第92話(希望の光)
クーデター派は、首都星系クロノスに設置されている星系シールド装置指揮室を押さえて、シールドを張ることに成功した。
シールドの突破方法に悩むルー中将達。
すると、市民の中からクーデターに抵抗する運動が起こり、『希望の光』が見え始めていた。
クーデター派は、クロノス星系全域を防御するシールドシステムの指揮室占拠に成功し、シールドが張られる事態となってしまった。
それを聞いた第2艦隊は、ネイト・アミュー方面軍と合流すべく、クロノス星系外縁から少し離れたポイントで待機することとした。
すると、第6艦隊になる予定の独立艦隊から、合流するとの連絡が入ってきたのだ。
「独立艦隊は指揮官が居ないよな?」
第2艦隊司令官のホーウィン中将が参謀長に確認する。
「はい。 方面軍は幹部に退役者が出た影響で、准将以上の将官が少ないことから、独立艦隊は大佐が最上位者です」
「それだと、独立艦隊の今回の出動は誰の指示だったのだ?」
その答えは、合流後に判明した。
独立艦隊に情報部長代理のクリス・アーゼル少将が搭乗していたからだ。
「司令長官代理。 どうもご無沙汰しています」
アーゼル少将が第2艦隊旗艦火竜に説明の為、やって来ていた。
「少将。 どうして独立艦隊に?」
「ジン大佐を通じて出動依頼をして、ケイロン星系で合流したのです」
「ジン大佐?......この間アーゼル中将が首都星系に異動させた人物だったな」
ホーウィン中将も名前に聞き覚えがあり、思い出したのだ。
「独立艦隊には、アーゼル中将とルー中将連名の命令書が発出されており、今回の出動もそれに基づいた正規の軍事行動です」
少将はその様に説明をして、命令書をホーウィン中将に差し出した。
それを確認して、少将に返すと、
「ということは、今回のクーデターを予想していたということになるのかな?」
中将はその様に質問をした。
「まあ、そんなところですね」
そう答えると、
「長官代理。 独立艦隊は、私が臨時の司令官代理ということでよろしいですか? 司令官不在の艦隊なので」
アーゼル少将がそう申し出ると、
「貴官は、艦隊指揮の経験は無かったのでは?」
「はい。 ですから、実際の指揮はジン大佐に采らせます。 先日の戦乱で40隻ですが、新型艦艇部隊の指揮を采った経験がある人物なので」
「そうか。 それで名前を聞いたことが有ったのだ。 思い出したよ」
ホーウィン中将はそう答えた。
そして、
「なるほど。 アーゼル中将はこの日が来ることを予想して、ジン大佐を畑違いの情報部に異動させたのだな?」
「いやあ、そこまで先を読んでいた訳では無いと思いますが......」
『高い名声って怖いな。 そういう風に思われるんだ』
リウが、そこまで未来を予想していたとは、流石に思えない。
ただ、艦隊指揮の経験が無いクリスの為に、アドバイザーとしての役割ぐらいは、考えていたのかもしれない。
ホーウィン中将の言葉から、そんなことを考えていたアーゼル少将であった。
「それでは、少将を臨時の独立艦隊司令官に任命する。 非常時だからな」
結局、司令長官代理命で急遽の役職兼務が発令されることとなった。
「ところで、少将。 ここに居るってことは、クーデターの発生を事前に知っていたということだよな」
「ええ、まあ」
「それであるのならば、クーデター派にシールドシステムを取られたのは、ちょっと不味いとは思わんか?」
「それぐらいは、花を持たせてやらないとですね」
少将がそう答えたので、少し驚く中将。
「わざと、シールドシステムの指揮室を占拠させたと?」
「わざとでは有りませんが、防ぐ努力は特にしていません」
「どうして?」
「クーデターに参加した士官全員を追放する為です。 ノイエ軍は今変わらないと、他の2カ国から見捨てられますよ。 リウ・アーゼルが居なくなったら」
その答えに少し考え込む中将。
「それでは、クーデター派にシールドシステムを使わせて、首都星系に住む国民を人質に取らせ、その大罪をもって処断すると?」
「そういうことです」
「私も、主流派とか言っている連中のことは嫌いだが......シールドシステムを破る勝算は有るのか?」
「いえ。 シールドシステム指揮室を再奪取すれば、クーデター派は直ぐに敗北するでしょうが......」
そして、少将は今後の方針を話し出す。
「クロノス星系の内側からも、クーデター派に抵抗する者が大勢出て来ます。 シールドを張ったままだと、クロノス星系は飢えてしまいますので」
「これから、ルー中将を始め、クーデターに抵抗する皆さんがこの場所に続々と集結することでしょう。 そして、皆の英知を集めて、シールドの外側から攻撃し、内側からも抵抗する人が居れば、必ずシールドは解除されます」
「リウ・アーゼル中将は?」
「彼女はここに来ません。 それに彼女が来たら、クロノス星系のシールドは、直ぐに解除されてしまいますよ」
「それならば、早くアーゼル中将に来て貰って......」
「今回の事態は、みんなで解決しなさい。 それが今回彼女から出された宿題です」
「宿題って......クーデターだぞ?」
「ノイエ軍は彼女の力に頼り過ぎです。 かつてはその提言を一顧だにしなかったくせに、彼女の正しさが証明され、その名声が高くなると、今度は頼ってばかり」
「終いには、先の戦乱といい、今回のクーデターといい、火遊びばかりしている。 だから彼女も愛想を尽かしているのです。 ノイエ軍に対して」
クリスは辛辣な言葉を連ね、ノイエ軍の現状を批判をするのであった。
「まあ、そんなことを言っても、今は仕方ないですから。 第5艦隊は再びクーデター派の手に墜ちました。 シールド外には出て来ないでしょうが、戦う準備もしなければなりません」
最後にそう言うとクリスは挨拶をして、ホーウィン中将のもとから、独立艦隊の戦艦アンダインに戻ったのであった。
「しかし現状、シールドを破る手段が無いな」
少し呟きながら、考えを纏めることにした。
クーデター派も、シールド指揮室の占拠が自分達の生命線だということで、戦力を集中させているだろう。
簡単には破れない。
アーゼル少将も、工作員を準備しており、いざとなったら投入する予定である。
『リウなら、どうするのだろう』
そんなことも勿論考える。
『おそらく、レアの力を使って制御を奪い、あっという間に終わらせるのだろうな』
この推測は当たりであった。
『ただ、それは特別な力を用いた解決法であり、今後、リウやレアの力を頼れない場合を考えると、採るべき手段ではない』
その様に考えていた。
『制御プログラムに仕掛けをしておけば良かったのにと、リウに言われそうだな』
今回は時間が無くて、そこまでは出来なかったのだ。
『まあ、暫くは状況の変化を見守ろうか』
当面の結論は、その様に出して、戦力の集結を待つことにしたのだった。
4日後。
ルー中将の1個艦隊がクロノス星系外縁部に到着したことで、艦隊戦力での優位が確立された。
そこで、戦艦火竜で改めて、対応策の会議が開かれることとなった。
「まあ、リウからは自力で解決しろって、前々から言われているよ」
ルー中将は会議でその様に話を切り出した。
「ところで、方面軍総司令官は、何処に居るのです?」
ホーウィン中将は単純な疑問をルー中将に問い掛ける。
「いやあ、喋ったら処分するって言われているからなあ~」
そう答えて誤魔化そうとする。
「リウは、まさか......」
アーゼル少将が言い掛けると、
「少将。 それ以上は口に出すな。 ぐっと我慢しろ」
そう言って、笑いながら制止すると、
「おそらく、その結果、現在の各国の情勢が大きく変化する。 クーデター派は思いもしない結果にな」
ルー中将は暗に仄めかしながら答えると、
「現在のリウの行動の結果が出たら、我々もそれをもとに行動しよう。 それまでは、戦力の結集を続けることに徹する。 今回ばかりは内政問題で、同盟2カ国の協力を得るべきでは無いからな」
と結論を出したのであった。
実際問題、同盟三カ国の新型艦隊を結集させて、全艦艇一斉一点集中砲火を浴びせれば、シールドシステムを破壊出来ると予想されている。
ただ、それは最終手段である。
大して実力も無い連中のクーデターに、そこまでの応援を求めることになれば、益々ノイエ国と軍の威信に大きな傷が付く。
クーデター派がクロノス星系の国民に手を掛け始めたり、人々が飢えるという状況になって初めて許される強硬手段であった。
そして、この対策会議から3日後、コーダイ少将が率いる残りの方面軍艦隊もクロノス星系外縁に到着していた。
また、アーゼル財閥、LSグループを始め、その他多くのノイエ国企業の民間船や技術支援船、補給物資を積んだ貨物船等も、アルテミス王国やノイエ国の小星系から発進して、続々とクロノス星系外縁に到着していた。
「この支援船は、誰の呼び掛けによるものなのだ?」
ルー中将もホーウィン中将も、民間の支援が続々と寄せられている状況に、感謝の気持ちと嬉しさで、瞳を潤ませていた。
「ジャン・フォー・プロシード統一政府国家元首の呼び掛けによるものです」
到着する艦船の艦長達は、支援に来た理由を異口同音に、
「プロシード国家元首が、滞在中の惑星アルテミスで、『今回のクーデターは、ノイエ国が抱える問題を先送りして来た結果、発生してしまったものだ。 大戦後の新しいノイエ国を作りたいのであれば、国民一人一人が今出来る努力をして欲しい。 いつまでも一人の英雄に頼っていてはダメなんだ』と訴えかけまして。 我々も自分達の出来る支援を考えて、馳せ参じた次第です」
と述べるのであった。
『きっと、これがリウが求める姿なのだろうな。 いつまでも一人に頼らず、問題はみんなで考えて、行動して、解決していくべきだという』
アーゼル少将は、その様なことを考えていた。
やがてついに、リウの行動が形になって現れる時がやって来た。
「太陽系帝國の内乱が突然終結した」
という驚く最新情勢が伝えられたのだ。
これは、リウが2人の地方軍閥当主に復讐を果たしてから15日後のことであった。
この情報を入手したルー中将達は、クーデター派に対して宣伝工作を開始することにした。
「帝國の内乱が終わった。 このままクーデター状態が続けば、帝國が攻めて来てノイエ国が滅びる危機に陥るぞ。 今回ばかりは同盟2カ国は救援しないと明言している」
とクロノス星系に呼び掛ける。
一方、クーデター中の軍主流派。
帝國の内乱が終結し、エウドア幼帝が正式に即位と、太陽系帝國が対外的に宣言した確定情報を得たことで、激しく動揺していた。
帝國の各放送局からは、何処も新皇帝の正式即位を祝うニュースと特番が流されていたのだ。
その前に、ルー中将からも同様の情報が頒布されており、無条件でのクーデター状態解除の呼び掛けが為されていたが、虚偽情報として、無視していた。
「サトー准将。 どうするのだ。 予想に反して帝國の内乱が早く終わってしまった......」
「今回、クーデター派が占拠状態のノイエ国に、万が一帝國軍が侵攻しても、一切救援は出来ないと、シヴァ丞相も、アルテミス王室も、そしてプロシード国家元首も相次いで明言しているぞ」
相次ぐクーデター派包囲網に、危機に陥ったのだ。
しかも、クーデター派が要求した条件については、完全無視をされ続けている状況であった。
「まだだ。 我々には285億人の人質が居る」
そう呟くサトー准将は、既に精神状態に異常をきたし始めていた。
「いや、それは不味い。 我々は歴史上の悪者になってしまう」
そう反論する主流派幹部も居たが、もはや失敗が確定的で、引き返せない道を進んでしまったことに、やっと気付いたのであった。
暫くすると、クロノス星系に住むノイエ国民にも、帝國の内乱が終結したことが知れ始めた。
また、同盟2カ国がクーデターを非難し、クーデター派がノイエ政府と軍を支配し続けるのであれば、例え帝國軍が侵攻した来ても、救援は出来ない旨の情報も流れ始めたのだ。
クロノス星系の住民に、不安が広がり始める。
その不安により、ついに行動に出る者が現れてしまった。
クーデター派の兵士達が、何者かに襲われたのだ。
主流派幹部達に、クーデター派の一般兵士達が襲われ、死者が3名出たと伝えられたのは、事件発生後、4時間近く経ってからであった。
『最悪の事態が発生してしまった』
主流派幹部達の大半は、そう思っていた。
結局のところ、主流派と言っているが、一般兵士達はただ上からの命令に従っているだけ。
実質的にクーデターに賛同している将兵は、尉官以上の士官が中心で、それも5000人程度しか居ないのだ。
300億人近い住民の数と比較すれば、砂粒一つ程度に過ぎない。
もし反発がこれ以上広がったら......
『もう、抑えることは出来ない』
その様に考え始めていた。
しかし、ヒロ・サトー准将は、
「クロノス星系に戒厳令を敷く。 夜間外出禁止だ」
強気の姿勢を崩さず、その様に同志達に指示を出したのであった。
だが、戒厳令の指示は、結局実行出来なかった。
クーデター派の兵士以外、誰も指示に従おうとしなかったからだ。
市民に対する治安維持組織である警察までもが、クーデター派の中心人物であるサトー准将の指示を無視していた。
それどころか、逆に多くの市民が夜、街に出て、お祭り騒ぎを始める。
制止しようとする、クーデター派の一般兵士達。
すると、市民達に取り囲まれて、武器と制服を取り上げられてしまい、シャツを着させられる。
「FREEDOM」
と中央部に大きく書かれたシャツを。
そして、お祭りに参加するように求められる。
復讐を恐れて、市民の求めに仕方なく従うクーデター派の兵士達。
そう、第五惑星ヘーラー、第六惑星クロノスではこの日の夜、街に出た市民ほぼ全員が、このシャツを着ていたのだ。
その数、なんと数十億人。
全員が同じシャツを着ているので、戒厳令を破った人物の特定のしようが無い。
この運動を実行したのは、アーゼル財閥とLSグループの2社が中心。
クーデター発生後、戒厳令が出た時に備えて、両社と繋がりが深いアーゼル少将が事前に準備し、放った策であった。
無料で配られた、FREEDOMシャツ。
そして、この事実は、首謀者のサトー准将に報告されることは無かった。
ついに、主流派幹部達までもが、クーデターの中心人物達を見放し、
『どうやって、投降しようか』
と考える段階になっていたのだ。
FREEDOM運動の成功の報告を受けたアーゼル少将。
緊急のクーデター鎮圧作戦会議が、ルー中将の旗艦クレアシオンで始まった。
「クーデター派は戒厳令を布告しましたが、市民達が従わず、この様に夜間外出禁止令を破って、街に出て、お祭り騒ぎをしています」
アーゼル少将が映像を見せて、状況を報告する。
「まさか、少将。 これは少将が事前準備していた作戦か?」
ルー中将やホーウィン中将は、ヘーラー、クロノス両惑星の状況を知って、驚いた顔を見せた。
「折角、市民達がクーデターに抵抗する姿勢を見せてくれたのです。 我々も攻撃を開始しましょう」
クリスは集まった各艦隊幹部達を前に、その様に意見を述べた。
「既に、特殊工作員達が、シールド防御システム指揮室近くまで、潜入しています。 工事を請け負ったアーゼル財閥、LSグループ両社の技術チーム支援のお蔭で」
シールドシステム自体は、50年以上前に作られたものであったが、保守作業用通路や建設時に使用した通路、緊急脱出用通路等が設置されており、それらの図面を両社の協力で入手したり、実際の作業員達の協力を得て、指揮室直近まで、クーデター派が知らないうちに近付くことが出来ていたのだ。
「ただ最後は、強硬突破しないと指揮室を奪えません。 その為、今集まっている艦隊がそれぞれシールド発生装置を攻撃して、クーデター派の注意を指揮室から逸らしましょう」
その様に提案すると、直ぐに攻撃の方針が決まり、市民の抵抗運動を支援することになったのであった。
『ようやく、眠っていたノイエ国民が自発的に行動を始めた。 これを知ったらリウは喜ぶだろうな』
クリスはそんなことを思っていた。
そして、勇気ある行動をし始めた市民に、犠牲者を出してはならない。
クリスも、ルー中将も、もちろんその様に考えていたのであった......




