第0話 出会い
-もう何日経っただろう-
変わらない景色を前に、私は呟いた。
薄暗く散らかった部屋は、まるで私の心みたいだ。
不意に、1枚の写真を手に取る。
そこには、私と一緒に笑顔でピースをする女の子がいた。
「光…」
その女の子の名前を、語りかけるように呼びかける。
丁度その時
「明莉、ご飯できたわよ」
母の声だ。
「ドアの前に置いといて」
素っ気なく答える。
「明莉、辛いのは分かる。 でも、光ちゃんは今のあなたを見てどう思う? 光ちゃんはこんなこと…」
「お母さんには関係ないでしょ ほっといて」
またやってしまった…
すぐに罪悪感に苛まれ、ベッドに横になる。
次の日
「ねえ明莉、今からお母さんと出かけない?」
「え?なんで?」
突然の事で驚いた。
「あなたに会って欲しい人がいるの」
言われるがままに着替えて、何日かぶりに外の空気を吸う。
そのまま母の車に乗って、着いたのは近くの市民会館だ。
「ねぇお母さん、どういうこと?」
「着いたら分かるわ」
母はそう言い、1つの部屋の前で止まった。
扉には「カウンセリング講座」と書かれている。
中に入ると、白衣を着た30代ぐらいの女性と、おそらく聞きに来たであろう人が既に何人かいた。
白衣を着た女性は自らを「槇村光希」と名乗った。
その後ろには「双宮高校スクールカウンセラー」と表示されたプロジェクターがある。
「今日はみなさんに、カウンセラーとはどんな仕事か、悩みとどう付き合えば良いかについてお話しします。」
そんなこと聞いたって、何も変わらないのに…
そう考えているうちに、講座はあっという間に終了した。
私はもどかしい気持ちを抱えながら、部屋を出ようとする。
すると、
「あなた、何か悩んでいることはない?」
槇村さんが話しかけて来た。
「特に…ない…です」
本当のことを言えなかった。
「そう。 もし悩んでいることがあったら、私で良ければ相談に乗るよ。」
そう言って彼女は名刺を渡した。
その時の、笑顔の中にある、どこか力強さを感じるまっすぐな瞳に、私はハッとした。
-こんな事してちゃダメだ-
私は直感的に感じた。
私は、確かに光を助けられなかった。
その事をずっと悔やんでた。
でも、これから光みたいな子達を助けることはできる。
「槇村さんみたいなカウンセラーになりたい」
私の心の中に、湧き上がってくる何かを感じた。
-槇村さん、お母さん、光…教えてくれてありがとう。私、頑張ってみる!!-
ご覧頂きありがとうございます。
第0話は、明莉がカウンセラーを目指したキッカケについての物語です。
次回からは双宮高校での物語を書いていこうと思います。
成長した数年後の明莉に、是非ご期待ください。