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【完結から1年。順次補正中】正史・銀河四國史(未来における英雄の生涯)  作者: 嶋 秀
RIU・落龍篇

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第87話(慟哭)


帝國の内乱による魔の手はリウにも及んでいた。


必死に司令官を護ろうとするリウの護衛達。

しかし、余りの刺客の数に、犠牲者が出てしまうのであった......


 帝都が日付が変わった時間。

 惑星ネイト・アミューは朝であった。


 この日リウは、郊外の訓練施設で特殊部隊の訓練に参加すべく、副官のエーレン少佐、警護室長のラートリー大佐に加えて、警護強化の為、レイとブルーム准将も連れて、施設に向かうところであった。


 送迎の軍用車両を待つ為、統治官オフィスの前に居たのだ。

 「ゴメンネ、レイ。 付き合わせちゃって」

 リウが、訓練に参加しないレイも護衛に付いてくれていることに感謝をしていた。

 「私は構いません。 それよりもブルーム准将、すいません。 護衛に付いて頂いて」

 レイがリウの護衛強化で、特別に付いて貰っている准将に礼を述べたので、

 「帝國がガタガタしているのならば、当然ですよ。 ここは帝國領に最も近い三国同盟の主要星系の一つですから」

 そう答えた瞬間、歴戦の特殊部隊の隊長らしい、何かを感じとった。


 「総司令官、周囲の様子が少しおかしいみたいです。 警戒してください」

 ブルーム准将がそう答えた時に、レーザー銃による攻撃が、リウの立っているところに向けて、突然始まったのだ。

 「みんな、伏せて」

 リウが叫んでから、直ぐに個人用シールドを張った。

 アトラス人から貸与されている特別なもので、今まで、何度もリウを護って来た、最大の切り札である。

 レーザー銃の銃撃は、個人用シールドに全て弾かれて、実害は無かった。

 

 近くに居た、一般の人々は悲鳴を上げて逃げ出す。

 リウは個人用シールドを最大出力に上げて、護衛の4人を護る態勢を強化した。

 すると、その瞬間、迫撃ビーム砲がリウ達に向かって、放たれた。

 激しい衝撃。

 周囲の建物が震える程の攻撃であったが、個人用シールドはこれをも防いで見せた。

 既に、ブルーム准将とラートリー大佐が緊急事態を知らせる連絡装置を作動させており、直ぐに応援部隊が来る状況になっていた。


 しかし、5人は完全武装の武装集団に囲まれていたのだ。

 100人近い武装集団。

 「いやあ、これは相当マズイ状況です、総司令官。 我々の真ん中に居てくださいね」

 状況を把握したブルーム准将が、リウにそう告げる。

 准将とラートリー大佐とエーレン少佐と3人でリウを取り囲む様にして防護態勢を取った。

 レイは照準を絞らせない為、リウから少し離れたところから、光子銃を最大出力に切り替えて、武装集団に向けてぶっ放す。

 最大出力は、迫撃ビーム砲に匹敵する威力であった。

 1射撃毎に、数名の完全武装の襲撃者達が吹っ飛ばされて、重傷を負う。

 「だから、光子銃を使っていたのですね」

 ラートリー大佐が以前、大戦後の慰霊会場付近で、初めてリウ達と出会った時のことを思い出しながら、レイに確認をする。

 「レーザー銃では、そんな出力は出ないものな」

 ブルーム准将がレイの代わりに答える。

 レイの射撃で、100人は居たであろう武装集団のうち、30人以上を倒すことが出来たが、まだこちら側の5人と比べれば大勢だ。


 銃撃ではリウ達を倒せないと判断した武装集団。

 方針を変えて、特殊な大型の武器を握って、一気に近付いて来た。

 白兵戦を仕掛けてきたのだ。

 リウの個人用シールドも、武器を振るった直接攻撃を防ぐのは難しい。

 古の騎士や戦士、武士の如く、大型武器を手に、肉薄して来る。

 「総司令官。 絶対に離れないでください」

 エーレン少佐が叫ぶと、5人に向けて最初に突進して来た男の攻撃を受け流して、地面に転がし、武器を奪い取った少佐。

 その武器を直ぐにブルーム准将に手渡す。

 次の男の攻撃は、ブルーム准将がエーレン少佐から受け取った武器を使って、防ぐ。

 武器と武器が激しくぶつかる。

 衝撃で2番目に攻撃して来た男の手から、武器が落ちる。

 それを華麗な柔らかい動きで、奪い取ったエーレン少佐。

 倒れた隙にラートリー大佐が、レーザー銃を連射し、先ずこの2人の男を射殺した。


 レイはその間、続けざまに光子銃を撃ち、近付いて来た数名の武器した男達を射殺していた。

 その時、他の完全武装の者達とは異なり、レイだけを狙っている男が急速に近付いて来たのだ。

 レイがその男に光子銃を続けざまに撃ち放つも、物凄い早い動きで躱されてしまった。

 やにわに、レイに一撃を加える。

 躱そうとしたものの、完全には避けられず。

 激しい衝撃と痛み。

 レイは普通の軍服姿で、光子銃以外には武器は無く、防護出来るものは何も無い。

 「レイーーー」

 リウの悲痛な叫び声。

 レイは斬りつけられた左肩を抑えながら、男と対峙する。

 男もレイに斬りつけた時に、光子銃の射撃を受けて、負傷していたのだ。


 「ルーカー......」

 襲撃者の正体に気付いたレイは、男に向かって呟く。

 「兄貴。 前に言っただろ? 義姉は狙われているって」

 ルーカーは右腕から激しい流血をしていたが楽しそうであった。

 「俺は、義姉は狙わないよ。 それは約束だからね」

 そう言うと、再びレイを狙って猛攻を加える。

 その様子を見ていたリウは、レイを助けたいと思っていた。

 でも、リウ達も残りの50人以上の完全武装集団に取り囲まれてしまっている。

 次々と突進して来て、振り下ろされる、特殊な斧や刀。

 それをブルーム准将とエーレン少佐が奪い取った武器で防ぐ。

 隙間からラートリー大佐が射撃するものの、相手は完全武装なので、レーザー銃ではなかなか致命傷を与え切れない。

 しかし3人は、リウを護り続ける。

 毎日の訓練で鍛え上げられた肉体と卓越した熟練の動きで、3人は上手く連携しながら、武装集団の猛攻撃を防ぎつつ、反撃もする。

 リウも時々銃を撃つが、相手を倒すには至らない。


 『リウは大丈夫か......』

 レイはリウに少し気を取られてしまった。

 「兄さん、よそ見していると致命傷になるよ」

 その瞬間、再び斬りつけられてしまったレイ。

 今度は深手を負った。

 反射的に放った光子銃が、運良く命中してルーカーの体の中央部を貫いた。

 倒れるルーカー。



 その間にリウを護る3人も、次々と深手を負っていた。

 しかし、ブルーム准将を中心に、代わる代わる襲い掛かって来る完全武装集団の攻撃を防ぎ続ける。

 だが、ついに躱せない攻撃も出て来てしまう。

 複数人の同時攻撃によって、3人が防ぐ時に出来た隙間から伸びて来た攻撃......

 エーレン少佐の体に長刀が突き刺さる。

 だが、少佐は攻撃して来た男に反撃をして、弾き飛ばしてから、自身の体に刺さった長刀を引き抜き、次に攻撃して来た男に、その長刀を刺す。

 他の男の攻撃を防いでいたラートリー大佐にも、別の攻撃者によって、特殊な装甲兵用の斧が振り下ろされる。

 激しい痛みが大佐の体を駆け抜けるが、斧を奪い取ると、男に斧を刺し返して倒す。


 「大佐......」

 准将が大佐の傷を見て、険しい表情に変わる。

 「准将、まだまだやれます」

 大佐はそう言いながらも、流石に流血が激しくなる。

 リウが、立っているのも辛そうな大佐の体を支える。

 その時、再び大佐を狙った攻撃が......

 准将とリウが連携して、その男を遠くへ蹴り飛ばす。

 「総司令官、無理はなさらず......」

 大佐は激しい流血となっていたが、まだリウのことを気遣っていた。

 「大佐。 私は大丈夫だから......気を確かに」

 リウは涙を流しながらも、大佐の傷にいつも携行している緊急用の止血装置を使って、必死に流血を止めようとする。

 だが、傷は大きく、携行用の止血装置では、流血を止めることが出来ない。


 動きが鈍くなったことで、再び大佐が狙われる。

 その攻撃はエーレン少佐が防いだが、体を張って防いだことから、今度は少佐の体からも鮮血が噴出する。

 「先生ーーー」

 リウが思わず叫ぶ。

 その時、今度はリウを狙った攻撃が......

 少佐は、その攻撃を巧みに受け流して、攻撃の矛先を逸らす。

 その時、ブルーム准将がその男を斬り殺したのであった。


 「総司令官。 直に応援が来ます。 それまで大佐と私の体を盾にしてください。 2人共、もう助からないだろうから」

 エーレン少佐は自身の怪我の状況を冷静に判断して、そう指示をすると、リウの体を庇うように覆い被さり、意識を失ったのであった。

 「中将。 2人の頑張りを無駄にしないでくださいよ」

 准将はそう言うと、意識が薄れていた大佐の体をリウの盾になるように少し動かすと、鬼神の様に、残っている武装集団に立ちはだかった。

 「この先には一歩も近付けさせんぞ。 オラー」

と叫びながら、襲い掛かって来る武装集団に対峙し始めたのであった......


 『レア。 まだ来ないのか......』

 レイは、既に緊急事態をレアに伝えていた。

 レアー号ならば1分も掛からない距離。

 しかし、2分近く経っても、レアー号は未だ現れなかった。

 『レア。 何とかリウが倒される前に来てくれ......』

 レイはそう願いながら、リウ達の方を見る。

 流石の3人の護衛も、完全武装集団の猛攻撃を躱し切れなくなっていて、准将以外は倒れている状況が見えた。

 

 その時、倒れていた筈のルーカーがレイの目の前に居た。

 咄嗟に放った光子銃。

 放った銃撃は、ルーカーの脳を直撃して、ルーカーは即死したが、同時に、ルーカーが振りかざした特殊な大型刀がレイの体にめり込んでしまっていた。

 レイがその場にうずくまるようにして倒れる。

 レイが倒れたのに気付いたリウの

 「レイ、レイ、いゃあああ......」

という悲鳴......

 その時、上空に大きな影が見えた。

 『レア、遅いぞ。 あとで説教だ』

 レイはそう思いながら、意識を失ったのだった。


 ようやくレアが緊急事態を把握して現れた。

 シールドをフルパワーにして、現場に接近したレアー号。

 残っていた武装集団は、全員レアー号のシールドに潰されて、即圧死した。

 直ぐにハッチが開き、機械兵と医療用クローン兵、それとパルトネール准将が降りて来て、准将が5人の収容を急ぐように指示をする。

 自力で艦内に入っていくブルーム准将。

 「レイ、大佐、少佐。 しっかりしてーー」

 3人の名前を連呼して叫びながら、クローン兵に運ばれるレイ、ラートリー大佐、エーレン少佐の3人と一緒にレアー号に搭乗したリウ。


 収容が終わると、追加の攻撃を避ける為に、レアー号は緊急発進して、軍事宇宙港に戻って、シールドを張るのであった。

 ブルーム准将は、持っていた軍の携行用連絡装置を使って、ルー中将を呼び出す。

 「どうした、准将」

 ルー中将はそう言ったところで、血まみれの准将の姿を見て、事態に気付いた。

 「リウは無事か?」

 それに対して、

 「中将と私は無事です。 怪我はしていますが、命に別状はありません。 しかし......」

 准将はそう言うと、特殊な手術台カプセルに収容されて、レアによる緊急手術を受けている3人と、そこにすがりついて、泣き叫んでいるリウの姿を映し出した。

 「まさか、3人が......」

 そう呟き絶句する、ルー中将。

 「私が見たところ、ラートリー大佐とエーレン少佐はもう助からないでしょう」

 「アーサ少将も、瀕死の重体です。 生き残れるかどうかは、少将の生命力次第です」

 そう答えるのがやっとであったブルーム准将。

 ルー中将は、

 「わかった。 俺もそっちに向かうから」

 静かに言って、通信を切ったのであった。


 レアは緊急手術を実施したが、ラートリー大佐とエーレン少佐を救える可能性はゼロと判断した。

 緊急麻酔が解除され、意識が戻った2人。

 最期のお別れが出来る様に、レアは手術台カプセルを開披する。

 2人に駆け寄るリウ、ブルーム准将、パルトネール准将。

 「総司令官......無事ですね」

 リウの姿を見たエーレン少佐が、安心した表情を見せる。

 「先生。 気を確かに......」

 リウが泣き腫らした顔で、少佐を励ます。

 「護衛に失敗して......その綺麗なお顔に......傷を付けて......しまった......ら......批判......を受け......ますから......」

 エーレン少佐は辛そうに、そこまで話すと、3人を見渡して、

 「皆さん......お元......」

 ここで言葉は途切れ、十数秒後両腕がだらりと垂れ下がったのであった。

 クローン医師が生死の確認をする。

 そして、生命維持装置が取り外されてゆく。

 「先生ーーー」

 リウの泣き叫ぶ声が響き渡る手術室内......


 ラートリー大佐は意識が殆ど無かった。

 やがて、少し意識が回復する。

 目を開けて、リウと2人の准将に気付く。

 「大佐......」

 長年、特殊部隊の上司と部下の間柄であったブルーム准将が、血まみれの軍服のまま、一言だけ呟く。


 「准将......今まで......お世話になり......ました......」

 最後の力を振り絞って、その言葉だけを発すると、もう喋れない状態となってしまう。

 リウとブルーム准将を交互に見つめるキエラ・ラートリー大佐。

 安心した様な表情を見せた。

 やがて、目の輝きが無くなり、瞳が動かなくなる。

 准将は、大佐の瞼を触って目を閉じさせてから、力が抜けたかの様に、床にひざまずく。

 そして、3人の嗚咽が手術室の中から聞こえたのであった......


 レイは、レアによる緊急手術が続いていた。

 エルフィン人の最新の医療技術が導入されているレアー号とレアの能力によって、一命は取り留めそうであった。

 不老装置が埋め込まれていたことで、体が若く、生命力が強かったからであろう。

 しかし、意識が戻る気配は全く無かった。



 ルー中将がレアー号に駆け付けた時には、ラートリー大佐とエーレン少佐は息を引き取っていた。

 ちょうどレアによる保存措置が始まっているところだった。

 「容体は......」

 駆け込んで来て、リウ達に確認するも、誰も答えなかった。

 それは、見ればわかる状況であったからだ。

 「そうか。 間に合わなかったか......」

 せめて、最期の瞬間に一緒に居たいというジョン・ルーの願いは叶わなかった。

 悔し涙を流すルー中将。

 エーレン少佐をリウの副官に据えたのは、彼であったのだ。

 「少佐には、済まないことをしてしまったのかもな」

 涙声で呟くジョン。

 すると、ブルーム准将が首を振った。

 「少佐が居なかったら、私も総司令官も倒されて全滅していました。 それは間違いないです」

 その言葉にルー中将は救われた。

 「彼は、その能力を出し切って、役目を完璧に、立派に果たしてくれたのだな......」



 突然レアが4人に対して、

 「ごめん、皆さん。 レイから緊急事態を知らせる通報が入ったのに、判断が遅れてしまったの。 直ぐに動けばあと1分早く現場に行けていたのに......そうすれば助けられたかもしれない」

 それに対してリウは、

 「レアのせいじゃないわ。 私がいつまでも迷っているのが原因。 ごめんねレア」

 涙声でそう答えると、再び泣き崩れてしまった。


 「それと、姉妹艦アプロディテより何度もホットライン通信が入っているの。 緊急事態で私は応対出来なかった。 誰か向こうに通信を入れてみて」

 レアはそう言うと、レイの再手術に全力を注ぐのであった。


 その話を聞いて、ルー中将が専用ホットラインを操作し、相手方を呼び出す。

 出たのはエミーナであった。

 「あれ? リウじゃないの」

 「リウの盟友のジョン・ルーです」

 そう答えると、エミーナはリウが出れないという最悪の事態かもと思い、

 「リウは無事? 襲撃されていない?」

と深刻な表情で質問をして来た。

 「無事ですが......どうして襲撃を」

 「こっちも夫と......丞相と国務長官が武装集団に襲撃されて。 返り討ちにしたので、こちら側は被害ありませんでしたが......」

 「こちらも襲撃されました。 リウは軽傷ですが、護衛の者が亡くなり、レイも重体で、リウは通信に出れる状態じゃないのです」

 「状況はわかりました。 丞相に伝えておきます。 何かわかったら、また連絡します。 一旦切りますね」

 エミーナはそう答えると通信が切れた。



 その後ルー中将は、総司令官であるリウに状況報告をしなければならなかった。

 辛いが、責任ある立場である以上、致し方ない。

 「とりあえず、現場はイルバール准将指揮で特殊部隊員を配置しているよ」

 ルー中将はリウに説明を始める。

 「ちょうどマリー・ルーナ中将のアルテミス王国艦隊が衛星軌道上に展開しているから、ネイト・アミューから飛び立つ全艦船の臨検を実施して貰っている」

 泣きながら頷くリウ。

 「赴任して間もない西上国の司令官も武装集団に襲撃されて、重傷を負ったという連絡が入っているよ。 武装集団は西上国の警護部隊が全員射殺したって」

 再び頷くリウ。

 「西上国のシヴァ丞相とヒエン国務長官も襲撃を受けたけど、向こうは警備体制が強固なので、全員返り討ちにして、丞相側に負傷者は居ないとさっき丞相夫人から聞いたよ」

 また頷くリウ。

 「今回の襲撃事件捜査の指揮は、まだ赴任して来たばかりだけど、アイザール退役少将の親友である憲兵隊のサガラ准将にお願いするよ。 良いよね?」

 ルー中将の言葉に何度も頷いたリウ。

 「この件に関する今後の方針は、ルー中将の指揮に全面的に委ねる」

と、泣きながらも一言だけ命令を発したのであった......



 リウ達を襲った100人近い武装集団は、全員死亡したので、背後関係の取り調べは出来なかった。

 ルー中将から捜査の全面指揮を委任されたサガラ准将は、現場に着いて、色々な情報を聞きながら、ひとまず襲撃者達の遺伝子情報を確保して、データベースに掛ける様に憲兵隊員に指示を出した。

 同じ時刻に襲われたシヴァ艦隊のスイレー少将の襲撃捜査を実施している西上国側とも情報交換をするように部下へ指示を出す。

 「同時多発の襲撃だな。 背景は帝國絡みか」

 やがて、襲撃犯達の宿泊先が判明したので、その部屋を急襲させると、遺されていた資料から、ある程度の情報を得ることが出来た。

 ネイト・アミューで襲撃をして来たのは、帝國軍の特殊部隊や諜報員では無く、何者かに雇われた傭兵と暗殺者達であったのだ。

 高額の報酬で雇われていたことも。

 ただ、それ以上のことは今後の捜査結果待ちであった。



 リウは落ち着いてからは、レイに付きっきりであった。

 大佐と少佐が亡くなった。

 せめてレイだけは生き延びて欲しいと。

 ブルーム准将も入院となった。

 リウの護衛専従者が全滅したので、暫くの間は重傷を負ったブルーム准将がレアー号に居ることで、護衛代わりということとなった。


 レイの容態は夜には安定していた。

 レアはリウに、

 「命は取り留めたよ。 ただ意識が戻るかは保証出来ない」

と説明した。

 リウはそれを聞いて涙を流す。

 「ありがとう、レア。 貴方が居なかったらレイも死んでいたと思う」

 そう言って暫くすると、泣き疲れたのか、ようやくリウは寝たのであった。



 翌日。

 遺された者達には辛い瞬間が続く。

 ラートリー大佐の遺児であるクルス・ラートリーへの遺体の引き渡しである。

 病院船でもあるレアー号。

 亡くなった当日は、憲兵隊や軍医による検視、レアによる防腐措置や遺体の縫合手術等、色々な手続きや段取りが有って、一人息子に会わせることが出来なかったのだ。


 艦外に設置された特別な部屋で、対面をする母子。

 クルスは父親に続いて、母親も戦闘で亡くしてしまった。

 シングルマザーとして、一人息子を大事に育てて来たキエラ・ラートリー大佐。

 その対面を見守る、リウとブルーム准将。

 クルスは悲しみで泣き出しそうな顔をしていたが、我慢する。

 母からは、

 「男の子だろ? 涙は出来るだけ我慢しろ」

と言われていたからだ。

 「クルス、すまん。 俺が一緒に居ながら」

 ブルーム准将は大佐の息子に話し掛ける。

 2人は顔見知りであった。

 「いえ。 母は立派に役目を果たしたのですよね? 特殊部隊員ですから、いつか別れの日が来るかもと覚悟していました。 離婚したとはいえ、装甲兵部隊員だった父もそうでしたから」

 そう答えると、涙が溢れ出すクルス。

 リウは思わず駆け寄り、頭を撫でると、

 「本当にごめんなさい。 私を護る為に......」

 そう言うと、2人は大泣きとなってしまったのであった。


 やがて、軍が手配した儀仗隊員によって、直ぐ側の官舎迄大佐の遺体は運ばれて行ったのであった。



 エーレン少佐は、遺体を引き取る身寄りが居なかった。

 官舎に行っても、親族の連絡先は見つからず、途方に暮れるリウとパルトネール准将。

 「リウ。 とりあえず、ルー中将に聞いてみましょう。 中将は旧第四艦隊時代からの知り合いだったのでしょ?」

 ケイトの提案に従い、リウはルー中将の居る司令室へ。

 忙しそうだったので、暫く待つ2人。

 「おお、悪いな。 リウ、大丈夫か?」

 4年以上護衛をしてくれた2人を同時に亡くした悲しみで、打ちひしがれた様子のリウを、もちろん心配していたのだ。


 「中将。 エーレン少佐のご家族やご親族に心当たりは有りませんか?」

 リウに代わって、パルトネール准将が質問をする。

 「少佐のご家族は、あの大戦で帝國軍に虐殺され、誰も生き残って居ないよ。 親族も同じ惑星に大半が住んでいたらしいから、多分生き残りは居ないと思う」

 古武道の流派を代々継いできた家だったそうだが、跡継ぎの兄2人が家族と共に大戦時の大虐殺に巻き込まれて亡くなり、流派も途絶えたそうだ。


 准将は一つ感じたことを質問してみた。

 「少佐は、跡継ぎになれなかったのですか?」

 「半分位しか、技を習得出来ていなかったそうだよ。 だから断絶でイイんだと言っていたね」

 ルー中将は少佐の気持ちを代わりに答えると、

 「身寄りは居ない。 リウが引き取らないのなら、俺が引き取るよ」

 そう言い切った。

 それを聞いて、

 「私が引き取る。 喪主もやる。 少佐の墓は私の墓の横に新しく作って、そこに納めるよ」

 リウが突然その様に言い切ったことで、結論をみたのであった。



 2日後。

 リウの護衛任務中に亡くなったラートリー少将とエーレン大佐の葬儀が行われた。

 2人と身近だった人達のみが出席した葬儀。

 大規模な襲撃事件直後だったので、厳重警戒のもと、ごく一部の人達の出席しか、ルー中将は許されなかったのだ。

 しかもカイキ准将の葬儀の時と異なり、リウの隣にレイは居ない。

 悲しみを支えてくれる人が居ないのだ。

 リウはクルス・ラートリーと共に、喪主をつとめ、葬儀は厳かに行われた。


 隣に立っていたラートリー少将の17歳の息子がしっかりと喪主をつとめた効果であろう。

 リウも泣き崩れることなく、気丈につとめあげた後、リウは自身の墓の横に作ったエーレン大佐用の墓に、防腐措置済みの大佐の遺体を地中深く埋めたのであった。

 リウの墓は形だけ。

 遺体が入ることは永遠に無い。

 しかし、

 『形だけでも残して置かないと、一緒に過ごして来たみんなが困るよ。 居なくなったリウと話をしたくなった時にね』

とレイに言われて、予め作っておいたものであった。

 柩を埋め終わると、葬儀業者はリウに一礼をして去って行く。

 墓地の外側では、警護部隊が厳重に周囲を見渡している。

 上空にはレアー号の姿も有った。


 ラートリー少将の墓も、クルスの希望でリウのお墓の隣接区画となった。

 そちらの埋葬も済んだので、リウはクルスと悲しみを分かち合った後、その場で別れてから、一人で新しい2つの墓をもう一度お参りする。

 それぞれの墓碑の前で、長く祈りを捧げたリウ。

 そして、帰ろうとした時に、エーレン大佐と旧知のサガラ准将が部下2人を連れて、墓参りにやって来たのだ。

 リウを居るとは知らなかった准将は、ちょっと驚いた表情を見せたが、予定通り新しい2つの墓参りを済ます。


 「准将。 副官と警護室長の墓参りに早速来て頂き、ありがとうございます」

 リウが丁寧に感謝を述べる。

 「先生には色々と教えて頂きましたからね。 心の持ちようとかも」

 准将はそう答えると、

 「先生は、身寄りの方が居ませんでした。 総司令官にまさか喪主をつとめて貰って、墓まで隣になって、ちょっと恥ずかしがっていることでしょう。 シャイな方でしたから......」

 その様に話すと、エーレン大佐に世話になった者の一人として、その処遇に感謝を述べたのであった。


 「任務で亡くなったとは言え、もう少し私が警護体制を強化していれば、亡くならずに済んだのかもしれません」

 あまり大袈裟な警備体制が好きでは無かったリウ。

 しかし、その様な個人的な好悪の判断が、今回の事態を招いたのかもと思うと、自身の責任を痛感していたのであった。


 「今回は、運が無かったのです」

 准将はそう言うと、現在まで判明している事実を話し始める。

 「総司令官が100人もの刺客に襲われたのは、総司令官が特別な存在だというよりは、他のターゲットが宇宙空間に居た為、二組分の襲撃グループが、一度に襲い掛かって来る事態になったと思われます」

 「100人のうち50人は、マリー・ルーナ中将を襲撃する予定のグループでした。 それもリク・ルーナ大将と混同していて、それで大掛かりな襲撃計画を立てたようです。 ただ実行当日、彼女は艦隊と共に衛星軌道上に居た。 だから、その分全員が総司令官の襲撃に参加したと思われます......」


 「50人だったら、アーサ少将の光子銃の威力で30人以上倒しているのですから、おそらく誰も死なずに済んだ。 だから先生は運が無かったと言ったのです。 こんなこと今更言っても、何にもなりませんが......」

 残念そうに准将は話すと、リウは質問をした。

 「私を襲った理由は、わかっているのですか?」

 「そこまでは......ただ、帝國でも同時刻に大規模な襲撃が各地で発生したようです。 大帝以来の老臣達が狙われたみたいで、死者は一万人以上出ているという情報もあります」


 「もしかして、次期皇帝の座を巡っての権力争いによるものですか?」

 「その可能性が高いです。 なぜ三国同盟の実力者を狙ったのかは不明ですが、念の為に不意討ちを仕掛けて、混乱させたいということではないかと」

 「いずれ、詳しいことも明らかになるでしょう。 総司令官を襲ったのは帝國軍人では無く、傭兵と暗殺者の集団です。 しかも三国同盟内で暗躍している連中と見られます」

 准将は判明している範囲のことを話すと、リウに一礼して、襲撃事件の捜査指揮に戻って行った。



 リウも警備要員の仕事を減らす為、その場でレアー号を呼んで乗込み、軍事宇宙港に戻る。

 今まで、身近でリウを護り続けてくれた人達を全員失い、当面の間は自分で自分を護るしかないのだ。

 そしてネイト・アミューで、今までリウが自由に動けていたのは、レイとエーレン副官、ラートリー室長のお蔭だったのだと、今更ながら気付かされたのだった。

 3人が居ない現状、全てルー中将に伺いを立てて、警備体制を構築して貰ってからでは無いと、外出も出来ないという状況であったのだ。


 『ごめんなさい。 私は3人に今まで甘えすぎていた。 3人が私の為に全ての責任を負って、直ぐ横で警護してくれて、自由に行動させてくれて居たのね。 本当にありがとう』

 失ったものの大きさを実感し、悲しみにくれ続けるリウであった......

 

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