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第九話「石化」

 第九話「石化」


 ルシファーはリィンと彫刻店に来ていた。

 例の服飾店から新しくデザインした服が届き、ルシファーは黒いジャケット姿、リィンは盗賊の着る黒革のローブを着ている。

 開店前に店に飾る石の彫刻を探す為である。


「こんなのいいんじゃないか?」


 リィンが指さしたのは等身大のグリフォンの巨大な彫刻だった。

 グリフォンと言うのは前足と頭は鷲、胴体と後足はライオンの魔物である。

 狂暴ではあるが魔法生物であり高い魔力や魔術知識を持つ魔女や魔術師ならば手なずけることが出来る。


「店に置くには大きすぎる。それより僕はこっちの方がいいな」


 リィンはルシファーの視線の先を見て、悪趣味な者を見るような目でルシファーを見た。

 それは何かから逃げているようなリアリティ溢れる等身大の人間の像であった。


「ふぅん、店主、ここにある彫刻だがどこで手に入れた?」


「これですか?ある彫刻家から手に入れた逸品でしてね。申し訳ないんですが詳細は明かせない……」


 店主の男がルシファーとリィンを値踏みするように見渡す。

 するといきなり態度を変えてこう言った。


「ああちょうどよかった、これから仕入れに行く所なんですよ。一緒に行きまでょう」


「それはちょうどよかった。リクエストしたい作品があってね」


 こうしてルシファーは怪しげな彫刻家の家へ向かった。

 街の郊外にあるそこは洞窟を改造した石の家だった。

 いかにも彫刻家の家らしい家だ。

 そこには彫刻家の名前だろうかアーサーと彫られていた。


「ああ店主さん、今日はあの品しかできてないよ」


 アーサーらしき彫刻家は慎重な顔で答えた。


「ああ、この人達は大丈夫だよ。材料の方だからね」


「なんだって!?」


 ピカッ!


 リィンがその言葉に驚くと強烈な光に襲われた。

 リィンの体がみるみる内に石化していく。

 数秒後には美しいエルフの少女の石像があった。

 光の発生源の店主の手には蛇の髪を持つ緑色の肌のメデューサの首があった。

 その魔物の目から発せられる光を浴びた物は石になるという。

 この店主はこうやって仕入れをしていたのだろう。


「恐ろしいだろう?次は君の番だ」


 ピカッ!


「うおっ、まぶし!」


 思わず手で顔を覆うルシファーだが、体に変化はない。

 驚いた店主は何度も生首をふりかざすがルシファーは生身のままだ。


「やめろ!まぶしいだろ!」


 ルシファーが店主を軽く殴り飛ばす。

 本気で殴ったら店主が死んでしまうからだ。

 ルシファーにはこの店主に聞きたい事がまだあるので死んで貰っては困る。


「おい、店主」


「は、はい!」


 メデューサの石化光線が効かないルシファーを化物を見るかの様な目で見る店主。

 まあ実際化物なのだが。


「確かメデューサの石化を解くにはメデューサの血清が必要だったな。ここにあるのか?」


「たしか彫刻作るのにミスした時用に取っておいたのが……」


 店主がアーサーの方を見るが首を振るアーサー。

 どうやら人一人分を元に戻す量は残ってないらしい。


「やれやれ、じゃあメデューサの血を売っている場所を教えて貰おうか」


「メデューサの首は貴重な品で滅多な事じゃ手に入りませんよ。それに価格もべらぼうに高いとか……」


 お前のせいだ、責任取ってなんとかしろと言いたいルシファーだったが、この店主の様子を見る限り無理そうだ。

 こうなったら手段は最後しかない。


「分かった、直接採取に行くからメデューサの居場所を教えろ」


「ええ!?でも奴は狂暴だし石化してくるしとても私達で手に負える相手じゃ……」


「奴の攻略法は映画で知ってるんだ。早くしろ」


「映画……?」


 聞きなれない言葉に動揺する店主。

 が、ルシファーはそんなことはどうでもよく、戦いの準備をする為にルシファーズハンマーへと向かった。


 ―ルシファーズハンマー


 やっと我が家に帰って来たルシファー。

 しかしくつろいでいる暇は無かった。

 出迎えに来たカースがルシファーに深々と礼をする。


「おかえりなさいませ、ルシファー様。おや、あのエルフの小娘はいずこに?」


「リィンはどうでもいい。それよりミラーボールを取り外すんだ」


「ええ!?せっかくつけたのにですか?」


「後でちゃんと戻すから、なるはやで頼む」


「承知しました……」


 ―数分後


「よいしょっと、結構かさばるな」


「こんな物がメデューサ退治に役立つんですか?」


 心配そうに疑いながらもルシファーに尋ねる店主。


「じゃあ逆に聞くがお前はどうやって倒した」


「そりゃあ何人もの冒険者が犠牲になって―」


「おかげで報酬も払わなくて済んだと。酷い奴だ」


「ち、違います!私は彼らの事を心配して……」


「彫刻家の家の奥の方に冒険者の石像が幾つもあった。あれを売り飛ばすつもりだったんだろう?」


「ううう……」


「言葉も出ない様だな。安心しろ、僕は悪い事が好きでね。なにしろ悪魔だから。」


「アクマ、ですか?」


 聞き慣れない言葉にきょとんとしている店主。

 しかし店主はこれ以上咎められないしバラされる心配もないと分かって安心していた。

 しかしルシファーの顔つきが変わり瞳が赤く光る。


「だがリィンは僕の所有物だ。僕の”物”に手を出したら容赦しないぞ」


「わ、分かりました!」


 ルシファーの不気味な瞳を見た店主とアーサーは恐怖に押しつぶされその目を直視できないでいた。

 アーサーと店主はメデューサに睨まれた方がマシだと感じた。



 ―メデューサの洞窟



 薄暗い洞窟の中をルシファー達は手探りで進んでいく。

 白い霧が立ち込めていて前が良く見えないでいた。

 すると店主の体に何かが当たる。


「お客さん、気を付けて下さいよ」


「僕はここにいるが?」


「私もここにいます」


 後方の離れた方からルシファーとアーサーの声がする。

 じゃあこの固い感触はなんだ?

 そう思った店主が近付いてみると、なんとそれは石化した人間だった。


「ひぃっ!?」


 店主は驚き走り出してしまう。

 そしてまたもや何かにぶつかった。

 今度は柔らかい肌の様な感触である。


「アーサーか?それともお客さん?」


 店主がソレに近付くとソレは巨大な口と細長いチロチロした舌を店主の眼前に近付けた。

 するとルシファーが走ってやってきて店主の体を後ろに放り投げる。

 その直後、霧が晴れ、下半身は大蛇で上半身は緑色の肌の女性、髪は蛇の巨大な魔物が現れた。

 これこそメデューサである。

 メデューサの蛇の様な瞳が光りルシファーを照らす。

 しかしルシファーはなんともない。

 驚愕したメデューサは今度は尻尾でルシファーを叩きつける。

 ルシファーが片手でそれを防ぎ尻尾の一部をもぎ取ると、メデューサは霧の中に身を隠した。


 シャー!!!


「メデューサがきたぞ!」


 彫刻家のアーサーが叫ぶ。


「お客さんの言う通りにこの丸い奴に隠れるんだ!」


 店主がアーサーに指示すると二人はミラーボールの裏に隠れた。

 メデューサがミラーボールの前に現れ二人に石化光線を照射する。

 しかし間にあったミラーボールにそれは反射し、メデューサが逆に石化し始めた。


「おおっと、首は貰うよ」


 ルシファーは首まで石化が及ぶ前にメデューサの首を銀の短剣で斬り落とした。

 石化してからでは血液が取れないからである。


「ところでこれ石化の効かないお客さん一人でやった方がよかったんじゃ……」


「それじゃあ君達の怯える姿が見れないだろう?それにあの映画の真似もしてみたかったしね」


 確かに怪力や不思議な力の持ち主で石化も効かないルシファーなら一人で首を斬り落とせたろう。

 しかし彼はそうしなかった、自分の為に。

 店主とアーサーはこの客の知的好奇心と嗜虐心を満たす為だけに危険な目に遭わされたのか?

 一瞬抗議する案が頭をよぎったが、この客を怒らせたらメデューサを怒らせるよりも酷い目に遭うと恐れ店主達は沈黙を貫いた。


 そして彫刻家の家に着いた。

 ルシファーは鼻歌を歌いながら新鮮なメデューサの首から血を垂らしリィンの石像にかけた。

 リィンの体がみるみる内に生身の体に戻っていく。

 元の体に戻った瞬間、リィンは腰のナイフを頬を赤らめながら店主の首に押し付けた。


「私を石像にしてナニをするつもりだった!言え!」


「何って……普通に売るつもりでしたが―」


「おいおい、むっつりスケベエルフ、その辺にしとけ。それより店主、僕の所有物に手を出すなと言ったよな」


「へっ?」


「オシオキだ」


 ピカッ!


 ルシファーが手に持ったメデューサの頭を軽く握ると、その瞳から石化光線が店主に向かって放たれる。

 店主は一瞬にして石化した。


「さて、アーサー君。君もこうなりたくなかったら言う事を聞いて貰うよ」


「わ、わかりました!」


 アーサーはルシファーの言う通りに彫刻刀を振るい店主の体を改造した。

 そして……


「糞、覚えてろよ!」


「はは、結構似合ってるじゃないか」


 そこには無様な禿げ頭になった店主がいた。


「じゃあ店主、命を助けた上にこれだけの事をしてくれたんだ、当然割引してくれるよな?」


「へっ?」


「カーテンの奥の人間の石像さ。男女問わず美しいのを貰っていくぞ」


「ちょっとまて、この人達を助けないのか!?」


 リィンが驚いて反論する。

 てっきり助けるものだと思ったからだ。


「そんな事をする義理は無い。それにこの首だけじゃ全員分には足りないしね。一部だけ助けるのも不公平だろ?」


「この悪党め……」


「いいや、僕は悪魔さ」


 ルシファーの闇を垣間見て、本性はこういう男なのだと再認識したリィンであった。

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