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兆候

「三郎。本当に行くのか? 危険極まりないぞ」

「……あぁ。もしあの説が本当ならば見逃せないのだ」

 

 江戸への出立前。

 勘助と三郎は二人きりで話をしていた。

 

「気持ちはわかるが、東は落ち着かないぞ。上杉は越後を奪い取り、徳川と停戦。呼応する動きを見せつつある。伊達は伊達で独自に動き、東北を抑えた。徳川につかれたら非常に厄介だ」

「だが肝心の徳川家がまとまっておらん。信康に味方する人間が現れれば更に徳川家は乱れる。付け入る隙も出るだろう」

「……らしくない、な」

 

 勘助は暫く考えた後、話を切り出す。

 

「……らしく無い……か」

「……どうした?」

「これを見ろ」

 

 勘助は文を取り出した。

 文というよりも覚え書きのような物だった。

 そして、今この世界では見ることは無い現代の文字で書かれた物だった。

 

「何故現代の……いや未来の文字なんだ?」

「……俺が読めるように、だ」

 

 その勘助の言葉に三郎は疑問を浮かべる。

 

「……全く意味がわからんぞ」

「……オカルトな話になるが、世界中には前世の記憶を持つ人間がいるという話がある」

 

 勘助は淡々と続ける。

 

「そして、それらは殆どが幼い頃の話。大体はある時を挟んですっかり前世の話をしなくなる……忘れるんだ。恐らく、前世を持っていたら、自我が形成されるよりも前にそちらが現れる。そして、自我がしっかりと固まってきたら前世の記憶は不要となり、失われるんだ」

「……勘助、まさか……」

 

 勘助は頷く。

 

「……俺は、黒田官兵衛としての記憶はもう殆ど無い」

 

 その言葉を聞き、三郎は驚きを隠せずに居た。

 しかし、勘助は続ける。

 

「徐々に官兵衛としての記憶が薄れてきた。熊本でお前とやりあった辺りからだ。そこから、段々と官兵衛としての記憶がなくなり始めたんだ。全て忘れる前に官兵衛としての記憶をできる限り書き込んだ。それがこれだ」

 

 三郎はその言葉を聞き、考える。

 

「思い当たる節が無いわけではない。ここの所信長の記憶が、おぼろげな所がある。現代の記憶ははっきりとあるんだが、戦国の記憶が薄くなってきてる」

「……自分が経験してない事が記憶にあるというのは人体として異常な状態だ。専門じゃないから分からんが、人として正しい在り方に戻そうとしてるんだろう。お前も感じてただろ? らしくない、とな。それは本来の人格である三郎が現れ始めた証拠だ。……俺もそうだった」

 

 三郎は深く息を吸う。

 

「……まぁ、無くなるものは仕方が無い……やれることをやれるうちにやっておこう。悔いのないように、な」

「……凄いな、割り切れるのか……まぁ良い、お前は段々と只の三郎に戻ろうとしている。信長である内にやれることをやれ。……俺は命を救われた恩は返す。生涯、秀信を支えよう」

 

 三郎は頷く。

 

「おそらく、信長としての記憶があるのも長くはないだろう。残せるものは残しておくと良い」

「……分かった。心残りも消しておこう」

 

 かくして、三郎の決意は固まった。

 三郎は信康の出陣を待たずして、江戸へ旅立った。

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