第1話 市立双宮高校
「光、光ッ!!」
パトカーや救急車が並ぶ住宅街の一角で、私は叫んだ。
「光、どうして…お願い返事してよ!」
病院に運ばれる光に、私は何度も呼びかけた。
「明莉、ごめんね」
か細い声で、光が呟く。
「光、光ーーーーーーッ!」
ピピピピピピッ
-夢か-
あの日以来、時々悪い夢を見ることがある。
自分では立ち直ったつもりでも、ふとした時に、あの時の事を思い出したかのように…
「落ち着け、明莉!!」
そう心の中で呟きながら、首を横に振る。
そして身支度を済ませ、駅まで歩いた。
程なくして電車がやって来た。
私はそれに乗り込み、出来るだけ気をそらせるように音楽を聴いた。
やがて、電車はある小さな駅に停車した。
「近くに美味しいお店とかないかな?」
そんな事を考えながら歩いていると、小高い丘の上が一面、美しい桜色に染まっていた。
季節は4月、ちょうど桜が綺麗だ。
私は坂を駆け上がり、ひときわ色の濃いところまで一直線に走り抜けた。
すると、桜の木に挟まれる形で門があるのが見えた。
門には「市立双宮高校」と書かれている。
その門の前に立つと、初めて来た場所なのに、どこか懐かしい気がした。
そして、私は1枚の名刺を取り出す。
そこには「槇村光希」という名前が書かれていた。
「きっと、槇村さんのおかげかな?」
結局、私はあの後一度も槇村さんに相談することはなかった。
でも、あの時の槇村さんの姿が忘れられず、いつもお守り代わりに持ち歩いている。
名刺をしまい門をくぐると、制服に身を包んだ沢山の生徒たちがいた。
これから始業式が始まるのか、手には体育館シューズを持っている。
そんな生徒たちの姿を眺ながら、改めて問いかける。
-槇村さん、お母さん、光…私、頑張るよ!-
ここにスクールカウンセラー、月ヶ瀬明莉が誕生した。
ご覧頂きありがとうございました。
いよいよ双宮高校での日々がスタートします。
次回作からは、明莉が働く双宮高校の個性豊かな生徒たちも登場します。是非ご注目ください!!