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【完結から1年。順次補正中】正史・銀河四國史(未来における英雄の生涯)  作者: 嶋 秀
RIU・落龍篇

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第80話(最後の会談)


リウは、王室夫妻、ヒエン国務長官と相次いで会談に臨んだ。

これは両者と、人生最期となる会談であった......


 今回の一連の騒動を期に「新型艦艇に関する協定の一部公表」というクリス・アーゼルの提案に、リウが同意したことから、リウ・アーゼルが新型艦艇に関する多種多様な権利を所有している事実が世間に明らかとなった。


 新型艦艇について、独裁者による悪用を防止する為、西上国、アルテミス王国の2カ国とリョウ・シヴァ、リウ・アーゼルの2人の個人間で、複雑な権利関係の契約が結ばれていることは、今まで一切公にされていなかったが、これも一定の範囲で公表することに。


 これによって、主流派を自称するノイエ軍の一部勢力が、国家の英雄たるリウの意思を無視していた事実が、世間にもハッキリと分かる形となった。


 原則最前線配置という新型艦艇の権利関係を犯し、主流派が独占して首都星系に配置していた事実。

 帝國軍を新領土に引き込む主流派幹部の個人的な謀略。

 その結果による戦乱の勃発。

 新型艦艇が最前線に配置されていなかったことで、多くの戦死者が出たという事情も明らかにされると、ノイエ国世論の批判が軍主流派に向くこととなり、派閥の威信は大きく低下。

 軍人や民間支援者の脱退が相次ぐこととなった。



 また、新型艦艇供給に関する契約が、ノイエ軍主流派による違反行為で破棄となったことから、ノイエ国と権利者の間で、新たな条件で再契約する為の会議と調印式が、惑星ネイト・アミューで開催されることとなった。


 会議自体は、クリス・アーゼル准将の提案に基づく条件で、事前調整が終わっていたことから、直ぐに終了し、あとは翌日の調印式を残すのみとなっていた。

 そして、今回の会議に出席したアルテミス国王夫妻とヒエン国務長官の最大の目的は、リウと最期の別れを済ます為であった。




 先ずは、アルテミス王と王妃アルテシア夫妻がリウの待つ方面軍旗艦ベルクを訪問した。

 新型艦艇の再配置に伴い、戦艦ベルクは内部の改装が行われ、儀礼用の旗艦へと変貌を遂げていたのだ。


 出迎えたリウの姿を見たアルテシア王妃は、直ぐにリウを抱き締め、涙を流し始める。

 周囲から見たら感動の再会の様に見えたが、国王夫妻から見ると今生の別れであった。

 王妃のもとに預けられてから流れた、約24年の月日。

 リウの美貌は何も変わらないが、60歳前後となった国王夫妻は、流石に老いの色を見せ始める年齢となっていた。


 「リウ。 元気にしていた?」

 「国王陛下、王妃殿下も、お加減如何ですか?」

 その様な挨拶から始まった3人の会話。

 その大半は昔話であり、リウが王室で過ごしていた十代の頃の話題ばかりであった。

 そしてリウは、一つのことを確認する。

 「例の施設は、完成しているのですよね」

 3種族が新型艦艇の計画に参加する条件であった人身御供の話。

 その中核施設が、惑星ディアナにおいて作られていたのだ。

 「もう完成しているね。 あの中にリウが入るのだろ? そういう話だったよな」 

 国王がその様に語ると、王妃は再び涙ぐんでしまった。

 「王妃、泣かないで下さい。 私はその施設の中核頭脳となって、長い間みんなを見守り続けることが出来るのです。 会話も出来るそうですから、施設に来て頂ければ、いつでも会えるじゃないですか?」

 リウは明るく、その様に答えるのであった。


 楽しかった時間にも限りがある。

 お互い、延々と会話を楽しめる様な立場では無いからだ。

 やがて、会談終了の時刻が迫り、

 「リウ殿。 私からアルテミス王国国民を代表して一言御礼を言わせて欲しい。 貴方の叡智と自己犠牲の決断によって、帝國の殺戮の犠牲や奴隷になる悲運を、国民全員が免れることが出来た。 厚く厚く御礼申し上げる。 そしてその決断が無駄にならない様に、貴方によってもたらされた平和を守り続け、その偉業を後世に長く伝えてゆくと王室の総力をあげて約束する。 だから、見守っていて欲しい」

 国王は会談の最後、リウに礼を述べた。


 しかし、そのことには一切触れず、

 「次は、施設で再会しましょう。 その時には今のような時間制限もお互い無くなっているでしょうから、お喋りを思う存分しましょうね」

 リウは国王夫妻に空約束をすることで、国王が述べた御礼への返事とし、その後2人とハグをしてから会談を終了として、見送りをするのであった。


 旗艦のスクリーン越しに、側近達と共に艦外に去ってゆく、少し年老いた国王と王妃の姿を見送り続ける。

 『長い間ありがとうございました、アルテシア王妃、国王陛下。 どうか長くお達者で。 さようなら......』

 心の中で呟くリウ。

 これがリウとアルテシア国王夫妻との、生涯最後の会談であった......




 次に旗艦ベルクやって来たのは、ヒエン国務長官・元帥。

 丞相の名代でも有るので、最初に丞相からの書簡を手渡す元帥。

 先ずそれを読むリウ。

 「何と書いて有りましたか? 私も内容は知らないので」

 元帥がリウに確認する。

 「これからの軍事行動は、丞相やルーナ中将、ルー中将に任せて、残りの時間を気楽に過ごして下さいって」

 「そうですか。 私もそう思います」

 「まあ、人身御供の件が無くても、私に残された時間はあまり残っていないのです」

 「それは、どういうことですか?」

 「不老装置の適合状況、元々悪かったのですが、想像以上に悪くて......余命10年以下ですね、最新の診断結果は」

 リウは他人事の様に語り、寿命が短いのだから人身御供の件を気にする必要は無いと言うのであったが、元帥は何も答えることが出来なかった。


 その後リウは、コトク大将のことが気になっていたので、連絡を取れているのかを元帥に尋ねた。

 「コトクからは、何も連絡は無いです。 もし彼の力が必要になった時は、探すことから始めなければならないので大変でしょうね。 でもフロンティアの開発ってそういうものですよ。 何も無いところで始めるのですから」

 元帥はリウに答えると、

 「もしかして、興味があるのですか?」

 「はい。 もし私が異なる人生を歩んでいたら、絶対に新天地の開拓、フロンティアスピリッツの世界に行っていたと思います」

 リウは満面の笑顔で答えるのであった。


 やがて、話題は3種族との約束の件になり、リウは、 

 「先に、国王夫妻と面会させて頂きましたが、例の施設、もう完成しているそうですね」

 「......」

 「そんなに悲しい顔をしないで下さい。 先程説明したとおり、私の寿命が元々短いのだから、例の装置に入ることを悲観する必要は無いと思っています」

 「いえいえ。 装置の一部になるっていうことだけではなく、ずっと人類を見守る役目を背負わされてしまうことも問題だと思うのです」

 「ありがとうございます。 私のことを気遣って頂いて」

 リウは感謝を述べると、

 「こういう状況なので、ノイエ国における私の役割は既に後継者を決めて、その人に任せることにしました。 そして時が来たと判断したら、施設に向かおうと思っています。 間違って私が死んじゃうと、代わりに丞相が入らねばならないですからね」

 リウはそう語り、笑顔を見せた。


 「それと」

 「はい?」

 「余計な話はこれ以上しないで下さいね。 私が死んでから......死ぬという表現が正しいかどうか微妙ですが、居なくなったら、幾らでも世間に公表して、悼んで貰って結構なので」

 「......」

 リウは続けて、

 「この星域を、私の考えだけで軍を動かして占拠して、新領土とした責任も、経済的に安定して来たので大体果たすことが出来たと思います」

 「これから暫くは、歴史を創る側ではなく、傍観者として皆様の働きを見守らせて頂き、身近な仲間との必要な別れが済んだら、私も次のステップへと旅立つでしょう」

 「元帥も、もう若く無いのですから、無理はなさらず、体を労って下さいね。 今まで数々のご助力、そしてご教授、本当にありがとうございました」

 そこまで話すと、深々と頭を下げ、握手を求めたのであった。

 元帥は、その手を握りながら、三国同盟に住む人々の命運をただ一人の女性に背負わせてしまったことを詫び、涙を流し続けた......


 最後に、

 「西上国国民に代わって、御礼申し上げる。 本当にありがとう。 そして、さらばだ」

 そう言うと、ヒエン元帥は別れを惜しむ気持ちを押し殺して、リウのもとを去って行った。

 リウは、その後ろ姿に深々と頭を下げ続けるのであった。

 姿が見えなくなるまで......




 翌日の調印式にリウの姿は無かった。

 珍しく体調が優れないということで、式にはリウの夫で首席幕僚のレイカー・アーサ少将が代理で出席し、無事終了していた。


 式典終了後、レアー号の中で、リウ以外の人達の署名が為されている各書類に、リウは署名を入れる作業をしていた。

 「仮病なんて、珍しいですね」

 代理出席して帰ってきたレイが、リウに話し掛ける。

 「私も、表舞台から去る準備に入ろうと思ってね。 昨日国王夫妻とヒエン元帥、二組と面会しながら、そう考えたんだ」

 「それに、最期のお別れをしたつもりなのに、翌日の調印式で顔を合わせるのも、何だかね」

 リウが理由を語っていると、ちょうどレアー号に訪問者が現れた。

 クリス・アーゼル准将であった。


 リウが許可して中に入って貰うと、超ラフな格好で署名をしているリウの姿を見て、

 「サボりだやっぱり〜。 折角の晴れ舞台を欠席するなんて」

 准将は不満そう。

 「もうノイエ国での私の役目は終わりなの。 クリスに任せたのだから、私は目立つべきじゃない」

 上手い理由を付けるところは、流石リウである。

 「まだまだ、役者が違うね」

 レイが笑ったので、准将は不満そうであった。


 サボったことで、相当リラックスしている様に見えたことから、クリスはリウに再確認してみることにした。

 「リウ。 このまま本当に引退するつもり?」

 「徐々にフェードアウトって感じかな?」

 「まだ34歳でしょ? ちょっと早過ぎるよ」

 「年齢はそうかもしれないけど、もう20年も突っ走って来たのだから、休ませてよ」

 「もしかして、例の件が少し知れたことを利用しようとしていませんか?」

 「そういうことかもね」

 そう言うと、ニヤっとするリウ。


 話題を変えて、クリスが質問を続ける。

 「そう言えば、昨日の会談で『例の装置云々』っていう会話が記録されているのですが......」

 「昨日の会談は非公式でしょ?」

 「そうですが、概要だけは残しておかないと」

 「色々と面倒ね。 こんなのじゃ、何も話せないよ」

 「今回は、相手が相手なので」

 「会談相手が私の役職より格上だものね。 仕方ないか」

 リウが両手を広げて、仕方ないという感じのポーズを見せると、

 「それで、装置の件ですよ」

 クリスが誤魔化されまいと、同じ質問を繰り返す。


 「ああ、それは、当初の予定だったヤツよ。 最初の話では、装置の中に私が組み込まれるっていうことだったの」

 「装置の一部になるってこと?」

 「うん。 だから人身御供って言ったの。 まさにそんな感じでしょ?」

 「確かに」

 「特殊な液体の中に、素っ裸の美女リウ・アーゼルが入れられて、背中と脳には超大型の生体頭脳と直結した特殊な配線が施されている。 そして老化防止の為に、生死の狭間の様な仮死状態で静置され、必要な時だけ目覚めさせられる......」

 その姿を想像して、SFの世界の様なものを想像したクリス。

 「本当に、そんな感じなのですか?」

 「本当よ。 実物を見せて貰ったからね。 3種族の伝説の人達ってそういう状態で、衰退し続ける種族を支えているの。 だからあれだけ人口が減っても、技術の発展だけは続いているのよ」


 でもクリスは、リウが「当初の予定」と言った部分を聞き落とさなかった。 

 「それで、実際にはどうなるのですか? 当初の予定って言いましたよね?」

 「何だ、ちゃんと聞いていたのね。 仕方ないな〜、話すか〜。 私のこと可哀想だと思ったらしくて、戦勝祝いという理由で、エルフィン人が実験中の特別な最新技術を投じてくれたから。 結局今と同じよ」

 「えっ。 今と同じですか?」

 「こうして話せるってこと」

 「そうなのですか? よくわからないですが」

 「ただ、この最新技術の唯一の欠点で、私は居なくなるわ。 残念だけど。 装置に入った場合には、私は存在し続けるのだけどね」

 「居なくなるって......」

 「レイが説明してくれた方がわかり易いかな?」


 「リウの人格は居なくなります。 その代わりにリウを引継ぐ存在が現れるのです」

 「......」

 「見た目はほぼ一緒。 記憶と思考はリウと完全に同一です。 ただ人格は異なりますし、そもそも人間ではありません。 特殊な生命体です」

 「見た目は、ほぼなの?」

 リウが逆に質問をする。

 あの十数分間の一度きりの実験中、リウの存在はこの世から完全に消えていたので、リウはレアの姿を見て居ないのだ。

 「リウのコンプレックスを知っているから、少し変えるそうですよ」

 「私のコンプレックス?」

 リウはそう言いながら、自分の胸を見てしまった。

 「そういうことなんだ〜。 隠し事出来ないとは思っていたけど」

 リウは苦笑して、溜息をついた。


 クリスは質問を続ける。

 「それは、エイリアン?」

 「まあ、その言い方はイメージが悪いので不適切ですが、能力が高過ぎるので、人間の歴史を動かす様な事象に関与することは無いでしょう。 だから、人間の世界でリウの代わりは准将が頑張るしか無いですよ」

 「少将とその新しいリウは、どういう生活をするの?」

 「普通に一般人として生きていくのでは? 普通に生きていけるか、少し疑問もありますが」

 「そうなのか......」

 「地球人が大きく道を脱線した時には、3種族の求めに応じて、脱線を修復する為、その偉大な力を行使することもあるでしょうね。 それが新型艦艇に技術の提供を受けた時の、彼等との約束ですから」



 会話をしながらリウは全ての協定文書に署名を終えると、クリスに手渡そうとしたが、かなり重かったので、ロボット達に、司令部迄運ぶように指示を出していた。

 レイが一緒に付いていき、散逸しないように配慮もする。



 レイが出掛けた後、最後にクリス・アーゼルは、リウに謝意を述べていた。

 「無事に、新しい協定が結ばれました。 主流派の勢力もだいぶ弱くなりました。 これもリウのお蔭です、ありがとう」

 すると、リウは、

 「私が居なくなる迄、少し猶予が与えられたから、もうちょっとお手伝い出来るかな?」

 「そうなのですか?」

 「当初の約束期限はとっくに過ぎているの。 今回の延長は艦艇奪取が終わった時点ぐらい迄だったけど、3種族の特使達が再度延長要望を受け容れてくれて帰ったから、まだ当面はここに居るわよ」


 その話を聞くと、リウが本当に居なくなるのだと実感し、クリスは思わず表情に出してしまった。

 「......」

 「そんな悲しい顔をしない。 私はもう満足しているわ、自分の人生に。 ちょっと短いけどね」

 そう言ってから、

 「クリス。 私がまだここに残っているのは偶然の産物。 これからは、私が居ないものとして、行動してくださいね。 まだまだ波瀾は有ると思うから」

 「私の一つ心残りは、帝國と停戦出来ていないことだね。 これは大きな宿題だけど、そんな簡単に道は見つからないし、現状戦力比が逆転しているから、当面は大丈夫かな?」

 リウはその様なことを話すと、クリスの背中をポンポンと叩き、

 「LSグループの代表も兼ねているから、大変だろうけど、頑張ってね。 草葉の陰から見守っているから」

 少し冗談っぽく言うと、首都星系に帰る準備の為、お暇するクリスを見送ったのだった。



 この時点でリウは、約4ヶ月後に迫っているアイザール少将や両大将の退役と別れが済んだら、レアに全てを委ねるつもりであった。

 ただ、歴史の流れは大きく加速したままであり、このまま無風でリウを表舞台から去らせてはくれないようであった。

 

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