから野球を続けているんだって」


そう話し、屈託の無い笑顔を見せる。


「中野くん、確かに私は1度も大会に出たことはなかった。でも、ソフトボールをしている時が楽しかった。だから続けられたんだと思う。多分、野球部のみんなや北島先生も同じ。だから、私とキャッチボールをしてくれたみたいに、みんなと『会話のキャッチボール』をしてみて。そうしたら、君の気持ちはきっと分かってくれるはずだよ。」


「本当ですか?ありがとうございます!」


と彼は深々とお辞儀をする。


数日後、校内新聞を見ると野球部の記事が載っていた。

どうやら地方大会では初戦で敗退してしまったそうだ。


しかし、写真には悔しみながらも笑顔を見せる、彼の姿があった。

ご覧頂きありがとうございました。

第3話は書きたい事が溢れてしまい、投稿時間が遅くなってしまいました。(楽しみにして下さっているみなさん、お待たせして申し訳ございません。)


ですが、今後も双宮高校の物語を書いていこうと思いますので、引き続きよろしくお願いします、

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