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【完結から1年。順次補正中】正史・銀河四國史(未来における英雄の生涯)  作者: 嶋 秀
RIU・落龍篇

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第85話(嵐の前の静けさ)


帝國の皇帝の座を争う内乱の発生が予感される中、エウドア皇女派は、レイザールの書簡を手に、多数派工作を強化していた。


一方リウは、先の大戦でアルテミス王国が押さえて売却手続きに入ったものの、売れ残っていた降伏した帝國軍艦艇の残りを全部買い付けていた。




 一方、リウとの極秘会談を終えたウォルフィー元帥一行。

 半月後に、帝都テラに帰還していた。



 「宰相閣下。 無事手に入れてきましたぞ」

 ウォルフィー元帥が、レイザールが書いた書簡をルーゼリア大公の執務デスクに直接持って行き、広げて見せる。

 「それでは我等も署名をして、公文書に登録をしよう」

 文面を読み終えたルーゼリア大公は、集まっていた同士達にそう告げると、直ぐに帝國宰相と三公の署名が入り、有効となったレイザールの皇籍離脱宣言書。

 これを使って、皇太子擁立派の説得を極秘に開始したのであった。



 更に、どちらにも組みしていないが、大帝との繋がりが深かった引退している老臣、老将軍のもとを訪れ、陰ながらの助力を求めてもいた。

 大帝の廷臣だった者達は、心情的にエウドア皇女を支持するルーゼリア大公やウォルフィー元帥に近い者も多く、水面下では相当勢力を巻き返して来ていたのだ。

 そして、新たに隠れエウドア皇女派となった諸侯に対して、老臣達は、

 「支持表明は喪が明けた後で。 それまではアンナー皇女殿下支持寄りの姿勢をみせておいて欲しい。 もし万が一、アンナー皇女殿下派が第三代皇帝の座を手に入れてしまった場合には、そのままで構わない。 我々エウドア皇女殿下派がアンナー皇女殿下の即位を阻止出来た時点で、こちら側に鞍替えして貰えれば十分だ」

と、具体的な動きについて説明していたのだ。

 この要請に、中立派諸侯は大いに喜んでいた。

 「この条件ならば、リスクが低くて安心だと」


 ウォルフィー元帥とオズワルト大将は、なるべく軍事的な動きを見せないようにしていた。

 そしてほぼ毎日、二世皇帝の廟に参拝して、居宅に帰って喪に服すという行動を繰り返すのみ。

 アンナー皇女派は、密偵を放って、当然そうした情報を入手していた。

 「宰相も三公の連中も、ただ毎日二世皇帝の廟に参拝して、邸宅に帰って喪に服す日々を送っているだけだぞ。 もう諦めたようだな」

 情報報告を受けているヨハン・シルバーバーチは、嬉しそうに周囲の者に話し掛けていた。

 「いくら、大帝陛下の臣僚だったとは言え、もうとっくに引退していて然るべき年齢。 世代交代も進んでいますから、どうにもならないと諦めたのでしょう」

 あまりにも、動きが無いエウドア皇女派の様子に、『勝負有り』と見て、余裕の態度のアンナー皇女派。

 中立派からも、裏では続々とアンナー皇女への支持が表明されており、もはや廷臣・将軍の三分の二以上から、アンナー皇女即位への支持が寄せられている。

 「ここまで支持が広がれば、もう安心だ。 これ以上支持が増えても、与えるポストが無いぞ」

 アウグスト・リューネは、嬉しい悲鳴を上げていた。


 「それでは、100日の喪が明けると同時に、両家が保有する軍閥の艦隊を帝都テラに向けて進発させよう。 帝都の軍事宇宙港では、マー将軍の艦隊が即時に展開して、他の艦隊を威圧する。 そして、宮殿でアンナー皇女殿下の太陽系帝國第三代皇帝への即位の儀式を挙行しよう。 即位さえしてしまえば、帝國軍艦隊は新皇帝陛下の命に従う筈だからな」

 既に、具体的な行動計画の立案も始めていたアンナー皇女派であった。


 集まっていた支持者達が去った後の、或る日のシルバーバーチ邸。

 ヨハン・シルバーバーチとアウグスト・リューネは、2人だけで祝杯を上げていた。

 そこに、ヨハンの懐刀である諜報部の情報将校シルスタ・ヨステダール少将が、2人に呼ばれてやって来た。

 「少将。 楽に座ってくれ給え」 

 ヨハンは、少将に対面のソファーに座る様に勧める。

 「失礼致します」

 敬礼をしてから、勧められたソファーに座ったヨステダール少将。

 「まあ、一杯どうだ」

 ヨハンは、テーブルに置いていた超高級ワインをグラスに注ぎ、少将の前に置く。

 「有り難く頂戴致します」

 そう言って、ひと口含み、少将は乾いていた口の中を潤す。


 「少将。 例の計画は順調か?」

 アウグストが確認する。

 「現在のところ順調です」

 少将が質問に答え、

 「これだけターゲットが居ると、実行者達を揃えるのも大変だろ? 費用は幾らでも出すから、腕利きの連中を頼むぞ」

 ヨハンは少将を労う。


 「我等への支持が広がり過ぎて、分け与えるものも準備しなければならないからな。 我等の弱点は艦隊戦。 だから謀略に徹すべきという少将の考えを私達は支持している。 それで大きなものが手に入れば、謀略への一時的な批判など、非常に安いものだ」

 ヨハンは、アウグストにそう語り掛けると、

 「我等と不仲の2つの地方軍閥。 当主を殺して、先ずはそれを奪うのがもっとも手っ取り早い」

 「そして軍閥だけでは無く、少将立案の謀略が成功して、邪魔なウォルフィー以下の老将や敵将達までをも一網打尽に消し去ることが出来れば、アンナー女帝陛下は安泰。 我等も枕を高くして眠れるからな」

と、不気味な笑みを浮かべて答えたのであった。 




 対するエウドア皇女派は、全く動きを見せて居なかった。

 ただ、ウォルフィー元帥とオズワルト大将は、麾下艦隊をさり気なく、ルナの軍事宇宙港に駐屯させていた。

 大気圏の無いルナの軍事宇宙港は、テラの軍事宇宙港に対して、動きを牽制しやすく、軍事的に見ればルナ駐留が正解である。

 2人はテラ出身の将軍では無かったので、手狭なテラの軍事宇宙港に艦隊を駐留する権限を持って居なかったのが、幸いしていたのだ。


 「相手方の動きは、かなり激しいようじゃ」

 「元大将軍のジョーン・ロー・フェルトン退役元帥と元車騎将軍のユン・ショウ退役大将の2人からは、既に全面支持の書面を内密に頂いておる。 我等以上の老齢とはいえ、2人共に実績十分の地方軍閥前当主であるし、シルバーバーチ、リューネのそれぞれ地方軍閥とは、因縁の関係で仲が悪いからな」

 ルーゼリア大公は、二世皇帝廟で会った時、ウォルフィー元帥に現況を簡単に説明した。

 「それは、大きいですな。 地方軍閥は、概ね1個艦隊規模の戦力を有しているからの」


 帝國艦隊は近年の敗北続きで、現在11個艦隊規模となっている。

 ただその他に、大きな地方軍閥が4つ有り、それぞれが約1個艦隊の戦力を有しているので、合計すると15個艦隊規模となる。

 そのうち、4個艦隊をウォルフィー、オズワルト両将軍が支配しているので、大帝崩御後に引退した元将軍だった地方軍閥の保有分を合わせれば、4割の艦隊戦力をエウドア皇女派が現時点で有している計算になる。

 しかも、元帥と大将は歴戦の強者つわもの

 艦隊戦に持ち込めば、一気に優勢になる可能性が高いのだ。

 「まあ、いま暫く大人しくしていよう。 相手を油断させる為に」 

 大公はそれだけを言うと、廟を出て行ったのであった。


 『いずれにせよ、服喪明けに大半の帝國艦隊を我等が制圧出来るか否かに懸かっている。 抜かり無い様に、準備を進めておこう』

 廟に参拝後、帰り道で元帥はその様に考えながら、杖をつきつつゆっくり歩くのであった。




 シヴァ丞相は、レイザールから受け取ったリウの書簡を読んでいた。

 『難しいと言われていた停戦が、帝國皇帝の死によって、少しだけ見える状況に変化したか』  

 そんなことを考えていた丞相。

 リウが、最後の仕事だと言っていた『停戦への道筋を付けること』

 書簡の中でリウも書いていたが、それを実現出来るかどうかは、老将等が支持する女帝が即位後、何十年も先のことになるであろうし、双方の国民がそうした状況を望む様になることが必要であろう。

 今後も、国の舵取りをしていく者達へ、平和を求める世論の形成という大きな宿題をリウは課したということになる。

 彼女は、現在出来る限りの範囲で、その道を少し切り開いてくれたのだから。

 それを無駄にしたら、怒られてしまう。


 「でもこれでもう、やり残したことは無いのだろうな」

 小さな声で呟くと、少し残念そうな表情を見せた丞相。

 リウは、帝國が落ち着くまで、まだ現状のままで居るのだろうが、いずれ例の施設へと向かってしまう。

 約束を果たす為に......

 そう思ったので、残念そうな顔を見せたのであった。



 一方リウは、ノンビリと艦隊司令部に顔を出す毎日を過ごしていた。

 レアー号に新しく設置した、人工頭脳を用いた統治官用の最新鋭システムが全面稼働したことで、新領土における統治部門は、ほぼ自動化されたからだ。

 リウと生体頭脳レアの負担が9割以上減となったので、時間が出来たのであった。

 もちろん、レイとパルトネール准将以外には話していないが、リウの人生が最終盤に差し掛かり、みんなとの別れを惜しむ気持ちが、司令部へと足を向かわせていたのだ。


 「リウ。 そんなに暇なのか?」

 極秘会談後、連日方面軍艦隊司令部室に入り浸っている姿に、忙しそうなルー中将が羨ましそうに言う。

 「帝國が落ち着くまでは、艦隊も落ち着かないでしょ? 私も総司令官という責務を果たさねばと思って、司令部に来ているのよ」

 そんなことを言っている割には、暇そうにお菓子を食べている総司令官。

 「俺は忙しいぞ。 余計な役職も付いたせいで」

 ルー中将は、リウの方を睨みつつ、書類とスクリーンを交互に見つめている。

 「仕方ないじゃん。 宇宙艦隊司令長官代理を2人で分かつのが、ホーウィン中将が就任する条件だったのだから」

 裏交渉で、勝手にリウがそう提案したに違いないと思っているルー中将は、事前相談無しで決まったことに、少し不満なのだ。


 「主流派も、主要ポストから全員が外され、相当不満だろうから、いつ爆発するかわからない状況だしね。 首都星系で万が一、クーデターが発生しても、ここに宇宙艦隊司令長官代理が居れば、艦隊を動かす大義名分が立つでしょ?」

 リウにそう言われて、愕然とするジョン。

 「リウ。 そこまで考えていたのか?」

 「当然。 だから先輩も文句言わないで、暫く我慢してね」

 本当はそこまで考えていた訳ではないリウ。

 ただ、敵である帝國の情勢が、内乱必須の情勢となったことから、主流派が最後の反撃に出て来る確率が急上昇したと考えていたのだ。

 帝國の内乱が長引けば長引くほど、ノイエ軍主流派を自称する連中も、その状況に触発されやすくなる。

 リウはその様に考え始めていた。


 「ところで、アルテミス王国政府が処分に困って持て余していた、大戦で降伏した帝國軍から没収した帝國艦艇を、リウが全部買い付けたって本当か?」

 「どこで、そんな噂聞きつけたの?」

 「噂って言うことは、事実じゃ無いのか?」

 「いいえ。 買っちゃった〜」

 「どうするんだよ。 置いておくところも無いだろ? 軍事宇宙港は、もう無理だぞ」

 ネイト・アミュー軍事宇宙港は、ルー中将がトップの艦隊司令部の管轄。

 リウが無理を言って来る前に、牽制球を入れたのだ。

 「わかっているって。 ちゃんと目的も有るから」

 「帝國の内乱に備えてだと言うことは分かるよ。 無人化して必要が有ったら、帝國軍への突撃用にするのだろ?」

 「流石、先輩。 私の意図を見抜く様になったね」

 「そりゃあ、長い付き合いだからな。 新しい協定で、新型艦隊は帝國の内乱への介入に動員出来ないと決められたからな。 それぐらいは知恵の回らない俺でも分かるよ」


 「それで、いくらで買ったんだ?」

 「約800隻を5000億王国マルクで購入したよ。 人生初めての借金しちゃった」

 「それって、安いのか?」

 「ノイエ国が西上国から購入した中古艦隊が2個艦隊1000隻で、約12兆ノイエドルだからね。 かなり安いと思うよ」

 「リウが大金持ちだってことは知っているけど......とんでもない金額だから、その感覚がよくわからないよ」

 「まあ、少しは使わないと、景気が良くならないからね」

 「そんなものかねえ~。 俺にはよくわからないが」

 無駄口を叩きつつも、手は休めていないルー中将。

 「それで、もし使う機会が無かったら、どうするの? スクラップにでもして処分するのかい? 帝國軍に売却するのは禁止だろ?」

 「帝國軍に転売したら、ボロ儲けか〜」

 嬉しそうに皮算用するリウ。

 「やっぱりリウって、商人気質なんだね。 そういう話しの時は、本当に嬉しそうだものな」

 「そう?」

 「でも、帝國軍に転売したと知れたら、名声は地位に墜ちるぞ。 トータルしたら大損だろ?」

 「売買契約時の禁止事項だからね。 使わなかったら武装を外して、輸送船にでも改造して売却するよ」

 ようやく真面目に答えたリウ。

 結局、夕方まで司令部に屯し続けたのであった。



 帰ってからリウは、レアに怒られていた。

 買った帝國軍の中古艦艇に単純作業用の機械化兵を乗せて、その機械化兵をレアがコントロールすることで、安く自動化した艦隊に変身させようと考えていたのだ。

 「私に、機械化兵50万体を制御しろっていうの? リウは」

 あまりにも急な要望に、呆れているレア。

 「いくら私でも、50万体の同時制御は無理よ。 他の業務、全部止めて良いのだったら出来るけど......」

 「しかも、単純作業の安いヤツでしょ? 自発型じゃない機械化兵やロボット兵をコントロールするのって、本当に大変なんだよ。 わかっている?」

 段々と熱を帯びてきたのか、怒りが込み上げてきたのか、強い口調になるレア。

 『やっぱり、レアって生命体なんだな~。 喜怒哀楽の感情を持ち合わせている』

 リウがレアに怒られている後ろで、様子を見ているレイはそんなことを考えていた。

 やがて、レアの怒りはレイに飛び火した。

 「レイ。 我れ関せずっていう態度はダメ。 ちゃんとリウを止めなさい。 それが貴方の役目でしょ? 帝國の中古艦艇なんて、ただでさえ本当に扱いにくいんだから。 無駄遣いだよ。 レイもリウと一緒に行って、王国政府に返して来なさい」

 散々怒られたが、結局渋々レアは承諾した。

 なんだかんだ言っても、レアはリウに甘いのだ。



 リウが帝國の内乱を予想して、急遽即席で準備した無人化艦隊。

 役に立つのか、とんでもない大金をドブに捨てたのか、それはわからなかったが、リウの本音は、

 『ドブに捨てたであって欲しい』

というものであった。

 購入に支払った資金は、アルテミス王国の復興予算として、透明性を持って使われる。

 だから、無駄って言うわけではない。

 リウは、常にそういう考えの持ち主であった......

 

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