第82話(方面軍組織改編)
横恋慕事件から戦乱、そして艦艇強奪。
これらの事象は、ネイト・アミュー方面軍の組織改編へと繋がった。
大戦以後、一緒に戦って来た仲間や支えてくれた多くの者達とリウは別れる日が来たのであった。
いよいよ、方面軍の組織改編・人事異動の日がやって来た。
リウを支えて来たアイザール少将と別れの日。
数年間、一緒に戦って来た将兵が首都星系に戻る日である。
異動の記念式典で挨拶をしたリウ。
「エペソス星系での大会戦から今日まで、険しい道程を一緒に戦い続けてきて下さり、本当にありがとうございました。 仲間達と別れるのは辛いですが、皆様の今後の人生の幸せを祈っています」
短い、そして軍人らしくない言葉であったが、リウらしい挨拶で別れを惜しむ気持ちのこもったものであった。
2日前に、送別会で少将と別れを済ませたリウの幕僚達であったが、約半月後に首都星系での両大将の退役記念式典に出席するリウと随行する護衛のレイ、ラートリー大佐、エーレン少佐と、首都星系への300隻余りの艦隊の移送を指揮するコーダイ少将以外の者にとっては、これがアイザール少将と最後の別れとなる。
「アイザール少将、本当に世話になった。また会う日まで、元気でな」
方面軍艦隊司令官のルー中将が、数年間に渡り中将の右腕として支えてくれた少将との別れを惜しんで、固く握手をして、肩をポンポン叩いて感謝の気持ちを示している。
そして、留守番で送別会に参加出来なかったブルーム准将の姿を見つけると、少将は近寄っていき、
「一昨日は、防衛指揮官として、留守番ありがとうございました。 リウ様のことをよろしくお願いします」
と別れの言葉を告げて、握手を交わしていた。
その他、イルバール准将を始め、艦隊参謀のヴァルト大佐やボウネン大佐、ルー中将の副官ヴァース少佐等と握手を交わしてから、臨時旗艦の戦艦沙羅曼蛇に乗り込んで行った。
最後に、乗艦用のエレベーターの最上部に着いてから、出入口デッキ上で、見送りに来ている多くの幕僚達や数万人の将兵達に手を振る。
やがて、艦内に姿を消して行ったアイザール少将。
今回、異動となる多くの将兵の家族達も、それぞれ割当てられた補給艦や民間客船に乗船を終えると、総勢500隻以上に膨らんだ一大艦艇群は、首都星系クロノスに向けて出発していったのであった。
この艦艇群は、アルテミス王国経由で首都星系に向かうので、2週間以上の長い旅路となる。
「あ~あ。 行ってしまったな〜」
ルー中将が、非常に残念そうな表情を見せて一言発すると、リウに手を振ってから、参謀達や副官と一緒に司令部に戻ってゆく。
リウも、
「私達も戻ろうか?」
とレイに言って、統治官の執務室へと戻る。
別れの式典が終わった後の余韻なんて、意外と呆気ないものである。
「今回の出張の帰りには、新型艦艇を20隻受け取るのですよね?」
レイがリウに確認する。
「財閥のティアーの造艦所で建艦されていた分をLSグループが引き取ったので、それを搬送するんだよ。 主流派に妨害されないように、この20隻は秘かにクロノス星系外に移動させたってことだから、向こうに着いたら、クリスから合流座標を貰って、引き取ることになるね」
「ティアーの造艦所での建艦は、止めたのですよね?」
「主流派に分捕られないよう念の為にね。 それに当面、ノイエ軍に新型艦艇の供与は為され無いから」
そう答えると、出張予定表を見つめるリウ。
半月後にあるヘムズ大将とタイラー大将の退役式に出席した後、コーダイ少将と合流して、20隻を回収してネイト・アミューに戻るという旅程であった。
「この予定がディオと会う本当に最期の機会だね。 私にとって」
この時リウは、悲しそうな表情を見せる。
「財閥でのデビューで出会ってから、18年ですよね?」
「18年って言っても、13年間は一度も会ってないからね。 その表現はあまり正しくないかも」
リウは笑顔を取り戻して、レイの表現を正してから、
「レイ。 いつかレアと一緒に、ディオと再会して下さいね。 その時は、私の悪口でも語って、昔を懐かしんでよ」
そんなことを約束させるのだった。
統治官のオフィスに戻ると、パルトネール准将が先に戻って待っていた。
そして、リウとレイ、エーレン少佐に対して、
「私も今日から静養に入ります。 席は移動しましたので、後任者によろしくお伝え下さい」
そう言うと、少ない荷物を持って、一人レアー号に向かおうとしたので、3人は一緒についていくことにした。
荷物はレイが持ち、エーレン少佐が護衛の専従として、短い道程を進む4人。
「ケイト、学校の件だけど......」
リウが話し掛けたところで、
「場所はレアー号の中でレアと一緒に探しておくわ。 この近辺で」
そう言うと、歩く速度が急にゆっくりとなった。
慌てて、リウが准将の体を支える。
「もう駄目ね......」
そう呟くと、少し立ち止まって、息を整えてから、再び歩き出す。
そして、レアー号に着くと、レイが荷物を持ったまま、准将が亡くなるまで過ごす、新しい部屋へ案内する。
「あら、随分素敵な部屋ね。 この惑星を一望出来て」
大きなスクリーンが付いた、特別な部屋。
病室と居室を兼ね備え、リウが特注したものであった。
「リウに御礼を言っておいてね」
准将はそう言うと、持ってきた荷物を受け取り、身の回りを世話するロボットと片付けを始める。
「少将。 私のことはイイから、貴方は自身の務めを果たして来なさい」
そう言って、リウのもとに戻る様に勧める。
「それでは、また夜に」
レイは挨拶をすると、部屋を出て行った。
「ケイトは何か言ってた?」
オフィスへ戻りながら、リウがレイに尋ねる。
「素敵な部屋をありがとうって言ってましたよ」
そう伝えると、
「良かった。 気に入って貰えそうで」
リウは嬉しそうに言うと、
「こんな遠い惑星にまで、付き合わせてしまったから、少し罪滅ぼしをしないとね。 彼女はご両親とも疎遠だから」
殆ど謎に包まれた准将の私生活を唯一知るのがリウであるが、それ以上、何も語ろうとはしないリウであった。
それから10日後。
レアー号は首都星系クロノスに向けて出発した。
リウの随分員は、最近のパターンであるレイとラートリー大佐、エーレン少佐と、今回はパルトネール准将が病室に居るままであるが、一緒に向かうこととなった。
最短航路を少し余裕のある日程で移動し、退役式典の前日には惑星ヘーラーに到着した一行。
首都星系で用件を済ませたい者は、行って来れる様に、リウが自由時間を設定していた。
ラートリー大佐は両親に会いに向かったものの、エーレン少佐は艦を降りることはせず、相変わらず自主トレーニングを続けていた。
リウとレイもトレーニングを終えてから、レイがリウに質問した。
「少佐には、ご家族がおられるのですか?」
「私も全然知らないよ。 先生は基本無口でしょ?」
「確かにそうですね」
「私の副官に勧めたのは、先輩だしね」
「そうでしたね」
「いつかは、分かる日も来るんじゃないかな?」
「意外と妻子が居たりして」
2人がそんな噂話をしているとはつゆ知らずの少佐。
急にクシャミが連発したものの、それは偶然の様であった。
ラートリー大佐は、惑星ヘーラーにある実家に一時帰宅していた。
突然の娘の帰宅に驚く両親。
「キエラ。 どうしたんだ?」
その質問に、
「明日、軍の式典が有るからね。 総司令官が出席するので、その随行員で急遽首都星系に来たの」
「前もって、連絡くれれば」
「ごめんなさい。 総司令官の身辺警護上、そういうことは出来ないから」
リウはノイエ国でも、既に大戦の英雄として知れ渡っている人物である。
アルテミス王国では神様扱いであるが、そこまではいかないものの、その美貌ぶりが知られつつ有ることから、母国での人気も高くなってきていた。
「お前は女性だから、総司令官の警護にはうってつけの存在だものな」
大佐の両親も、娘が英雄の警護責任者の一人であることを誇りに思っていたのだ。
「クルスは元気にしているか?」
暫く会えていない孫の様子を知りたがる大佐の両親。
大佐の一人息子であるクルス・ラートリーは、小学校卒業後、自身の意思で、惑星ネイト・アミューに居る母のもとに行き、一緒に生活していたのであった。
「クルスも、もう17歳よ。 おじいちゃんおばあちゃんに会いたがる年齢じゃないわ。 男の子なんてそんなものよ」
キエラはその様に答え、一人息子の近況を両親に聞かせてあげる。
「勉強の成績はイマイチね。 私に似たせいかな? でも、運動神経は抜群よ。 将来はプロスポーツで活躍するかもね」
離婚後、先の大戦で亡くなったクルスの父親も装甲兵部隊の中堅幹部で、運動能力が高かった。
両親のその様な面を一人息子は受け継いだのであろう。
その様な会話をした後、久しぶりに母親の手料理を味わってから、実家をあとにしたラートリー大佐。
レアー号に戻ると、居住空間のリビングで、パルトネール准将も交えて、リウとレイが何かを話し合っていた。
「総司令官。 ただいま帰着しました」
ラートリー大佐がリウに向かって申告すると、リウは簡単な敬礼をしてから、
「どうでした? ご両親の様子は」
「変わらず元気そうでした。 ご配慮ありがとうございます」
「ところで、子供の居る大佐の話を聞きたいのだけど」
リウがその様に話し掛け、その後色々な意見を求められることに。
戦災孤児や事故で両親を亡くした孤児をサポートするシステムを作ろうとしていたリウとパルトネール准将。
アルテミス王室が運営する王立学校を手本にしたものを、惑星ネイト・アミューに作ろうと動いていたのだ。
既に、リウの個人資産から一部出資が為されており、それにパルトネール准将が保有する資産を死後寄贈を受ける予定で、『パルトネール・リウ財団』が設立されていた。
全寮制の学校に加え、孤児の住まいを確保する居住施設と生活の面倒をみる食堂や娯楽施設を設置する方針が決まっており、近々運営が開始されることとなっていた。
「艦隊と商船団が亜空間遷移から出たところで偶然衝突した、あの大きな事故で私が大怪我をしただけでなく、婚約者を亡くしてね。 それからは仕事一筋十数年。 独り身で特に趣味も無いし、色々な賠償金や保険金を沢山貰ったけど、使い途がないのよ。 だから、死ぬまでに一つくらい何か遺したいと思ってね」
パルトネール准将はラートリー大佐に、財団設立の経緯を話すと、
「大金持ちのリウが足りない分、沢山出してくれるって言うから、充分形にはなるでしょう。 その中から一人でも、私達の思いを継いでくれる若者が出ると良いわね」
そんな未来の希望を語ったので、その場に居た3人は、少し涙が滲んでしまうのであった。
翌日。
参謀本部ビルで行われる、定年退職者と退役者の記念式。
軍高官になると、各ポストには一定の在籍可能年数が設定されていることから、少将以上の者は、定年前に退役せざるを得ないのが実情である。
今回はツートップが同時に退役するので、いつも以上に規模が大きい式典となっていた。
見送る側も、軍の白い礼服を着た高官達が、多数出席している。
ニミッツ中将、ホーウィン中将の次の席に座ったリウ。
新体制における序列の席順。
既にリウは事実上、ノイエ軍トップと見なされていたが、新体制でも役職は4番目(3番目は欠席のルー中将)のままであった。
コーダイ少将は19番目、レイは20番目に座っており、一列後ろから、リウの様子をずっと見ていた。
送られる側は、既に休暇取得に入っているものも多く、制服も返還していることから、スーツ姿が大半であった。
式典の最後に、この日を境に組織を去る者達が、最前列に座る高官と一人ずつ握手をしながら、会場を出てゆくのが恒例行事となっている。
リウは、ヘムズ大将やタイラー大将とは一言ずつ挨拶を交わしていたが、アイザール少将とは握手をするのみで、何も言葉を交わさなかった。
その姿を後ろから不思議そうに見ていたレイとコーダイ少将。
やがて、退職・退役者達が去ると、式典は終了となった。
後ろからリウに近寄った少将2人。
すると、泣くのをずっと我慢している様子のリウだったのだ。
『アイザール先輩と挨拶を交わさなかったのは、お互い、言葉を出すと、涙が止まらなくなるなってしまうからだろう』
レイはそのことに気付き、そっと軍用のサングラスとハンカチをリウに差し出したのであった。
サングラスを掛けた後も、涙を我慢し続けたリウ。
式典が終わってから直ぐに、レアー号に戻ることにしたリウとレイ。
コーダイ少将にはリウの代理として、最後の挨拶をお願いしたのだった。
レアー号に戻ると、
「ああ〜ヤバかった。 大泣きしちゃうところだった」
とリウ。
「最前列だし、確かに目立ちますものね。 でもアイザール先輩との別れ、あれで良いのですか?」
「ディオが今にも泣きそうな顔をしていたから......握手だけだったけど、もうそれでイイよ」
リウはレイの問い掛けに答えると、リウの代わりに統治官の仕事をしていたパルトネール准将が、
「まあ、あんまり大泣きすると、直ぐ『女は......』って言われるからね。 リウもよく我慢したわ」
と男尊女卑の傾向が強いノイエ軍の中で苦労してきた准将らしい、感想を述べたのであった。
1時間程してから、コーダイ少将が戻ってきたので、
「仲間との別れは惜しいですが、そろそろ出発して、受領すべきものと一緒に戻らないとね」
リウはそう言うと、前日にクリス・アーゼル准将から受け取った座標位置へ向かう設定をする。
「レア。 あとはよろしく」
そう言うと、クロノス星系から少し離れた、LSグループの物流拠点があったケイロン星系へと進路をとった。
ケイロン星系は、大戦前はLSグループの一大拠点があった場所であるが、帝國軍に大虐殺の舞台となった星系の一つであり、約5年経った今でも、復興は遅々として進んでいなかった。
人口も激減したままで、この星系にあったLSグループの物流拠点や工場群は、帝國軍によってその多くが破壊されており、ほぼ廃墟となっていた。
「随分凄いところに、艦艇を隠したのですね」
コーダイ少将がスクリーンで映し出された主惑星の地表の姿を見ながら、リウに話し掛ける。
「ティアーから、直線で移動させやすい星系だからね。 今や訪れる人もごく僅かだし」
そう答えていると直ぐに、まだ健在の巨大倉庫の中に、新型艦艇20隻を発見した。
「レア。 各艦艇のシステムを起動させて」
リウが指示すると、20隻の艦艇のエンジンが起動して、直ぐに発進準備完了となる。
「レア、惑星キロンの衛星軌道上に出たら、亜空間遷移に直ぐ入ろう。 最短距離でネイト・アミューまでお願いね」
リウの指揮で、20隻の新型と一緒に出発したレアー号。
ケイロン星系を出る前に、亜空間遷移に移行した為、軍の監視システムには把握されることなく、首都星系を脱出した一行であった。
「残りの30隻は、何処から持って来るのですか?」
レイがリウに質問する。
「それは、新たに駐屯するシヴァ艦隊が一緒に持って来ることになっているよ」
「惑星ネイト・アミューに西上国も常駐する様になるのですか?」
「この間の戦乱がキッカケだね。 それと......」
「それと?」
「ヤーヌス星系の新規開拓に乗り出すつもりなのでしょう。 発展が著しいから、経済的な利権をしっかり確保する気になったみたいよ」
リウがそう答えると、
「三国同盟は、経済的にはライバルですからね。 リウの統治が予想以上に成果を上げているので、遠い星系だけど、無視出来なくなったという訳ですね」
「それで、駐屯規模は?」
レイが質問を続ける。
「少将が率いる半個艦隊を2つ常駐させるって。 先に駐屯している2国に迷惑を掛けないように配慮すると言ってたよ」
「軍事宇宙港の容量が足りないですよね?」
「衛星軌道上に半個艦隊、残りの半個艦隊を地上の軍事宇宙港に置くってことで、了承を求めて来ているね。 衛星軌道上には最大2個艦隊が駐屯出来る巨大な施設を建造して持って来るらしいよ」
「それは凄い。 西上国から持って来るのですか?」
「アルテミス王国のASJグループに発注したみたいよ。 まあ、規模の大きな話よね?」
そんな会話をしながら、帰路についたリウ達。
ハミルトン元准将が引き起こした事件をキッカケに、大きな改編へと繋がり、惑星ネイト・アミューを含むヤーヌス星系は、更に新しい時代へ突入していくのだった。
帰還後、リウ達にようやく平穏な日常が戻り、リウも最後にやり残したことを日々行う時間が続いていた。
そんなある日、大きな情報がもたらされたのだ。
それは、
「太陽系帝國二代皇帝ザッハ・フォン・アークの病死」
であった......




