第76話(強奪)
リウは、軍主流派が独占していた新型艦艇全てを強奪する手続きを実行するに至った。
鮮やかに全てを奪い取る生体頭脳レア。
阻止しようと第5艦隊が動いたが、リウの働きかけに応じていた同盟国の艦隊に阻止され、降伏し、リウの強奪作戦は成功したのであった。
軍主流派が独占する新型艦艇を奪取する為、レイはレアー号に乗って、首都星系第六惑星クロノスに向けて出発して行った。
それからリウは叔父と連絡を取った。
「ごめんなさい、クリス。 連絡したつもりで、忘れてました。 首相から回答を頂いていたので......」
第一声から謝罪と言い訳を、わざとらしい涙声で行うリウ。
それに対してクリス・アーゼル准将は、
「別れ際に、お手柔らかにって言ったのに......それで随分大規模に動いているよね? どうせなら軍部に対するクーデター起こして、邪魔な主流派一掃しちゃえば?」
しっかりとイヤミを言われてしまったリウであり、
「やっぱり、その方がイイかな?」
その答えを聞いてクリスは、苦笑いしようと思ったが、流石に黙ってしまう。
沈黙に耐えられなくなったリウは、
「いや、冗談だって。 可能かもしれないけど、それだと次に私が統合参謀本部議長をやらないとイケナイでしょ? それは向いてないから」
「そういう理由なの? 本気かと思って心配して損した」
「でも、今回の行動はラインシュトナー家の人達にもメリットが有るんだよ」
「それって、どういうこと?」
「彼等は新型艦艇を独占して、自分達の勢力拡大に利用しようとしているよね?」
「だろうね」
「このまま野放しにしておくと、より勢力が強くなるし、小人物だらけの武力集団が勘違いする様になっていくと......」
「本当に軍事クーデターを起こして、独裁政権を樹立しようと考えるってこと?」
「その通り」
『まあ、リウの言い分にも一理有る』
そんなことを思うクリス。
リウに一番確認したいことを質問してみる。
「ところで、今回詳しいやり口は知らないけど、上手くいくのだろうね?」
「その点は大丈夫だよ。 350隻余り、全て強奪させて頂きます」
「血は流される?」
「彼等が無駄な抵抗をしなければ、無血で済むよ。 ただ抵抗し過ぎれば、窒息死するかもね?」
その答えを聞いたクリスは、
「それって、まさか.....」
「そういうこと。 死にたくなければ、新型艦艇から下船するしかないんだよ。 あの船は艦内から人を排除出来る様に設計されているから。 彼等は兵士を動員して、既に艦艇に乗り込んで抵抗しているのでしょ? 奪わせ無い為に」
リウは差し押さえ方法を仄めかしながら、遠くに居ても主流派の動きを予測して把握していた。
それを聞いたクリスは短く答える。
「多分そういうことをしているね」
と。
するとリウは、真剣な表情を見せて、最初の話題に戻し、
「クーデターを起こせば、無用な血が沢山流される。 将校じゃなくて、事情を理解出来ない一般兵士のね。 だから私はそんなことはしないよ。 共和国の軍隊って色々な考えが有ってイイと思うんだ。 私の考えを全員に押し付けるつもりは無いの。 そうなると面倒だけど、こういうやり方しか無いんだよ。 ごめんね、迷惑掛けて」
「いや、いいんだ。 そういうことだろうって思っていたから」
「クリスが色々と骨を折ってくれて、ラインシュトナー一族の方針を私の支持で纏めてくれたって聞いたよ。 本当にありがとう。 心から感謝しています」
「勝馬に乗れっていうのが、一族の家訓だから。 それに大戦前、何も出来なかったことへのリウへの詫びの意味も込められているよ。 ラインシュトナー一族は国の実権を握っていたのに......」
クリスはその様に答えて、当然の結論だと説明したのだった。
すると、突然
「私、長くは生きられないの。 今、私に出来ることはキチンとやっておいて、それで後を継ぐ人達にバトンを繋げていきたいんだ。 ルー先輩やクリスといった人達にね......」
リウからこの様なことを言われて、驚くアーゼル准将。
「長くは生きられないって......」
「余計なこと言っちゃったね。 忘れてよ。 まだ当面先のことだから......」
そう言うと、リウは叔父に重ねて謝意を示してから、通信を切った。
意味深なことを言ってしまったと少し後悔したリウ。
体調に異変が有る訳では無い。
ただ彼女は、最終的にレアとの融合を約束させられている。
つい、そのことを考えて、思わず言葉が出てしまったのだ。
新型艦艇に関する協力を得る為に、彼女は色々と無理をしてきた。
だからこそ、新型艦艇への思い入れが強いのであり、カイキ中佐が亡くなったことをキッカケに、強硬手段に出ることにしたのだ。
時間に限りが有るからこそ、早くケリを付けておかねば......みんなの為にも......
クロノス星系外縁部に、ヒエン元帥率いるアルテミス王国艦隊を含めた4個艦隊が姿を見せたのは、リウがクリス・アーゼル准将に謝罪の連絡を入れてから、ちょうど3日後であった。
「いよいよ、世紀のショーが始まるな」
元帥は、画面に向かって話し掛ける。
スクリーンに映っている人は、シヴァ丞相であった。
「注目しているよ。 設計通りに上手く行くのかってね」
丞相はその様に答えた。
果たしてレアー号は350隻余りの艦艇のコントロールを全て奪って、制御しつつ惑星ネイト・アミュー迄、艦艇を移送させられるのか?
戦闘が発生した場合には、攻撃や防御を完璧に行えるのか?
これは、将来の無人艦隊設置に向けての壮大なテストの一環でもあり、丞相も含めて新型艦艇の設計に携わった人々に取って、非常に重要な試金石であったのだ。
一方、ヒエン艦隊と艦列を並べて航行中のルーナ中将の艦隊。
今回は、特別に2個艦隊を指揮している。
「何が起きるのかしらね」
惑星クロノスを映し出しているスクリーンを見ながら、マリー・ルーナ中将は副官や参謀に向かって、話し掛けていた。
設計に携わっていない人達には、新型艦艇に極秘に搭載されている全艦一括制御システムの存在は知らされていない。
「西上国から、わざわざナンバー2のヒエン元帥がこんな遠く迄やって来ているってことだから、『シヴァの三英』も注目している大きな出来事が発生するのだろうね」
マリーは周囲に自分の考えを言ってみせていた。
その司令官の言葉に、同意する副官や参謀達。
「何にせよ注目だわ」
ノイエ国軍宇宙艦隊司令長官ロバート・タイラー大将は早朝から、緊急ホットラインの連絡が入り、長官官舎で叩き起こされていた。
それは、リウ・アーゼル中将からの連絡であった。
「中将、何事だ? 帝國軍が攻めて来たか?」
「長官、それ以上の衝撃だと思いますよ」
そして、この1か月に及ぶ、軍主流派との折衝やその後の出来事について説明した。
「では君は、これから新型艦艇を差し押さえるというのか?」
「はい。 15分後に開始します」
「なに。 そんなに直ぐにか......」
「既に首相や統一政府国家元首のご助力を頂いて、差し押さえに協力してくれる同盟2カ国の艦隊がクロノス星系外縁部に到着しております。 軍主流派の武力行使を抑止する為に」
「それに私は、長官にも議長にも、以前から新型艦艇の公平な配分を求めていましたよね? そしてこのまま放置すれば、契約違反として供与を停止して、艦艇は没収するとも」
「......」
確かに重大な問題であると認識していた長官であった。
艦隊司令官のニミッツ、ホーウィン両中将からも、公平な配分を求める提言や苦情が何度も提出されていたが、事なかれ主義の両首脳が問題解決への動きを放棄していたのだ。
「もし公平配分されていたら、今回の戦乱で将兵の死傷者は出なかったと私は考えています。 亡くなった将兵の為に、私は今回の行動を決断したのです」
その言葉に絶句してしまうタイラー大将。
「主流派の勢力下に有る第5艦隊が出動した場合、こちらが差し押さえた350隻余りの艦艇は反撃行動に出る予定です。 そうなれば第5艦隊は下手すると壊滅するでしょう。 悪戯に死傷者は出したくありませんし、国民の税金を担保に巨費を投じて購入した中古艦隊を失いたくありません。 ですから、長官には第5艦隊の出動許可をしないで頂きたい」
リウは厳しい表情で、要請をするのだった。
そして、
「第1、第2艦隊も同様です。 今回の事態は私や長官を含めた反主流派の事なかれ主義が、主流派、所謂旧プロシード派ですが、彼等の増長を招いてしまったことで、引き起こされたものです。 いつかは正さねばならぬ道なのです」
「......分かった、中将。 確かに我々中間派や君の様な財閥派の幹部が、主流派のやり方を放置し続けてきた結果だな。 無用な血がなるべく流されないように、私も努力しよう」
そして、生体頭脳レアによる接収作業が開始された。
突然、全システムが自動起動した352隻の新型艦艇艦隊。
前回、レアー号が惑星クロノスの軍事宇宙港に居た時に、レアによって完全制御システムの始動準備信号が、全艦艇に送られていたので、無事にスムーズに起動したのであった。
すると、全艦に警報が鳴る。
「総員退艦せよ。 総員退艦せよ。 緊急システム作動。 5分後艦内への酸素供給が停止される」
軍主流派が、何も知らされていない兵士まで大量動員して新型艦艇に乗り込み、差し押さえを阻止しようとしていたことから、艦内はパニックになる。
一般兵士が、
『このまま艦内に居たら窒息死する』
と、警報に従って退艦しようと出入口ハッチに殺到したのだ。
更に、
「艦内防衛システム作動。 これより艦内に無力化ガスが噴出される。 噴出まで残り3分」
との警報も。
「艦から降りるな。 降りると撃つぞ」
旧プロシード派の将官、佐官達が、下士官や一般兵士の下艦阻止を図って、銃を構えたその瞬間であった。
艦内に設置されている自動防衛システムが緊急作動し、無力化ガスが銃を構えた者達に向けて噴出される。
続々倒れる主流派の将校や佐官達。
下士官や兵士達は、彼等が持っていた武器を取り上げながら、次々と下艦していくのだった。
続けて、
「全艦自動発進態勢に移行。 生命維持システム停止準備。 生命維持システム停止まで残り5分。 乗組員は総員退艦せよ」
の自動アナウンスが流れる。
そして、
「手動操艦システム閉鎖、手動システム全閉鎖。 自動操艦システム作動」
との音声が流れると、スクリーンが消え、全ての手動操作システムに金属製シャッターが降ろされ、人が操作出来ない状態となってしまった。
その様子を、各艦艇の監視システムを使って見守っていたレイ。
自動コントロールシステムが完全作動したことを確認出来たとレアから言われたところで、
「新型艦艇に乗艦中の乗組員に告ぐ。 私は差し押さえ実施を任されたネイト・アミュー方面軍首席幕僚のアーサ少将である。 下艦しないと窒息死か銃殺かで、艦内で死ぬことになるぞ。 リミットはあと3分だ」
レアー号よりレイの通信が入り、益々大パニックになる各艦。
既にレアのコントロール下にある各艦艇に搭載の機械兵とクローン兵が銃を構えて、銃口を乗組員に向けながら、出入口ハッチに向けて詰め寄っていく。
「時間内に退艦せよ」
と言いながら。
先程銃を構えた将官、佐官達は、無力化ガスを浴びて、意識を失ったまま放置されていたが、その後機械兵に取り押さえられ、各所に設置の緊急ハッチから、強制的に艦外へ放り出されてゆく。
放り出されたことで、地面に叩きつけられて、怪我をする主流派の将官、佐官が続出していたが、機械兵達は容赦が無かった。
それは、このまま艦内に残されれば、窒息死するだけだからである。
システム起動から5分後。
それでも下艦しなかった主流派の将兵は、無力化ガスが充満した艦内で次々に倒れてゆく。
中にはガスマスクを装着した者も居たが、その者に対しては、機械兵やクローン兵が取り囲み、強制的に武装解除されてゆく。
更にそれでも抵抗を続けた者は、機械兵・クローン兵の狙撃を手足に受けて、全員が重傷を負い、その後緊急退避用ポットに入れられて、艦外に強制排出された。
こうして新型艦艇352隻は、リウの意思を代理執行したレアに完全制圧されたのであった。
発進準備が完了し、次々と惑星クロノスの軍事宇宙港を飛び立つ352隻の艦隊。
主流派の勢力下にある第5艦隊は、出動準備態勢を取っていたが、惑星クロノスの軍事宇宙港で、強制的に退艦措置が行われて、新型艦艇が全て奪われたことを知り、宇宙艦隊司令長官タイラー大将の出動禁止命令を無視して、緊急発進し、新型艦艇の移送を阻止しようと動き始める。
すると新型艦艇艦隊より、惑星ヘーラーの大気圏外に出たところで、いきなりミサイル攻撃を受け、慌てて進軍を停止し、完全に足が止まる第5艦隊。
接収された艦艇から攻撃を受けるとは予想していなかったので、第5艦隊は司令官ゴート中将以下、激しく動揺する。
元々、旧型艦艇と新型艦艇には性能の差が大きく、中古艦艇で編成された第5艦隊では、このまま本格的に攻撃された場合、反撃出来ないまま、沈められてしまうだけであるからだ。
タイラー大将は、長官の命令を無視して発進した第5艦隊を反乱部隊と認定。
急遽、第1艦隊司令官ニミッツ中将、第2艦隊司令官ホーウィン中将を招集する。
そして、第1、第2艦隊に対して、直ちに第5艦隊を撃滅する様、命令を下したのであった。
その間、ホットラインでリウから同盟軍艦隊が近くに居ることを知ったタイラー大将は、緊急通信でアルテミス王国軍司令部を通じて、反乱鎮圧の援助要請を実施。
その要請に基づき、クロノス星系外縁部でゆっくり移動中だったヒエン元帥麾下の大部隊は、速やかに第1、第2艦隊の支援に動き、第5艦隊は惑星ヘーラーの衛星軌道上で、同盟軍4個艦隊に包囲されてしまい、戦意を失って、武装解除されるに至っていた。
レアは完璧に352隻をコントロールし、最短航路で、ネイト・アミューを目指す。
惑星クロノスの衛星軌道上から進発した時に、ちょうど第5艦隊制圧の為に高速移動して来たヒエン艦隊が近付いて来たので、
『成功』
の合図の閃光弾を352隻の全艦が放つと、まるで宇宙空間での花火大会の様な華やかな感じの演出となった。
「おお、綺麗だな~」
元帥がその様子を見ながら、側近達に呟く。
「あの艦隊は全艦無人で、自動コントロール下なのですか?」
側近達が元帥に確認の質問をする。
「そうだよ。 たった一隻の小型艦が全てコントロールしている。 先程ミサイル攻撃をしていたが、攻撃も防御も可能なのだ」
「では、いずれ無人艦隊の時代が来そうですね」
「それはそれで、新たな問題が発生することになるだろうけどな」
『無人艦隊は、死傷者の数を大いに減らすだろうが、代わりに安易な戦争へと結びつきやすくなる。 それに、コントロールをしている生体頭脳レアには魂が入っていない。 魂を入れるには、リウがレアに吸収されることが必須だ。 それを我々は受け容れられるだろうか?』
リウ自身が選んだ過酷な運命。
徐々にその時が迫っていることを、今回の騒動で元帥は感じていたのであった。
その後、身柄を確保された軍主流派の連中は、新型艦艇供給契約に違反して、不適切な配分をしていたことを問い詰められていた。
リウの書簡を握りつぶしていたことも、最高幹部に何も報告せずに独断で動いたことも、当然問題視された。
統合参謀本部議長のヘムズ大将と宇宙艦隊司令長官のタイラー大将にしては、珍しく素早い行動と決断であり、翌日には一律処分の方針が決まったのであった。
第5艦隊が降伏したことで、司令部に戻ったニミッツ中将は、ホーウィン中将に話し掛けた。
「今回の騒動は、新型艦艇割当の不公平さを利用して、私達がもう少し仕事をしやすくする為に、アーゼル中将が軍主流派の力を削ごうと、問題提起をして、勝負を仕掛けてくれたのかもしれないな」
「確かに。 今回の騒動で旧プロシード派の勢力は大きく減衰した。 主要なポストを独占しかけていたけど、軒並み左遷される方向だものな」
「特に第5艦隊司令官ゴート中将の予備役編入は痛手だろう。 次の宇宙艦隊司令長官代理が決まっていただけに」
「派閥を解消しなさいという警告だよ。 アーゼル中将が、彼女が本気になれば、誰にも止められないという事実を見せつける目的もあるのだろうね」
「ところで、ネイト・アミューに向かった新型艦艇艦隊は、どうなっているのだろう」
「2〜3日中には到着するだろ? まだ派閥の連中が一定数搭乗したままらしいから、一戦有るかもしれないね」
「でもアーゼル中将ならば、準備万全だろ? あそこには精鋭の特殊部隊も居るし」
その様な会話をした2人の中将は、無事に艦艇の接収が終わって欲しいと願っていた。
まだ戦乱が終わって間もない時に、血が流されるのは、皆が避けたいと考えているのであるから......




