第91話(クーデターの勃発)
抑圧されていた軍の主流派(旧プロシード派)
追い詰められた状況を打破する為、帝國の内乱に乗じて、クーデターで蜂起をした。
ただ、バレバレの状況であり、その蜂起を利用して、主流派を軍から追放しようと図るクリス。
お互いの攻防が始まるのであった。
リウが、暗殺者達の襲撃を受ける2ヶ月程前。
マイケル・ジン大佐は、フォー・プロシード国家元首やショウ・グエン大佐のアドバイスに従い、首都星系の情勢を、異動後の挨拶に混じえて、リウ宛て通信文を送ったのであった。
すると、リウはクリス・アーゼル少将を超光速通信で呼び出した。
「クリス。 ジン大佐の報告を真剣に捉えてないよね?」
いきなり怒られて、言い訳に走るクリス。
「いやあ、色々と忙しくて......」
「言い訳は要らないよ。 前にも言ったよね? 主流派の暴発には......って」
「はい。 覚えています」
「昇進したからって、ちょっとイイ気になっているんじゃないの? 情報部長代理の椅子に」
「いや、そんなことは......」
「大佐は、貴方や私みたいな出世街道まっしぐらで高官になったエリートと違って、苦労してきたエリートよ。 だから、貴方が見えない景色を見ることが出来るの。 それで、クリスの側近に付けたのに。 全くお姉さんの気持ちがわかっていないのね」
「わかりました。 今後、大佐の進言はもっと真面目に受け止めます」
「それと、クーデターが起きても、私は鎮圧に協力しないからね。 自分達で解決しなさい。 これからは貴方達が自身達で問題を解決していくの」
少し怒った表情のリウに、クリスはタジタジ。
ジン大佐の意見を真剣に聞くと約束させられたのであった。
その後、クリス・アーゼル少将は、ジン大佐を自席に呼び出した。
「少将。 何かご用でしょうか?」
「大佐、まあそこに掛けて下さい」
ソファーに座る様に勧めてから、
「それで、誰の入れ知恵ですか? アーゼル中将に話をする様にというのは」
「わかってしまいましたか......国家元首殿です」
それを聞いて、ため息をつく少将。
「そうですか。 それで国家元首殿はどの様な意見でしたか?」
「私と同じ意見でした。 いずれ暴発するだろうという」
「まあ、そうでしょうね。 みんな暴発待ちしているのですから」
「えっ、そうなのですか?」
「あんなに動きが活発では、バレバレですよね? それに、彼等は今回の件が有っても反発するばかり......」
「確かに」
「だから暴発させて、全員処断する。 少し危ない橋ではありますが、この橋を渡らないとノイエ軍は変われない。 それが私の考えです」
「......」
「大佐もそのつもりで居て下さい。 国家元首殿も同じ覚悟を持っていますよ」
「わかりました。 余計なことをして申し訳ありませんでした」
「いや。 全然構わないですよ。 久しぶりにリウに怒られて嬉しかったから」
「えっ......」
「まあ、その件は気にしなくてイイってことです」
そう言うと、少将は笑顔で自席に戻るのであった。
『やっぱり、私とは役者が違うのかな?』
リウ・アーゼルの面影を持つイケメンのアーゼル少将の姿を見ながら、自身の仕事に戻ったジン大佐。
『そういう方針だと、いつ彼等が暴発するのかという情報を入手するのが重要だな。 それと、暴発後の反撃の拠点となる場所を』
そう考えた大佐であったが、その後真意を告白したアーゼル少将から、反撃の拠点を置く場所について指示を受けたので、その準備に取り掛かるのであった。
「準備は進んでいるのだろうな」
サトー准将が同志に声を掛ける。
「順調です。 今のところ」
「帝國が間もなく内乱に陥る。 その時がチャンスだ。 それを逃すと、二度と蜂起出来る機会は無いだろう。 帝國が正常な状態に戻ってしまったら、我々が蜂起した途端に帝國軍が侵攻して来るだろうからな。 そうなったら誰も我々を支持する者は居なくなる......」
ノイエ軍主流派を自称する勢力は、危機感を相当抱いていた。
フォー・プロシードに見放され、フォーを慕う者達が少なからず離脱した。
その後のブルース・ハミルトンの暴走と、それに伴う戦乱の発生。
そして、リウ・アーゼルの怒りの行動。
切り札だった新型艦艇は全て持って行かれてしまい、第5艦隊の蜂起も裏目に出て、ハミルトンに連座させられる形で、派閥幹部が全員左遷させられてしまった。
『このままでは、反主流派に軍から追放させられるのも時間の問題だ。 それならば一層のこと......』
それが彼等の本心であった。
最後の挽回のチャンス。
それが帝國の内乱中にクーデターを引き起こすという判断だったのだ。
最大の問題はリウ・アーゼルであった。
彼女の力は余りにも強大になり、事実上、三国同盟の盟主の座に居るのも同然。
常に、軍中央から距離を置き、遠い新領土に半ば独立勢力の様な形で大きな戦力を保持して、内外に睨みを効かせ続ける存在。
普通に蜂起しても、彼女はノイエ国の政界との繋がりが殆ど無く、政治家を見殺しにさえすれば、軍事クーデターなど直ぐに鎮圧出来てしまうであろう。
だから、主流派は彼等なりに考えていた。
交渉の材料を作り、それで彼等の復権を認めさせる。
その代わりに、軍の最高ポジションの座は、彼女の一派に譲る。
そういう交渉をしようと......
ノイエ軍の主流派と反主流派がお互いに準備を進める中、ついに帝國で内乱が発生する。
そして、リウ・アーゼル中将が襲撃されて、側近達が凶弾に倒れた事実が首都星系に伝わったのは、襲撃の翌日であった。
「今が蜂起のチャンスなのでは?」
主流派は、幹部達の極秘会合を開いていた。
「いや。 亡くなったのは護衛達だろ? アーゼル中将にとって痛手ではあるものの、方面軍の戦力に大きな影響は無い」
「最側近のアーサ少将が重傷だと聞いたぞ。 この機会を逃すのは如何かと」
「方面軍艦隊の指揮はルー中将だ。 アーサは首席幕僚だが、艦隊の指揮からは外れている。 今回は自重すべきだろう。 帝國の内戦は始まったばかりで、直ぐに終わってしまう可能性もある。 アンナー派が相当優勢だという情報だからな」
結局、この時彼等は蜂起を見送った。
三国同盟内にも帝國の謀略が及び、一時的な混乱は有ったものの、2日後には平常に戻ってしまったからだ。
その後、帝國の内乱は膠着状態に陥ったという情報が入って来た。
その為、主流派幹部は改めて極秘会合を開いていた。
「もう蜂起しないと、チャンスが無くなるぞ」
彼等は焦りを感じていた。
反主流派が、組織改編の準備に入っているとの情報も有ったからだ。
それは、第5艦隊を再編成。
アーゼル中将が、半数の乗組員と一緒に返却した旧型艦艇300隻の部隊と統合して、第6艦隊を設置するとのことであった。
主流派が唯一影響力を持つ宇宙戦力である第5艦隊がバラバラにされてしまう。
しかも第6艦隊の将兵の大半は元ネイト・アミュー方面軍に所属していた者達。
反主流派の大きな戦力になるのは確実であった。
そこに、アーゼル中将が長期休暇を取得中で、ネイト・アミューに居ないとの最新情報がもたらされたのだ。
「これは、天が与えてくれた千載一遇の好機。 もはや一刻の猶予もならん」
ちょうど第2艦隊が、国内の警備任務で首都星系を離れている。
このチャンスを絶対に逃すなと。
ついに意見が纏まり、蜂起の日付けが決まった。
それは、この決定から5日後であった。
「それで、5日後なんだね?」
情報元から極秘連絡を受けたフォー・プロシード。
すると直ぐに、アルテミス王国政府に直接連絡をしていた。
そして、側近を呼び、
「かねてから招請を受けていた会合の日付けが決まったよ。 明後日、アルテミス王国へ向けて出発するから準備を急いでくれ」
と指示をしたのだった。
その後、グエン大佐に暗号通信を送っていた。
「5日後に決まったとのこと。 用心されたし」
そのグエン大佐は、所属する第2艦隊が出動中の為、首都星系に居なかった。
艦長席でフォーからの連絡を受け取ったので、それをジン大佐に転送していた。
「自分は出動中。 あとを頼む」
と書き加えて。
極秘連絡を受け取ったジン大佐。
さり気なくアーゼル少将に、そのことを告げた。
すると、表情が一変した少将。
この時に備えて、リウから受け取った約300隻の艦艇は、アーゼル財閥とLSグループの一大拠点が立ち並ぶ第4惑星ティアーの軍事宇宙港に停泊させてある。
「大佐。 頼まれごとを良いかな?」
少将はそう言うと、
「第6惑星クロノスに出張してくれ」
と、周囲に聞こえる様に指示しながら、こっそりと違う命令書を手渡していた。
それには、こう書かれていた。
『第4惑星ティアーに行き、君の旧知の仲間達と合流して、300隻の艦隊をケイロン星系に移動させておくように』
と。
早速出張の準備に入ったジン大佐。
部下に依頼して、惑星クロノス行きの切符を手配させ、翌日には出発して行った。
情報部内には、ヒロ・サトー准将に繋がりを持った者も、まだまだ居るので、用心しての行動であった。
そのまま惑星クロノスのホテルにチェックインをする。
翌日迄は、普通に滞在を装う大佐。
惑星クロノスの軍情報部分室に顔を出して、アーゼル少将の命令文書を届ける。
これが表向きの出張業務。
そのままこの日は、クロノスの分室に滞在し、翌日には別件で情報部には立ち寄らないと告げて、ホテルに戻る。
そして、変装してから夕方の人混みに紛れて、民間宇宙港に移動。
少将が手配した特別船に乗って、惑星ティアーに向かったのであった。
ティアーでは、アーゼル少将の手配したLSグループの無人貨物車両に乗り込み、軍事宇宙港に潜入する。
財政系の特権のフリーパスでゲートを通過して、宇宙港内へ。
そして、この無人貨物車両が搬送している荷物の届け先である、戦艦アンダインに乗り込むのであった。
真っ直ぐに艦長室へ向かったジン大佐。
すると、一緒に昇進した旧知のベツキ大佐が待っていた。
「ジン大佐。 久しぶりだな」
「ベツキ大佐も元気そうで」
ガッチリ握手をする2人。
主流派が蜂起する前日の夜に出動して、ケイロン星系に向かう手筈となっていた。
「この惑星は軍人が少ないから、それほど警戒する必要は無いよ」
ベツキ大佐はその様に説明をする。
既にだいぶ前から、アーゼル中将とルー中将連名の命令書を受領していたこの独立艦隊。
軍事宇宙港以外、大きな軍事施設の無い惑星ティアーであるし、独立艦隊の出動を主流派に気付かれても、特段問題は無いということであった。
「この時の為に、何度も訓練出動してきたからな」
既に、事前に種蒔きをしてあったのだ。
その後、戦艦内の宛てがわれた部屋で出動を待つことに。
ジン大佐の持つ軍用端末には、色々な情報が送られて来る。
既に、フォー・プロシード国家元首がアルテミス星系に向かったことや、第2艦隊が任務を終えてクロノス星系に向かっているが、到着は4日後であること、それにアーゼル中将が帝國領内に居る情報まで。
リウの情報は、レアの中に居るレイが送ってきた情報であった。
『方面軍総司令官が不在なのか。 いったいどういうつもりなのだろう』
リウもクーデターの発生を予想していると聞いていたのに......
わざわざ隙を作ったということなのか?
ジン大佐には、全くその真意がわからなかった。
そして、主流派のクーデター蜂起情報の前日の夜。
独立艦隊は静かに惑星ティアーを出発した。
行先は、半日程度で到着するケイロン星系。
先日、リウが新型艦艇20隻余りを受領した星系である。
訓練出動の為、怪しむ者は特に居ない。
主流派も、クーデターの障害になる独立艦隊が、首都星系から出ることを好機と捉えており、特に警戒することは無かったのだ。
クリス・アーゼル少将も、夜中に極秘に移動を開始していた。
首相以下、一族の者を連れて、ケイロン星系に向かって出発したのだ。
極秘の地下通路を通り、LSグループ専用の宇宙港から、貨物船に乗って出発した一行。
すると、アーゼル財閥のラーナベルト・アーゼルから、クリスに極秘通信が入った。
「久しぶりだな。 クリス」
「お久しぶりです。 総帥殿」
「お前から連絡が無いので、こちらから連絡することにした」
苦手な相手にしっかり嫌味を言われて、内心嫌な顔をする。
しかし、表情には出さず、
「私は、財閥の主要幹部と本店に居るからな。 だから心配するな」
財閥本店は、惑星アルテミスにある。
「はっ。 了解しました」
クリスはそう答えると、通信は総帥側から切れた。
『まあ、こんなバレバレのクーデターに、引っかかる有力者は居ないよな。 それが奴等の能力の限界』
そう思っていたものの、
『このクーデターで、犠牲者が出るのも気の毒だからな』
政権や支配層の全ての有力者が逃げたとあれば、主流派が激昂して暴走し、市民へ矛先を向ける可能性もある。
だから、軍トップの統合参謀本部議長代理にも、国のトップのノイエ国大統領にも主流派クーデターの動きは伝えていない。
一応、クーデターで国や軍のトップを確保すれば、主流派の虚栄心も満足し、野蛮なことはしないだろう。
そこまで考えての行動であった。
『色々面倒だが、これも連中を一気に処断する為。 より良いノイエ国にする為には、超えなければいけないハードルだ』
翌日の昼前。
ノイエ国クロノス星系の第五惑星ヘーラー、第六惑星クロノスの官公庁街を軍用車両が多数走っていた。
「正午から軍の訓練が行われます」
その様なアナウンスが流れていた。
先の大戦以後、不定期に行われている軍の展開訓練。
政権幹部も軍幹部も、そして市民も、特段警戒をする者は誰ひとり居なかった。
5年以上続いている訓練であったからだ。
そして、正午をもって、軍主流派を自称する連中は一斉に蜂起をした。
ノイエ軍大統領府、ノイエ国議会、議会与党共和民主党本部、ノイエ軍統合参謀本部、ノイエ軍宇宙艦隊司令部、中央警察本部、アーゼル財閥本社、LSグループ本社、国営放送局、統一政府庁舎等にクーデター部隊が突入し、占拠する事態となった。
そして、ノイエ国大統領、統合参謀本部議長代理、与党党首等の要人の身柄も押さえて、軟禁状態とされたのであった。
やがて、クーデター派は国営放送を通じて声明を発表した。
「我々はノイエ軍の主流派である。 大戦での大きな被害を出した後も、何も変わらない政府や軍の体質を一新し、真に国の安寧を目指す体制を構築する為に、我々は蜂起した。 国民よ目覚めよ。 あの屈辱を忘れてはならない。 三国で唯一大量虐殺の憂き目にあったことを。 我々は約束する。 あの様な事態を二度と起こさせない為に、軍の強化と政府を清浄し、抜本的に国を強化すると」
首謀者のヒロ・サトー准将のもとには次々と情報が入って来た。
しかし、ノイエ国首相、アーゼル財閥総帥、LSグループ会長、統一政府国家元首の拘束に失敗したことが報告されると、目の前の机を叩いて悔しがった。
「情報が漏れたのだろう。 やられた」
と叫んで。
そして、クーデター派が一番恐れる事態が直ぐに動き出したとの報告が入った。
蜂起から30分もしないうちにネイト・アミュー方面軍が全艦隊を率いて、首都星系に向けて発進したという情報であった。
新型1個艦隊は、ルー中将が率いており、旧型1個艦隊は、コーダイ少将が率いていると。
最短で5日後に、新型艦隊がクロノス星系外縁に到達するとの予測も同時に発表されていた。
唯一の良い情報は、第5艦隊の司令部の拘束に成功したことで、退役させられたゴート元中将が現役に復帰し、第5艦隊を率いて進発出来る状態になったというものであった。
「クロノス星系防御システムの指揮室を早く抑えろ」
サトー准将は同志達を励まして、抵抗を受けている防御システムの奪取に全力を注ぐ様に指示を出した。
そして、約24時間後、防御システムの指揮室の占拠に成功したとの情報が入り、沸き立つクーデター派。
「よし。 6時間後に防御システムを作動させるので、シールドが張られる広大な宙域に居る全艦艇に退去する様、布告を出せ」
サトー准将は部下に指示をすると、クーデター2日目の夜には、クロノス星系全域にシールドを張り、クロノス星系に住む約285億人を人質に取る作戦を実施し始めたのであった。




