第99話(記憶)
レアとレイは、リウの負の遺産処理も含めて、ラーナベルト総帥のもとを訪れる。
更には、弟の様な存在の一族であるクリスのもとも。
そして、リウの記憶を辿る為、実家である総帥の御屋敷を訪問するのであった......
惑星アルテミスを出発した貨客船は、1週間後に惑星ヘーラーの民間宇宙港に到着した。
下船するレアとレイカー。
その足で、アーゼルタワーに向かう。
多忙な総帥と面会出来る時間が、到着早々しか無かったので、直接の訪問となってしまったのだ。
リウが最後に総帥と会ったのは、ネイト・アミューへの出征前。
それから既に約6年の月日が流れており、その後リウはクロノス星系に戻って来ても、総帥と会うことは無く、そのままこの世から消えてしまっていた。
案内されて、総帥室に入った2人。
久しぶりに見るラーナベルト総帥の姿は、相当年老いた様に、レイカーは感じたのであった。
「久しぶりだな、レイカー」
「それと......レアさんだったかな? リウの代わりの存在の」
事情は、エルフィン人の指導層の一人であるAA・アーガンより聞いていた総帥。
「お初にお目にかかります」
レアが先に挨拶をしてから、
「総帥。 お久しぶりです。 最後にお目にかかってから、ご無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした」
とレイカーが謝罪をする。
「リウが消えた以上、レイカーの護衛の役目も終わったということになるな。 15年以上に渡る我が孫に対する任務、本当にご苦労だった」
総帥が感謝の言葉を述べてから続けて、
「今日の用件は、リウの借金と財閥の特殊株式の件だよな?」
総帥は2人の訪問目的を予測していたのだ。
「その通りです。 彼女が想像以上の借金を残したままだったので......」
レアは困惑した表情で答える。
「リウの遺産相続の件に関して、私からの提案は2通りある。 一つは特殊株の返還と同時に、借金の残額を帳消しにするというもの」
「もう一つは、借金はそのままで、私が死ぬ迄の間だが、リウが所有していた特殊株を2人に期間限定での相続を認めるというもの。 リウの所有分は、元々私の所有分から娘の生活を支える為に貸し出したものだからな。 私が死ねば跡を継ぐ者に返さねばならないのだ」
総帥はその様な提案をした。
「有り難い提案に、感謝致します」
レイカーが礼を述べる。
「もう一つ、別の提案もあるぞ」
珍しく、総帥が少し笑みを浮かべて切り出す。
「レアさんが、私の後継者となることだ。 貴方の中にはリウが居るし、外見はリウと同じ。 血統的に相続出来る立場に有ると言えなくもない。 そして秘めたる能力は、アーゼル財閥のみならず、三国同盟に存在する全ての企業を貴方一人で運営しても、十分な余力があるくらいだと聞いている。 どうかな、この話は?」
それに対してレアは、
「私は特別な存在です。 有り難いお話ですが、私が関与することで、特定の人達だけが極端に有利な状況となることは避ける様に、初期設定が為されているのです。 私が総帥の後継者となると、私の能力には制限が掛かってしまうので、お役に立てないと思います」
と答えて、残念そうに断るのであった。
「それと、もう一つお願いが有るのです。 リウが契約して私が請け負っている、アーゼル財閥の事務処理についてです。 リウが契約していた金額のままでは、大赤字なので、価格を改定致したいのですが......」
「そのことか。 あんな安価では、当然赤字だろうな。 その件は私ではなく、今から呼ぶ人物と交渉すれば良いだろう」
総帥はそう答えると、側近に誰かを呼ぶ様に指示をしていた。
やがて、総帥室に現れたのは、
ディオ・アイザール
であった。
「先輩。 お久しぶりです」
レイカーがその場で立ち上がり、挨拶をする。
「久しぶり、レイ。 リウを命懸けで護ったのだろ? ほぼ死んだと聞いていたけど、よく無事に生き返ってきたな」
ディオは嬉しそうに返事をすると、レイカーのもとに歩み寄り、握手を交わす。
「それと、レアさん。 会うのは二度目ですね。 今までリウのことを支えてくれてありがとうございました。 今後はリウとレイと一緒に、私達のことを見守ってくれると有り難いです」
ディオは続けて感謝の言葉を述べて、レアとも握手を交わす。
その会話を聞いていた総帥が、
「アイザール殿。 私が2人に言おうとしたことを全部先に言われてしまったよ」
笑いながら、そう言ったので、
「すいません、総帥。 既に挨拶は交わされていると思っていたので」
「いや、いいんだ。 君とレイカー、レアさんは、リウを支えてきた大切な仲間なのだからな。 積もる話もあるだろうから、別室でどうだ? 私はこの後、用件が立て込んでいるのでな」
総帥は3人に勧めてから、隣の特別控室を側近に開けさせたのであった。
別室に移動してから、
「ディオ。 請け負っている財閥関係の事務処理だけど、値上げをさせて貰うよ」
レアが先ず本題を切り出して、単価を3倍に値上げするという提案書を渡す。
「いきなり3倍か」
渋い表情で提案書を読むアイザール。
「これでも、まだ安いくらいよ。 私はエネルギー効率が特別良い訳では無いので、事務処理時にかなりのエネルギー消費をするの」
「わかりました。 この値段で良いですよ」
アイザールが答えると、
「流石、ディオ。 やっぱり優秀な人は話が早いね~。 軍と違って」
レアはそう言いながら、座っているアイザールの後ろに回って抱き着く。
「そういうところは、やっぱりリウと同じですね」
アイザールは、レアの行動に対する感想を述べると、
「ところで、軍っていうのは?」
「この間、レイを通して、価格改定交渉したのだけど、渋くてね~。 赤字じゃ請け負えないって突き返したのよ」
レアはディオに説明すると、
「お役所は、そんなものでしょうね。 予算の関係上、いきなりの大幅値上げを受け容れるのは、折衝を重ね続けないと」
との答えを頂く。
「そんなものだよね。 粘り強く交渉するか〜」
レアも納得する。
「先輩。 もし、アウローラ社をアーゼル財閥に売却するって言ったら、どれぐらいの条件を提示して貰えますか?」
レイカーが突然の提案をする。
「レイ、アウローラ社売却を考えているの?」
初耳だったレアが、レイカーの意思を再確認する。
「リウの借金を減らす手段として、やっぱり必要だよね?」
レイカーが理由を答えたので、
「わかったわ。 条件次第ね」
レアも承諾する。
「アウローラ社か〜。 今、ネイト・アミューは一番伸びている星域だからな。 相当良い条件が提示出来ると思うぞ」
ディオも目の色を変えて、乗り気の様子を見せる。
「他社にも、打診するのか?」
「とりあえず、LSグループにね」
レイカーがそう答えると、
「競り合わせようって気だな?」
「申し訳ありませんが、僕達も背に腹は代えられないので」
「私達、世紀の大借金王だからね」
レアが気に入っているフレーズをまた喋ったので、
「何、それ」
と言って、ディオが笑い出す。
「確かに、リウの借金は個人として多過ぎるけど、リウの資産からすれば、チャラになるぐらいでしょ? レイにはかつてリウが貰う報酬の一部を受け取った大金も有るのだから、当面生活に困ることは無いと思うよ」
「普通ならば、そうでしょうが、レアのエネルギー消費代金が尋常では無いので」
レイカーが困っている状況を説明する。
「それならば、アウローラ社を売却する条件として、財閥の株式と交換でというのはどうだ? 一時的に大金を受け取るよりも、継続的に配当が入って来る方が、ずっと続くレアのエネルギー代金の支払いに困ることも少なくなるだろ?」
アイザールはレイカーに具体的な提案をする。
「その方が良いでしょうね。 現在は年間30億ノイエドル支払っているので」
「それはちょっと多いな。 わかった、その方向で財閥内の議論を進めておくよ」
その後は、少しの間雑談が続く。
そして、別れの時が来た。
財閥の役員であるアイザールは忙しい。
「次は、アウローラ社の売却交渉の席で」
レイカーが、ディオと握手をしながら約束をすると、
「レイも長い間、ご苦労様だったね。 リウ様の護衛任務」
と労いの言葉を掛ける。
「なんだか、その言い方だと、私が随分迷惑掛けてきたみたいに感じる」
レアは少し不満そうで有ったが、
「ディオも元気でね。 私達は今後何処に行くかわからない放浪者だから、いつ会えるかわからないけど」
そう言うと、レアも笑顔で固い握手をする。
「じゃあ、また」
去り際に最後の言葉を交わすと、レアとレイカーは手を繋いで、ディオに手を振りながら、総帥の執務室をあとにする。
見送るディオ。
その目には、少し涙が滲んでいる様に見えたのだった。
親しかった者だけが感じるレアとリウの違い。
ディオ・アイザールもその差異に気付いていたのだ。
だから、リウ・アーゼルはもう存在しないという実感が沸き上がってきたのであろう......
「アイザール先輩。 やっぱりレアとリウの違いに気付いたみたいだね。 最後は寂しそうな表情を隠していたよ」
レイカーがレアに語り掛けると、
「そうなの? 私は気付かなかったけど......」
「レアとリウは、考え方や記憶、姿は一緒だけど、積み上げてきたものが異なるから、差異があるのは当然」
「それはね。 元は全く同じでも別人格だし。 先ず私は軍隊学校の経験が全く無い。 これだけでもだいぶ違うよね?」
「小さな差異だから、まあそのうち慣れるよ。 会う機会が頻繁に有ればだけど」
「頻繁に? 一生のうちにあと2〜3回ぐらいしか機会は無いと思うよ。 ディオはリウとの素敵な思い出を、そのまま抱き続けてくれれば、それで十分だから」
レアはそう答える。
全員が、リウとの記憶をレアに置き換える必要は無い。
良い思い出が沢山有る人は、そのままリウの記憶を書き換えないで一生を終えて欲しい。
それがレアの願いでも有ったのだ。
この日は、もう一人アポが入っていた。
それは、クリス・ラインシュトナー国防次官との面会であった。
このアポは、レアとレイカーが入れたというよりは、クリス側が2人が首都星系に向かう情報を何処からか聞きつけて、アポを持ち掛けてきたのだ。
参謀本部の建物内で会う予定であったので、時間前に受付を済ませた2人。
通り掛かる軍の関係者の中には、アーサ少将を見て驚く人が何人か居た。
それは、もう亡くなったと思われていたからだ。
元、方面軍だった関係者は、レアを見てビックリする人が何人も。
それは、亡くなった筈のリウみたいな女性がロビーに座っていて、リウ・アーゼルの生き写しだからである。
レアはお洒落をしていたが、それでもリウの顔をよく知っている人は同じ顔だと気付くので、驚かざるを得ない。
そんな感じで、2人は通り過ぎる軍関係者を興味深く眺めながら待っていると、クリスがやって来た。
「ゴメンね。 待たせちゃって」
「クリス。 そっちからアポ入れて来たのでしょ? 若い女性を待たせるなんて」
わざとレアは嫌味を言ってみせる。
「いやあ〜、リウ同様に手厳しいなあ」
クリスは大袈裟に反応するが、
「とりあえず、行きましょうか。 ここは視線が痛いから」
レアがそう言い、
「亡霊が2人居るって感じだから?」
周囲の状況に気づいたクリスが、質の悪い冗談を言ったので、レアが冷たい視線で睨んだのだった。
「......」
応接室に案内されて、ひと息つくレアとレイカー。
「待っている間、結構、視線が来たね~」
「私なんか、亡霊を見た様な感じの反応だったよ」
レアがそう言って苦笑いをする。
「それで、レイの身分どうする? クリス」
さっそく本題に入ることに。
「予備役編入でどう。 現役復帰する気は無いでしょ?」
クリスの提案に、レイカーは、
「それでお願いします」
アッサリ了承の返事をしたことで、直ぐに決まってしまった。
「じゃあ、用件は済んだので」
レアがわざと早く帰ろうとして、立ち上がると、
「えー。 もう帰っちゃうの」
クリスは寂しそうな態度を見せる。
「冗談よ。 近況ぐらいは聞いてあげるから」
「新しい役職は、どうですか?」
レイカーからのクリスへの質問に、
「忙し過ぎて、嫌になりますよ。 大臣や長官に直接持って行けば良い案件まで、持ち込まれて」
「まあ、最初は仕方ないよ。 そのうちみんなが慣れれば、大臣、長官、次官への仕事の割り振りが確立されるでしょうね」
レアが真面目に答えたので、クリスが驚く。
「なに、その表情」
「いや、やっぱりリウに反応も似ているなって思ってね」
「それは、当たり前でしょ?」
「頭ではわかっていても、目の当たりにする迄は、信じられないものだからね。 レアの存在って」
「ところで話は変わるけど、ラインシュトナー殿」
「はい?」
「アウローラ社を売りに出したら、買ってくれる?」
レアはクリスに、財閥でレイカーがディオに出したものと同じ提案を、突如持ち掛ける。
「唐突な話だね。 LSグループとしてってこと?」
「そう。 さっき、アーゼル財閥には同じ話を持ち掛けたよ」
「そうなの?」
「LSグループの代表として、興味あるかなって思ってね」
「そりゃあ、興味はあるよ。 当然」
クリスはそう答えながら、リウが創設した企業の売却話を聞いて、
『金銭面で苦しんでいるのではないか?』
と思い、少し心配になった。
「そんなに困っているの、レア達って」
そこでレイカーが説明を始める。
「なるほど~。 リウの残した借金ね」
「レアのエネルギー消費代金がかなりの金額なので、借金を減らしておかないとと考えているのです」
「確かにね。 エネルギーを買うよりも、エネルギーの自給システム作った方が、安く済むんじゃない?」
「いずれは、業務請負も大きく減らす予定ですが、当面はリウが人生を賭して作り上げてきたものを、維持し続けたいのです」
「英雄の創造したものを維持するのって、確かに大変だね。 僕も実感しているよ」
そんな真面目な会話をしていたらと思ったら、いつの間にか話題は大きく変わっていた。
「クリスは独身だよね?」
レアが質問する。
「そうだよ」
「相手居ないの? 見た目良いし、才能もあるし、何と言っても大富豪だし」
「忙しくてさ。 誰かさんが僕を後継者に指名した影響もあって」
「それだけ?」
「一族から色々と紹介はあるよ。 でも、みんなLSグループとの繋がりが欲しいとか、ラインシュトナー家の財産に目が眩んでとかの女性ばかりでね。 僕自身の内面に興味を示してくれる様な人は皆無だった......」
レアはクリスの返事を聞いて、目つきが鋭くなる。
「はは~ん。 人間不信に陥っているな」
「いや、リウにだけは言われたく無いよね。 総帥と6年も会わないまま、消えちゃってさ。 流石に僕でも、年老いた総帥のことを可哀想に思ったよ」
「まあ、それはリウの問題であって、私は無関係だから」
「そうなの?」
「私は、総帥に毎日でも会えるよ。 お祖父様は大切じゃない?」
レアの言葉を聞いて、クリスは疑いの眼差しを向ける。
「なんだか、嘘臭い言葉だね」
「そんなこと無いよ。 今回の首都星系滞在中は、総帥の御屋敷で過ごすから」
その滞在先を聞いて、レイカーが驚く。
「えっ。 それ初耳なんだけど」
「だって、滞在費用浮くじゃない? 総帥も内心喜んでいるのだろうし、みんながハッピーになれるよ」
レアはこともなさげに、リウが生涯嫌がっていた『総帥』というハードルをアッサリ超えてしまっていたようだ。
「やっぱり、レアって凄いね。 リウが心の問題で出来ないことも、直ぐ出来るって」
「さっきレイも言ったじゃない? 私とリウは全く同一だけど、実経験の有無で差異が生まれているって。 私はお祖父様の折檻を受けた経験が無いからよ。 記憶は有るけどね」
レアはノンビリした様子で答えると、クリスの側近が持って来た茶菓子を食べ始める。
「なるほど。 やっぱりレアはリウと異なるんだね。 今の話で実感しました」
クリスは2人の会話を聞いて、自身の感じたことも併せて、得心した様子で頷く。
「失望した?」
「いえ。 全く同じならば、レアとリウを一つにする形式自体が必要無いですからね」
クリスは、万能で超越した存在のレアのコアに、リウが入る必然があるのは、今後ドンドン広がる差異に有るのだと気付かされたのだ。
「今の時代の人達には、あまり関係無いだろうけど、行き過ぎた自動化は度々暴走して、地球人類が存亡の危機に立った過去が何回かあるでしょ? それを防ぐ為よ。 私のコアにリウを据えることになったのは」
「コアにリウが存在しないと?」
レアの答えに、クリスがあえて質問をする。
その答えを予想していたが、答え合わせをしたかったのだ。
「私が人類を嫌いになったら、全ての自動化システムを乗っ取って、全銀河を支配し、人類を抹殺するかもしれないよね。 でもリウがレアのコアに居れば、それを防げるでしょ?」
お菓子を口に放り込みながら、自身の存在の危険性を平然と話すところは、リウ譲りの豪胆な態度であろう。
「そういう時代が来ないで欲しいなあ」
クリスがシミジミ漏らすと、
「それは、私のセリフよ。 これから永遠に続く様な時の中で、絶対にそういう危機が有るだろうから。 それを思うと今から憂鬱......」
「有るかなあ? 本当に」
「私が見るところ、地球人は同じ失敗を繰り返す傾向が強い種族だからね。 ああ、ヤダヤダ」
レアは、心の底から本当にイヤそうな表情をした。
「でも、レアが居れば、そういう危機が発生する可能性は低いんじゃないかな?」
レイカーも質問してみると、
「今の私って最新型の特別な生命体だけど、時間が経てば技術の進歩と共に陳腐化するよね? 旧型とか古物とか言われる様になったら、防げないと思うよ」
レアの答えを聞いて、遙か先の未来を想像するレイカー。
レアと一緒に、時の流れの中を歩き続ける永遠の旅人となるのだから、今までとは異なる視点や考えも必要となって来る。
「対応策は有るの?」
「絶えずバージョンアップしていくことかな? 私とレアー号がね」
レアはそう答えると、溜息をつく。
「何にせよ、私は常にお金の掛かる存在ってこと。 バージョンアップするのも、タダでは出来ないからね」
そして、話は少し戻り、
「クリスにお似合いの女性を見つけたら、紹介してあげるわ。 リウお姉様の代理としてね」
レアは最後にそう言うと、立ち上がってお暇することにした。
国防次官殿は多忙の身であるのだ。
「じゃあね。 そのうち」
レアはクリスに手を振ると、レイカーと一緒に参謀本部ビルを出て行く。
後ろ姿を暫く見送ったクリス。
やがて、気を取り直して、自身の職務に向かう。
そう、彼はリウから直々に指名を受けた後継者である。
英雄の名声が汚されぬ様に彼も、リウ同様一生努力をし続けなければならない立場に置かれたのであった。
その後、レアとレイカーは総帥の御屋敷に到着。
リウの記憶を辿って、慣れた様子で入って行くレア。
レイカーも大佐時代迄は、ここに住んでいた。
「あら、久しぶりね。 2人共」
総帥の妻、即ちリウの祖母が出迎えをする。
「お祖母様。 私はもう......」
レアがリウの代わりに、居なくなったことを告げようとするが、
「夫から話は聞いています。 ですから、それ以上は言わないで下さいね」
と言われてしまったのであった。
そして、客間に案内される。
広大だが、殆ど人気の無い屋敷。
「お祖母様は、こんな寂しい場所で、ずっと住んでおられるのね」
レアは、アーゼル本家の御屋敷の感想をそんな表現で示すのだった。
やがて、リウの部屋だった場所を見に行ってみる。
そこは、リウがアルテミス王室に寄宿生活をするまで過ごしていた部屋だ。
部屋の主が居なくなってから、25年程の時間が経っているが、時が止まった様な空間。
確かに男の子部屋だったという雰囲気で、女の子が使うような玩具や筆記用具等は一つも無い。
全体にグレー色や黒色のモノばかり。
そして、埃一つ無い状態で、維持されていた。
「ここがリウの部屋だったのか〜」
レアは、リウの陰の面が凝縮された様な空間をじっくりと確認する。
「女の子の人格形成には、間違った世界だね」
厳しい評価を下す。
「この空間が有って、帝國軍の侵攻が防がれたという見方も出来ると思うけど」
レイカーが独自の視点から感想を述べる。
「レイは、この部屋に入ったこと有るの? 以前はこの御屋敷に住んでいたのでしょ?」
「とんでもナイ。 リウお嬢様の部屋に入れる立場ではありませんでしたよ。 僕は総帥の側近ですから」
「そうだよね。 じゃあ、私と一緒だね。 今日が初めてで」
レアは少し笑みを見せて、その後も色々と見て回る。
「日誌だ」
昔から有る、自筆で書き込むタイプの日誌。
おそらく、字を書く練習も兼ねていたのだろう。
しかし、レアは中身を見ることは無かった。
「読んでも良いのでは? レアはリウなのだから。 それとも、引き継いだ記憶に残っているの?」
レイカーがそう確認したものの、
「流石に、幼少の頃の日誌の内容迄は、リウの記憶にも残っていないよ。 でもコアから、『見ないで』ってリウが言っている気がするんだ。 だから、遠慮しておくことにするね」
レアはそう答えると、その後も部屋の様子を気の済む迄、見て回るのであった。
それからは、珍しい客人をリウのお祖母様は丁寧に饗す。
「最近は、ここを訪れる方も殆ど居ないのよ」
元々、ラーナベルト総帥は華美な雰囲気を好む人では無い。
質実剛健という感じが強く、リウが暮らしていた頃から、訪問者は多く無かった。
「お二人が本当に久しぶりの来客なのよ。 帰られる迄、我が家だと思って、ゆっくりして行ってね」
リウのお祖母様は、レアとレイカーにそう言い残すと、若い2人の邪魔をしちゃいけないと、客間を出て行く。
「リウにとっては、この御屋敷は負の空間だったのだろうね」
レアがレイカーに確認する。
「そう言っていたよ。 絶対に戻りたくないって」
「なんとなく、わかるな~。 リウの快闊さとは正反対な場所だよね」
レアは、もちろんリウの考えや気持ちを引き継いだ存在で有るので、そうしたことは全て知っていた。
しかし、実際に来てみて体験すると、その気持ちがより理解出来たのだ。
「イイ勉強になったよ。 どうやってリウ・アーゼルという女性が形成されていったのかということのね」
『レアは、それを実感したくて、あえて今回、総帥の御屋敷を滞在場所に選んだのだろう』
レイカーにも、ようやくレアの意図が理解出来たのであった......




