第86話(内乱の発生と謀略)
ついに、帝國では内乱が発生。
そして、アンナー皇女派が放った謀略は、否が応でも多くの人々を内乱に巻き込んだのであった。
リウが、アルテミス王国から購入した、元帝國軍の中古無人化艦隊をヤーヌス星系の無人惑星に配置した頃、帝國では二世皇帝崩御後の服喪期間明けが目前に迫っていた。
帝國の廷臣や将軍は、それぞれがそれぞれの野望や目論見を持って、積極的な行動を始めており、帝都テラや帝國を構成する中心の星系では、色々な動きが活発となっていたのだ。
そしてついに、喪が明ける当日。
静寂が続いていた100日間の終わりを告げる時報の鐘が鳴った瞬間、各地では銃声や爆発音が鳴り響き始めた。
帝國軍諜報部情報将校シルスタ・ヨステダール少将が中心となって仕掛けたアンナー皇女派による大規模な謀略作戦
『敵対する主要な人物とその一族への暗殺工作』
が発動したのだ。
先ずは、帝國4大地方軍閥のうち、元大将軍フェルトン退役元帥と元車騎将軍ユン退役大将の巨大な邸宅が武装集団に襲われた。
応戦する警護部隊。
2人の退役将軍は、既に当主の座を子息に譲っており、隠居生活だったこともあって、三代皇帝の座を争う政争に伴い、警護体制は強化されていたものの、盤石なものとは言えなかった。
多数で、しかも完全武装の謎の襲撃部隊に襲われ、次々と倒れてゆく警護兵。
現当主の子息だけでなく、齢100歳近かった両退役将軍も、抵抗虚しく隠居先で殺害されてしまったのであった。
もちろん、帝都でも銃声や爆発音が鳴り響いていた。
帝國宰相ルーゼリア大公の公邸や私邸、三公であるウォルフィー大将軍邸、ローベル司空邸、イ司徒邸も同時に謎の大規模な完全武装の襲撃部隊による奇襲を受けていたのだ。
既に、帝國宰相や三公は私邸や公邸におらず、皇宮や艦隊に移動していたのだが、使用人や側近、留守宅を守る警護隊の将兵や私兵など、多くの者達が殺戮の嵐に巻き込まれてしまっていた。
更には、エウドア皇女派の主要廷臣や将軍の子息や孫達、親族等が住む居宅や邸宅までもが急襲を受けており、まさか自分達が狙われる対象になっていると思って居なかった者達迄もが狙われたので、逃げ遅れて殺された各一族は、かなりの数にのぼっていた。
当然、反撃に出たエウドア皇女派。
ウォルフィー元帥とオズワルト大将の艦隊は、ルナの軍事宇宙港を喪が明ける数分前に進発しており、喪が明けた瞬間には、テラの軍事宇宙港の上空に達していた。
そして、服喪明けと同時に発進し始めたマー衛将軍の艦隊に猛攻撃を加える。
抵抗出来ないまま轟沈する艦艇が続出するマー艦隊。
あっという間にほぼ全滅し、マー衛将軍も戦死してしまったのであった。
これを見た他の帝國軍艦隊は、元帥、大将両将軍の名声に恐れをなし、麾下に入って、指揮に従うことを誓ったのであった。
宇宙艦隊を掌握したことで、勢い付いたエウドア皇女派。
元帥の腹心ベーネンバルグ少将や大将の部下であるボーデン中将等が、宇宙艦隊司令部と軍政省を制圧してから、各宇宙艦隊から拠出を受けた数十万人規模の陸戦兵を率いて、皇宮を取り囲む。
そして、その力を背景に、帝國宰相ルーゼリア大公、司空ローベル、司徒イの3名の帝國政府トップは、西方の宮に寓居しているアンナー皇女とその母アンズに対し、
「元皇妃アンズ・シルバーバーチの外戚である、ヨハン・シルバーバーチ並びにアウグスト・リューネ両名が首謀した、要人暗殺計画によって、先程来より大帝以来の多くの功臣、老臣が殺されている。 この事件に対する連座容疑により、アンナー・フォン・アークの皇女の座からの降格と、アンズ、アンナー母子の皇宮よりの退去を申し渡す」
と、皇帝の代理たる帝國宰相の権限に基づいて、強制退去を命じたのであった。
これに抵抗するアンズ元皇妃とアンナー皇女及び側近達。
しかし、皇宮は帝國軍兵に囲まれており、外戚2人が中心となって派遣した武装部隊は、近づくことが出来なかったのだ。
「いくら待っても、お父上や伯父上の軍隊は、ここにやって来ませんぞ」
冷たくルーゼリア大公に告げられた、元皇妃と皇女。
一歩出遅れた父と伯父の無能さを罵りながら、数時間の睨み合いの末、近衛兵の姿が見え始めたので、抵抗を諦め、皇宮から退去したのであった。
首を項垂れて、広大な皇宮を西大門より出たアンナー皇女一行。
皇宮の外周は、無数の帝國軍兵で満ちており、エウドア皇女派に敬礼されながら見送られることに、屈辱を覚えながら、シルバーバーチ邸へと急ぐのであった。
両陣営の戦い、初戦は引き分けといったところであろうか。
ただ、宇宙艦隊と皇宮をエウドア皇女派に抑えられてしまったのは、アンナー皇女派に取って痛恨の失策であった。
「宇宙艦隊を抑えることに失敗したか」
臍を噛む、ヨハンとアウグスト。
「衛将軍が艦隊を動かすのが一歩遅れたようです。 将軍は戦死し、宇宙艦隊の大半は大将軍と驃騎将軍に抑えられてしまいました」
部下からの報告を不機嫌そうに聞く2人。
「暗殺計画の方は?」
「元大将軍、元車騎将軍の暗殺に成功しております。 両軍閥は現当主に加えて、高い地位にあった前当主をも失い、混乱状態に陥っているようです。 当面は何も出来ますまい」
「三公と帝國宰相の一族郎党も半数以上の殺害に成功しています。 この効果はかなり大きいでしょう」
そこまで報告を聞き、少し機嫌が直った2人。
「他国の要人については、遠いから情報が入るのはいずれということだな」
その様に返事をすると、
「よし。 今多くの支持者が集まっておる。 中庭の大帝の彫像の前で、アンナー皇女殿下の第三代皇帝への即位を宣言しよう。 そして皇帝陛下としての命令を出すのだ。 不法に宮中を占拠した蛆蟲共を始末せよとの」
ヨハンはその様に決断すると、既に準備をしていた即位宣言書や玉璽、隙を見て持ち出していた皇帝の象徴である玉笏を用いて、即位の儀式を急いで始めたのであった。
「ここに宣言をする。 多くの帝國の忠臣の前で、我アンナー・フォン・アークは、皇帝の地位に即位をした。 朕は太陽系帝國皇帝なりと」
「朕は、汝等に命ず。 朕に敵対するエウドア皇女とその一派を始末せよ。 朕の前に反逆者共を捕えて連れて参れ。 朕自ら裁きを加えてやろうぞ」
アンナー皇女は12歳ながらも、一生懸命覚えた文言を、間違えること無く、廷臣の前で高らかに宣言することに成功した。
幼帝の玉言に、燃え上がる様な使命感を感じ、感極まる者達も続出する。
シルバーバーチ邸に集まった、アンナー女帝を支持する廷臣と将軍達による物凄い歓声と熱狂で、即位宣言は大成功に終わった。
「私は陛下の外戚である、ヨハンだ。 皆の者、我に続け。 陛下の敵たるエウドア皇女をギロチンに掛け、皇女を支持する者等を獄門に磔けようぞ」
その言葉に、同意する歓声が一斉に上がる。
この瞬間が、アンナー皇女派の勢力のピークであった。
素晴らしい熱気の波に、勝利を確信した、アンナー皇女派。
まだテラの帝都の夜明けが始まった時間での出来事であり、ひと足先に、アンナー皇女が第三代皇帝を僭称することに成功したのであった。
エウドア皇女は、日の出後に沐浴をしてから、皇宮内の玉座の間に現れた。
ただ一人で、居並ぶ廷臣、将軍達の前をゆっくり、しかし確かな足取りで、玉座に向かって、赤い絨毯の上を歩く。
やがて玉座の前に立つと、座の上方に飾られてある、アーク家の家紋に一礼をする。
そして、約三ヶ月半の間、空席となっていた玉座に座り、
「私エウドア・フォン・アークは今、太陽系帝國第三代皇帝の座に即位した。 皆の者、我を支え給え」
そう宣言すると、玉座の間に地鳴りの様な歓声が鳴り響く。
「皆の者。 先ずは我が即位の祝いに、皇帝を僭称する逆賊アンナー・アークをここに連れて参れ。 我自ら、彼女に裁きを下すであろう」
幼帝エウドアは、その様に臣下に命ずると、玉座の間に立っていた廷臣、将軍の全員がひざまずき、帝の命に従うことを態度で示したのであった。
すると、玉座の隣に、帝國宰相ルーゼリア大公が現れ、幼帝に深々とお辞儀をする。
そして、勅令書を広げ、
「現時点を持ってアンナー皇女を、偽帝を僭称した逆賊と認定した。 皇籍を剥奪し、アーク家一族外の者とする」
「逆賊アンナー・シルバーバーチを捕らえよ。 捕えた者には、これまでに前例の無い名誉と褒美を与えることとする」
ここまで話すと、大公は一呼吸を入れる。
そして、沈痛な面持ちをしてから、
「服喪明けの日付が変わって以後、大帝以来の功臣、名臣が次々と殺害される被害に遭われている。 この暗殺事件の首謀者であるヨハン・シルバーバーチ並びにアウグスト・リューネを捕らえよ。 両名を捕えた者には、両名が隠匿している莫大な財産のうちから、その半分を与えることとする。 者ども励めよ」
この勅命は、玉座の間に居た人々の気持ちを一変させた。
レイザール皇太子擁立派は、皇籍離脱宣言書を片手に説得した老臣達の言葉を聞き入れて、大半がエウドア皇女派に鞍替えをしていた。
レイザール皇太子がエウドア皇女派に書簡を渡したということは、エウドア皇女を支持すると表明したものと理解出来たからだ。
ところが、服喪明け直後に、老臣達の一族が大量に暗殺され、
『支持する皇女を間違えたかも』
と思いながら、玉座の間に居た。
しかし、この報酬はスゴいと思い、選択を誤ったという考えは払拭されたのだ。
ルーゼリア大公が後半に述べた褒美の規模に、エウドア皇女派の廷臣、将軍達が色めき立った。
地位や名誉よりも、両軍閥の財産の山分けという褒美にである。
その額は、三代に渡り散々貯め込んだことで、総資産は5兆帝國ユアンとも10兆帝國ユアンとも言われている。
こんな褒美は、アンナー皇女を支持しても絶対に貰えないからだ。
ざわめく玉座の間。
特に、将軍達の目が異様に輝く。
「宰相閣下。 本当に半分ですか?」
思わず、口々に欲望に満ちた本音の質問が出てしまう。
「皆の者、控えよ。 陛下の御前であるぞ」
大公は威厳ある口調で、皆の心を一旦鎮める。
「シルバーバーチ、リューネ両家は、今まで特権だと言い張って、帝國へ一切納税をしておらぬ。 今回両家を滅ぼせば、半分は帝國が未納の税金として差し押さえる」
「残りの半分は、全て褒美としよう。 これは先帝からの遺言でもある。 両家から税金を徴収出来た者には、残りの半分を褒美にせよとのな」
それを聞いた廷臣、将軍は歓喜の声を上げる。
味方の数は多くない。
しかし、宇宙艦隊を抑えたことで、軍事力では優勢である。
地上戦で、アンナー派を追い詰めていけば、十分勝算はある。
勝てば巨額の報酬。
たとえ全員で均等に割っても、一人当たり、数百億ユアンは確実に貰える。
一生遊んでも、使い切れないほどの金額だ。
「皆の者。 頼んだぞ」
幼帝エウドアはその様に言い残すと、ルーゼリア大公と共に、奥の間へと下がって行った。
異様な興奮状態から醒めると、具体的な勝利への方策の協議へと移っていく。
宇宙艦隊は、エウドア派が抑えたものの、帝都を艦隊戦だけで抑えることが難しいのは事実であった。
テラは、帝都ということもあって、防御シールドが張り巡らされているからだ。
よって、宇宙艦隊は外部からの攻撃や応援を防ぐのが目的であって、あとは上空から威圧してアンナー派の補給を切って、降伏に持ち込む長期戦とするしか無かった。
それ以外では、地道な陣取り合戦の様に、地上戦で押し込むという方法となる。
西上国の惑星アイテールでも、夕方にシヴァ丞相とヒエン国務長官が謎の武装集団の襲撃を受けていた。
ヨステダール少将の謀略は、他国にも伸びていたのだ。
しかし、ここは帝國では無い。
警戒もかなり強化していたので、いずれへの襲撃も、警護部隊に圧倒されて失敗し、襲撃者達は全員射殺されるか、逮捕されていた。
そして、丞相と長官を襲ったのは、帝國軍の特殊部隊では無く、雇われた傭兵と暗殺を生業とする者達であることが、直ぐに判明した。
「帝國の内乱で、我等をも襲撃するとは、どういう了見なのでしょう」
ヒエン元帥が盟友の丞相に語り掛ける。
「邪魔者は、この際、全員葬り去ろうという考えなんだろうね。 まだ詳細は入っていないが、我が国の諜報員からの情報によると、エウドア皇女派の廷臣や将軍達の、遠い親族や雇用者達までもが、大規模な襲撃を受けて、大量に暗殺されたらしい」
それを聞いて、
「リウお嬢様は大丈夫でしょうか?」
元帥が心配そうに盟友に確認する。
「こんなところで倒される方では無いさ。 女神を倒したのが、帝國のチンケな外戚が放った刺客だったなんていう結末のシナリオなら、観客は書き直しを求めて暴動を起こすだろうからね」
丞相は、少し洒落た言い方をして、心配する気持ちを振り払う。
「一応、エミーナから確認を入れさせるよ。 通信に応答があれば大丈夫だったということだろ?」
そう言うと、直ぐに妻に連絡を入れたシヴァ丞相。
しかし、繰り返し通信を入れても、レアー号からの応答は無く、惑星ネイト・アミューでも大きな事変が発生していることが予想された。
慌てて、駐留を開始したばかりの自国艦隊へのホットラインを取る。
ところが、こちらも、誰も応答しない。
「これは、何かが発生しているぞ」
丞相と元帥は珍しく慌てた様子で、側近や部下を呼び出す。
「急いで、惑星ネイト・アミューとの連絡を付ける様に。 どんなルートでも良い。 あらゆるコネクションを使って、状況を聞き出せ」
命令が下され、大企業や役所関係、ネイト・アミューを訪問中の旅行者や商人を探す等、あらゆる方角から連絡を取ろうとするが、全く連絡が付かない。
唯一連絡を取れたのは、アルテミス王国艦隊司令部経由であった。
それによると、
「我軍のマリー・ルーナ中将が率いる駐留艦隊が衛星軌道上に展開し、全艦船の臨検を実施している。 理由は不明」
という回答であった。
それを聞き、
「リウお嬢様。 無事だよな......」
丞相と元帥は、祈る気持ちで続報が入るのを待ち続けるのであった......




