第8話 私の使命(後編)
捜索を始めて20分余りが過ぎた頃
「あれは!!」
私の目に飛び込んだのは、橋桁でうずくまる少女の姿。
その足元には、丁寧に揃えられた靴とコンビニのレジ袋が置かれている。
私はすぐに自転車を停め、少女へと駆け寄る。
少女は虚ろな目をしていて、その身体は震えている。
すると、私の存在に気付いたのか、急に立ち上がり欄干へ足をかけ始める。
「危ない!!」
私はすぐに彼女の手を掴み、橋桁へと引き上げる。
「いやー! 離して! 死なせてよ…死なせてってば!!」
「死んじゃダメ!! あなたには心配している家族や友達がいる!! それに、あなただって本当は…」
「私の何が分かるって言うのよ!! 私のことなんか放っといて!! 良いから死なせてよー!!」
「確かに、私はあなたでは無い。だから、あなたの気持ちを理解することはできない。」
「だったら!!」
「でもね、私も死のうとした事があるの。」
「え?!」
「高校生の時に、私の親友が自殺したの。その時、私は『自分も死ねばその子のところへ行ける』って思った。でも、私は死ななかった。なんでだと思う?」
「えっと…分からないです…」
「自殺した親友は、ずっと前から精神疾患に苦しんでいたそうなの。でも、私達には心配をかけたくないからと、その事をずっと黙っていた。そんな子が、私に死んでほしいなんて思う?」
彼女は首を横に振る。
「それに『生きていれば、その子と同じ様な人を助けることができる』と思ったの。あっ、まだ言ってなかったわね。私、双宮高校スクールカウンセラーの月ヶ瀬明莉。狭山胡桃さんだよね?」
「はい…」
弱々しい声で彼女が答える。
「狭山さん、あなたは死んではダメ。あなたが死んだらみんなも悲しむ。それは私が一番よく分かっている。」
「すみません…」
「謝ることではないわ。だって、私にはあなたを咎める資格なんてないから。」
「私、本当は死ぬのが怖かったんです。コンビニに行って、買ってきた弁当をここで食べて、いざ『死のう』と思ったら、身体が…」
-光も、きっと同じだったのかもしれない-
「そうやって迷っていたら、月ヶ瀬先生が私を止めてくれて…話を、聞いてくれて…」
「そうだったんだ。思いとどまってくれて、本当にありがとう。」
程なくして彼女を捜索していたパトカーが到着し、彼女は警察官に保護された。
「胡桃ッ!!」
警察署で娘の顔を見た彼女の両親が、声を上げる。
「お父さん、お母さん!!」
「胡桃…良かった、無事で!!」
「お父さん、お母さん、心配かけて本当にごめん!!」
「私たちこそ、胡桃の気持ちに気付いてあげられなくてごめんね!!」
そう話す親子の姿を見ていると、いつの間にか私も泣いていた。
-もしかしたら、光もこんな感じで助けられたのだろうか-
そう考えると後悔の念も残る。
しかし、過去ばかり見ていても変わらない。
私は進み続ける。
私の"使命"を全うする、その時まで。
ご覧頂きありがとうございます。
いよいよ明日が最終話。
これまで応援してくださった皆様、誠にありがとうございました!!
そして、本作品を通じて皆様に命や社会問題について発信することができ、大変嬉しい限りです。