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第五話「ブラッディパレス(血の宮殿)」

 

 ルシファーは服飾店を襲った盗賊からこの街に蔓延るライバルである有力酒場店達の情報を聞いた。

 酒場はそれぞれ「ブラッディパレス(血の宮殿)」、「ウルフズ・ウェア(狼の毛皮亭)」、「ウィッチ・ホール(魔女の館)」の三店である。

 今後のライバルである店達の情報を知りたいのもあるが噂を聞く限りどうも胡散臭い連中の溜まり場の匂いがする。

 どうやら最近その辺りで奇妙な変死体や失踪事件が立て続けに起きているというのだ。

 この街の警察機関はどうやら獣や変質者の仕業と断定し、捜査を打ち切っているらしい。

 王都に近い最も栄えた厳重な警備のこの貿易街に魔物が入り込む余地など無いからという見解だからだ。

 ルシファーは現代も異世界も大都会程油断しきっていると感じ呆れながらも、

 そこに人ならざる者の魔物の存在を感じた。


「なるほど、ブラッディパレス(血の宮殿)か。夜しか営業しないって?吸血鬼の匂いがプンプンするな」


「吸血鬼って?」


 人外の存在に対し無知なリィンがルシファーに尋ねる。

 これだから世間知らずのお嬢さんは嫌だとルシファーは思った。


「鋭い牙で血を吸う化物さ。僕の世界の吸血鬼と同じならね」


「血を吸うだけか?蚊みたいな奴だな」


「そんなレベルじゃない。奴等は血を吸った奴を同じ吸血鬼にできる」


「仲間を増やすって事?」


「そうだ。だから大元を早めに駆除した方がいい」


「そうか、あの盗賊の言っていた血の無い牛や失踪事件はそいつらの仕業なのだな」


 善は急げと言う事でルシファー達はブラッディパレス(血の宮殿)に向かった。

 そこに血の洗礼が待っているとも知らずに……


 ―ブラッディパレス


 ブラッディパレスの入り口前にいる二人の黒服の見張り。

 その二人がルシファー達めがけて歩いて来る。

 時間帯は月の出ている夜、つまり吸血鬼の活動期である。


「放せ!」


 黒服に腕を掴まれたリィンが暴れる。

 一方でルシファーは黒服の先導に従い大人しく店内に入っていった。

 そこは古い洋館風のバーで男女入れ乱れ酒を楽しんでいた。

 しかしそれは酒のようで酒でない、人間の血そのものだった。


「ようこそ、ブラッディパレスへ、余所者さん」


「ああ、血吸いコウモリにようやく会えたよ」


 ルシファーは店主らしきオールバックのタシキードの男にブラックユーモアたっぷりのジョークを言い放つ。

 その瞬間他の店員たちが固まったように動かなくなり武器を手に持つ。

 今にもルシファーに襲い掛かろうとしている雰囲気だ。

 一方リィンはというと、その矛先が自分に向かわない様にただ祈るだけだった。


「君があの酒場を買収して新しい酒場を作ろうとしているのは知っている。私は紳士だがどんな小さい芽も摘んでおきたい質でね」


「同感だ。コウモリ達にうろつかれたらうっとおしくて敵わない」


「君とは仲良くできると思ったのだがね」


 オールバックの男が指を鳴らすとルシファーのそばにいた黒服の男がルシファーの首筋に噛みつこうとする。

 ルシファーは抵抗もせずそれを受け入れた。

 ルシファーは噛まれ血を少し吸われたが身体には何の変化もない。

 一方で噛みついた方の黒服の吸血鬼はもがき苦しんでいた。


「言い忘れていたが、悪魔の血は猛毒なんだよ」


「おい、オーナー。あんたは吸血鬼とやらにならないのか?」


「この身体は神が与えてくれた丈夫な体でね。その辺は心配いらないよ」


 ルシファーは余裕の笑みを浮かべると服の袖から銀の奇妙な刻印がされている短剣を取り出した。

 そしてそれで先程噛んできた黒服の吸血鬼を刺すと、吸血鬼は口や目や鼻から強烈な光を放ち絶命した。

 それはかつてルシファーが天使の頃から愛用していた剣であり、

 父たる神から授かった物でもあった。


「ところで君は弓は使えるか?」


「弓?エルフの里では一、二を争う腕だったが……」


「丁度いい。この特効薬付きの弓で奴等を射抜いてくれ。さすがに数が多くて僕も面倒だからね」


 面倒という事は時間はかかるが相手に出来るという事だ。

 ここで逆らってルシファーの怒りを買うのも得策ではないと感じたリィンは弓矢を受け取り加勢する事にした。


「矢じりになにか塗ってあるな……毒か?」


「触っても大丈夫だよ、死人の血だからね。奴等にとっては毒だが君達にとっては無害だ」


 ルシファーの話を聞いて安心したリィンは弓矢を構えると一人また一人と次々と吸血鬼を射抜いていく。

 強靭な肉体を持つ吸血鬼だが、体内に瞬時に毒が回り、次々と倒れていった。

 一方ルシファーはと言うと、吸血鬼バーの親玉である男に迫っていた。


「さて、この店から立ち退いて貰おうか。どうせ街の住人を巻き込んで吸血鬼にしてたんだろう」


「そうさ!この街はもうすぐ吸血鬼の楽園になるのさ!君の様な邪魔者がいなければね」


 吸血鬼のリーダーはどこから仕入れたのか現代の自動小銃であるM4を取り出すとルシファーに向けて乱射した。

 しかしルシファーは弾丸に被弾しながらも臆せず前進する。

 ライフルの弾が撃ち終えた数秒後、弾は身体から排出され傷口は塞がっていた。

 着ていたコートはボロボロだが。


「全く、借り物のコートを台無しにしてくれたな。この代償は高くつくぞ」


「ひ!?」


 ルシファーはその赤い目を光らせ本当の悪魔の顔を吸血鬼のリーダーに見せる。

 その顔を見た物はこれまでの罪悪感に押しつぶされ恐怖で頭が埋め尽くされるという。


「さて、こっちは終わった。手を貸そう」


 ルシファーが指揮者の様に手を振ると銀の短剣が宙を舞い残りの吸血鬼たちを串刺しにした。

 そこには大量の黒服の吸血鬼の死体が転がっていた。


「奴等は日光に当たると消滅するんだ。死体処理も兼ねて外に運び出そう」


「分かった」


 リィンは弓を床に置くとルシファーと一緒に十数人の吸血鬼の死体を外に運んだ。

 明け方には灰になっている事だろう。


「この調子だと他の店も魔物達が経営してるのかな?」


 ルシファーが首を捻る。


「だとしたら難儀だな。もっと情報を集めないと」


 リィンがもう厄介毎はこりごりだと言う感じの表情をした。


 この異世界の情報を一挙に集めるにはこの街で唯一の巨大酒場にならなくてはならない。

 それに異世界の魔王の配下の魔物はやりたい放題でルシファーの計画に支障をきたしている。

 一刻も早くナイトクラブ、ルシファーズハンマー(悪魔の鉄槌)を開店しなければと意気込むルシファーであった。


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